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 ■ 翻訳読書ノート33 「人類であることの孤独」     北田 敬子

20世紀中葉から今日まで、旺盛な創作で世界中の読者を圧倒し尽くして
いる作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスを、私は久しく遠くから眺
めるばかりだった。幾多の賛辞を読んでも手に取る勇気が出なかったの
は、書かれたもの全てに於ける「横溢」「過剰」「誇大」が喧伝されて
きたため、読む前から萎縮していたところがある。だが「全小説集」の
深紅の帯を見て、最早拒む理由はないと思った。果たして、『百年の孤
独』(G・ガルシア=マルケス著 鼓直訳 新潮社刊 2006年 / 原作出版は
1967年、鼓訳は1999年の改訂版)に驚嘆しながら、遅れてきた読者はこ
の後続く筈の愉悦にほくそ笑んでいる。

ホセ・アルカディオ、ウルスラに始まるブレンディア家の系図を幾度参
照したことだろう。兄弟はしばしば同じ女性と関わり、生まれてくる赤
ん坊たち、引き取られる子どもたちは幾度も同じ名前を受け継いでゆく
ので、時として今読んでいるのは誰のことか判然としなくなる。早世す
る者もいれば百年を超えて生き続ける者もいる。生者のみならず死者も
亡霊の形をとって物語に参入してくる。この異形の年代記に厳然とそび
え立つ幾人かの猛者や「家」に君臨する女たちがいることは確かだが、
誰一人主役を演じるわけではない。しかしブレンディア一族の栄枯盛衰
は神話のように底知れぬものを持つ。近親相姦の果てに「豚のしっぽ」
を持つ子どもが誕生することは、予め系図に明示されているから予想出
来るにしても、そこに到るダイナミズムを実感するには記された言葉を
丹念に辿るしかない。

繰り返される「孤独」という言葉ほど、一見マコンドの街にもブレンデ
ィア一族の家屋敷にも不釣り合いなものはないように思える。絶えず人
々が出入りし、ざわめき立つ場所である。しかしよくよく見れば多くの
登場人物が救いのない己を抱え、他者との交渉を断って引き籠もり鬱々
と歳月を重ねる。およそ現代の都市とも文明とも無縁なこの舞台に巣く
うのが「孤独」とは。それは個人の感傷とか自意識を吹き飛ばし、命あ
る限り人を苛み尽くす宿命として描かれる。そして南米の多雨と旱魃を
ものともせず、たかだか百年の人の命を遙かに凌駕し、不尽の生命力を
示す植物と昆虫の群れが背景からじわじわと前景に出てくる。ガルシア=
マルケスの力業に脆弱な読み手が竦むのは、必定であったかも知れない。
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