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■翻訳読書ノート23

「母性をめぐる知の饗宴」

サラ・ブラファー・ハーディー著『マザー・ネイチャー』「母親」は
いかにヒトを進化させたか(塩原通緒訳 早川書房 2005)(原題
Mother  Nature, A History of Mothers, Infants, and Natural
Selection)
は、 上・下二巻、本文700ページに加えて原註と参考文献合計173ペー
ジに及ぶ大著である。
原作は1999年出版とのこと。おそらく翻訳の仕事にはさまざまな周辺
作業も含めて5年余りの歳月を要したと想像できる。動物行動学、畜産
学、人類学、認知心理学・神経科学、発達心理学、内分泌学と行動、
昆虫学、語源学、遺伝学、爬虫類学、歴史学、科学史、医学、栄養学、
鳥類学、古人類学、霊長類学、そして文学、哲学、宗教に至るまで古
今東西の多種多様なジャンルを広域的、多面的に渉猟した原文の豊穣
を十全に再現する為に、どれほどの努力があったことかと先ずは感嘆
の念を禁じ得ない。

動物の「母性」なるものの本質を問うと、このような膨大な議論を展
開する力業が必要なのかとあらためて認識させられ、かつその議論の
中に込められた果てしない生命の戦いに圧倒される。オスとメス、メ
ス同士、親と子、親類縁者、支配者と被支配者、周辺サポーター等々
を巻き込んで、生まれ出た個々の命は生き延びられるかどうかしのぎ
を削る。(いや、生まれ出でるについての戦いが先ずある。)膨大な
事例の中で、例えば生まれ落ちるそばから乳母の元に送られた近代ヨ
ーロッパの金持ちの家の赤ん坊たち、孤児院送りになって死んだ夥し
い数の貧者の子どもたち、授乳せずにすぐ次の妊娠を招いてまたして
も子どもを手放す母親たち、といった「文明」の裏側で繰り返されて
いた母子受難の歴史に光が当てられる。子捨て、子殺しは育児の望み
のないところでいくらでも起こりうることの幾多の例証。狩猟民族と
現代的都市生活者に共に見られる「代理母」の存在。霊長類の一種と
しての人間の生命連鎖のあり方が、「母親」という視点から徹底検証
される。

博覧強記の叙述に負けないのが数百枚に及ぶ図版の魅力である。但し、
中には菅笠を被り和服の胸を開いて授乳する日本の農婦といった、既
に地上から姿を消したイメージがまことしやかに掲載されているとい
う不思議もあるが、文字だけでは理解できない範囲にまで読者を誘う
仕掛けが素晴らしい。「ダーウィニアン・フェミニズム」ということ
ばを初めて知った。 著者自らの「母性」を基盤にする本書には、女性
科学者の本領が発揮さ れている。深い癒しに満ちた子守歌で幕を閉じ
るところに救いを感じた。
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