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 ■ Be prepared! ― 「翻訳」の未来           田村 洋一

 西暦2009年から2010年の変わり目で、英語の年号の呼び方が「two-
thousand...」から「twenty ...」に変わります。もう耳慣れてはいて
も変則的な呼び方だったので平常に戻るわけです。映画「2001: A Space
Odyssey」が公開された1968年、日本のSFファンの間で「2001」はどう
読むのかという議論があったことを思い出します。西暦2100年は「two-
thousand one-hundred」ではなく「twenty-one hundred」でしょうから、
次にこの呼び方が復活するのは990年ほど先の西暦3000年からの10年間
ということになります。英語が、さらには文明社会が存続しているとい
う保証はありません。時代を遡ると、西暦1000年のブリテン島はノルマ
ン征服以前で、英語はまだ形を成していません。そう考えると、私たち
はかなり珍しい経験をしたことになります。

 もう少し短いタイムスパンで考えてみると、「翻訳」という仕事がい
つまで存続するのか、という切実な問題があります。私は今後10年以内
に月並みな翻訳(英日/日英などの産業翻訳を含む)は機械翻訳だけで十
分になると予想します。これはパソコン翻訳ソフトの延長線上の話では
ありません。圧倒的な処理能力とコーパスを活用できるWebサービスで
実現すると見ています(現在のパソコンは複雑すぎて無駄が多く、遠か
らず廃れていくでしょう)。社会全体として日本語に対する要求水準が
低下していることも機械翻訳にとってはプラスに作用します。この潮流
を加速する立場にいるのがGoogleです。同社は検索ページで翻訳機能を
提供し、2009年秋からパソコン向けに日本語IME(β版)も提供していま
すが、2010年内に製品化する「Chrome OS」でどんな翻訳機能を提供す
るかは注目に値します。

 「Chrome OS」は「OS」とは言うものの、MS WindowsやMac OSのような
スタンドアロンのOSではなく、インターネットと一体化した、シンクラ
イアントの性格が濃いシステムです。ユーザーが使用する専用コンピュ
ータ(むしろ「端末」)は、ディスプレイとキーボードの他は起動と表示
に必要な最小限の機能しか備えず、「雲」の中にあるサーバーに接続し
て初めてコンピュータとして機能します。原則的に、端末側にはソフト
やデータは保存されません。サービスは世界規模なので、Googleが用意
するアプリケーションは初めから多言語対応を想定したものになるはず
です。この形態が成功するとコンピュータ業界(特にパソコンのハード
&ソフト業界)が深刻な影響を受けることは確実です。

 ところで、「人工知能」が停滞(挫折ではない)した先例を挙げて、
「機械翻訳」も実用レベルに達するには時間がかかると高を括るのは誤
りです。コンピュータの処理能力の飛躍的な向上と検索技術の進歩によ
り、原文の文脈を的確に判断して翻訳精度を向上させることが可能にな
っています。エレガントなアルゴリズムだけに頼るよりも「力まかせ」
の戦略の方が実用的という場合があり、コンピュータはそれが得意です。
Google以外で機械翻訳がほぼ全面的に採用されている実例は、Microsoft
のサポートサイトにある知識ベースの日本語版です。実用に供されてい
るにしては問題の多い日本語ですが、進歩は見られます(※参考リンク)。
原文と比較してみると機械翻訳が苦手な部分がわかります。

 蛇足ですが、翻訳原文にミスや曖昧さがあるという例は少なくないの
で、多言語で文書を作成する企業向けに、翻訳しやすい原文の作成を支
援するソフトを開発するのも翻訳精度を上げる有効な方法と思われます。

 今後、翻訳者は厳しい境遇に置かれる可能性があり、単に外国語が得
意というだけでは生き残れません。安易にカタカナ語に逃げてしまう翻
訳者(クライアントにも責任の一端があります)や、推敲する能力がない
のに翻訳ソフトに頼る翻訳者は、自らの墓穴を掘ることになります。そ
れらの翻訳者は、機械翻訳がもう一歩進めば容易に凌駕されてしまうで
しょう。翻訳者は従来にも増して専門分野を確立する必要がありますが、
時間的・能力的に難しいかもしれません。逆に、それぞれの分野の専門
家が翻訳ツールを駆使して高品質の翻訳を行うほうが理に適っています。
ターゲット言語の優れた表現能力を持つレビューアは存在価値が残りま
す。 ただし、翻訳の腕を磨く機会が徐々に減少するため、翻訳者から
レビューアへのキャリアパスが維持できるかどうかは疑問です。

 それでは人間の翻訳者でなければできないことは何でしょうか。新し
い訳語や表現を考案すること、企業の文書全体のカラーや品位を維持す
ること、文章そのものではなく背景にある文化を訳出すること、などが
含まれます。文章表現そのものを味わう文芸作品は機械翻訳には馴染ま
ないと言われます。しかし、それも聖域ではないかもしれません。今日
のようにWebに膨大な情報があふれているとき、ゆっくりと読書する時
間はとりにくいものです。Amazon.comの「Kindle」に代表されるデジタ
ル読書端末が普及すると、それを利用して「日本語で海外のベストセ
ラーを斜め読みできれば便利」と考えるユーザーが増える可能性があり
ます。「読んだふりをしたい」というニーズは結構あり、しかも正式
の日本語訳が出る前に読めるとなれば、機械翻訳でダイジェスト版を作
ることは現実的な課題になります。海外の新聞記事の日本語訳はさらに
需要が多く、機械翻訳にも馴染みやすいものです。

 「翻訳者」は、かつての「プログラマ」(正確にはソフトウェア技術者)
の轍を踏むことになるのでしょうか。30年ほど前のメインフレーム全盛
時代、コンピュータ業界では「プログラマ不足」が叫ばれました。将来、
数十万人が足りなくなるという主張でした。ところがオープン化とパソ
コンへのシフトという状況の変化により、人手不足は現実には起こらず
(ただし、優秀な人材は常に不足)、現在はソフトウェアの自社開発その
ものが減少し、基幹業務でも出来合いのソフトウェア・パッケージを導
入する(必要ならカスタマイズを行う)のが普通になっています。日本の
プログラマは質・量ともにピーク時より低下していると考えてよいでし
ょう。膨大な開発作業をこなしてきた世代は、ほとんどが定年に達して
舞台を降りました。主要なソフトウェア製品は相変わらず外国製(大半
が米国製)で、日本には足腰のしっかりした(ゼロから開発できる能力の
ある)プログラマが育つ素地がほとんどありません。概して、確たる設
計思想もなく、すぐに見つかるバグを見過ごし、動けばよいというレベ
ルで満足しているようにさえ見えます。ソフトウェア開発者の就労時間
は不規則、著作権は尊重されず、職能団体もありません。どこか翻訳者
の状況に似ているのではないでしょうか。

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