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■目立たないけど「夢」の競演    ―― 新国立劇場「夏の夜の夢」

                                    今井克佳

 日本では何回上演されたのだろうか。シェイクスピアの代表的喜劇「夏
 の夜の夢」。伝説的な舞台として有名なピーター・ブルックの演出版は、
 1973年に来日したのだそうだ。真っ白なさらのステージと、妖精の王・
 女王と、アテネの侯爵・婚約者を同一配役で行った斬新な舞台は、いま
 だに語り草で、話題に出されるとまたか、と観てない自分はうんざりす
 るくらいだ。ブルック以降、ほとんどの演出が、妖精王カップルと伯爵
 カップルの同一配役を踏襲しているようで、それほど本質をついた演出
 だったのだ。

 そのピーター・ブルックが所属していたRSC(ロイヤル・シェイクスピ
 ア・カンパニー)の演出家であるジョン・ケアード。トレバー・ナンと
 ともに、日本でも再演を繰り返すミュージカル「レ・ミゼラブル」を手
 がけた彼が、はじめて新国立劇場で今回、演出したのが「夏の夜の夢」
 である。

 ところで坪内逍遙が「真夏の夜の夢」と訳した”Midsummer Night's
 Dream”は福田恒存によって「夏の夜の夢」と改訳された。Midsummerは
 夏至前後の時期のこと。劇中の時季は5月1日の夜である。題名と内容が
 ずれている理由は諸説あるが、いずれにしても日本の「真夏」のイメー
 ジではない。そういう意味では、今回の上演は6月だからまずは、「夏の
 夜の夢」にふさわしいといえる。もちろん、梅雨のないギリシャやイギ
 リスの「夏」はまた違った感覚ではあろうが。

 奇を衒いすぎないが斬新さのある演出。さすがにウェストエンドのミュ
 ージカルを作れるだけの才気があふれている。アテネの侯爵邸は、少し
 現在風だがオーソドックスに。回り舞台で反転するとアテネの森は、二
 つの螺旋階段によって模された、金属の森だ。妖精たちは皆、フェアリ
 ーテールそのままの小さい羽を背中につけている。こういう衣装はベタ
 過ぎるので実際あまり採用されないがゆえに、むしろ新鮮だ(おまけに
 オーケストラピットの演奏者まで同じ羽をつけているのがかわいらしい)。
 幕切れでは同じアテネの森がすでに撤収されて裏舞台、白木のセットが
 むき出しのまま、パックの最後の口上となる。
 こうした美術的な楽しみ以上に、出演者の顔ぶれが楽しかった。いや、
 テレビや映画で有名なイケメン俳優、アイドル女優しか興味のない方々
 にはそれほどでもないだろうが、普段から大・小の劇場に足を運んでい
 る観客にとっては、メディア的には目立たないが、いつもそれぞれの持
 ち場で、すばらしい演技を披露してくれる俳優たちを一同に観ることが
 できたのだから。

 たとえば妖精の女王は麻美れい。宝塚を出自としながら、すでに蜷川演
 劇をはじめとするストレートプレイに多数出演。数々の演劇賞を受賞し
 ている。貫禄のある落ち着いた女性を演じることが多い彼女が背中に妖
 精の羽をつけて、おつきの妖精たちとちょこまかと踊る姿はめったに観
 られるものではない。

 アテネの森で恋の狂乱に惑う4人の若者たち。ハーミアは宮菜穂子。ミュ
 ージカル中心の実力派若手だが、この連載でもとりあげたtpt「血の婚礼」
 のういういしさが印象的だった。対するヘレナは小山萌子。二兎社の永
 井愛作品の常連だ。コメディエンヌとして現代劇中心に活躍しているの
 で、古典劇の衣装を着た彼女を観るだけでも新鮮。男性陣。ディミート
 リアスは青年座の若手、石母田史朗。対するライサンダーはキャラメル・
 ボックスの細見大輔。まるで異種格闘義戦のような顔合わせ。

 ふと気がつくと妖精のなかに見覚えのある女優が。しばらく芸能界から
 姿を消していた神田沙也加(松田聖子の娘)ではないか。いつのまにか
 舞台復帰していたのだ。きわめつけはパック。つかこうへい劇団出身で、
 やはりtptの「エンジェルス・イン・アメリカ」の強烈な天使役が忘れ
 られないチョウソンハ。腕の骨折もなんのその。あいかわらずのキイキ
 イ声で強烈なパックを演じていた。ああ、こんなに楽しめるとは、日頃
 の劇場通いが功を奏したというわけか。贅沢である。

 遊び心あふれた演出だが、一本通ったメッセージも感じる。大団円の祝
 宴の場。妖精たちの祝福のもと、本来は交わらないはずの貴族たちと、
 クインス率いる劇中劇を披露した下層の町人たちが、手と手を携えて踊
 る。見えない世界と見える世界、上層下層も関係なく、すべての「いの
 ち」が一体で、どちらが夢でどちらが現実ということもない。生きとし
 生けるものすべてへの祝福。古典悲劇の中に現代へのメッセージをしの
 ばせる手法はよくあるが、喜劇のなかにも現代への強いメッセージを読
 みとることができたのはうれしかった。

 上演情報
 新国立劇場「夏の夜の夢」2007年5月31日~6月17日
 作:ウィリアム・シェイクスピア
 翻訳:松岡和子
 演出:ジョン・ケアード
 http://www.nntt.jac.go.jp/frecord/updata/20000015.html

 

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松岡和子氏
本当は神田沙也加に反応したのですが、それではととどまり、松岡和子さんについて。松岡さんのHPを見てびっくり。なんと「現在、シェイクスピアの戯曲全37作品を新訳中」とのこと。すごい方です。
(青) 2007/08/08(Wed)14:39:06 編集
無題
松岡さんはたくさんの演劇プロジェクトに関わっておられ、劇場でお見かけすることも多いです。必ずしもシェイクスピアや翻訳劇ではなく、日本の現代劇にもいらっしゃってます。
今井 2008/01/24(Thu)00:05:19 編集
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