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 ■目で見るか、耳から聞くか。――外国語上演の翻訳装置
                           今井 克佳

◆考察―外国語上演における翻訳装置

通常この連載記事は、戯曲の段階で外国語から日本語に(一部逆のもの
も取り扱ったが)「翻訳」された「翻訳劇」のレビューを書いてきたが、
今回は、外国語上演における翻訳装置について、考えてみたい。たとえ
ば、ドイツの劇団が来日し、ドイツ語の演劇上演を日本人に向けて行う、
という場合である。

もちろん、ドイツ語が理解できる人はそのまま楽しめばよい。英語など、
かなり普及している外国語で、なおかつシェイクスピアなどの古典など、
物語や戯曲をあらかじめ知ることができるものであれば、そのまま楽し
める人も多いだろう。しかし新作や、あまり上演される機会がないもの、
そして、たとえばそれが、アラビア語や、タイ語の上演だったら、どう
だろうか。やはりなんらかの翻訳装置の必要性が高まる。

外国語上演の翻訳装置として成立しているものは2種類。ひとつはイヤ
ホンガイド。一つは字幕装置である。

最近、イヤホンガイドは経費の関係かほとんど使われず、字幕を電光掲
示板に表示するものがほとんどのように思える。ここ2,3年のことだ。
字幕表示の技術も、改善されて使用しやすくなったのかもしれない。
字幕の掲示場所も、縦置きで舞台の両端だったり、舞台奥に横に表示し
たり、はたまたホリゾント(舞台背景)全体にでかでかと表示したり、
と様々。またテレビのような長方形のプラズマディスプレイに、複数の
行や、多言語表示をする場合もある。

◆世界各地で上演されている「現代口語演劇」

先月観た青年団「東京ノート」(駒場アゴラ劇場)。平田オリザが「現
代口語演劇」のスタイルを確立した記念碑的作品の再演だが、日本語で
の上演にも関わらず、初演から14年間、世界各地で上演されてきたため
十数カ国語の字幕がそろっており、日替わりで表示されていた。私が観
にいった日の字幕はまるで見たことのない言語で、ついに何語か確かめ
るのを忘れてしまった。「現代口語演劇」といえば「同時多発会話」。
複数の会話のセリフが同時に語られる。「リアル」さを追求した平田独
自の形式だ。こうした「同時多発会話」も面積の大きなディスプレイな
ら、上部と下部に同時に表示することができてしまう。もちろんこれは
小劇場で字幕が見えやすいということが前提ではあるが。

平田の劇団「青年団」は字幕上演に、絶対的な自信を持っているようだ。
「1秒の表示の違いで、客席から笑いが出るかどうか決まる」と平田自
身が話していたのを聞いたことがある。たしかに昨年、新国立劇場で再
演された日韓合作「その河を越えて、五月」や、先月の日仏合作「別れ
の唄」(シアタートラム)の字幕上演はすばらしかった。

しかし、つい先週観たやはり新国立での中日合作「下周村」は、平田が
作・演出にからんでいるにも関わらず、中国語のセリフが大量で早口で
演じられるため、字幕が4行にもわたる抽象語の連続であったりして、
とても追えるものではなかった。さすがにこれは字幕の限界である。

また3月に来日したチュニジアのファミリアプロダクション「囚われの
身体たち」の初日は、字幕のタイミングがめちゃくちゃでかえって内容
の理解を妨げるようなものだった。一般的な劇場の字幕装置は、基本的
には字幕が自動的に流れるように設定されていて、タイミングがずれて
しまったときの調整が手動で行えるようになっているのではないかと思
われる。多分リハーサルなしのぶっつけ本番だったのかもしれない。こ
んなこともあるので、実は字幕上演はあまり好きではない。

◆イヤホン派?字幕派?

さて、もうひとつのイヤホンガイドである。歌舞伎座などでも解説用に
貸し出している、ワイヤレスで音声が聞こえる、あれである。だいたい
有料+保証金で貸し出され、終演後に回収される。料金はまちまち。直
近でイヤホンガイドで観た上演は、2005年の新国立劇場に来日した、ベ
ルリナー・アンサンブルの「アルトゥロ・ウイの興隆」。ブレヒトゆか
りの劇場、そして故ハイナー・ミューラーの新演出、名優の代表作とい
うことだったが、客の入りはよくなかった。外国演劇というだけで敬遠
されてしまうのが悲しいことに現在の日本の状況だと思う。

イヤホンガイドの長所は、字幕と違って、目は俳優の演技に集中できる
こと。セリフの方は原語と翻訳語とを両耳から同時に聴くことになるの
で、原語のほうが聞き取りにくくなるが、字幕を読んでいる間に俳優の
表情や仕草を見逃した、というようなことがない。翻訳セリフは、俳優
(声優)がリアルタイムで読み上げている。

「アルトゥロ・ウイ」の「シアタートーク」(上演後に関係者が舞台上
で懇談し、質問なども受ける)で、司会者がイヤホンガイドと字幕のど
ちらがよいかと客席に聞いたら、字幕のほうに手を上げた人が多かった。
私はすごく意外だったのだが、なぜ字幕のほうがよいと思うのだろう?
単純にお金がかからなくてすむということだろうか。私などは数百円余
計かかっても、イヤホンガイドのほうが演劇を楽しめると思うのだが。
なんだか悲しかった。

2004年、シアターコクーンでの野田秀樹「赤鬼」のロンドン、タイ、日
本バージョン連続上演の時も、ロンドン、タイバージョンはイヤホンガ
イドだった。野田自身がイヤホンガイドを推奨したことと、客席が舞台
を四方から囲む構造だったため、字幕の配置が難しいということもあっ
ただろう。このときはイヤホンから聞こえるのが、実は野田自身が書い
たオリジナルの戯曲の言葉に近かったわけだから、面白い体験となった。
それでも、有名俳優が出演する日本バージョンに比べて、ロンドン、タ
イバージョンは当日まで席が埋まらないという状況で、当初有料の予定
だったイヤホンガイドは無料貸し出しに変えられていた。

このように、イヤホンガイド上演は私の意に反して不評のようなのだ。
経費や手間がかかる上に不評では続くはずもない。いまやほとんどが字
幕上演である。つまらん。字幕上演もよくなっているのだろうけれど、
やはりイヤホンガイドの方が自分はいいのである。

まあイヤホンだ字幕だという以前に、外国語上演というだけで、敬遠す
る日本の観客の程度が残念である。演劇はたとえ言語がまったく解せな
くとも、豊かに伝わるものをもっているはずの芸術なのだから。

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