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■ 翻訳読書ノート9                 北田 敬子

「モダン」を超えて

それは続けざまに1000ページ以上読んでもどこかに発してどこかへ至る
過程ではなかった。『ある男の聖書』(高行健 Gao Xingjian 著 飯塚容
訳 集英社 2001年)と『霊山』(同 2003)に渦巻く言語の奔流は、欧米
系文学の律儀な約束事には収まらない。この在仏の自発的故国喪失者
(exile)にして中国語で書き続ける作家に「モダニズムの系譜」といっ
た20世紀的呼称が当てはまるとも思えない。

『ある男の聖書』(原著出版 1999年)が「自伝的」というのは頷ける。
革命寸前の中国に生まれ、毛沢東率いる共産主義国家に育ち、文化大革
命の嵐をくぐり抜け、やがて国からも同胞からもあらゆる束縛から逃れ
出ることで自己を保とうとする「作家/芸術家」の遍歴が語られるとい
う点においては。しかしこの旅に終わりはない。「霊山」を目指して放
浪する作家の物語(原著出版 1990年)はさらに壮大な規模で古代から現
代の中国まで、自然、人、文化を俯瞰しようとする。個人を超えた魂の
記録とでも呼ぶしかない。これは言語表現という行為を自問し続ける
「メタ・小説」でもある。

国家という仕組みへの懐疑、文革時代の理不尽な施策批判、為政者と人民
の確執の活写、繰り返される濃厚な性愛描写などが、高行健の作品を中華
人民共和国が発禁処分にする理由だろう。国外からしかこのようなものが
生まれ得ないところに、現在の中国の状況は推察できる。しかし中国大陸
から今後出てくるものが、産業・科学技術・巨大市場などばかりではなく、
数千年に及ぶ歴史の蓄積から醸造される言語芸術を含むものに違いないこ
とは予感できる。高行健には2000年度ノーベル文学賞受賞作家というレッ
テルもほんの付け足しのように感じられてならない。飯塚容の闊達な訳業
に、我が国の外国文化受容の根元に中国があり続けたことを再認識し、漢
字文化が相互にやりとりしてきたものの意味を改めて熟考したくなる。


***** For your reference *****

高 行健 (Gao, Xing-Jian)
(国籍) フランス (職業) 作家;劇作家;画家
1940年1月4日中国・江西省に生まれる。
北京外国語学院フランス語部〔'62年〕卒
1957年北京外国語学院フランス語部に入学、アラゴンやサルトル、ブレ
ヒトを知り、戯曲や脚本、小説、詩の創作を開始する。'66年から文化
大革命下で農村に下放。'77年北京に戻り、'79年中国共産党に入党。
'81年より北京人民芸術劇院に所属。'82年の戯曲「絶対信号」以来、
演出家の林兆華と組んで中国の実験的な小劇場演劇の先頭に立つ。
'83年不条理劇「バス停」を発表するが当局の"精神汚染"追放キャン
ペーンで批判を受け、'86年には劇の上演が禁止される。この頃から
水墨画の手法を使った抽象的油絵を描き始め、'87年ドイツの芸術財団
の招聘を受け出国。'88年フランスに政治亡命し、パリに渡る。のち
フランス国籍を取得。'89年天安門事件に触発され戯曲「逃亡」を発表、
同作品は中国共産党から批判される。同年共産党を離党。のち中国本土
では作品が発禁処分となる。また演劇評論や小説も手掛け、画家として
も活躍。2000年中国の小説や戯曲に新たな道を切り開いたとして、中国
系作家として初めてノーベル文学賞を受賞。他の作品に「野人」「現代
折子戯」「霊山」など。近年はフランス語でも執筆

               (データ提供:日外アソシエーツ-WHO)
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