忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 ■ “7500円オペラ” の楽しみ方
           ―――世田谷パブリックシアター「三文オペラ」

                            今井 克佳

 この連載で白井晃演出作をとりあげるのは二回目だけれど、ブレヒト劇
 を単独でとりあげるのは初めてだと思う。「三文オペラ」である。1920
 年代のロンドンを舞台に、盗賊の首領メッキーの結婚と逮捕、処刑を中
 心に資本主義の矛盾を描く。

 ブレヒト劇のなかでは代表作の一つといわれ、「肝っ玉母さんとその子
 供たち」とともに、よく上演されている作品だと思う。しかし以前見た
 演出があまりにつまらなかったので、ちょっと敬遠していた。正直言う
 と、ブレヒト劇は苦手である。特に、付き物である、あのクルト・ヴァ
 イルの音楽が… なんだか暗くいかめしい印象が強く、いわゆる音楽劇
 の楽しさなど微塵もないような気がして客席から逃げ出したくなってし
 まう。言い過ぎだろうか。しかし今回は、才気あふれる白井演出、そし
 て出演が吉田栄作、篠原ともえ、ロック歌手のローリーということで、
 ちょっとは期待しつつ、劇場に出向いたのであった。

 いきなり最前列、しかもはじっこ。舞台は三層構造になっており、一番
 下の階は客席と段差がない。うわっ、ちょっと近すぎるよ、という感じ
 で、小劇場風の良さはあったが、ブレヒト劇特有の、電光掲示板が見え
 にくい。ここに出てくるト書きや歌の題名などがわりと重要で、ブレヒ
 ト劇の特徴と言われる「異化効果」のひとつであり、白井演出でも結構
 独特の使い方をして、笑いをとっていた。たとえば一幕の終わりに「休
 憩」と出しておいて、次の瞬間、「なしで二幕」と出したり、歌の題名
 を出しておいて「歌わずに次の場」などとする。異化効果のブレヒトを
 さらに異化していくといった手腕が各所にあり、なるほどそれはブレヒ
 トにふさわしい。

 それでも、本家ベルリナーアンサンブルのハイナー・ミュラー演出のよ
 うに、ぶっとんだものにしないのは、上演権の問題もあるのだろうか。
 クルト・ヴァイルも健在だし、そういう意味ではまずテキストに忠実な
 中道的な演出ではある。ノートパソコンを出したり、死刑装置を電気椅
 子にしたりと、現代風にしたのはありがちなご愛敬だが、最も注目すべ
 きは、セリフも歌詞もすべて新翻訳で行ったことだろう。

 酒寄進一氏の新しい翻訳は、若者言葉や現代風俗を取り入れており、な
 じみやすくなっている。しかし、さすがに「年金問題」とか言っている
 のはどうなんだろう、と観劇後にロビーで売っている戯曲本を買ってみ
 るとさすがにそこまでは入っていない。後書きには、今回の上演を前提
 に役者に当て書きしたとは書いてあるのだが、さすがに稽古場で生まれ
 た過激なセリフまでは取り入れなかったようだ。

 歌詞については、新翻訳をもとにローリーがアレンジしたようだがこれ
 がまたぶっ飛んでいる。この物語は最後のメッキーの処刑場面で、唐突
 に女王からの恩赦が下されるのだが、その場面で歌われるメッキーの歌
 詞が「助かった。助かった。台本読んでたからわかってたぜ、ブレヒト
 ありがとう!」である。これにはあきれるのが半分、感心するのが半分
 だった。ローリーは出演者としては、奇抜なマネキンに過ぎなかったが、
 彼(彼女?)の功績はこうした「空耳アワー」的な歌詞の創造に尽きる。

 吉田栄作は、大泥棒としてはちょっと好青年タイプ過ぎる嫌いはあるが、
 新国立など商業演劇以外のジャンルに真摯に取り組んでいる姿勢を評価
 したい。篠原ともえは実はシリアスな演技もできる女優だが、今回は例
 の不思議ちゃん的キャラクターで、婚約者を演じたのはかえって作品に
 新鮮味を与えていた。

 完全に現代に移された演出ではないこともあり、資本主義の台頭してい
 く時代に書かれた大時代的な批判については、やはりちょっとうんざり
 と来てしまった面もあるのだが、言葉の「異化効果」についてはなかな
 か楽しめた。できればクルト・ヴァイルからも解放された現代的なブレ
 ヒトをもっと見てみたいものだ。

 上演情報
 音楽劇 「三文オペラ」(世田谷パブリックシアター)
 2007年10月09日(火)~2007年10月28日(日)
 [作] ベルトルト・ブレヒト
 [音楽] クルト・ヴァイル
 [翻訳] 酒寄進一
 [演出] 白井晃
 [音楽監督] 三宅純
 [歌詞] ROLLY
 [美術] 松井るみ
 [振付] 井手茂太
 [出演] 吉田栄作 篠原ともえ/大谷亮介 銀粉蝶 佐藤正宏
     猫背椿/ROLLY 他
 http://setagaya-pt.jp/theater_info/2007/10/post_90.html

PR
この記事にコメントする
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
無題
「7500円でオペラ」というのは高いのか?安いのか?それさえも知らぬ、というか判断がつかぬ私。この場合「安い」と思えるのが、正しいのでしょうね。
(青) 2007/11/05(Mon)11:54:09 編集
答えて
今、はじめてコメントを発見しました。はい、本当のオペラを見に行くと万札が飛んでいきます。はじっこの席で安いのもありますが。最前列で7500円の「オペラ」は安いのです。昔「三文」、今「ななごー」というわけです。
今井 2008/01/24(Thu)00:03:16 編集
最新CM
[12/09 山本ゆうじ]
[12/07 Lisa Hosoi]
[09/29 NONAME]
[09/29 NONAME]
[03/13 エラリー]
カレンダー
10 2019/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
カウンター
忍者ブログ [PR]
Copyright(C) TranRadar(トランレーダー)ブログ All Rights Reserved