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 あらゆる局面で「グローバル化」が叫ばれる今日、その対極では国益や
地域エゴ、民族間の対立が益々激化している。悲しいかな、わが宰相は
複雑な世界と渡り合う術もなく東アジアの一国を束ねる任にも堪えきれ
ず、その座を降りてしまった。『ピースメイカーズ -1919年パリ講和
会議の群像-(上)(下)』(マーガレット・マクミラン著 稲村美貴
子訳 芙蓉書房出版 2007年)は平和を招来する舵取りの困難さを、大画
布の中に大胆に描ききって卓抜である。政治は熾烈な戦い以外の何者で
もあるまい。その職を志すには、余程の肝の太さと精緻な策略を労する
能力がなければならない。特にリーダーに要求されるのは老獪さも含め
て、タフネスが第一なのではないかと本書を読みながら思った。

『ピースメイカーズ』には、第一次世界大戦を終結させ新たな国境の線
引きをした欧米の三巨頭(仏のクレマンソー、英のロイド・ジョージ、
米のウィルソン)を中心に、大戦に連座した各国の大立て者たちが入れ
替わり立ち替わり登場し、それぞれの権益を最大限に主張し獲得しよう
としのぎを削る様子が縦横無尽に描かれている。この作品を読み解くた
めには精度の高い世界地図帳が是非とも必要だと思う。戦場となったヨ
ーロッパ各地の要所、バルト海、地中海、アドリア海、黒海、カスピ海
沿岸、バルカン半島、トルコから中東各地、更に中国の山東半島と、章
を経るごとにせわしく頻繁な地名の確認が要求される。どこで誰が何を
求めているのかを辿るうち、歴史に名高いパリ講和会議とは西欧を中心
とする世界秩序の、崩壊の始まりであったかと息をのみながら見る大ス
ペクタクルドラマへと展開する。「国際連盟」の理想、「民族自決」の
思想、国際会議での各国虚々実々の駆け引きが、実在した登場人物の個
人的恣意とも絡み合い、ベルサイユ条約調印へと雪崩れ込んでいく様は、
あたかも幾百万の屍とは無縁のパワーゲームのようにも見える。

会議に臨んだ日本代表の影が薄いこと、中国に比べても巧みな自己主張
の技では見劣りがすること、主に「沈黙」の故に異彩を放っていること
などが露わである。むろん世界に太刀打ちする姿勢を「強行」であれと
は言いたくない。ただ存在の意義を充分に示し他者の共感を得る雅量と
力量が欲しいと思わずにいられない。1919年からわれわれはいかほど変
化しただろうか。

マクミランは「ベルサイユ条約」をその後のさらなる災厄の原因とは考
えていない。一刀両断にして済むほど世界は単純なものではないから。
この長大で詳細なルポルタージュによって読者は和平交渉の現場に立ち
会い、歴史の分岐点を目撃する好機を得る。神ならぬ身の政治家たちの
仕事は公平無私とはほど遠い。権力を持つ者が利権へ走り、他に先んじ
ようと必死の形相を示す。ここにはそのような実態も含めて、国際政治
の場がどのように培われてきたのか、実に人間くさい政治家たちの行動
や思惑が子細に調べ上げられ描き出されている。戦争を憂い、平和を希
求するとき、まさに「グローバルな視点」を持って主体的に考えようと
するなら、本書は優れた指南役となるはずだ。細部にわたるまで神経の
行き届いた丁寧な訳業もそれを可能にしている。

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