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■ 翻訳読書ノート19

「生きて証しすること」

頑迷な因習に苦しむ人々はどこにでもいる。皇太子妃が世継ぎとなる男
子を出産しないと責められるのは、今に残るこの国の因習の証と言えよう。
性別による足枷は重い。「負け犬」「勝ち犬」などと軽妙なスタンスで
人々の固定観念を揺さぶる言説が世に踊る一方、因習と自我との葛藤に
悩む人々は後を絶たない。

白い仮面の女性が日本のマスコミに登場したとき、奇異の目は向けられ
てもどれほどの共鳴と理解が呼び起こされたか不明だ。しかし『生きな
がら火に焼かれて』(スアド著 松本百合子訳 ソニーマガジンズ 2004)
には、因習が無力な女・子どもを傷つけ殺し続けている現状が克明に記
録されている。スアドという仮名の語り手と、彼女が家族の手で「名誉
の殺人」の名の下に焼き殺されかけたところを救い出したスイスの人権
擁護組織SURGIRの活動家ジャックリーヌの証言は、いわゆる「文明国」
に土俗世界の深部を突きつける。未婚女性の性交渉は死に値し、家父長・
男兄弟の家庭内暴力は公認されている。孕んだ娘を義兄が殺すことに両
親は同意する。その一方、スアドは父に抑圧される実母が愛人と密会す
る現場を目撃してもいる。理の通らない世界で死の淵までいったスアド
が、極限状態で出産した赤ん坊と共にスイスに搬送されてから心身の蘇
生に要した歳月--この本を出版することができるようになったときまで
--は20年近くに及ぶ。

「人権」「人格」という概念は特権的な国々の幻想かもしれない。ひと
たび戦争となればそんなものなど敵には存在しなくなる。はじめ、スア
ドの生まれ故郷シスヨルダンという地名を私は認識できなかった。それ
がパレスチナ人とユダヤ人が対峙するヨルダン川西岸を指すと知ったと
き、故アラファトの顔が脳裏を過ぎった。大きな戦の陰には無数の小さ
な戦が続いている。それは我々とは無縁の彼岸の火事なのだろうか。中
東からスイスへ、そして日本へ、戦を生き延びた者の声は鋭く言語の壁
を越えて、現存する力なき者の受難を伝える。此岸にも呼応する痛みや
苦しみのないわけがない。
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