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 ■「英語が使える日本人」の育成とは?(前編)      田村洋一

 少し前になりますが、日本経済新聞に気になる記事が掲載されました。
匿名の小学校教師2人を対比したストーリーで、小学校における英語教
育の実状を紹介したものです。Aさんは英語が好きですが、Bさんは苦
手なので英語に無関係な学科を専攻しました。問題はBさんのような教
師(これは批判ではありません)にも小学生に英語を指導させる仕組み
が、いつのまにか出来上がっているところにあります。これはモデル校
での実験的試行というようなものではなく、文部科学省の2005年度の調
査によれば、全国の公立小学校22,232校のうち93.6%で、何らかの形で
英語教育が行われています。6年生の場合、年間実施時間の平均値は
13.7時間、92.6%の学校で学級担任が指導を担当しており、Bさんのよ
うな担任教師のストレスはかなりのものでしょう。大げさに言えば、学
校教育に関する非常に重要な変更が、国民的な議論もなく、ごく事務的
に処理されていく危惧を覚えます。その背景には何があるのでしょうか。
 
 3年ほど前の2003年3月31日、文部科学省は「『英語が使える日本人』
の育成のための行動計画」(以下、行動計画)を発表しました。この文
書には「Action Plan to Cultivate "Japanese with English
Abilities"」という英語版もあります。まるで終戦直後の「CIE」
(Civil Information and Education Section:GHQ民間情報教育局)の
指令を思わせるようなタイトルです。A4判換算で日本語版は約9ページ、
英語版は約11ページありますが、是非比較して読まれることをお勧めし
ます。ちなみに、英語版の冒頭にある遠山敦子文部科学大臣(当時)の
前文は典型的な日本人英語で、「行動計画」本文の英語とは質的に大き
な落差があります。これはちょっとしたミステリです。

 この「行動計画」の目標をひと言で換言すれば、「英語の公用語化」
です。「目標」の項には、「国民全体のレベルで、英語により日常的な
会話や簡単な情報の交換ができるような基礎的・実践的なコミュニケー
ション能力を身に付けるようにする」という記述があります。これをま
ともに実践しようとすれば、日本人どうしが日常会話を英語で行わなけ
ればならなくなるでしょう。言語は使っていなければ忘れてしまうから
です。実現性については疑問だらけですが、しかし、これは文部官僚の
単なる作文ではなく、既に予算化されて動き出している国家政策なのだ
から驚きます。
                                                        (つづく)

●参考
・「『英語が使える日本人』育成のための行動計画」(文部科学省:2003):
 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/15/03/030318a.htm
・「Action Plan to Cultivate "Japanese with English Abilities"」
 (文部科学省:2003/上記の「行動計画」の英語版):
 http://www.mext.go.jp/english/topics/03072801.htm
・「英語指導方法等改善の推進に関する懇談会 報告」(文部科学省:2001):
 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/01/010110a.htm
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 ■ 再び、電子辞書について(下)
                            田村 洋一

 私のように仕事の大部分をパソコンの画面上で行っている人間は、現
在の電子辞書に魅力を感じるものの、実際に使うのは面倒です。そこで、
メーカーに是非検討していただきたいのが、パソコンの外部接続機器と
しての電子辞書です。具体的には、電子辞書をUSBインタフェースでパ
ソコンに接続し、パソコンから辞書の検索ができるようにし、従来通り
携帯用として電子辞書単独でも使用できるようにします。電子辞書の内
容をパソコンに持ち込むと著作権の問題が複雑になります。そこで、パ
ソコン側では小さな検索画面を用意して、電子辞書の画面をシミュレー
トするだけにします。使いたい辞書の選択、語句の入力、検索結果の表
示、検索に伴う電子辞書との通信という4機能があればよいのでソフト
としては単純な部類です。おそらく各メーカーは開発用に類似のソフト
を持っているはずなので、機能を欲張らなければ容易に実現するでしょ
う。さらに利用者側では、辞書のインストール作業が不要になり、複数
の検索ソフトを併用する煩わしさから解放され、自宅でも外出先でも同
じ辞書が使えるという大きなメリットがあります。CD-ROM版の辞書より
電子辞書のほうが内容も充実しているので、最小限の機能だけでも需要
は少なくないでしょう。

 2006年現在の国産電子辞書の傾向として特筆すべきなのは中国語モデ
ルの充実です。本格的な中日/日中辞書を搭載し、発音機能も備えた機
種が各社から発売されています。これらの国産製品に共通するのは北京
語と簡体字にしか対応していないことです。中国本土で仕事をするには
十分としても、台湾では(場合によっては広東省でも)使いにくいのでは
ないでしょうか。私自身も中国語の辞書を必要とすることがあります。
例えば、英文中に中国や台湾の固有名詞が出てきた場合、何を意味し、
漢字ではどう書くのかを確認しなければなりません。そこで英/中/日の
3カ国語仕様の辞書が欲しくなります。台湾製電子辞書にはこのタイプ
があります。カシオの「XD-GT7350」に搭載されている「日中英固有名
詞辞典」の実力もチェックしてみる価値がありそうです。漢字に関連し
て、ささいなことですが、「部首」を「部品」や「パーツ」と呼ぶのは
やめるべきでしょう。設計者の漢字文化に対する認識と愛着を疑いたく
なります。

 最後に、電子辞書には「こんな選び方もある」という私なりの参考例
をあげておきましょう。SIIの「SR-E8500」という機種は、OUPの英英辞
書6種類と、定番の大型英和辞書2種類を搭載しています。これにオプシ
ョンでメモリーカード「DC-A016」(コウビルド英英+類語辞典)を追加
すると、英語に関しては最強レベルになります。同様に、科学技術的な
用途ではオプションとして「DC-A013」(日外アソシエーツ180万語対訳
大辞典)を追加する選択肢もあります。この2枚のメモリーカードを使い
分けることも可能ですが、それが必要なら、むしろ最上位機種(+オプ
ション)を選ぶべきでしょう。

 もう一つの例は、SIIの「SR-V4800」とオプション「DC-A017」(リー
ダーズ2版+プラス)をセットにするものです。この本体は高校生向け学
習用に設計されていますが、「コウビルド」のパッケージを含み、定番
の国語系辞書や日本史/世界史小辞典まで搭載しているので、英語を書
く社会人にも便利です。基本構成の語彙数の不足をオプションで補いま
す。

 メモリーカードによる辞書の追加はシャープ製品でも同様ですが、カ
シオ製品ではWindowsパソコンからCD-ROMの内容をダウンロードする方
式なのでMacユーザーは使えません。また、他の3社とは方向性が異なる
キヤノン製品の中では、特に米語に重点を置いた「G70」という機種が
ユニークです。

 携帯電話向け辞書検索サービスとも競合する電子辞書が今後どのよう
に進化していくのか、これからも目が離せません。
 ■ 再び、電子辞書について(上)
                            田村 洋一

 このメールマガジンのNo.54から6回にわたり「使える電子辞書の時代」
という記事を書きました。それから2年ほど経つので、その後の電子辞
書の状況を簡単に再点検してみようと思います。既に「電子辞書」はテ
レビ・ショッピングの常連となり、ほとんど普通名詞といえるほどです
が、念のため申し添えれば、辞書・事典の機能に特化した携帯電子機器
の総称です。

 2005年にソニーが事実上撤退し、国内メーカーは50音順でカシオ、キ
ヤノン、シャープ、セイコーインスツル(SII)の4社になりました。国内
メーカーの電子辞書の出荷実績データとしては、(社)ビジネス機械・情
報システム産業協会(JBMIA)が発表している「事務機械の自主統計品目
出荷実績」に記載されたものが唯一のようです。その2005年版によれば、
国内と海外の合計で約356億円/約256万台となっていますが、同協会に
非加盟のSIIの出荷実績は含まれていないと思われます。SIIの売上デー
タから推定すると、JBMIAの数字に少なくとも100億円ほど上積みされる
ことになるでしょう。海外での出荷実績は金額で全体の4%、台数で7%
ほどで、圧倒的に国内向けが主体です。これは統計データではありませ
んが、3万円超の高級機種の人気が高いことも日本市場の特徴です。
この点は携帯電話機に似ており、多機能で高額の国内向けモデルが海外
では価格競争力を持ち得ないという状況になっています。メーカーには
頭の痛い問題でしょう。なお、書籍版の辞書の出荷実績データは公表さ
れていないため、電子辞書との比較はできません。

 半導体技術の進歩で大容量メモリーの搭載が容易になり、搭載可能な
コンテンツ(辞書・事典)の量が増えました。百科事典2セットを含む100
種類のコンテンツを搭載する製品もあります。書籍版に換算すれば書棚
2段分以上になりそうです。しかし、コンテンツ搭載量の競争はもう限
界です。私には、オールインワン型より性格(使用目的)のハッキリした
電子辞書のほうが好ましく感じられます。利用者が必要とする辞書を自
分で追加できるという意味で、キヤノンを除く3社が採用している半導
体メモリーカードによる辞書の追加機能は歓迎できますが、いまだに各
社独自仕様なのは残念です。長い目で見れば、メモリーカード(ハード/
ソフト)の業界統一仕様を策定したほうが、利用者にも電子辞書メーカ
ーにも、コンテンツを提供する出版社にも利益となるはずです。例えば、
小規模の出版社でも独自のメモリーカード・コンテンツの制作・販売が
可能になります。今後、英語学習用の機種ではMP3形式のポッドキャス
ト対応の需要が高まると思われます。これにはパソコンからのダウン
ロード機能が必要で、仕様統一の契機になるかもしれません。メモリー
カード・スロットも1個では足りなくなるでしょう。

                           (つづく)
 ■ 「東京都平和の日」に考える              田村洋一

 3月10日は「東京大空襲」(The Tokyo Air Raid)の記念日です。
1945年のこの日未明、東京の下町一帯は、襲来した米軍のB29爆撃機
300機あまりが投下した1500トンもの焼夷弾(incendiary / fire bomb)
で文字通り火の海になりました。正確な数字は確定していませんが、死
者10万人以上、家を焼かれた罹災者100万人以上と推定されます。即死
した犠牲者の数でいえば、東京大空襲はヒロシマをも上回る最大級の無
差別大量殺戮です。これは事実として、もっと多くの人に記憶されるべ
き出来事でしょう。この空襲は広瀬正「マイナス・ゼロ」や高木敏子
「ガラスのうさぎ」など、多くの小説やエッセイに登場します。

 東京に生まれた私は、幼少の頃から両親や祖父母から空襲のことを聞
いていました。周囲には焼夷弾でひどい火傷を負った人もいました。し
かし、その実状を知ったのは、中学校の図書館で写真集を見てからです。
道路脇に人の形をした灰色の物体が延々と折り重なるように転がってい
ます。逃げ場を失い火に包まれて亡くなった犠牲者の姿です。無残な光
景は当時の城東地区のいたるところで見られたのです。数えきれない遺
体が早々に集められ、大きな公園を即席の墓地として集団埋葬されまし
た。戦後になって発掘調査が行われて改葬された例もありますが、既に
仮埋葬地点がわからなくなり、そのままになっている例も多いといわれ
ます。東京都は犠牲者名簿を作成し管理しています。2006年3月現在、
遺族からの申し出で名簿に記載された犠牲者は7万6784人です。行方不
明者の数は見当もつきません。

 このような「絨毯爆撃」で、まず思い浮かべるのは「ゲルニカ」
(Guernica)です。スペイン内戦の最中の1937年4月26日、バスク地方の
町ゲルニカは、フランコ派を支援するナチスドイツ空軍の無差別爆撃で
壊滅しました。この作戦にはイタリア空軍も参加しています。民間人を
標的としたこの空襲に憤慨したパブロ・ピカソは、大作「ゲルニカ」を
描き上げて抗議しました。

 その8年後の1945年2月には「ドレスデン爆撃」(The Bombing of
Dresden)がありました。ドレスデンはチェコ国境に近い旧東独にある旧
都です。英空軍(RAF)と米陸軍航空隊(空軍の前身)の爆撃機が大量の爆
弾と焼夷弾で無差別爆撃を行い、市中心部は事実上消滅しました。犠牲
者は少なくとも3万5000人といわれますが、正確な数字の把握は困難で
す。地上でこの空襲に遭遇し生還したカート・ヴォネガット(Kurt
Vonnegut)は、体験をもとに小説「スローターハウス5」
(Slaughterhouse-Five)を書きました。この爆撃で瓦礫同然の廃墟とな
っていたドレスデン大聖堂「Frauenkirche」(Church of Our Lady)がよ
うやく復興したのは2005年10月のことです。総額1億8000万ユーロの再
建費用のうち約1億ユーロは、爆撃した側の英国人からの寄付金で賄わ
れました。大ドーム頂上に輝く金色の十字架も英国で製作されたもので
す。さすがに良心の呵責を感じる人が少なくなかったのでしょう。

 ここまで私は意図的に「空爆」という語を避けてきました。「空襲」
(air raid)と「爆撃」(bombing)だけで十分だと思うからです。「空襲」
には機銃掃射やロケット弾による攻撃も含まれます。だいたい爆撃は空
から行うのに決まっているので「空爆」はおかしいのです。地対地攻撃
なら「砲撃」か「ミサイル攻撃」です。私の記憶では「空爆」という語
が現れたのは湾岸戦争で、それ以前のベトナム戦争では「北爆」でした。
もっと遡って、ロケット兵器「V2」によるドイツの英国攻撃は何と呼ば
れていたかといえば、「The V2 Attacks」という表現や、単に「落下」
(fall)が一般的だったようです。超音速で落ちてくるので「爆発音がし
てからエンジンの爆音が聴こえた」という証言があります。

 「無差別爆撃は戦争犯罪だ」という議論や、なぜ東京大空襲の公的な
慰霊施設の建設計画が頓挫し「慰霊碑」だけになったのかという大きな
問題もありますが、ここでは触れる余裕がありません。靖国問題にも共
通することですが、宗教や政治的信条の違いで慰霊施設が作れないとい
うのは、それを何かに利用しようという魂胆があるからです。これは江
戸っ子の感覚には合わない野暮の骨頂です。誰でも日常的な感覚で虚心
にお祈りできる場所を作るぐらい、その気になれば造作もない話です。
そして、日本を訪れる外国人に、この国で過去に何があったのかを正確
に理解してもらうことが大切です。試みに英語版Webページの「Asakusa」
の案内を10サイトほどチェックしてみたところ、浅草寺が(一部を残し
て)戦災で焼失し再建されたこと(および雷門は1865年に焼失したまま
で当時は存在しなかったこと)を正確に説明しているのはごく少数で、
全く戦災の記述がないものもありました。私たち翻訳者が相互理解に貢
献できる部分は少なくないはずです。

●参考
・東京大空襲・戦災資料センター:
 http://www9.ocn.ne.jp/~sensai/
・東京都生活文化局「東京都平和の日記念行事」:
 http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/heiwa.html
・Guardian Unlimited(2005年10月31日の記事):
 "Cathedral hit by RAF is rebuilt"
 http://www.guardian.co.uk/germany/article/0,,1605134,00.html

 ■「$100ラップトップ」の可能性             田村洋一

 2005年11月に北アフリカ、チュニジアの首都チュニスで開かれた「世
界情報社会サミット(WSIS)」は世界中のインターネット関係者の注目を
集めました。米商務省管轄のICANN(発音は"I can")というNGOを通じて
実質的にインターネットを支配する米国と、ITU(国際電気通信連合)を
中心とする国際管理に移行すべきだとする欧州やアジア・アフリカ諸国
の間で駆け引きが展開されたからです。結局、国連支配下の運営では各
国の合意形成に時間がかかりすぎ現実的ではないという主張に、このま
まではインターネットが分裂するという危機感も手伝って、現状維持に
落ち着きましたが、米国は若干譲歩した形になりました。各国の政治的
・軍事的サイバー戦略が絡むので問題は複雑です。

 この会議ではもう1件、興味深い出来事がありました。アナン国連事
務総長も参加して「$100ラップトップ」の試作品による実演が初めて公
開されたのです。これは米国のNPO「OLPC」(One Laptop per Child)が
実用化に向けて研究開発を進めている新しい携帯型コンピュータです。
詳しくはWebサイトを見ていただくとして簡単に説明すると、頑丈で、
いろいろな形態で利用でき、手回し発電機を内蔵して電気のない地域で
も使えるLinux機です。OLPCはMIT(マサチューセッツ工科大学)のMedia
Labの代表者であるネグロポンティ教授(Nicholas Negroponte)を中心と
するグループが設立した団体で、組織としてはMITから独立しているも
のの、主要メンバーはMIT Media Labの研究者です。また、企業会員と
してAMD(半導体)、Brightstar Corporation(運輸、通信機器)、Google
(検索サービス)、News Corporation(報道出版)、Nortel(通信機器)、
Red Hat(Linuxディストリビューション)の6社が参加し支援しています。
国連はこのプロジェクトに直接関与しているわけではありませんが、
ミレニアム宣言を受けて創設された「情報通信技術(ICT)タスクフォー
ス」の活動と関連があります。

 OLPCの目的は、その名前が示す通り、新しい教育環境となるべきコン
ピュータを世界の子どもたちが1人1台利用できるように、できる限り価
格を抑えて提供することです。そこで価格目標は当初$100(発注量100万
台の場合の単価)と設定し、量産効果でさらに低価格化しようという計
画です。販売先は各国政府の教育担当部門で個人への販売は予定されて
いません。第三者による「$100ラップトップ」の解説では「貧窮国のデ
ジタル・デバイド対策」という面ばかりが強調されますが、それだけで
はありません。興味深いのはプロジェクトのメンバーに数学教育で知ら
れたMIT名誉教授・パパート博士(Seymour Papert)が含まれていること
です。

 もともと人工知能の研究者であったパパート博士が提唱した(教育に
おける)「Constructionism」は「構成主義」と訳されることがあります
が、意味としては「作りながら学ばせる教育」です。かつて博士はプロ
グラミング言語LOGOを共同開発し、それを使ってLEGO社の玩具ロボット
「Lego Mindstorms」を制御できるようにして、この教育理論を実践し
ました。蛇足ですが、LOGOは私が一番好きなプログラミング言語です。
よく「タートルによる子供用お絵描きソフト」などと言われますが、こ
れは全くの認識不足です。Lispゆずりのテキスト処理機能は強力でエレ
ガント。私はデータベース・ソフトを作って使っていました。パパート
博士のアイデアがなかなか正当に理解されないのは残念なことです。

 さて本題に戻って、「パパートの法則」を紹介しましょう。英文
Wikipedia 掲載の文章を仮に訳してみると「新しいスキルを獲得する場
合だけでなく、既知の事柄を別の仕方で組織化する方法を習得した場合
も、(子どもは)精神的に大きく一歩成長する」というものです。パパー
ト博士の頭の中には「$100ラップトップ」を使った新しい教育プランが
あるに違いありません。OLPCが言う「学び方を学ぶためのコンピュータ」
とも一脈通じるところがあるようです。

 「$100ラップトップ」のアイデアが発表されて以来、懐疑派がいるこ
とも事実です。端的に言えば「あんなオモチャは役に立たないし、財政
的な裏付けもない。いつものMedia Labの“vaporware”さ」ということ
です。私から見れば、多くの批判は肥満化した現在のパソコンに慣れす
ぎて本質を見失った意見です。私自身の経験でも道具は使い方次第です。
最初に買ったラップトップ型ワープロは表示が32字×2行という現在の
電子辞書以下の貧弱さでしたが、報告書もプレゼン用のOHP資料も問題
なく作れました。しかも新幹線で移動中にです。これは制約が多い中で
もソフトウェアが優れていたからです。「$100ラップトップ」でもソフ
トウェアは非常に重要です。「英語偏重」になるのは好ましくないので、
各国語対応が必要です。
 
 計画倒れに終わるのではないかとの懸念を覆すように12月13日、OLPC
から量産に向けたメーカー選定結果が発表されました。台湾のQuanta
Computer (廣達電脳)が量産モデルの開発を担当することになったので
す。同社はOEM専業の隠れた大手パソコンメーカーです。今から1年後の
2006年末までに実際の製品が登場する予定です。楽しみですが、どんな
ソフトが動くのでしょうか? 本当に$100で作れるのでしょうか?

●参考
・MIT Media Labの「$100 Laptop」ホームページ:
 http://laptop.media.mit.edu/
・Seymour Papert博士のビデオ講義録(日本の教育関係者向け、1980年代)
 「Constructionism vs. Instructionism」:
 http://www.papert.org/articles/const_inst/const_inst1.html
■ 地理的感覚について                 田村洋一

●「南アジア」とは?

 国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)が「World Disasters Report 2005」
の中で2004年の世界の自然災害による死者数が25万人を越えたと発表し
た直後の2005年10月8日、カシミールでM7.6という大地震が発生し、大
きな被害が出ています。2週間後の10月22日現在も被害の全容は正確に
は把握されていません。被災地が尾根筋の入り組んだ急峻な山岳地帯で、
土砂崩れのため交通が完全に遮断されてしまったためです。国連の救援
責任者は「あの津波を上回る物資補給の悪夢だ」と悲鳴を上げています。
ヘリコプターが到達できない場所へは山道をロバで運ぶしかないのです。
判明している死者は約7万9千人、家を失った人は330万人、孤立して救
援困難な集落1万5千個所、という数字が発表されています。2週間に
750回以上の余震が続き、雪の季節が近づく中で状況が懸念されます。

 さて、今回のテーマは地震そのものではなく、その被災地の場所につ
いてです。最初に BBC のニュースを耳にしたとき「South Asia で大地
震」と言っているので、私は「またインドネシア?」と思ったのですが、
これがカシミールとわかり何か釈然としない印象を受けました。ここは
「南アジア」なのでしょうか。震源地を米地質調査所(USGS)のサイトで
確認すると北緯35度、東経74度の辺りで、これは広島市や堺市とほぼ同
じ緯度になります。ヒマラヤ山脈のさらに北西に連なるカラコルム山脈
の外縁部で、山好きの人ならよくご存知の魔の山「ナンガ・パルバット」
(Nanga Parbat:8125m)の西100kmほどのところです。このカシミールは
インドとパキスタンの最北部一帯で、東は中国のシンチアンウイグル自
治区、北はタジキスタンのパミール高原、西はアフガニスタンです。
私の感覚では「南」とは思えません。「中央アジアの南だから」という
意味なのか?

 実は「South Asia」という表現は英国の植民地統治、すなわち1878年
から1948年までの「British Raj」の遺物です。該当する地域は「インド
亜大陸」(Indian subcontinent)に等しく、具体的にはインド、パキスタ
ン、バングラデシュ、スリランカの4ヶ国で、これにネパールとブータン
を含める場合もあります。歴史的には「Greater India」(大インド圏)と
も呼ばれる地域ですが、明確な地理的区分ではないので、歴史的文脈を
無視して単に「南アジア」と訳すと誤解される恐れがあります。唐突で
すが、シャーロック・ホームズの相棒であるワトソン医師は、インドに
従軍しアフガン戦線から負傷帰還したことになっています。コナン・ド
イルがホームズ・シリーズを書いたのは19世紀ですから、どんな表現を
しているのか確かめることにしました。シリーズ第1作の長編「緋色の
研究」(A study in scarlet:1887)の冒頭にワトソンが自分の略歴を書
いており、Bombay や Peshawar などのインドの地名が出てくるのですが
「South Asia」は見当たりません。探偵小説に使うには抽象的で硬すぎ
る表現だったのかもしれません。

●「中南米」を同時に襲うハリケーン?

 この地震と前後してカリブ海ではハリケーンの被害もありました。
CATV ニュース局の一つ「朝日ニュースター」で「中南米でハリケーンの
大被害」と言うのを聞いて、またビックリです。南米でも最北部のベネ
ズエラやコロンビアなどはハリケーン被害にあう可能性はありますが、
今回そんな情報は聞いていなかったからです。調べてみると、台風レベ
ルの熱帯性暴風(tropical storm)「Stan」による洪水と土砂崩れでグア
テマラやエル・サルバドルなど中央アメリカ(中米)6ヶ国で610人以上が
亡くなり、多くの家屋が失われたということでした。つまり「南米」は
関係ないのです。

 この間違いは「ラテンアメリカ」のつもりで「中南米」と言ったとこ
ろにあります。ラテンアメリカはメキシコ以南の旧スペイン領、ポルト
ガル領諸国、およびカリブ海の島国を指す歴史的、文化的な総称です。
一方、地理的な区分は「北アメリカ(北米)」と「南アメリカ(南米)」で、
その境界はパナマ地峡(Isthmus of Panama)です。「中米」とは北米のラ
テンアメリカ諸国を指す便宜的な呼称です。このニュースでは「中米」
を使うべきでした。ラテンアメリカ諸国がどこにあるのか定かでない人
は珍しくありません。おそらく日本では、植民地時代の知識が乏しいま
まに「ラテンアメリカ音楽」というジャンル(私も大好きですが)を通じ
て知っているだけの人が多いのではないでしょうか。例えば、「ベリー
ズ」という国がどこにあるか知っている人は少数でしょう。2005年10月
21日は「トラファルガー海戦」200周年ですが、この戦いもカリブ海の制
海権と無縁ではありません。

●地理的感覚を養うには?

 私たち翻訳に関わる者は、平面の世界地図ではなく、地球儀が頭に入
っていると便利です。とは言うものの、地理の苦手な人もいるので、
一つヒントを差し上げます。赤道と北緯40度線がどこを通っているか覚
えておくことです。
 試しに北緯40度線を日本から西回りにたどってみましょう。今は干拓
地になってしまった秋田県の「八郎潟」が出発点。ここは北緯40度、
東経140度という覚えやすい場所です。日本海から朝鮮半島北端のハム
フンに上陸、北朝鮮と中国の国境を流れる鴨緑江(ヤールー川)の河口を
かすめ、北京から「万里の長城」と黄河の大湾曲部を越えて内モンゴル
の広大な砂漠を抜け、シルクロードのカシュガルへ。中央アジアのキル
ギスに入り、ウズベキスタンのサマルカンドを通り、油田のあるバクー
の南でカスピ海を横断し、イラン西北端のアルメニア国境をかすめ、ト
ルコを東端のアララト山(ノアの方舟伝説の山、5165m)からアンカラ経由
で西岸のトロイ遺跡まで横断。エーゲ海からギリシャ北部に上陸し、マ
ケドニア地方とアルバニアの国境をかすめ、アドリア海を飛び越えてイ
タリアの「ブーツのかかと」を横切り、西岸のナポリの南を通過し地中
海のサルデーニャ島を横断。マジョルカ島の北をかすめてイベリア半島
の真ん中、スペイン東岸のカステリョデラプラナ(ここは経度0度)に上陸。
マドリードの南、トレド、ポルトガルの古都コインブラを通り、アゾレ
ス諸島をかすめながら大西洋を渡って北米へ。東海岸のニューヨークと
ワシントンの中間にあるフィラデルフィアを通過。そこからコロンバス、
インディアナポリス、デンバー、リノと米国本土のほぼ中央を4000kmほ
ど横断し、カリフォルニア州北部の森林地帯「Redwood National Park」
の南で太平洋に出ます。そこから日本まではひたすら海の上です。お疲
れさまでした。

●参考
・World Disaster Report 2005 (IFRC)
 http://www.ifrc.org/publicat/wdr2005/index.asp
・Hurricane FAQ (Atlantic Oceanographic and Meteorological Laboratory)
 http://www.aoml.noaa.gov/hrd/tcfaq/tcfaqHED.html
■アフリカの問題 (その2)  田村洋一

 近年、アフリカの問題に加わったのが「持てる国」と「持たざる国」
の落差です。アフリカで豊かな国といえばエジプトからモロッコにかけ
ての地中海沿岸のイスラム圏と南アフリカ共和国ですが、ここで「持て
る国」というのは西アフリカから南アフリカにかけての大西洋沿岸の産
油国のことです。ナイジェリアがその代表で、いまではアラブ首長国連
邦を抜いて世界第12位の石油大国になりました。世界石油産出量ランキ
ングの20位から50位の間にはアンゴラ、ガボン、チャドなどが並び、内
戦のあったスーダンも実は石油輸出国です。これらの国には石油メジャ
ーが進出しているだけでなく、石油消費大国の米国や中国も原油獲得の
ための援助を惜しみません。

 ところで2004年3月、外国勢力による赤道ギニアの政府転覆計画が発
覚し、実行グループである傭兵部隊がジンバブエ当局に逮捕されました。
さらに、支援者とされる南アフリカ在住のマーク・サッチャー氏(サッ
チャー元英国首相の息子)が南アフリカ当局に拘束されました。その後、
サッチャー氏は何らかの取引により米国に「追放」され投獄を免れまし
た。赤道ギニアは産油国の一つで、この事件の背後には利権をめぐる複
雑な事情があるものとみられ、首謀者が誰なのか、英国政府は事前にど
こまで知っていたのかなど、真相は公表されていません。まるで小説の
ような話です。その後の英国とジンバブエの間のギクシャクした関係や
ムガベ大統領(Robert Mugabe)の強気の姿勢などにも無縁ではないのか
もしれません。

 さて、これと対照的なのが「持たざる国」です。先のG8首脳会談に先
だつ2005年6月、世界銀行とIMFに対する400億ドルにのぼる最貧国18ヶ国
の債務を免除し、今後12~18ヶ月以内にさらに9ヶ国を対象リストに追加
することでG7(G8からロシアを除いた7ヶ国)が合意したという発表があり、
7月8日にはG8で総額500億ドルの支援計画が正式に合意されました。この
27ヶ国のうち23ヶ国がアフリカの「持たざる国」で、アフリカ53ヶ国の
4割強にあたります。アフリカに新たな「南北問題」を起こさないように
「持たざる国」が自立していく方策を考えることは極めて重要です。教
育制度や健康医療の充実、上下水道、電気や電話網、道路などのインフ
ラ整備に予算を配分する余裕が生まれるとすれば意義のあることです。

 ここでひとこと付け加えておきたいのは、アフリカにあるのは「貧困」
や「不幸」だけではないということです。様々な形態の雄大な景観と多
様な生物を育む自然環境は言うまでもなく、造形感覚の優れた彫刻、強
烈なリズムも繊細な音色もある変化に富んだ民俗音楽、眼を驚かす人々
の色彩感覚、金属器・陶器・バスケタリー(植物の繊維で籠などを編んだ
もの)などの伝統工芸、卓抜な建築技術、さらには宗教儀礼や民間療法ま
で、各地には独自の文化が言語と共に伝承されています。私たち日本人
には欧米人の考える「開発」とは少し別の視点からアフリカを支援する
ことができるのではないでしょうか。自然を畏怖し、自然を尊重する精
神は共通のものなのです。

●参考
・CIA - The World Factbook
 http://www.cia.gov/cia/publications/factbook/
・国立民族学博物館のデータベース
 http://www.minpaku.ac.jp/menu/database.html
 キーワード「アフリカ」で検索すると500件以上ヒットします。

■ アフリカの問題 (その1)  田村洋一

 テレビの「BBC World」をご覧の方は、このところ(ロンドン爆破テロ
事件を凌いで)アフリカ一色になっていることをご存知と思います。す
っかり社会運動家に変身した歌手ボブ・ゲルドフ氏(Bob Geldof)による
アフリカの素顔を紹介する旅行記など多数の特別番組に加えて、レギュ
ラー番組でも映画情報の「Talking Movies」はアフリカ映画特集を組み、
IT情報の「Click Online」もわざわざアフリカから中継するという力の
入れようです。おかげで日本では目にする機会が少ないアフリカ各地の
人々の暮らしを知ることができます。「Africa Lives」というこのキャ
ンペーンは、英国政府の実力者No.2(あるいはNo.1)であるブラウン蔵相
(Gordon Brown)が提唱し、ブレア首相(Tony Blair)が代表者となって先の
G8でも合意されたアフリカ支援運動「Commission for Africa」に呼応す
るものです。世界の眼をイラク問題から他に移したいという思惑があり
そうな気もしますが、貧困を解消するために先進国はアフリカ諸国の自
発的な発展を支援しようという主張は正論のように見えます。しかし、
一歩間違えれば、形を変えた植民地支配の再現になりかねません。

 確かにアフリカは多くの問題を抱えています。経済発展という面では
アジアに大きく遅れをとり、HIV/AIDSに悩まされ、部族間紛争という歴
史的な対立をなかなか克服できず、政治腐敗や汚職が蔓延し、さらに気
候変動で乾燥化が進み食料危機に見舞われる…これを短期間に解決する
ことは至難です。

 最近の例では、200万人の死者と400万人の難民を生じたスーダンのダ
ルフール(Darfur)地方の支配権をめぐる内戦は和平協定が成立して安定
に向かっていましたが、旧反政府勢力のカリスマ的リーダーで副大統領
に就任したばかりのガラン氏(John Garang)が航空機事故で急死したこと
から、今後の進展が危ぶまれています。ニジェールの食料危機では緊急
援助が始まりましたが、耕地の砂漠化という根本的な問題は容易に解決
できるものではありません。10年、20年という単位で緑化に取り組むべ
きでしょう。この分野では国連のプロジェクトがあり日本の研究者やNPO
も貢献しています。

 テレビで瀕死の乳児のニュース映像を見ると、かつてのビアフラ危機
を思い出し心が痛みます。視聴者の慈善精神に訴える強烈な映像で注意
を喚起するには効果的ですが、少し冷静に考えれば同様の光景は(規模の
違いこそあれ)ニジェール以外でも沢山見られるはずなのです。世界の人
口の25%を占めるアフリカにいる医療従事者の数は世界のわずか1.3%で
す。「国境なき医師団」や赤十字などの持続的な活動への支援は欠かせ
ません。

●参考
・「Commission for Africa」(英国政府主導のアフリカ支援運動の公式サ
  イト)
 http://www.commissionforafrica.org
 このサイトで入手可能な「Report of the Commission for Africa」は
 464ページもある資料で、アフリカ問題を考える参考になります。
 参考文献、略語一覧、用語集も含まれます。
・「根をデザインする」(乾燥地植林の解説;NPO法人サヘルの森)
 http://www.open-resource.org/rootdesign/top.html
 西アフリカのマリ共和国で砂漠の緑化を続ける団体です。

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【追記】前回このコラムで、BBCが企画したベートーベンの交響曲全曲
ダウンロード・サービスをご紹介しましたが、当マガジンの発行日の
関係で時間切れになってしまい大変失礼しました。BBCによるとダウン
ロード総数は1,369,893件、トップは第6番「田園」の220,461件でした。
私が一番好きな第7番は2位、日本で人気の高い第5番「運命」は7位でし
た。NHKもこれくらいの大サービスをすれば少しは汚名挽回になるので
はないでしょうか。

■ベートーベン「第9」をダウンロードしよう!  田村洋一

 インターネットでの音楽ダウンロードというと、合法サイトに衣替
えする前の悪名高きNapsterから、センター・コンピュータを持たない
現在のGroksterやKazaaまで、P2P (peer to peer) 方式のファイル共
有ネットワークを「違法」という形容詞つきで連想しがちで、何とな
く危ない雰囲気があります。実際、英国では1000曲以上も違法ダウン
ロードを繰り返した子供がいて、ある日その親に著作権管理団体から
多額の損害賠償請求書が送りつけられました。「スケープゴートだ」
との批判に対してレコード業界は「万引きと同じだ」と主張していま
す。「勉強に必要だと思ってパソコンを買ってあげたのに…」と親は
青ざめてしまいますが、著作権の知識が乏しい子供たちにしてみれば、
手近に無償ダウンロードの手段があり、操作も簡単なのですから、す
ぐそこ(つまりネット)にある楽曲データを手に入れることは感覚的
にはラジオを聴くことと同じで、罪悪感が希薄なことは確かなようで
す。私は楽曲データをアップロード(厳密な表現ではありませんが)
した人間のほうが罪が重いと思うのですが、匿名性の壁に阻まれてか
摘発された例を知りません。

 音楽の違法ダウンロードがこれだけ「繁盛」しているのは需要があ
るからで、それを分析して合法的な音楽ダウンロード販売事業として
成功させたのがAppleの「iTunes Music Store」です。これ以前にもレ
コード会社によるダウンロード販売の試みはあったのですが、制約が
多すぎて利用者の支持を得られませんでした。例えば、ダウンロード
に使えるブラウザはIE (Internet Explorer) のみ、専用のソフトでし
か再生できず、ダウンロードした楽曲データはCDにコピーできず、コ
ンピュータを買い換えたら楽曲データを新しいマシンに移すこともで
きず、しかも1曲あたりの価格が決して安くはない…というような具合
です。これでは誰が買うでしょうか。2004年になって日本で「Mora
(モーラ)」という国内最大の音楽ダウンロード販売サイトがオープン
しました。運営しているのは国内レコード会社が共同出資して設立し
た(株)レーベルゲートで、今年2月に開始された「Yahoo! ミュージッ
クダウンロード」も同社のサービスです。「Mora」では価格が最低1曲
158円とかなり手頃になり、CDへのコピーなどDRM (digitalrights
management) の制限が多少緩和されましたが、ダウンロードした楽曲
データ (ATRAC3形式) の使い勝手はあまりよくありません。プレーヤ
ー・ソフトはWindows専用です。「iTunes Music Store」の日本での営
業開始が遅れているのは「Mora」の経営が軌道に乗るまで待たされて
いるようにも見えます。

 さて、ようやく充実してきた日本の音楽ダウンロード環境ですが、
決定的に欠けているのが「クラシック音楽」です。前述の「Mora」に
は一応「クラシック」というジャンルはありますが、内容も検索機能
も貧弱で、クラシック音楽ファンが興味を示す水準ではありません。
USENグループの「OnGen」(Windows専用)にも、まだ手さぐり状態です
が「カジュアルクラシック」というジャンルがあり、例えばJ.S.バッ
ハ作曲の有名なコラールが158円で買えます。そのアーティスト名が
「Various Artist」(単数形はサイト表示のまま)で日本語訳が「バリ
アスアーティスト」となっているのには翻訳者としては唖然とします。
たぶん輸入のオムニバス盤の中の1曲なのでしょう。この2つのサイト
は「クラシック入門者」レベルですが、それでもクラシック音楽を全
く無視している他のダウンロードサイトよりはましです。

 こんな状況にいらいらしている日本のクラシック音楽ファンを驚か
せる企画が英国BBC放送の「The Beethoven Experience」です。BBCの
FM放送局「Radio 3」で6月5日から10日までの6日間、合計19時間にわ
たりベートーベンの作品だけで構成された特別番組が放送されました。
抜粋ではなく全て全曲です。さらに続いてベートーベンの9つの交響曲
が第1番から第9番まで毎日1曲ずつ9日連続で放送されました。ジャン
アンドレ・ノゼーダ (Gianandrea Noseda) 指揮、BBC交響楽団の演奏
で、この企画のために新しく録音されたものです。そして、この交響
曲9曲全てが音声による解説付きでダウンロード用の楽曲データとして
インターネットに公開されたのです。世界中どこからでもダウンロー
ド可能で、しかも無償、個人利用に限ることを除けば利用形態に制約
はありません。ただし、ダウンロードできるのは放送終了後1週間だけ
です。最後の「交響曲第9番」のダウンロード期限は7月7日です。「第
9」のデータ量は61.7MBで第8番の2倍以上あります。ブロードバンド回
線でないと少々苦しいですが、トライしてみてはいかがでしょうか。
MP3形式なのでMacのiTunesやQuickTimeでも再生できます。

 ついでに、私がベストだと思うクラシック音楽専門ダウンロード販
売サイトを1つご紹介しておきます。「eClassical」というスウェーデ
ンのサイト(英語)です。網羅的ではありませんが東欧や北欧の音楽
などもあり、曲名、作曲者名、演奏家名、指揮者名、楽器名、オーケ
ストラ/アンサンブル名で検索でき、各曲の詳細データも整備されてい
ます。これらの機能はクラシック音楽では必須なのですが、ポップス
向けにデザインされた日本のサイトでは全く考慮されていません。こ
のサイトのオーナーが熱心なクラシック音楽ファンであることはサイ
トデザイン(見栄えではなく機能)からもよくわかります。ダウンロ
ードと価格はポップス系のように1曲単位とは限らず、長い曲では各楽
章が単位です。例えば、ラベル作曲「ボレロ」が$0.79、文字通り101
曲入ったオムニバスアルバム「101Classical Favorites MP3」が
$7.99です。このアルバムはデータ量も約670MBと膨大で、演奏時間は
505分、BGMにはピッタリです。 同社の楽曲データは全てビットレート
192kbpsのMP3形式で、一般的な128kbpsに比べて確かに音質は良いよう
です。アナログレコード時代はカートリッジを換えると音が随分変わ
りました。デジタルでも音源が上質だと再生するMP3プレーヤー(ソフ
ト&ハード)による音の違いがわかります。

 音楽CDは「物」としての在庫と流通を管理する必要があり、輸送コ
ストもかかります。それに対してダウンロード販売では在庫管理はWeb
サイトのデータ管理だけで、売れた商品の補充は不要、通信コストは
軽微です。利用者も送料を負担する必要がなく、地理的な隔たりを感
じることがありません。楽曲データを提供するアーティストの負担
(リスク)も格段に小さくて済みます。クラシック(現代音楽を含
む)、ジャズ(メインストリーム)、ラテン、民俗音楽などのマニア
ックな領域では音楽ファンに国境はなく、しかも優れた演奏に対して
は常に貪欲です。レコード会社を介さないダウンロード販売は、先鋭
的なアーティストにとって意欲的な作品構成を可能にし、非常に有力
な発表手段になり得るものです。これはヴァイオリニストを妻に持つ
私自身の体験に基づく実感です。

●参考
・BBC Radio 3 - The Beethoven Experience
 http://www.bbc.co.uk/radio3/beethoven/downloads.shtml
・BBC Radio - Download and Podcast Trial
 http://www.bbc.co.uk/radio/downloadtrial/
・eClassical (※クラシック音楽専門ダウンロード販売サイト)
 http://www.eclassical.com/
・ClassiCat (※クラシック音楽専門の無料ダウンロード検索サイト)
 http://www.classiccat.net/
■「Green Acres」は永遠に                田村洋一

 去る5月26日、米国の俳優エディー・アルバート(Edie Albert)氏が99
歳で亡くなりました。名作「ローマの休日」(1953)でグレゴリー・ペッ
ク扮する新聞記者の相棒のカメラマンを演じてアカデミー助演男優賞に
ノミネートされたほど本格的な演技のできる人で、その後は主な活動の
場をテレビに移し、実に10年程前まで現役で活躍していた息の長い人気
スターです。「刑事コロンボ」シリーズの1本、「ホリスター将軍のコレ
クション」(Dead Weight:1971)では主役(=犯人)のホリスター退役
少将を演じました。たまたま沖合の船から岸辺の屋敷で人が撃たれるの
を目撃した女性(スザンヌ・プレシェット)が自分の記憶に確信が持てな
いでいることを知ったホリスターは、彼女を巧みに誘惑して証言を撤回
させることに成功しそうになりますが、そのときコロンボ警部は…とい
う話で、ご存知の方も多いでしょう。この作品は監督もジャック・スマ
イトという贅沢な顔ぶれですが、映画の話は脱線するときりがないので
この辺にしておきます。

 さてエディー・アルバートといえば何といっても TV コメディ番組
「Green Acres」です。米国で1965年から1971年まで通算6シーズン、170
回も続いた人気シリーズで、1990年には単発の後日談まで作られました。
たぶん第1シーズンの作品だと思いますが、日本でも「農園天国」(1967)
というタイトルで NHK から放映され、私も欠かさず観ていました。
エディー・アルバート演じる主人公はニューヨークの弁護士オリバー・
ウェンデル・ダグラス氏(何と立派な名前!)ですが、何を思ったか都
心の快適な高級マンション暮らしを捨てて「農業を始める」と言い出し
ます。美しい妻のリサ(エバ・ガボール)は「ペントハウスのテラスで小
さな菜園でも作れば?」と説得しますが効果はなく、オリバーは遠く離
れた中西部の田舎の農場を買い、リサもしかたなく半年の約束で引っ越
すことになりました。このホッタービルという(架空の)村で珍妙な生活
が始まります。三つ揃いのスーツで農作業を始めたオリバーを見て、地
元の住民は「どうせ長くは続かな いさ」と冷やかし半分で、いつ NY
に逃げ帰るか賭けをする始末。テーマソングでオリバーは「オゾンの香
り!」(原文:Fresh air)と称賛すれば、リサは「ネオンの輝き!」
(Times Square)と嘆きます。なにしろリサは自分で料理したこともない
都会の奥様で、ショッピングもできずブロードウェーも観られない生活
など考えられません。それでもオリバーを愛しているリサは新しい生活
になじもうと彼女なりに努力しますが、結果はいつも大失敗。周囲の住
人はちょっと変な人ばかり。4駆に乗ってやって来る頼りない農業指導
員のキンボール氏、オリバーに農場を売った人物でガラクタばかり売り
つけに来る怪しげな商売人ヘイニー氏、それに隣家のペットで豚のアー
ノルドなど、トラブルの種は尽きません。

 このシチュエーション・コメディ(sitcom)が大ヒットした理由は何だ
ったのでしょうか。1番目は登場人物(豚も含む)のキャラクターが大変
個性的で、しかもいい役者が揃っていたことでしょう。オリバーとリサ
は見事に都会人のカリカチュアになっていますし、地元の住人たちも都
会人から見た「田舎者」としては描かれていません。NY から来たやり手
の弁護士をやりこめるのを楽しむ余裕があるのです。そのため大都市の
視聴者も地方都市の視聴者もそれぞれの楽しみ方ができるのでしょう。
NY を脱出したい人は結構多いのかもしれません。

 2番目はすぐれた構成と脚本でしょう。レギュラー出演者が1ダース程
度と少なく、子供はほとんど登場しません。30分番組が大人の会話で成
り立っているのです。状況設定がかなり非日常的であることから、ギャ
グには常に意外性が伴い、しかもいわゆるドタバタ喜劇にはなりません。
コメディとして洗練されています。この番組を制作した CBS は当時、
同時並行的に「The Beverly Hillbillies」(じゃじゃ馬億万長者)と
「Petticoat Junction」(ペチコート作戦)というコメディ番組も制作し
ていて、この3本の番組にはそれぞれの役柄のまま出演者が相互出演す
ることもありました。これは探偵物の「サンセット77」、「サーフサイ
ド6」、「ハワイアン・アイ」の関係と同じです。CBS は優秀なスタッフ
を抱えて3本のコメディの色付けを変えながら全てヒットさせていたわけ
ですが、中でも「Green Acres」は最後にスタートした番組だけに完成
度も高いと言えるでしょう。なお、日本語版の翻訳・脚色と声優も秀逸
で、楽しませていただきました。

 3番目は音楽です。全体にミュージカルの雰囲気があります。実は
エディー・アルバートはハリウッド入りするまではブロードウェイの舞
台に立つミュージカル歌手でした。テーマソングを自分で歌うぐらい何
でもないのです。主人公のオリバーには面白い癖があり、気分が高揚し
てくると誰にともなく田園の自然や農業の素晴らしさを讃える演説を始
めるのですが、そのバックには必ず「Yankee Doodle」がドラムの効いた
演奏でクレッシェンドしながら流れ始め「おっ、始まったぞ」と笑いを
誘います。コメディではこの「お約束」の要素も重要です。この演説に
妙に説得力があったのは、エディー・アルバート自身が自然保護や環境
破壊に関心を持っていた人だからでしょう。

 これは40年も前のTV番組の思い出話かというと、そうではありません。
「Green Acres」は米国、カナダ、オーストラリア、フランスで現在も放
映中で、新しいファンが誕生しているのです。熱心なファンたちは見事
なWebサイトも作っています。アクセスしてみて情報量の多さにビックリ
しました。もちろん米国ではDVDも発売されていますが、実に腹立たしい
ことに「リージョンコード1」の米国版のため、日本の DVD プレーヤー
では再生できません。日本の CATV 局や衛星TV局で是非再放送してほしい
番組です。(英語で観てみたい!)

●参考
・「Green Acres」ホームページ
 http://www.maggiore.net/greenacres/
 ※テキサス州のWebデザイナー、 Mark Maggoire氏が主宰するサイト
・「IMDb」(最も詳しい映画&TVドラマの英語版データベース)
 http://us.imdb.com/
■Cell、Cell、そして Cell(その3)          田村 洋一

3)「Cell」プロセッサ (Cell processor)

 ITの世界では昔から「cell」という用語はよく使われてきました。
携帯電話は「cellphone」ですし、MS Excelなどのスプレッドシートの
枡目も「cell」です。計算機科学では「セル・オートマトン」(cellular
automaton)が有名です。

 今回とりあげるのは、そのものズバリの「Cell」ですが、これは「STI
グループ」(ソニー・グループ、東芝、IBM)が数年前から共同で開発中
の高性能プロセッサの開発コード名です。2005年2月に米国サンフラン
シスコで開催された半導体技術の会議「ISSCC 2005」(IEEE 2005
International Solid-State CircuitsConference)でその詳細が正式に
発表され注目を集めました。Cellは2005年末頃に発売されるソニーの次
世代ゲーム機「PlayStation 3」(PS3)に搭載される予定です。このプロ
セッサについて、なるべくカタカナの業界用語を使わずにご紹介しまし
ょう。

 このチップの構造はユニークです。従来の多くのパソコンに搭載され
ている Intel や AMD のプロセッサ(MPU: Micro Processing Unit/通
称「CPU」)に内蔵されている演算ユニットは1個だけですが、Cellには
「PPE」(Power Processor Element) と呼ばれる演算ユニットが1個と
「SPE」(Synergistic Processor Element) と呼ばれる演算ユニットが
8個搭載されています。つまり「頭脳」が9個あるわけで、うまく仕事を
分担できれば格段に能率があがるというわけです。8個の SPE は全く同
等で、同時並行的に処理を行うことができます。また、これらを数珠つ
なぎにして1番目の処理結果を2番目に渡し、2番目の処理結果を3番目に
渡し…というように直列的に仕事をさせることもできます。しかも2番
目の SPE が仕事をするとき、1番目の SPE は次の仕事に取りかかって
いるという具合で、全体として非常に大きな処理能力を発揮します。
これはデジタル化された映像と音声の連続処理に適した機能です。PPE
は SPE にさせる仕事の準備と割り振りをし、SPE に実行や停止を命令
する「旗振り役」と考えればいいでしょう。

 Cell は大きな潜在的能力を秘めています。現在のパソコン用プロセッ
サの10倍の性能を同等以下の消費電力で発揮すると予想されます。さら
に複数のCellを連携させる仕組みを備えているので、多数の Cell で構
成されたスーパーコンピュータを組み上げることも容易です。IBM は、
Cell を64個搭載すれば標準ラック1台に収まる大きさで最高 16TFLOPS
の高性能ワークステーションを実現できそうだと発表しました。昨年ま
で世界最高性能のスーパーコンピュータだった日本の「地球シミュレー
タ」(建物1棟を占有)の演算能力が約 36TFLOPS であることを考えれば、
その性能の高さが…と言ってもなかなか実感できないかもしれませんね。
(1TFLOPS は浮動小数点演算を毎秒1兆回実行できる能力)

 ここまではハードウェアの特徴から期待できる性能の「可能性」とい
う話ですが、「コンピュータ、ソフトなければただの箱」というIT業界
の古い川柳にあるとおり、Cell の性能をフルに発揮させるためには、ま
ず並列処理の制御に優れたソフトウェアが必要不可欠です。コンピュー
タを制御するオペレーティングシステム(OS)やファームウェアはもちろ
んですが、最も重要なのは Cell に最適な実行コードを生成するコンパ
イラ(C言語等の言語処理系)です。テキサス州オースチンにある開発拠点
では既に試作機が完成し、パソコンの形でのテストが開始されたと伝え
られていることから、ソフト面の開発も進んでいるようです。また、パ
ソコンではありませんが、東芝は2005年4月の展示会で Cell を利用して
48本のデジタルビデオを同時に再生するデモを実演しました。東芝のソ
フト実行環境は自社構築によるものということです。順調に行けば、
2005年末から2006年にかけて Cell の開発ツールが公開されるようにな
ると思われます。

 Cell は当初の目的がゲーム機ということで動画処理を高性能化できる
ことは当然ですが、次世代 DVD と組み合わせたデジタル家電や携帯機器
への利用も検討されているようです。翻訳に関連する用途を考えてみる
と、デジタル映像・音声の再生や編集が今までより容易になれば、映画
やビデオの日本語版の制作が楽になります。自然言語処理、例えば日本
語の形態素解析のスピードアップが可能になり、携帯電話に通訳機能が
搭載されるかもしれません。文書検索のスピードアップにも有効と思わ
れます。一方、リアルタイムの画像処理、いわゆる「コンピュータ・ビ
ジョン」(computer vision)という面では、航空管制システム、監視カ
メラとの連動や生体認証(biometrics)、さらに、積極的に推奨したいわ
けではありませんが、軍事用として様々な用途が考えられ、IBMはアプ
ローチを始めたようです。例えば群衆の中から特定の人物を選別して追
跡する、あるいは雑踏の中で特定の会話を聞き取る…というような用途
に Cell は適しているように見えます。ベトナム戦争で米軍が使用した
初期の「スマート爆弾」にソニーのビデオカメラが搭載されていて問題
になったことをふと思い出します。

 Cell にまつわる知的財産権の問題なども注目すべきテーマです。互換
性のない Cell がすぐに Intel や AMD のパソコン用プロセッサを置き
換えることは考えられませんが、同じ IBM 製の PowerPC プロセッサを
搭載する Mac については近い将来 Cell が搭載される可能性があります。
Cell がパソコンを越えて予想もしなかった新しい用途を開拓してくれる
ことも期待したいと思います。
■Cell、Cell、そして Cell (その2)           田村洋一

 2番目の「セル」(cell)は生命科学に関するものです。

 2)幹細胞 (stem cell)

 私たちの身体が元をただせば1個の受精卵(正確には受精胚)であるとい
うことは大変不思議なことです。ヒト(生物学的な種としての人間)の身
体を一つのシステムととらえれば、それを構成する部品がしかるべき機
能と大きさを持って、しかるべき場所に、しかるべきタイミングでうま
く収まるようにプログラムされていることになります。この過程が「発
生」(embryogeny)と「分化」(defferentiation)です。したがって、その
出発点である受精卵にはあらゆる組織・臓器を作りだす情報と能力が含
まれていると考えられます。この仕組みを人為的に制御できればケガや
病気で失われた器官を再生することができるのではないか、という発想
から生まれたのが「再生医療」(regenerative medicine) の考え方で、
研究を含めて「再生医学」(訳語は同じ)とも呼ばれます。この再生医療
で期待をかけられているのが「幹細胞」(stem cell) です。

 幹細胞とは多細胞生物から分離され特定の条件下で培養された細胞で、
自己複製により自身と同じ能力を維持することが可能で、またいろいろ
な細胞に分化する多様性を持つ細胞です。植物の「幹」から枝葉が伸び
て分かれて1本の樹木になるイメージを想像してください。幹細胞はヒト
に限るものではありませんが、再生医療では次の2種類の幹細胞が注目さ
れています。

(1) 体性幹細胞 (adult stem cell):
 身体組織から分離され、一定の組織・器官に分化する能力を持つとさ
れている幹細胞。成人の身体には神経系を作る能力のある神経幹細胞、
骨や軟骨を作る能力のある骨髄間質幹細胞など少なくとも8種類あるとい
われています。また、体性幹細胞には従来考えられていた以上に分化す
る幅(柔軟性)があることがわかってきました。患者自身の細胞を利用す
る再生医療の実現手段として有望で、今後数年以内に進展が見られそう
です。

(2) 胚性幹細胞 (ES細胞、embryonic stem cell):
 受精卵が発生を始めた初期段階である「胚」(embryo) から分離される
幹細胞で、あらゆる組織・器官に分化する能力を持つことから「万能細
胞」とも呼ばれます。半永久的に増殖を続ける能力を持っています。ES
細胞とクローン技術と組み合わせれば、個人別の拒絶反応のない移植用
の細胞、組織、臓器を作れるのではないかと期待されています。実現す
れば脳死移植にまつわる様々な問題は解消するかもしれません。既にパ
ーキンソン病や心筋梗塞の治療、血管や皮膚の再生に向けた研究が進ん
でいます。

 ES細胞に関する記述には「ES細胞の樹立」という用語が使われます。
「樹立」(derivation)とは、哺乳類の胚からES細胞を分離培養すること
です。ヒトの場合、受精卵が分裂を始めて5~7日後の胚盤胞と呼ばれる
状態になったとき、その中にある内部細胞塊から細胞を取り出して特定
の条件で培養し、ES細胞の株(colony)を得ることです。このES細胞には
自己複製能力があり、「樹立機関」(樹立を行った研究機関、deriving
institute)はES細胞株を永続的に培養して研究者や治療にあたる医師に
分配することができます。日本では2003年に京都大学再生医学研究所で
3株のヒトES細胞が樹立されて翌年から分配が始まりました。海外では
2001年8月時点で78株が樹立されていました。内訳は米国27株、スウェ
ーデン25株、インド10株、韓国6株、オーストラリア6株、イスラエル4
株です。

 ES細胞には大きな可能性がある反面、生命倫理、女性の人権、知的財
産権など社会的な問題が絡んでいます。ヒト胚を扱うという点で、今回
は採り上げなかった「人クローン技術」(human cloning) とも似た側面
があります。

(1)生命倫理…ES細胞の樹立過程では「生命の芽」である受精胚 (human
fertilized embryo)を壊さなければなりません。反対派は堕胎と同じく
生命の尊厳を損なうものだと主張します。しかし見方を変えれば、廃棄
されるはずだったは胚がES細胞として生き続け、しかも移植臓器として
複数の人の生命を救うかもしれません。ただし、賛成の立場をとるにし
ても「生命」を「もの」として見るような姿勢は許されません。研究者
には厳しい倫理観と自制心が求められます。なお、ヒトを対象とする医
学研究の倫理的原則としては世界医師会(WMA)による「ヘルシンキ宣言」
があります。

(2)女性の人権…日本では、ES細胞の樹立に必要な受精卵は不妊治療(生
殖補助医療)で余ったもの(余剰胚)を無償で譲り受けることになってい
ます。提供者に研究目的や用途をきちんと説明して了承を得るインフォ
ームド・コンセントは必須です。一方、1株のES細胞のためには200個あ
まりの受精卵が必要だというデータもあり、需給バランスがうまくとれ
るのかどうか懸念されます。かつて大問題となった臓器不正摘出や、貧
しい国の女性が闇取引業者に狙われるような事態は避けなければなりま
せん。制度の建前が検証される仕組みが必要です。

(3)知的財産権…ES細胞そのもの、ES細胞から得られた派生物(例えば移
植用皮膚など)、ES細胞を樹立する技術などについて知的財産権(特許権
など)が発生すると思われます。ただし、各国の知財法令は一様ではな
いので、海外の研究者との共同研究では注意が必要です。さらに、既に
ES細胞を所有している国の中には、新規の樹立を禁止して研究成果の囲
い込みを狙うという核拡散防止条約に似た構図も見られます。ES細胞は
既に輸出入の対象となっており、日本でも研究用に輸入申請した実例が
あります。

(4)規制…日本ではES細胞の取り扱いは「ヒトES細胞の樹立及び使用に
関する指針」、略称「ES指針」(2001年)という文部科学省のガイドライ
ン(=罰則なし)で規制されています。その後、内閣府所管の総合科学技
術会議・生命倫理専門調査会で、人クローン技術も視野に入れてヒト胚
の取り扱いについて見直し、法制化すべきかどうかが検討されました。
しかし3年間に渡る議論でもコンセンサスは得られなかったようです。
最終となった第38回(2004年7月13日)の議事録には、最終報告書のとり
まとめを急ぐY会長(国際政治学)と慎重派のS委員(宗教学)やW委員(哲学)
との間の方法論をめぐる確執などが赤裸々につづられており、下手な小
説より興味をそそられます。結局、最終報告書「ヒト胚の取扱いに関す
る基本的考え方」は2004年7月23日の第38回総合科学技術会議・本会議
に「決定・意見具申」として報告されたものの、具体的な提言は盛られ
ず、会長が約束した少数意見の添付も見送られました。

 ・生命倫理専門調査会 議事録と配布資料:
  http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/lmain.html
 ・総合科学技術会議 答申・意見具申等一覧:
  http://www8.cao.go.jp/cstp/output/

 ES細胞研究に関してヨーロッパでは英国が日本の規制に似た許可制を
とっており、ドイツは全面禁止、フランスはその中間とEU域内でもばら
ばらです。これはEUが加盟各国の自主性を尊重しているためです。米国
では連邦法での規制はなく、民間資金による研究を奨励してきました。
2004年8月に大統領令でES細胞を使用する研究への連邦政府助成を承認
しましたが、一方で国連の場で人クローン胚全面禁止を主張しており、 
複雑な戦略をとっています。

 なお、日本において生命科学分野で法制化されている唯一の法律は、
2001年に施行された「クローン技術規制法」、正式名称「ヒトに関す
るクローン技術等の規制に関する法律」です。違反者には10年以下の
懲役か1000万円以下の罰金、または両方とかなり重罰です。

【参考】
・文部科学省:「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」
 ※本文(日本語/英語)と解説
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/2001/es/010901.htm
・文部科学省:「クローン技術規制法」と「特定胚の取扱いに関する指針」
 ※本文と解説
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/2001/hai3/011201.htm
・「ES細胞とは:基礎知識」(財)先端医療振興財団のサイト「TRC」
 http://www.trc-net.ne.jp/trc/cont/00_www/basics/index.html
・京都大学再生医学研究所・中辻憲夫教授インタビュー
 http://www.trc-net.ne.jp/trc/cont/00_www/interview/index.html
・「科学技術動向」索引 (科学技術動向研究センター)
 http://www.nistep.go.jp/index-j.html
・ヘルシンキ宣言
 英文(世界医師会):http://www.med.or.jp/wma/helsinki02_e.html
 翻訳(日本医師会):http://www.med.or.jp/wma/helsinki02_j.html

(※次回に続く)

■Cell、Cell、そして Cell               田村 洋一

 最近あちこちで目にする「セル」(cell)がテーマです。今年(2005年)、
進展が注目される3種類の「cell」についてご紹介します。「燃料電池」、
「幹細胞」、「Cellプロセッサ」です。

1)燃料電池 (fuel cell)

 2005年1月、東京で「第1回国際燃料電池展(FC EXPO 2005)」が開催
され、各国から約230社が出展しました。燃料電池がいよいよ実用段階
に入ったと見てよいでしょう。

 「燃料電池」とは何かを簡単に説明しましょう。燃料電池は水の電気
分解とは逆の化学反応で電子の流れ(つまり電流)を取り出す発電装置の
総称です。直接使用するのは水素と酸素ですが水素を燃やすわけではあ
りません。「燃料」という意味は「水素の供給源として、燃料として利
用されてきた物質を利用する」ということです。具体的には都市ガス(主
成分はメタン)、LPG、メタノール、灯油、ガソリンなどから「改質」
(fuel reforming)という処理で水素を分離して利用します。もう一方の
酸素は大気から取り込みます。一般の燃料電池から排出される副産物は
熱と水で、問題の二酸化炭素は出ませんが、熱は有効に処理しないと熱
汚染の原因になってしまいます。なお、都市ガスを利用する場合は一酸
化炭素を除去する装置が付いています。燃料電池は燃料を供給する限り
発電を続けます。

 燃料電池の用途は大きく分けて3種類あります。定置型燃料電池、自動
車用燃料電池、携帯用燃料電池です。

 定置型燃料電池の規模は1kWの家庭用から10万kWの分散型発電所用ま
で幅広く、既に実用段階です。東京ガスや大阪ガスは都市ガスを燃料と
する「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」の販売を開始し
ました。コージェネレーション(通称「コージェネ」 / cogeneration)
とは、都市ガスなどの1種類の1次エネルギーから電気と熱を同時に作っ
て送り出し、エネルギーを有効利用するシステムです。家庭用ではガス
給湯器に発電機能が付いたものと思えばよいでしょう。大型の燃料電池
発電システムも実証試験が進んでいます。

 2番目は自動車用燃料電池、つまり電気自動車の動力源です。こちら
の燃料は純粋な水素で、高圧ボンベに詰めたり、吸蔵合金に水素をしみ
込ませたりして車に積載します。ガソリンスタンドの代わりに水素ステ
ーションで水素を補給します。「満タン」での航続距離500kmが当面の
目標ですがまだ達成されていません。自動車用燃料電池で特に問題にな
るのは安全性です。水素を満載した飛行船「ヒンデンブルク」の大惨事
の映像は衝撃的でした。通常は安全でも自動車は交通事故や火災などの
危険を完全には避けられません。水素は拡散しやすいので開放空間では
引火爆発の危険は少ないのですが、地下駐車場などの閉鎖空間では危険
性が高まります。漏れた水素が建物の上層階にたまる可能性もあります。

 3番目はノートパソコンやモバイル機器で使われる携帯用燃料電池で
す。小型で高効率、大容量を実現するため、燃料としてメタノールを使
うものが試作されています。メタノールは引火性が強く毒性もあるため
密封構造の交換式カートリッジなどの工夫が必要です。日経エレクトロ
ニクス誌によれば、国連の危険物輸送小委員会は2004年12月1日に、携
帯機器向け燃料電池に利用するメタノールの燃料カートリッジの貨物輸
送について「クラス3(可燃性液体)」として勧告を出すことで票決し、
国際民間航空機関(ICAO)や国際航空運送協会(IATA)で認可の検討が開始
され、順調に進めば2007年にも持ち込み可能となる見通しということで
す。しかし、2005年になって、米国では航空機にタバコ用のライターを
持ち込むことが厳禁されました。米国のZippo社は対応に苦慮していま
す。火種がなければ着火しないとはいえ発火物であるメタノールを多く
の乗客が機内に持ち込むことになれば、その危険性は否定できません。
安全なリチウムイオン2次電池なども改良が進んで大容量化し、燃料電
池との開発競争は激しさを増しています。

 燃料電池の話題をもう一つ。独立行政法人 海洋研究開発機構の自律
型深海巡航探査機「うらしま」が駿河湾でテストを行ない、深度800mで
航続距離317kmという世界記録を達成しました。動力源は水素と酸素を
使用する閉鎖式燃料電池(吸蔵合金を使用)です。大気のない海中や宇宙
空間では燃料を含めて密閉した容器に格納し、化学反応で生成される液
体の水も回収されます。「うらしま」の燃料電池はエネルギー効率が高
いことが特徴です。

 最後に燃料電池の動作原理による名称を上げておきます。

・固体高分子型(日本ではPEFC / Polymer Electrolyte Fuel Cell;
   海外ではPEMFC / Proton Exchange Membrane Fuel Cell)
  実用段階;家庭用、自動車用など多目的;発電出力50kW以下;
   効率35~40%;作動温度=常温~約90℃
・リン酸型(PAFC / Phosphoric Acid Fuel Cell):
 実用段階;業務用、工業用;発電出力1000kW以下;効率35~42%;
   作動温度=約200℃
・溶融炭酸塩型(MCFC / Molten Carbonate Fuel Cell):
 研究実証段階;工業用、分散電源用;発電出力1~10万kW;
   効率45~60%;作動温度=約650℃
・固体電解質型(SOFC / Solid Oxide Fuel Cell):
 試験研究段階;工業用、分散電源用;発電出力1~10万kW;
   効率45~65%;作動温度=約1000℃
・直接メタノール型(DMFC / Direct Methanol Fuel Cells)
 試験研究段階;主にモバイル機器向け
・アルカリ型(AFC / Alkaline Fuel Cell)
 実用段階;宇宙船の電源用としてスペースシャトルで採用

【参考】
・日本ガス協会の燃料電池講座:
 http://www.gas.or.jp/fuelcell/
・東京ガスの「なるほど!燃料電池」:
 http://www.tokyo-gas.co.jp/pefc/
・FCTec (US DoD Fuel Cell Test and Evaluation Center) の「基礎知識」:
 http://www.fctec.com/fctec_basics.asp
・WE-NETホームページ:
 http://www.enaa.or.jp/WE-NET/
・JHFCプロジェクト(水素と燃料電池):
 http://www.jhfc.jp/
・US DOE Energy Efficiency and Renewable Energy:
 http://www.eere.energy.gov/

(※次回に続く)

■「科学技術ばなれ」の考察               田村洋一

 このところ子供から大人まで科学技術に対する関心や期待感が低下し
ているという話をよく耳にします。この傾向は日本に限ったことではな
く、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)では電子工学を志望する学生
が急減し、英国の名門校の一つエクセター大学(Exeter University)では
歴史のある化学部が廃止されることになりました。その一方で、科学技
術の水準は企業間、国家間の競争力に直接関わっており、人材育成と研
究環境の整備の必要性は高まる一方です。このような乖離現象が起きて
いる背景を少し考えてみたいと思います。

 第1に、科学技術の進展に人々の理解力がついていけなくなったことで
す。理論物理学や宇宙論など日常生活から距離のある分野はもちろん、
生命科学やナノテク(nanotechnology)など成果物が既に日常生活に入り
つつある分野でも同様の傾向が見られます。例えば生命科学の領域では、
遺伝子組み換え(GM)作物が環境に与える影響、あるいは遺伝子治療や胚
性幹細胞を利用する再生医療の可能性、さらにはヒト遺伝子の特許問題
など重要な動きがあります。ナノテクは様々な工業材料や電子機器に利
用され化粧品にまで応用されています。しかし、これらの実態を知り本
質を理解している人は少数派ではないでしょうか。眼に見えない領域、
「直感」が通用しにくい世界はどうしても敷居が高くなります。「そん
なものか」で終わってしまっては理解に結びつきませんし、「科学は所
詮ひとごと」と考えてテクノクラートだけに下駄を預けるのも危険です。
科学は魔法ではありません。しかし難解な事柄を平易なモデルでわかり
やすく解説するには卓越した知識とセンスが必要です。私が高校生の頃、
岸田純之助と星野芳郎という二人の気鋭の技術評論家が先端技術と技術
革新について著作やTVで精力的な仕事をされていて、私は多大な影響を
受けました。現代のジャーナリスト、評論家、そして科学技術に関わる
翻訳者も一層の努力を求められていると思います。

 第2に、科学技術利用の倫理面について不信感が蔓延していることです。
足尾鉱毒問題や水俣病以来の様々な公害は数十年かけて漸く対策の枠組
みが整いつつありますが、つい最近も新たに工場排水の垂れ流し事件が
発覚し、公害問題の根の深さを実感させられました。また、地球温暖化
もいわば大規模な公害であり、今後はバイオテクノロジーの弊害などが
顕在化する懸念もあります。公害問題の難しさは新しい有用な技術に必
ず負の副産物が伴うことで、しかも対策が常に後追いになっていること
です。一方、日本では原子力開発に伴う様々な「嘘」の積み重ねも科学
技術への不信感を煽る元凶となってきました。「人間は必ずミスをする
ものであり、そのミスが大きな事故につながらないようにフェイルセー
フやフールプルーフを組み込んだ設計が大切である」という基本的な認
識が共有されていないように見えるのは甚だ残念なことです。システム
の設計者や運用に当たる現場の技術者に厳しい倫理観が求められるのは
確かですが、それ以上に企業経営層や行政当局の責任は大きいと言わな
ければなりません。そして、もう一つは科学技術が戦争に奉仕してきた
事実です。「戦争があったからこそ科学技術は進歩した」という論はそ
ろそろ終わりにしたいものです。

 第3に、基礎系の科学は「金=マネー」に結びつかないという近視眼的
な発想が大学関係者や受験生に広がりつつあることです。例えば、英国の
ニューカースル大学(Newcastle University)の大学院では物理学の学位
課程を廃止し、代わりにナノテクなどの応用物理学コースを拡充します。
東京工業大学は大学院の電気系専攻で「博士一貫コース」を新設します。
現在は修士課程と博士課程で5年間ですが、これを4年間に短縮し残りの
1年は海外でポスドクとして研究経験を積ませるというものです。需要の
多い「即戦力の博士」(?!)を育てるためだそうですが、私はつい懐疑的
になってしまいます。本来、応用は基礎の上に成り立つものです。この
ような傾向が続くと現状の延長線上でしか物を考えられない研究者ばか
り増えてしまい、長期的にはマイナス要因になりかねません。確かに期
間を限定して目標を設定することは重要ですが、基礎研究において「結
果を出す」までの期間は1年や2年ではなく、場合によっては文字通り
「ライフワーク」になることは科学史が証明しています。しかも画期的
な研究成果ほど当初は周囲に理解されないものなのです。大学の制度改
革の影響で財源が厳しく制約されるとしても、貴重な研究の芽を摘んで
しまわないように、研究助成金を審査する側には今まで以上に確かな眼
が求められ、同時に大きな責任が課されることになります。

 科学技術がバラ色の未来を保証するものではないことは既に明らかに
なりました。私たちはその得失を冷静に見極め、時には警鐘を鳴らす必
要があります。そのためにも多くの人が科学技術アレルギーに陥ること
なく現状と問題の本質を少しでも理解することが重要です。そのための
手がかりはWeb上にもたくさんあります。皆さんも「世界物理年」を機に
何かに挑戦してみてはいかがでしょうか。

【参考】科学技術教育に関連するWebサイトです。

・文部科学省の「科学技術・理科大好きプラン」(2002年より実施中)
 http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/daisuki/main10_a4.htm
・同プランの一部、SSH(スーパーサイエンスハイスクール);
 指定校の一つ東京都立戸山高校の事例(詳細な実施計画書あり)
 http://www.toyama-h.metro.tokyo.jp/annai/f_ssh.html
・文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(教育全般)
 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/needs/report/04091701.htm
・教育情報ナショナルセンター(NICER)
 http://www.nicer.go.jp/
・高エネルギー加速器研究機構(KEK)の「FAQ(よくある質問)」
 http://www.kek.jp/ja/faq/
■ 「アインシュタイン年」とは?              田村洋一

 2005年は物理学に関する話題が多い年になりそうです。少なくとも関
係者はそう期待しています。それというのも2005年は「アインシュタイ
ン年」で「世界物理年」だからです。私も物理系の出身で、しかもアイ
ンシュタインと誕生日が同じなので、とても他人事とは思えません。文
科系のかたもどうぞおつき合いください。

 100年前の1905年、26歳のアルバート・アインシュタイン(Albert
Einstein)は数編の驚くべき論文を発表しました。テーマは特殊相対性、
光の粒子性、光電効果、ブラウン運動などです。「E=mc2」(2は2乗)と
いう式もこのときの論文に登場します。「時空」(space time)の概念も
ここから始まります。これらが物理学に与えた影響は極めて大きく、ニ
ュートン力学から脱皮してやがて量子論や現代の宇宙論につながる流れ
のきっかけとなりました。もっとも、学者の間でも簡単に受け入れられ
たわけではなく、いまだに相対論などは一般の人にはほとんど理解され
ていないというのが実情です。これは、わかりやすく教える人も手段も
なかったためだと思います。しかし21世紀の今日、相変わらず19世紀の
物理学でストップしていては先へ進めません。新しい発想が必要な領域
はたくさんあるのです。

 そこで100周年を記念して2005年を物理学への理解と関心を深めても
らう年にしようという声が欧州物理学会(European Physical Society)
から上がり、各国の物理学会が加盟する国際純粋・応用物理学連合
(IUPAP)は2002年10月に「World Year of Physics 2005」(WYP 2005:世
界物理年2005)のプロジェクト化を決定しました。そして、国連もこれ
を支援する形で2004年6月の総会で2005年を「International Year of
Physics」とする宣言を採択し、UNESCOが世界各国で関連行事を行うこ
とになりました。国連決議の趣旨は、アインシュタインの業績を讃える
だけでなく、物理学の進歩の歴史をたどり、その重要性を認識する機会
にしようということです。今までこのような「国際年」の例として「国
際婦人年」や「国際地球観測年」などがあり、この慣例に従えば日本語
名称は「国際物理学年」となるはずですが、既に「WYP」の日本語名称
として「世界物理年」という表記が先行していたため、国連も例外的に
この日本語名称を使うことになりました。なお、2005年はアインシュタ
インの没後50年にあたりますが、文化の違いでこちらは重視されていな
いようです。

 この「WYP 2005」の一環として英国とアイルランドが共同主催する活
動が「Einstein Year」(アインシュタイン年)です。アインシュタイン
の名前を知らない人はないほど有名ですが、博士の研究が今日の物理学
および社会にどんな影響を及ぼしているのかを知ってもらおうという啓
蒙活動で、特に11歳から14歳の子供たちと、その教師や保護者をターゲ
ットにしています。各地の学校、大学、博物館、地域のグループなどが、
物理学者とその業績に光を当てる企画を準備しています。ホーキング博
士も参加するのでしょうか。ホームページを見ると、パソコンゲームや
公開実験などのほか、「5分でわかる特殊相対性理論」とでも呼べそう
なパソコン用Flashムービー制作の懸賞コンクールまであります。これ
はイタリアのPirelli社がスポンサーで、難易度が高いためか賞金は
25000ユーロと高額です。これを作れる人は限定されるでしょうが、ど
んなものが見られるのか非常に楽しみです。

 次回は、相対性理論が正しいかどうかを検証するために現在進行中の
実験の話や「世界物理年」関連の日本での活動をご紹介し、理科系の教
育の問題点について考えてみます。

・WYP 2005:http://www.physics2005.org/
・世界物理年2005日本委員会:http://www.wyp2005.jp/
・Einstein Year:http://www.einsteinyear.org/
■「丸善」のない日本橋(下)              田村洋一

 ところで「丸善」に美術とくれば、思い出すのは梶井基次郎の短編
「檸檬」の次の一節です。

 『変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金
色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後に
はあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにお
もしろいだろう。』

 ご承知の通り、この話の舞台は河原町通に面した丸善・京都店なので
すが、やや薄暗い中にぎっしりと大型の画集が並んでいた一昔前の日本
橋店の美術書売り場の記憶と結びついて、私はこの情景をセピア色のモ
ノクロームにレモンだけが鮮やかな黄色で浮かび上がる映画の1カットと
して思い浮かべてしまうのです。

 話を本に戻して、私は海外雑誌の年間予約購読も丸善で始めました。
その一つが英国の「Punch」です。購読を始めてすぐ名編集長Alan Coren
氏が着任し、翌年サッチャー政権が発足しました。Maggy (サッチャー氏)
と石油を握るアラブの富豪たちは Punch にとっては格好の材料で、毎号
のように似顔絵つきで皮肉られていました。当時英国では民営化をめぐる
労働争議が頻発し、港湾ストのため雑誌が日本に届かないこともありま
した。社会風刺とユーモアだけでなく優れた短編小説を掲載したことも
Coren 氏の功績です。これは後に「The Punch Book of Short Stories」
や「Pick of "Punch"」と題されて出版されました。英国の文化財ともい
える Punch でしたが1990年代の低迷を経て2002年についに廃刊となりま
した。最近の世界情勢を見ていると「Punch ならどうする?」と思うこと
が度々です。内外を問わず「風刺」が衰退したのはなぜでしょうか。Punch
の遺産は下記のWebサイトで公開されています。Punch はサッチャー政権
下の英国を研究する人には必見の資料であることは確かです。

 【参考】PunchのWebサイト -- http://www.punch.co.uk/

 さて、人ごとながら丸善・日本橋店で気になるのは2007年春に開店す
る予定の新店舗が一体どんな形態になるのかということです。同社は引
き続き日本橋で営業すると公約していますが、従来の書籍、文具・雑貨、
アパレルという構成だけではインパクトに欠けます。書店という面では
「2年半後に新装開店する書店のあるべき姿」を構想することになります。
二つ目の超大型書店は必要ないでしょう。さりとて、文庫、新書、雑誌、
新刊主体の1フロア程度の店舗では丸善の歴史が泣くというものです。
アカデミックな特長の一つだった「本の図書館」は丸の内店に移転して
しまいました。丸善のオンライン書店はまだ一人前とはいえず、それを
補強するような店舗はどんな機能を持つべきでしょうか。電子出版が本
格化する前にビデオやテレビのブロードバンド配信(翻訳の新市場?)が
普及しそうなので、教育学習分野でのデジタル家電を取り込むことも考
えられます。同社の事業の柱の一つである図書館向けサービスを絡める
ことは日本橋という場所で可能でしょうか。

 一方、アパレルについてはオリジナルブランドの高級品のほか、ファ
ッション性を高めることが必要と思いますが、真向かいにある高島屋や
改装した三越本店と競合するのか相乗効果を生めるのかは微妙なところ
です。4階に入っていたクラフトセンター・ジャパン直営店のようなアー
トの要素も必要です。もちろん美味しいレストランと喫茶店も。

 こんなわけでこの新店舗のプラニングはかなり難しい戦略的要素を含
んでいて、まだ不透明のようです。著名海外ブランドの旗艦店に席巻さ
れた銀座とは別の意味で本物志向を目指す、やや英国調の落ち着いた雰
囲気の店…というのが妥当な線ですが、実は上質のイベントスペースや
意外なテナントを入居させて予想を裏切ってほしいという期待もありま
す。どんなデザインのビルが建つのかを気にしながら、ここしばらく、
私は何となく落ち着かない気分で日本橋を歩くことになるでしょう。


■「丸善」のない日本橋(上)              田村洋一

 私のような活字中毒気味の人間にとって、なじみの書店が閉店してし
まうというのはショッキングな出来事です。時折「この関係の本ならあ
の店のあの棚のあたりに…」などと当たりをつけて妙な安心感に浸った
りすることもあるので、その店が突然なくなってしまうと代わりを探す
のが大変です。たしかにインターネット上の大手オンライン書店は手軽
で何でもありそうに見えますが、それは玉石混淆。信頼できる書店(古書
店を含む)、さらに正確に言えば信頼できる店員さんの目で選り抜かれた
商品というところに意味があります。実物の重みはやはり大きいのです。

 2002年1月に銀座の洋書専門店「イエナ」(JENA)が閉店しました。改築
前の木造店舗の時代から利用していた店で、当時の2階の売り場の床は本
の重みで中央が弓なりに下がっていました。書店になる前はドイツの光
学機器を扱う店で、レンズメーカー「ツァイス・イエナ」でも有名なド
イツの Jena 市を店名(イエナ精光)にし、書店もそれを継承したそうです。
イエナは立地も良く経営不振という話も聞いていなかったので閉店の報
道は意外で、移転の間違いではないかと思ったほどです。同じ中央ビル
に入っていた「近藤書店」銀座店も2003年4月に閉店しました。決して広
くはない売り場は巧妙にレイアウトされ、詩集のコーナーなどもある充
実した内容の書店でした。このビルには「Christian Dior」銀座店が入
る予定で、晴海通りの向かい側にある「Gucci」と向かい合うことになり
ます。

 つい最近、2004年7月には「青山ブックセンター」チェーンが突然閉店
しました。債権者から破産の申し立てがあったためです。映画、ファッ
ション、現代美術、サブカルチャーなど先端的な感覚の品揃えが特長の
書店で若いファンも多く、オンライン書店も運営する「clicks and mortar」
形態でしたが、商売としては若干趣味性が強すぎる印象がありました。
9月末に青山と六本木の2店舗を再開しましたがオンライン書店は閉鎖さ
れたままです。

 そして私にとって最も感慨深いのは2004年10月の「丸善・日本橋店」
の閉店です。こちらは経営不振というわけではなく、ビル建て替えのた
めです。リフォームされているので古めかしさは感じませんが、今の建
物は1952年に竣工したものです。閉店は既に6月に予告されていました。
134年続いた「本店」の名称は9月14日に開店した丸の内本店に譲り、書
店としての通常営業は9月25日で終了、10月16日に閉店しました。丸善は
書店というより百貨店に近いこともあり、この40年間にいろいろな物を
買い、いろいろな経験をしました。私が初めて足を踏み入れたのは小学
生の時で、師事していた画家のK先生の個展が開催された時です。この
店は何回か改装されて売り場も随分変わりましたが、以前は常設の画廊
があったのです。外房の荒々しい海を描いた作品がいつもより眩しく見
えました。また、後年の稀覯書展示即売会では美しく装飾されたグーテ
ンベルク聖書の断片に触らせてもらうという珍しい経験をしました。紙
とは違う羊皮紙の緻密ですべすべした感触は独特です。近年は展示スペ
ースに私の友人たちの工芸作品が並ぶこともありました。これはこのビ
ル内に本部と直営店があったクラフトセンター・ジャパンの企画による
ものです。

 今回は少々ノスタルジックになってしまいました。次回は気を取り直
して続編を…。
■使える電子辞書の時代~海外編(下)          田村洋一

 前回に続いて海外電子辞書ブランド・トップ5の内、欧米系の残り1社
の紹介から始めます。

4)Lingo -- http://www.lingodirect.com/
 販売元Webサイトの所在地はニューヨークですが、実は製造元の情報が
全くない謎のブランドです。製品の傾向は ECTACO によく似ており、31
カ国語に対応する製品を販売しています。ECTACO の別ブランド的存在と
言えなくもありません。主力製品はスピーチ機能を持つ多言語対応の典
型的な"Translator"です。カタログで注意が必要なのは収録語数です。
10カ国語辞書で6万語とある場合、これは各言語について6千語という意
味です。60万語ではありません。
 「TR2203」は10カ国語の双方向翻訳、20万語収録、スピーチ機能付き。
キーボードは50音キーボードのような格子状配列になった変則QWERTY型。
外観の仕上げは日本的。大きさは幅4.5×奥行3×厚さ0.8インチとコンパ
クト。価格は約200ドル。

 以上は欧米系の電子辞書の紹介でした。

 さて、中国は日本や欧米の工場として電子機器のOEM生産を担ってきた
わけですが、最近では独自ブランドで製造販売する例が増えました。電
子辞書も例外ではありません。中心地は広東省で、既に海外へ輸出する
メーカーも現れました。
その中で参考までに1社だけご紹介します。

5)万信電子工業有限公司 -- http://www.worthy.com.cn
英語名称を Worthy Electronics Industry Co., Ltd. という会社です。
現在、2系列21機種の電子辞書を販売しています。「万信電子辞典」(13
機種)は英漢/漢英/英英辞書などを搭載した英語学習用辞書で、高音質
のスピーチ機能を特徴としています。「金宝典電子辞典」(8機種)は一
般用の電子辞書で、中国語/英語/日本語の組み合わせもあり、語学だけ
でなく百科事典的な機能が付加されています。唐宋の代表的な詩が収録
されています。李白や白居易の作品をいつでも読めるというのはうれし
いことです。中国語で読み上げてくれればもっと楽しめるのですが…。
この辞書は中国の固有名詞の表記や発音の確認にも使えそうです。現在、
日本で入手可能かどうかは不明で価格もわかりませんが、中国系の仕事
をする人は上位機種を1台持っていると便利だと思います。詳しい仕様は
同社のWebページをご覧いただきたいのですが、残念ながら英語のページ
には掲載されていません。中国語のページをじっくりとどうぞ。
■ 使える電子辞書の時代~海外編(中)         田村洋一

 今回から2回に分けて、前回の海外電子辞書ブランド・トップ5のうち
SEIKOを除く欧米系の4ブランドをご紹介します。それぞれ1機種だけ概略
を付記します。まずはトップ3から。

1)ECTACO -- http://www.ectaco.co.uk
 ニューヨークに本部があるようですが、どことなく旧ソ連の匂いのす
るブランドです。日本には営業拠点はありません。ECTACOの強みは圧倒
的な言語の多様性です。実に41種類の言語に対応する製品を販売してい
ます。特に旧東欧諸国の言語をほとんどカバーしています。アジアでは
中国語、ベトナム語、タイ語、ヒンディ語、日本語、等々。そのほかラ
テン語まであります。これだけの言語に個別対応で電子辞書を設計して
いたのでは商売になりません。そこでハードウェア構成は基本的に統一
し、中身を入れ替えて製品化する手法をとっているように見えます。旧
モデルはデザイン(機能面ではなく、特に配色)が難点でしたが、最新モ
デルは格段にスマートになりました。
 「GD-128」という製品は英語/中国語/日本語の辞書で、合計100万語
を収録。スピーチ機能があり、中国語は北京語と広東語を話すという製
品。横幅7インチはかなり大きめ。価格は約350ドル。

2)Franklin -- http://www.franklin.com
 米国のニュージャージーに本拠を置く Franklin Electronic
Publishers, Inc. のブランド。日本にも事務所がありますが電子出版が
主で、電子辞書の販売活動はしていないようです。米国のブランドとい
うこともあってか、Amazon.comがプッシュしています。Franklin の特徴
は幅広い製品レンジです。子ども向けの製品から多機能の本格派まで多
彩です。検索機能のついた聖書の電子版やクロスワードパズルを解くた
めの専用機もあります。上位機種ではオプションでメモリカードとパソ
コン接続キットが提供され、辞書や電子書籍(eBook)をダウンロードして
利用することができます。ただし「読書」するには画面が小さすぎる気
もします。Franklin 製品で目につくのは全体的なデザインの統一性がな
いことです。おそらく OEM の系列が異なるのでしょう。
 「MWS1840」は12万語のMerriam-Webster辞典と50万語のシソーラスを
搭載し、スピーチ機能のある卓上型モデル。独特の丸みを帯びた形状で
写真では小さく見えるが、6×4.75インチ、重さ350g。価格は80ドル前後。

3)WizCom -- http://www.wizcomtech.com/
 WizCom はドイツで株式を公開している WizCom Technologies Ltd. の
ブランド。この会社のユニークなところは、ハンドヘルド型スキャナ一
体型の文字認識装置だけを開発していることです。紛らわしいことに
"Translator" と呼ばれる WizCom の電子辞書は、先端が細くなった本体
をペンのように片手で持って本や新聞の上をなぞると文字や文章が入力
され、それが翻訳されて本体のディスプレイに表示されるという機器で
す。QWERTY 型キーボードはなく、操作は7個のボタンだけで行います。
日本でも見かけたことがありますが、別ブランドでの発売だったかもし
れません。現在はヨーロッパの言語のほか、日本語を含む13カ国語(うち
8カ国語は英語からの片方向のみ)に対応し、スピーチ機能付きです。技
術的には大変面白い機器なのですが、文字のキーボード入力ができない
ため用途が限られるのが難点です。見ているうちに「パソコン画面を直
接スキャンできたら便利だろうか?」などと変なことを考えてしまいま
した。
 「Quicktionary II (Japanese) Translator」は43万語のジーニアス
英和辞典を搭載した電子辞書。本体は幅1.4×厚さ1.0×長さ6.5インチ。
価格は150ドル前後。

 次回は続いて残り1ブランドをご紹介しましょう。そして、これから
注目される中国製電子辞書も。
■ 使える電子辞書の時代~海外編(上)         田村洋一

 日本では数社の電子辞書メーカーが競合し、1社で30機種以上の製品を
揃えたり、日本語や英語だけでなく、ドイツ語、フランス語、スペイン
語、イタリア語、中国語に対応した製品を販売するなど、利用者の選択
肢はかなり豊富なように見えます。それでは海外ではどうなのでしょう
か。実は予想以上に多様な製品が販売されていて、しかも日本の製品に
ない特徴もあるのです。欧米と中国の製品を以下にご紹介しましょう。

 電子辞書に関する限り「海外」という表現は文字通り「日本以外」と
ほぼ同義語です。どんな製品があるのかを手っとり早く知るために
「Shopping.com」というWebサイトをのぞいてみましょう。これは米国系
の価格比較サイトで、電子辞書 (Electronic Dictionary) は "Office"
つまり事務用品に分類されています。2004年9月現在、183機種が掲載さ
れています。言語で分類するとベスト10はスペイン語(38)、ドイツ語(34)、
フランス語(29)、ロシア語(26)、ポルトガル語(22)、イタリア語(20)、
中国語(17)、日本語(12)、朝鮮語(12)、ポーランド語(10)…え、もう220
機種? これは多言語対応機があるからです。価格帯も10ドル以下から
400ドル以上まで開きがあります。ひとつ注意すべきなのは "Dictionary"
と "Translator" というジャンル分けがあることです。前者はここで注目
している書籍版の辞書に代わる電子辞書。後者は「自動翻訳機」という
わけではないのですが、旅先で外国語会話を支援する「スピーチ(音声出
力)機能」を持った電子辞書で、旅行に便利な機能(換算、時計、等)を備
えています。しかし、"Dictionary"のスピーチ機能が充実し"Translator"
の収録語数が増大するにつれて、二つのジャンルの境界は曖昧になって
きました。しかし、この機能の肥大化は使い勝手を損なう危険性もはら
んでいます。

 海外製品で興味深いことは、ブランドの背後にいるメーカーの顔がよ
く見えないことです。主要な電子辞書ブランドは専業で、日本のような
大手の電子機器メーカーの看板ブランドではありません。このことは次
のように解釈できると思います。コンピュータによる自然言語処理に関
するノウハウを持った企画型集団、人間工学を熟知したデザイナー(特に
最近)、低コスト・高品質のOEM製造メーカー、Web販売が得意な販売業者
などの国際協業の成果である…と。この背景として半導体素子と実装技
術、そしてプラットフォームとしてのソフトウェアの進歩があることは
言うまでもありません。とは言うものの、製品のサポート面で若干懸念
があるのも事実です。

 さて、先の183機種をブランド別にまとめると、トップ5はECTACO(71)、
Franklin(41)、WizCom(22)、Lingo(15)、SEIKO(13)となります。どうで
す、ご存知ですか? 合わせて162機種で全体の88.5%を占めます。その
他の13ブランドは全て1~3機種で顕著な落差があります。これはある程
度市場シェアを反映していると見てよいでしょう。国内メーカーとして
唯一登場したSEIKOも全て75ドル未満(特殊な1機種を除く)の製品で主力
は30ドル前後。米国の消費者にとっては100ドルが大きな壁になってい
るようなのです。その結果、国内の高級機路線とは全く別の販売戦略を
強いられています。他の国内メーカーも海外仕様モデルを投入していま
すが、少なくともWeb上ではあまり存在感がありません。これは英国や
スペインのWebサイトでも似たような傾向です。

 次回は各社の製品の傾向をご紹介しましょう。

【参考】Shopping.com -- http://www.shopping.com
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