忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ Coffee Break -- 英詩で味わうみすゞの世界 (3) 不思議

前回、以下の D. P. ダッチャー氏による、金子みすゞ(1903-1930)の英訳
詩をご紹介したところ、読者の方から興味深いご意見をいただきました。

It's Weird              不思議

 It's weird how             私は不思議でたまらない、
 Shiny silver raindrops fall      黒い雲からふる雨が、
  from black clouds.          銀にひかっていることが。

 It's weird how             私は不思議でたまらない、
 Silkworms turn white          青い桑の葉たべている、
  when they eat green mulberry leaves. 蚕が白くなることが。

 It's weird how             私は不思議でたまらない、
 Moonflowers open at dusk        たれもいじらぬ夕顔が、
  without a poke from anyone      ひとりでぱらりと開くのが。

 It's weird how             私は不思議でたまらない、
 People I ask laugh and sky,      誰にきいても笑ってて、
  "Nothing strange in that."      あたりまえだ、ということが。

             『金子みすゞ童謡集 Something Nice』より


ここでの「不思議」に対して「weird」という negative な意味合いの
英語を当てるのはおかしいのではないか、というご指摘です。

当初、気にも留めませんでしたが、改めて「weird」を辞書で引いてみる
と、確かに negative な語感のようです。OED には次のようにあります。

【weird】
1. Having the power to control the fate or destiny of human beings,
etc.; later, claiming the supernatural power of dealing with fate
or destiny.
Originally in the Weird Sisters = (a) the Fates; (b) the witches
in Macbeth.

2. Partaking of or suggestive of the supernatural; of a mysterious
or unearthly character; unaccountably or uncomfortably strange;
uncanny.

最初にシェークスピアの『マクベス』の「the Weird Sisters」(気味の
悪い三人の魔女) が例示されています。『ジーニアス英和大辞典』による
と、「weird」は eerie, uncanny, unearthly よりはプラスのイメージの
語だそうですが、「奇妙な」「風変わりな」といった negative な意味合
いは強いようです。


一方、みすゞの感じた「不思議」とは、アメリカの海洋学者レイチェル・
カーソン (Rachel L. Carson 1907-1964) の唱えた「Sence of wonder」
に他ならないと思われます。2003年2月、スペースシャトル・コロンビア
号の事故の後、ブッシュ大統領が追悼演説の中で引用したことでも有名
なフレーズですね。

"The seven brave men and women from the Columbia will be remembered
for their achievements, their heroism and their sense of wonder."

それは、美しいもの、未知なるもの、神秘的なものに目を見はり、面白がる
感性です。そうしてそれはそのまま、「神を感じる心」に繋がります。


One Bee, One God      蜂と神さま

 Bee's inside the flower,   蜂はお花のなかに、
 Flower's inside the garden, お花はお庭のなかに、
 Garden's indide the fence,  お庭は土塀のなかに、
 Fence's in town,       土塀は町のなかに、
 Town's in Japan,       町は日本のなかに、
 Japan's in the world,    日本は世界のなかに、
 World's in God.       世界は神さまのなかに。

 And...and, God's inside   そうして、そうして、神さまは、
 A little bitty bee.     小ちゃな蜂のなかに。

             『金子みすゞ童謡集 Something Nice』より


従って、この『不思議』という詩には、「wonder (wonderful)」という
positive な意味合いの英語が相応しい、という結論が導き出されると
いうわけです。たとえば、「私は不思議でたまらない、」は、I can't
stop wondering... という具合に。


では、なぜダッチャー氏は「wonder」ではなく「weird」という英語を
当てたのでしょう?彼は研究社『新編 英和活用大辞典』の編集委員も
務めた親日家であり、言葉には人一倍、敏感な方だと思われます。

これは私の勝手な憶測ですが、ここでの「weird」は「へーんなの」とか
「なんでダロ~」みたいに軽い口癖のようなニュアンスで、子供の戯れ
言風の味を出しているんじゃないでしょうか。この「weird」という英語
は、日本人には馴染み薄いものですが、アメリカの日常会話(口語)では
一般的によく使われるそうです。

また、第4節目の「誰にきいても笑ってて、あたりまえだ、ということ
が。」という部分は「weird」とぴったり呼応します。それで詩全体を
統一したのではないかと。

しかし、全体に「weird」を使うことで、肝心の「Sence of wonder」の
positive なニュアンスが消えてしまったとしたら、この英訳は(読者
のご指摘通り)失敗かもしれません。皆さんはどう思われますか?

果たして「weird」には、positive な語感はあり得ないのでしょうか。
残念ながら、手元の辞書を引いた限りでは、よくわかりませんでした。
こんなに簡単な童謡詩の中にも翻訳の大きな壁が存在したのは驚きです。
いや、詩の翻訳はそれだけ難しいのでしょう。昔、「小説とは言葉を組
み替えるものだが、詩とは言葉を創るものだ」という話を聞いたことが
あります。どなたか、「weird」の精確な語感についてご教授ください。


ところで『広辞苑 第五版』で「不思議」を引くと以下のようにあります。
こちらも(weird 同様)元々、negative な意味合いの言葉のようですね。

【不思議】
 (不可思議の略)
 (1)よく考えても原因・理由がわからない、また、解釈がつかない
   こと。いぶかしいこと。あやしいこと。奇怪。方丈記「世の―
   をみること、ややたびたびになりぬ。」「―な話」「自然界の
   ―をさぐる」

「不思議」は元来、仏教語「不可思議」の略で、思議すべからざること、
つまり心で思うことも言葉でいうこともできないようなことを指します。
それに対して恐怖心を抱けば negative、好奇心を抱けば、positive な
意味合いに転じるのでしょうか。『広辞苑 第五版』には未掲載ですが、
現在、確かに日本語の「不思議」にはプラスイメージの語感もあります
よね。それは「wonder (wonderful)」という英語の対訳語に「不思議」
を当てた時から始まったのかもしれません。

この辺りの、「不思議」=「wonder」の、negative → positive な意味
合いの変遷は、実に興味深いテーマです。もう少し調べた上で何かわかり
ましたら、また当メールマガジン誌上でご紹介したいと思います。


                             (竹)
PR
この記事にコメントする
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
最新CM
[12/09 山本ゆうじ]
[12/07 Lisa Hosoi]
[09/29 NONAME]
[09/29 NONAME]
[03/13 エラリー]
カレンダー
08 2017/09 10
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
カウンター
忍者ブログ [PR]
Copyright(C) TranRadar(トランレーダー)ブログ All Rights Reserved