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 ■翻訳読書ノート 28「メソポタミアからの手紙」         北田敬子

イラクについて最新情報を知りたいなら本など読んでいる場合ではなか
ろう。メディアは時々刻々、戦争について、新政府について、「テロリ
スト」について、また僅かながら住民の声さえもわれわれの手元に届け
る。イラクは断片的なニュースの接ぎ合わせとなって眼前に現れる。い
よいよ各国軍は撤退の時を探っている。しかし、この戦争はいったい何
だったのかと根本的に問い直そうとするならわれわれは歴史書を繙くし
かない。だがいずれの書を?

『砂漠の女王-イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯』(ジャネット・
ウォラック著 内田優香訳 ソニーマガジンズ発行 2006)を手に取っ
たのは偶然だった。本当はイラク人女性の書いた本を探していたのに、
ヴィクトリア朝英国の富裕家の令嬢にして考古学者、登山家、諜報部員、
外交官、と多彩な顔を持つ女性の伝記に遭遇してしまった。怜悧な彼女
が「アラビアのロレンス」を「ぼうや」と呼び、ファイサル国王の憂鬱
な胸の内さえ聞く女丈夫でありながら、ついに叶わぬ恋に身を焦がす孤
独な存在であったことも余すことなく記されていて、卓越した女性の成
功譚に終始していないところがこの作品の魅力であろう。彼女の折々の
行動も発言も、彼女が起草した数々の公文書からだけではなく、もっぱ
ら彼女が繁く書きつづった家族(主に父)への手紙から引用されてこの
本は成り立っている。果敢に砂漠を駱駝で旅しイラクの国境を策定しな
がら、故国へのドレスや帽子の注文もぬかりない。同僚たちを鋭く批評
する一方、賞賛にも批判にも過敏なまでに反応する。そんな心の襞をあ
りったけ託した手紙のために、ガートルード・ベルは神秘のヴェールと
は無縁の存在になった。

砂漠の民を愛するとはいえ、結局は英帝国のために最善の道を模索し続
けた彼女の働きも、帝国の凋落と同様終焉を迎える。イラクの人々、
とりわけ長く声なき存在であった女性たちが将来ガートルードをどう評
価するかは未知である。だが、外交官の父を範としながら国際情勢や歴
史を肌で感じて育ったという気鋭の翻訳者が、イラクをよく伝える書と
して今日の日本に本書を紹介したことは特記しておきたい。居場所を求
め、力を発揮する舞台を求めて高峰を目指したガートルードの嘆息まで
も、活き活きと伝わる訳文である。ちなみにガートルードの撮影した夥
しい写真はニューカッスル大学のアーカイヴで堪能することが出来る。
この書籍に導かれ、踏破出来る規模の大きさはめざましい。

The Gertrude Bell Archive http://www.gerty.ncl.ac.uk/
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