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 ■ 翻訳読書ノート45                                    北田 敬子

「ドキュメンタリーの魂」

 今年も9.11が過ぎた。あの無差別テロはどのような経緯で起こったのか、
 複合的視点からの丹念な取材を元に書かれたのが『倒壊する巨塔 アル
 カイダと9.11への道 上・下』(ローレンス・ライト著 平賀秀明訳 
 白水社 2009)である。事件は何も青天の霹靂ではなかった。十分に予
 想されながら、阻止出来なかったことが明かされる。

 片やウサマ・ビンラディンを首領とするアルカイダやアイマン・ザワヒ
 リに率いられたジハード団などアフガン・アラブズ、片やジョン・オニ
 ールに象徴されるアメリカ合衆国のFBI捜査官やCIAの局員達。両陣営が
 9.11に収斂していく様は、息をのむ緊張感に満ちている。サウジアラビ
 アに発し、エジプト、スーダンを巻き込み、イラク・クウェート・イラ
 ンを跨ぎ、パキスタンからアフガニスタンに至る地域に暗躍するイスラ
 ムのテロリスト達が、遙か彼方のアメリカ合衆国を宿敵と定めたのは何
 故か。サウジアラビアの大財閥の御曹司がカラシニコフを抱えてアフガ
 ニスタンの山奥深くに隠棲し、ハイテク武器で重装備したアメリカにテ
 ロ攻撃を仕掛け続けるとは荒唐無稽な狂気の沙汰に見える。にもかかわ
 らず、自爆攻撃の想像を絶する破壊力をテロリスト達は現代社会に誇示
 してきた。仕掛ける側、それを阻もうとする側、いずれの陣営にも隠微
 に見え隠れする内なる敵がいる。世界を震撼させる事件の裏側で相争う
 人間達の姿を詳述しながら、本書が淡々と描き出すのは、血を流すのは
 生身の人間であり、兵士や聖戦士を自称する輩より「無辜の民間人」の
 方が多いという紛れもない事実である。殉教と陶酔して自爆テロを行う
 者達も、復讐心に燃えミサイルをピンポイントで撃ち込む大国も、殺傷
 の過酷さに於いて差はない。「アフガンは帝国の墓場」とアメリカを挑
 発し続けるビンラディンは、老いても病んでも尚、荒野の洞窟にいる
(らしい)。その不気味さが惻々と伝わってくる。

 膨大な資料と318人に及ぶ関係者とのインタビューを元に書かれた本書は、
 アラブ諸国とアフガニスタンの人士・歴史・情勢を丹念に紹介・分析し
 つつ、攻撃目標となったアメリカ側の内情にも容赦なく切り込んでいく。
 そしてウサマ・ビンラディンの生いたちや私生活が時にはユーモアさえ
 感じさせる筆致で描かれると、とりわけ本当はお洒落も贅沢もしたかっ
 たであろう第一夫人が憤然と自ら離縁して行く様や、ニンテンドーのゲ
 ームで遊ぶ息子の様子など、「普通の人びと」の素顔が見えてくる。FBI
 を退職して世界貿易センタービル保安主任職に就任したとたん9.11を迎
 え、倒壊する巨塔の下に消えたジョン・オニールの、正義漢と言うより
 やんちゃ坊主ぶりには苦笑させられる。間違いを犯すべく生まれた人間
 達がこの地上に建てた塔はいずれ自ら引き倒すしかないのかと思いなが
 ら、行間に希望を探すのもまた人間なのであろう。ピューリツァー賞受
 賞から2年を経て訳出された本書の著者は、優れた映画の脚本家でもあ
 るという。なるほど、手に汗を握るはずである。

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