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 ■翻訳読書ノート 29「グーグル未完の物語」        北田敬子

あって当たり前というほどに生活の一部と化した、インターネット検索
エンジン「グーグル」。便利さと引き替えに手放したものがあるようで
少し恐ろしい。関連書籍の出版が相次ぐ中で、『Google誕生―ガレージ
で生まれたサーチ・モンスター』(デビッド・ヴァイス/マーク・マル
シード著 田村理香訳 イースト・プレス刊 2006)は、ラリー・ペイジ
とサーゲイ・ブリンという「グーグルガイ」について、また急成長した
グーグルという企業について詳細に物語る。現在進行形の物語の常とし
て、ここに「めでたしめでたし」はない。いつマイクロソフトを始めと
する巨大企業に行く手を阻まれるか、ヤフーのようなライバル企業に出
し抜かれるか、あるいは国際政治や司法の壁、各国の特殊事情の前に屈
せざるを得ないか、行く先に未知の部分はあまりに多い。

ここに描かれた目眩くアメリカの富、優れた頭脳と強運に恵まれた集団、
自由な市場競争の有り様を追っていると、グーグルが忌避する「邪悪な
こと」など寄りつく島もないような錯覚に陥る。グーグルはインターネ
ット上に分散する情報に幾通りもの「秩序」を与え、整理し尽くすアイ
ディアの具現化に情熱を燃やす。その恩恵を遍く世界が享受出来るよう
才能を集めてテクノロジーを開発し続けるというのだが、ひたすら上昇
する姿に一抹の危うさも感じる。たとえば、数ある機能の中から「グー
グルイメージ」を選んで自分の個人サイトの名を入れて検索してみると、
10年足らずの間に掲載したイメージが瞬く間に10数ページにわたってサ
ムネイルに羅列される。驚くべきは既に削除したはずのものまで含まれ
ていること。こんな些細な個人サイトのものまでも、(制作者の意図に
はお構いなく)一度存在したネット上のあらゆる情報を保存するという
方針が貫かれているらしい。グーグルは世界に名だたる図書館の蔵書を
データベース化し、いずれ遺伝子情報も提供する予定とのこと。また、
中国政府の規制を受け入れて中国国内からの反政府運動に関するグーグ
ル情報検索は不可能とする一方、外からの天安門事件の記録へのアクセ
スはオープンだ。扱い方一つで情報の意味は変わる。知の組み替えがも
たらす未来に歪みはないのか。

IT関連企業の急速な栄枯盛衰が人々の耳目を集めるのは、主役たちの若
さに一因がある。「その若さで」という世間の賞賛とやっかみがサクセ
スストーリーを持ち上げ、凋落の際には「それ見たことか」と思う様こ
き下ろす。Webの新時代におけるグーグルの意味を問い直す仕事はこれ
から始まると確信させる一冊である。未完の物語にこそスリルとサスペ
ンスは漲っている。
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