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■ 翻訳読書ノート11                 北田 敬子

「存在の重力」

90年代初めミラン・クンデラの作品が次々に翻訳出版された頃、私は
片端から買い込んで書棚に収めそのまま10年以上経ってしまった。今
初めて読むクンデラの魅力に、これまでの空白を後悔している。東京
オリンピックの「名花」と謳われた体操選手ベラ・チャスラフスカが
私の知る唯一のチェコスロバキア人の名だったこと、彼女が90年代に
再来日した時の加齢した、しかし相変わらず高嶺の花の雰囲気を漂わ
せていた様子が、クンデラの作品を読み進むうち思い出されてならな
い。チェコとスロバキアに分かれた国々について殆ど何も知らないで
きたことに愕然としながらも。

クンデラは心と身体、体制と個人、嘘と真などの相克と不条理を飄々
と描き出す。「キッチュ(俗悪)なもの」が、短編集『微笑を誘う愛
の物語』(千野栄一・沼野充義・西永良成訳 集英社 1992)にも、
『冗談』(関根日出男・中村 孟 共訳 みすず書房 1992)にも、『存
在の耐えられない軽さ』(千野栄一訳 集英社 1993)にもふんだんに
出てくる。クンデラを読んでいると「人間の命は地球よりも重い」と
いった常套句が消し飛び、「軽さ」が前面に躍り出てくるのに気付く。
けれどもそれが単なる軽佻浮薄な弛緩した笑いとは別物の、重さの陰
画としての軽さであると念を押すには及ぶまい。ヨーロッパの歴史
が産んだ恐るべき軽さなのだと。

クンデラの洗練された技巧が、底知れぬ闇の奥から痛ましくも滑稽な
人間の本性をたぐり寄せるところを私は驚嘆を持って見つめ、同時に
訳者たちがチェコ語から日本語へテキストを生まれ変わらせる妙技に
も驚嘆する。技がそこに「存在」することすら意識させぬ事実と共に。
20世紀から引き継いだ戦火の数々が今世紀に持ち越され、いまだに燃
え続けている世界を小説はどのように書き留めうるのか、クンデラが
示すものは計り知れない。日本語からチェコ語へという逆のコースを
たどるものがあるなら、その重さ・軽さは如何ばかりかと想像してい
る。


***** For your reference *****
クンデラ, ミラン (Kundera, Milan)
 フランス国籍、詩人;小説家;劇作家
 1929年4月1日生、チェコスロバキア・モラビア地方ブルノ出生
 ヤナーチェク音楽院;プラハ芸術大学映画科〔'52年〕卒
 ヤナーチェク音楽院の院長を父として生まれる。幼時からピアノを習
 い、のちに作曲も学ぶ。長じてプラハのFAMU(映画大学)に学び、卒業
 後同大で美学、文学史などを講ずる。1953年第1詩集「人間、この広き
 庭」を出版。'55年に詩集「Poslednim´aj(最後の5月)」を出し本格的
 デビュー。
 '60年代に散文作家に転身、'67年の長編「Zert(冗談)」が高い評価を
 受け、各国語に翻訳されてクンデラの国際的知名度を高めた。'60年代
 の民主化運動に参加し、いわゆる〈プラハの春〉には作家同盟の事務
 局長をつとめる。運動の挫折後フサーク政権に批判的だった為、'70年
 よりしばらく作品の発表を禁じられていたが、この間に完成した長編
 第2作「Zivot je jinde(生は彼方に)」('72年)は'73年仏訳されてメデ
 ィシス賞を受賞した。'75年フランスへ亡命し、レンヌ大学客員教授に。
 '79年チェコスロバキア市民権剥奪。'80年社会科学高等研究院教授、
 '81年フランスに帰化。'89年チェコのビロード革命後、母国での出版
 も許されたが、その後もフランスで作品を発表。他の著書に短編集
「微笑を誘う愛の物語」('70年)、長編「別れのワルツ」(仏訳'76年)、
「笑いと忘却の書」(仏語版'79年)、「不滅」(仏語版'90年)やフランス
 で映画化された「存在の耐えられない軽さ」(仏語版'84年)、詩集
「モノローブ」、戯曲「鍵の所有者」、評論「小説の精神」などがある

             <データ提供:日外アソシエーツ WHO>
         http://www.nichigai.co.jp/database/index.html

『存在の耐えられない軽さ』
 ミラン・クンデラ著;千野栄一訳
 原書名: NESNESITELNA LEHKOST BYTI〈Milan Kundera〉
 本書はチェコ出身の現代ヨーロッパ最大の作家ミラン・クンデラが、
 パリ亡命時代に発表、たちまち全世界を興奮の渦に巻き込んだ、衝
 撃的傑作。「プラハの春」とその凋落の時代を背景に、ドン・ファ
 ンで優秀な外科医トマーシュと田舎娘テレザ、奔放な画家サビナが
 辿る、愛の悲劇―。たった一回限りの人生の、かぎりない軽さは、
 本当に耐えがたいのだろうか?甘美にして哀切。究極の恋愛小説。

『微笑を誘う愛の物語』
 ミラン・クンデラ著;千野栄一;沼野充義;西永良成訳
 原書名: RISIBLES AMOURS〈Milan Kundera〉
 ほんの冗談のつもりで始めたことによって、回り中の人間から批判さ
 れる皮肉屋「誰も笑いはしない」。中年男の二人組の女漁りの意外な
 顛末「永遠の憧れの黄金のリンゴ」。年上の女との一度だけの逢瀬と
 十五年後の巡り合い「年老いた死者は若い死者に場所を譲ること」。
 人生の機微、いたずらな運命、愛の皮肉…。小説のマジシャン、クン
 デラが、巧妙にそしてエロチックに描き出す、ちょっとユーモラスで
 ちょっと苦い7つの愛の物語。クンデラ文学の精華を集大成した、唯
 一の短編集。

           <データ提供:日外アソシエーツ BOOKPLUS>
          http://www.nichigai.co.jp/database/index.html

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