忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

路面電車の面影を残すかわいらしい車両が今も走る世田谷線の起点、三
 軒茶屋駅改札口の並びにシアタートラムがある。客席の配置は上演形態
 によって変化するが普段は約200席に満たない小劇場だ。14、5年
 前、仕事帰りに時折利用した世田谷線はまだレトロな木製の車両で、今
 のシアタートラムのあたりは草ぼうぼうの空き地か何かだったような気
 がする。そこに世田谷パブリックシアターと併設されるシアタートラム
 が開設されてから昨年で10周年とのことだ。

 11月から12月にかけて、そのシアタートラムでフランツ・カフカ
 の小説をもとにした演劇作品が2本、上演された。演出は松本修。文学
 座出身で現在近畿大学でも教鞭をとる。ワークショップを重ねる手法
 で、これまでも連続してカフカ作品の上演を行い、いくつかの演劇賞受
 賞などの成果をあげている。彼の手法の特徴は、異なった場面の集積で
 物語を紡いでいくことと、フィジカルシアター的要素が強く、特に集団
 としての動きで場面を表現していこうとすること。このあたりはアング
 ラ演劇的な要素を引き継いでいるともいえる。さらにダンスカンパニー
「イデビアンクルー」の井出茂太を振り付けに起用し、いくつかの場面
 では、心沸き立つダンスシーンや不思議なパントマイムのような動きを
 取り入れている。

 交互上演とはあまり聞かない言い方だが、片方の作品を3日間上演した
 ら、別の作品を3日間上演、またもとの作品を数日、といった感じで同
 じカンパニーの俳優たちが両方の作品に出演していく形態だ。俳優たち
 もたいへんだが、両方見ようと思うと見る方も何日か後に同じ劇場を訪
 ねなければならない。

 この交互上演では、座席の配置が特徴的だった。「審判」では通常の舞
 台と客席の位置関係なのだが、「失踪者」ではこの位置が入れ替わる。
 客席への入り口を入ると、普段は舞台がある正面に座席が作られてい
 て、観客はそちら側にわたっていかなければならない。そして自分たち
 が入ってきた客席入り口の側が舞台となるのである。これは両方の作品
 を見ないとわからないのだが、まるで鏡写しのように配置されている。
 人生という舞台では私たちは観客でもあるが出演者でもある、といった
 発想だろうか。舞台は3階層に分かれ、客席も段差が大きい。垂直に向
 かい合わされた気持ちになる。

 カフカの不条理小説といえば「変身」が有名だが、これは松本の劇団で
 あるMODEで別の機会に舞台化している。「審判」も映画化されている
 比較的有名な作品だ。銀行の副頭取をしている青年がある日理由もな
 く告訴され、裁判が続く。やがてなんの前触れもなく有罪の宣告によ
 り無惨に処刑されてしまう、という話だ。遅々として進まない裁判。弁
 護士をはじめ登場する人物たちはみな詭弁を弄し、なぜかモテモテの主
 人公はすぐに女に逃避する。まあ、世の中ってそういう空しいものよ、
 ということだろうが、三時間の上演時間(休憩は含まれるが)ではさす
 がに最後はうんざりしてくる。いつもの固い座席ではなくて、なんだか
 ふわふわする素材が使われていたので救われた。

「失踪者」はすでに二度上演されている「アメリカ」の再々演である。
「アメリカ」はカフカの未完成の小説で一般にはあまり知られていない
 ようだが、舞台化は他にも見たことがある。ヨーロッパからアメリカの
 親戚を頼り、渡航した少年が、富豪の親戚に引き取られるが、そこから
 追放され放浪を重ねるという物語。こちらはさらに長く、なんと上演時
 間3時間40分! しかし芝居はこちらのほうが面白かった。少年役を
 複数の俳優が引き継いで演じるので、少年の内面の変化が外面に現れ
 る。「審判」では何事も理不尽で不明で事態も全く変わらないが、「失
 踪者」では何事も理不尽で不明だが、少年の境遇はどんどん変わってい
 く。ロードムービー的なのだ。

 未完の結末を松本は、カフカの死後、ドイツ帝国がたどった運命に重ね
 合わせる。カフカはユダヤ人。「失踪者」の少年を乗せた列車はアウ
 シュビッツ行きだったのか。そのことを暗示して長い芝居は終わる。

 さて、この連載も長きにわたったが、私も「失踪者」よろしく消えるこ
 とにする。もちろん行き先はアウシュビッツではなく、ロンドン。大学
 のサバティカルを利用し、「翻訳劇」でない演劇をたくさん見てくるつ
 もりである。またいつかネットで、あるいは直接お会いしましょう。あ
 りがとうございました。(終)

PR
この記事にコメントする
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
無題
長期連載お疲れ様でした。「好き」とはいえ、翻訳劇観劇を絶やさない今井さんのお姿は驚異でした。ロンドンではさらに磨きをかけてください。
(青) 2008/02/05(Tue)14:13:46 編集
最新CM
[12/09 山本ゆうじ]
[12/07 Lisa Hosoi]
[09/29 NONAME]
[09/29 NONAME]
[03/13 エラリー]
カレンダー
10 2019/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
カウンター
忍者ブログ [PR]
Copyright(C) TranRadar(トランレーダー)ブログ All Rights Reserved