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■ 翻訳読書ノート22                 北田 敬子

「霧のなかへ、私も」

これまで迂闊にも PTSD が Posttraumatic Stress Disorder(心的外傷
後ストレス障害)の略語とはっきり認識していなかった。トリイ・ヘイ
デンというベストセラー作家の本を読んだことがなかったというのも面
目ない。最新刊の『霧のなかの子--行き場を失った子どもたちの物語』
(入江真佐子訳 早川書房 2005年)で初めて出会った。

物語といってもこれはノンフィクションであり、トラウマを抱えた人々
とのセラピーを通じた関わりの記録である。この作品には彼女がアメリ
カの大都市の総合病院に勤務していた時、母親と別れた実父に誘拐され
叔父から2年間にわたって性的虐待を受け続けた9歳の少女カッサンドラ、
「選択性無言症」が疑われる4歳の少年ドレイク、脳卒中の後無言の世界
に閉じこもった82歳の女性ゲルダ、およびその家族との数ヶ月間の交渉
が書かれている。いずれも「めでたしめでたし」とはいかない複雑なケ
ースでありながら、一人のセラピスト(教師・心理学者でもある)が通
常のコミュニケーション手段としての「ことば」を持たない人々に何を
為し得たのか、為し得なかったのかが詳しく語られる。

以心伝心をコミュニケーションの最高の形と見なす日本語文化から見れ
ば、あくまでもことばによって人の心の奥に分け入ろうとする療法には
俄に受け入れがたい部分もある。だが見えない部分に光を当てるのがこ
とばの力だとすると、ヘイデンの愚直なまでの取り組みに光明を見いだ
す人々が後を絶たないのも頷ける。そして攻撃的な、虚妄の、あるいは
一見脈絡のない言語表現の彼方には必ず「家族の問題」が横たわってい
ることに、読み手は一様に慄然とした気分になるのではなかろうか。

ヒトは心の問題を避けて通れない。それは万国共通だ。心の傷、家族の
病から解放された民族はまずいない。ヘイデンの作品が多言語に翻訳さ
れ続けるのは、その痛みにつける特効薬がないことの証明かもしれない。
それにしても「トリイ・ヘイデン読書感想文コンクール」に寄せられる
作品はどんなものだろう。優秀作品が英訳されて作者の元に届けられる
のかどうか。「霧のなかへ、私も」とこの作品を我がこととして読み、
思いを書き 連ねる大勢の読者の姿が目に浮かぶ。


 ◇◇◇ For your reference ・・・・・・

◆ヘイデン,トリイ(Hayden, Torey L.)
教育心理学者
1951年5月21日、米国・モンタナ州に生まれる。
大学時代に低所得者層の未就学障害児を世話するボランティアをして
以来、教員や精神医学研究者としての学位を取得しながら、情緒障害児
教室、州立精神病院、福祉施設などで働く。それらの体験をもとにした
ノンフィクションの著作が多数ある。「シーラという子―虐待されたあ
る少女の物語」は22ケ国語に翻訳され、TV映画化された。その続編「タ
イガーと呼ばれた子―愛に飢えたある少女の物語」の他、「愛されない
子」「ひまわりの森」などもある。

      (データ提供:日外アソシエーツ 人物・文献情報 WHOPLUS)
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