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 「猫談義、米国流」

 アメリカ発の金融大恐慌に日々深刻さを増す新聞の見出しや、大観衆の
 声援に応えるバラク・オバマ氏の演説にYouTubeで繰り替えし接した後、
 一冊の本にもう一つ別の米国の素顔を見た。それは『図書館ねこ デュ
 ーイ 町を幸せにしたトラねこの物語』(ヴィッキー・マイロン著 羽
 田詩津子訳 早川書房 2008)である。「大きなアメリカ」に対する、
 「小さなアメリカ」とでも言おうか。この本には、アイオワ州のスペン
 サーという町の公立図書館を舞台に、一匹の捨て猫がいかにして「図書
 館勤務」を果たしつつ、人々の胸を温め、とりわけ長らくこの図書館長
 を務めたヴィッキーの人生をどれだけ豊かなものにしたか、その18年に
 及ぶ「キャリア」が語られている。

 書棚の片隅でこちらを見つめている茶色い猫の瞳に出会ったら、思わず
 手が伸びる。一読、(ある意味ではミスマッチの)図書館と猫の組み合
 わせが、地域に侮りがたい「アニマルセラピー」効果をもたらしたこと
 が分かる。デューイはスペンサーを有名にした。生前はNHKの海外ロケ
 隊を含め数多くのマスコミ取材を受け、全米のみならず世界でも有名な
 猫であったという。だが、その魅力の背景にある人と町の物語を知った
 なら、猫を通じてアメリカの大平原にある小さなコミュニティーの生い
 たちや苦悩、生き延びるための闘い、そして様々な出会いの場としての
 図書館の意味というものへの理解が深まるに違いない。ただ「かわいい
 猫の話」とは、とても言えない。

 シングルマザーで数々の疾患を抱える闘病者でもあったヴィッキーは、
 苦学しながら図書館長を務める。彼女の英断で、書籍返却箱に投げ込ま
 れていた子猫を図書館で飼うことにした時から、老衰に加えて癌のため
 安楽死に至るまでのデューイの、図書館に於ける堂々たる君臨ぶりと茶
 目っ気たっぷりの振る舞いを、文字で追うだけでも愉快で暖かな気持ち
 になる。同時に不屈の精神を備えた女性ヴッキーの孤軍奮闘ぶりに、
 デューイがユーモアとウィットをたっぷり添えているのが嬉しい。誰の
 人生にも悲しいことや辛いことがたくさんある。人の愛情は移ろいやす
 い。様々な誘惑や野心の故に、人はいくらでも変節する。ところが、賢
 い動物は信頼を寄せた人間に対して忠誠を貫く。惜しむらくは彼らの命
 は短い。数々のエピソードを残しながら、デューイがした最大の貢献は
 人間に幸福な気持ちを感じさせることだった。世界には数奇な動物譚が
 いくらもあろう。デューイは小さな町の図書館の体現するアメリカ社会
 をリアルに世界へ伝えてくれる。ウォール街やシカゴのような都会だけ
 がアメリカではない。小さな町にこそアメリカの実態が凝縮されている。

 ローカルな話の本だ。けれども「猫効果」はユニバーサルだろう。天下
 国家を論じる一方、一匹の猫を介して触れるアメリカに覚える親近感は、
 WARよりLOVEと人を頷かせる。
 

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