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■ 翻訳読書ノート15                  北田敬子

「出口を求めて」

桐野夏生の『OUT』は1997年の原作出版から6年目に英語版“OUT”
(Stephen Snyder 訳 講談社インターナショナル 2003年)が出て、
2004年度米国のエドガー賞ノミネート作品として再び脚光を浴びる
こととなった。この戦慄すべき作品は英語によくなじむ。

果たしてどれほどの数の英語版読者がいるのか今は分からない。受
賞を逃したことを残念がる記事もあちこちで読んだ。しかし、桐野
のスタイルは言語の壁をものともしないだろう。このような形で日
本の女の姿が世界に披露されることに眉をひそめる向きがあるかも
知れないが、“OUT”に漲るパワーは凄まじい。深夜労働で製造され
るコンビニ弁当、夜勤を引き受ける女たち、外国人労働者、サラ金
業者、歌舞伎町に群がる中国人男女、ヤクザ、渋谷界隈を浮遊する
援交女子高生たち、そしてなにより東京西郊の住宅地に潜行する女
たちの「死体処理ビジネス」という神をも恐れぬ奇想。彼ら登場人
物をつなぐ「金」と「孤独」。メガロポリス・トーキョーの負の部
分がこれでもかと、それこそ幕の内弁当のように詰まっている。

小説は時代も土地も映す鏡だ。英語版を読みながらその巧みさに舌
を巻いた。東京西郊には、茫漠とした平野の林や田畑が急速に宅地
化され、都市で働く人々の住まいを供給しつつ互いの結びつきはい
かにも希薄であるようなうらさびしい風景がある。一歩間違えば見
かけの繁栄から脱落することはいとも容易な社会の中で、何ら経済
的基盤も精神的拠り所も持たぬ女たちが出口を求めて足掻いている。
物語の主人公 Masako Katori が挑む孤独な戦いは非常にローカルな
ものでありながら、同時にユニバーサルな現代人の姿を体現しても
いる。

Stephen Snyder は村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』、柳美
里の『ゴールド・ラッシュ』の翻訳者でもある。現代日本文学に達
意の翻訳者が存在することの幸いを思った。内にこもることを止め
て外へ向かう時、従来の「純文学」と「大衆文学」などという括りか
ら日本の小説が解き放たれるるのではないかという期待を強く抱かせ
る作品に出会った気がしている。

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