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■ 翻訳劇のフシギ・翻訳劇の魅力 6          今井克佳

『ピローマン』

10月にシアタートラムで上演された『溺れた世界』(ゲーリー・オーウ
ェン作)もそうだったが、なぜ、イギリスの若い劇作家は、作品世界の
枠組みとして、時代の特定できない全体主義国家を想定するのであろう
か。昨年度のローレンス・オリヴィエ賞新作最優秀賞を受賞した、マー
ティン・マグドナーの『ピローマン』(The Pillowman)は東欧のある国
家が舞台とされているらしいが、時代は、現代とも冷戦下とも言い切れ
ない。

悲惨な童話ばかり書くカトリアンは、三人の子供が作品と同じ方法で殺
されたため、理不尽な権力を持つその国の警察に拘束され拷問を受ける。
カトリアンは、両親の虐待のために知的障害となった兄ミハイルと同居
しており、兄も拘束されるが、やがて、この兄がカトリアンの読み聞か
せた童話の内容の通りに子供たちを手にかけてしまったことが明らかに
なる。取り調べの過程で、たくさんのもの悲しく、暗い童話が語られ、
彼ら兄弟の不幸な過去や、二人の刑事の性癖や過去も明らかになってい
く。

陰惨で救いがなく、それでいてどこか優しく切ない物語の数々。警察の
私刑による間近な死を覚悟したカトリアンの最後の願いは、これらの未
発表の作品が永遠に遺されること。理不尽な射殺の直前まで、彼はあら
ゆる言葉を尽くしてそれを望み続ける。

両親の実験とされる兄への不気味な虐待が、弟カトリアンの書く悲惨な
物語と兄の知的障害を生み、その物語が子供殺しという現実を生む。が、
殺伐でない、たった一つの作品「小さな緑のブタ」もまた兄の手により
現実となっていたことが、全体の物語に救いを与えることとなる。この
劇作自体が物語ることの存続と書くことの永遠性を希求する物語なのだ。

それにしても唐突ともいえる抑圧社会の舞台設定と兄弟の両親の無慈悲
な虐待は、劇作のテーマを強調するための強引な道具立てに過ぎないの
だろうか。現実世界では、上演期間と前後してイラクや国内で劇作の内
容とリンクするような恐ろしい事件が起こった。マクドナーの描いた理
不尽な抑圧社会は、彼の目を通した現実世界の黙示録なのであろうか。
物語を書くことは果たして現実の世界を救うのか、壊すのか。あるいは
劇中のカトリアンの言葉のように、作家はただ書くことだけが使命なの
か。深く考えさせられるテーマである。

主演の高橋克美を筆頭に四人の男優が抜群に上手く、三時間を超える上
演時間も気にならない。

【上演】
東京公演 PALCO劇場  2004年11月6日~23日
作 マーティン・マクドナー
翻訳 目黒 条
演出  長塚圭史
出演  高橋克実 山崎 一 中山祐一朗 近藤芳正 ほか
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