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■ 翻訳読書ノート38                 北田 敬子

「甘くて苦い闇の奥」

東京銀座に、我が国有数の製菓会社Mが運営する『100% Chocolate Cafe』
がある。そこで配布された美しく愛らしいパンフレットにはオリジナル
レシピによる56種類のチョコレートが名を連ね、原料であるカカオ豆の
産地を示す世界地図が付いている。もっとも大きな生産地は中南米のよ
うに見えるが、アフリカに数カ国、東南アジアにもいくつかの拠点があ
る。この地図が意味するところを知らずに食べていればチョコレートは
(食べ過ぎで太るなどという悩みは論外として)幸せを運ぶ美味以外の
何者でもない。

『チョコレートの真実』(キャロル・オフ著 北村陽子訳 英治出版 
2007)の原題は邦題より叙述的である。曰く、『苦いチョコレート、世
界一魅力的なお菓子の暗黒面を探る』という。最初、私は本書を発展途
上諸国における児童労働を暴く告発の書ではないかと思って手に取った。
確かにその側面は多く含まれており、マリからコートジボアールに売り
飛ばされ、奴隷と同じ境遇にあえぐ年端もいかぬ子供たちのことが語ら
れている。だが、読み進むにつれて問題の核心は現代における奴隷労働
(しかも年少者の)を生み出す巨大な経済機構そのものにあることが明
らかになってくる。ここに記されたチョコレートをめぐる複雑怪奇な背
景には息をのむ。南米に栄えたマヤ・アステカ文明の中で賞味されてい
たカカオは、コロンブス以来西欧に持ち込まれて変化を遂げ、欧米諸国
の近代産業に組み込まれ、今や原料調達から製品加工まで行うグローバ
ル産業の手中にある。チョコレートの長い歴史とそれに絡み合う政治・
経済の仕組みは、「児童労働」という一点を衝いただけではどうにもな
らない根深く巨大なものだと知らされる。著名なチョコレート会社の栄
枯盛衰も興味深いが、アフリカの西海岸に展開される独裁政権が地場産
業としてカカオ豆栽培を保護し発展させるどころか、貧農から取り立て
た税金や利益を着服し軍事費に充て、カカオ豆の相場は彼らにも手の届
かない世界市場に牛耳られているという実態は凄まじい。闇の奥をのぞ
こうとした先達ジャーナリストは消された。幾度も繰り返される「カカ
オの実を収穫する手と、チョコレートに伸ばす手の間の溝」というフレ
ーズがこの商品の象徴的な現実を物語る。

本書では世に言う「フェアトレード」ですら、先進国の消費者の罪悪感
をいささか緩和するための仕組みと示唆され、グリーンを標榜する企業
の頓挫や伸張が厳しく観察されている。無力な人々を搾取する悪は至る
所に存在する。腐敗政権も利潤追求一方の巨大企業も指弾されるべきで
はあろう。だが、終盤に近づくにつれ読み手をもっとも慄然とさせるの
は、倫理観も公正さに対する自覚も持たない消費者こそがチョコレート
のアンフェアなあり方を許しているのではないかという問いかけである。
チョコレートから富の偏在と不平等そのものの世界を味わう一冊と言え
よう。後味は苦いが滋味に溢れている。訳も旨い。
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