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■ <翻訳は人生と交換しても不足なき営為>全編に貫かれるその思い

【書評】「翻訳とは何か―職業としての翻訳」

 森鴎外はその昔、「原著者が日本語で書くとしたらこう書くだろう
と思える訳文を書く」といったらしい。当然至極な言葉だが、これを、
この国における翻訳の歴史と現状という文脈の中で再考してみると、
鴎外の一見単刀直入な心情の吐露には、俄かに立ち上るような、ある
感慨の深さが感じられる。

 本書は、まるで空気のように一般化し、そのくせ(あるいは、その
せいで)原点が見過ごされたままになっている翻訳というものについて、
言語・文化一般、大まかな翻訳通史、翻訳技術、職業情報レビューと
いった、様々な観点から考え直した論考だ。

 副題に「職業としての翻訳」とあるのは、昨今の実用情報一本槍の
リクルート本におもねるためでは無論なく、M・ウェーバーの『職業
としての学問』のひそみにならった、翻訳の現状への苛立ちと、若干
の皮肉とが含まれているせいである。

 著者の論考は、「真夜中の電子メールとアマゾンの蝶々」という好
奇心と想像力をかきたてる不思議な題を持った序章で始まり、以後、
「歴史のなかの翻訳家」、「翻訳の技術」、「翻訳の市場」、「翻訳
者への道」と実に目まぐるしい展開を見せる。上げられた例証は多方
面に及び、比喩に満ちた独特の文体も、読み物として十分に魅力的だ。

 しかし、本書を貫く基本モチーフは、「第6章 職業としての翻訳」
と「終章 文化としての翻訳」の中で、象徴的にまとめられていると
いってよいと思う。つまり、著者はプロ翻訳家として、翻訳は人生と
交換しても不足なき営為であり、そこを志しそこに携わる者は、その
点に関する理解をよもや欠いてはならないと考えて、本書を書いたの
である。

 本書の個々の局面に見える著者のコメントは、そのせいか軽率な学
習者なら恐れ入ってしまうほど辛辣なものだ。だが、もって銘すべし。
翻訳の魅力は、この困難の中にこそ、存在するのである。


                         今野 哲男
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