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 ■「Smart Grid」はどこがスマートか           田村 洋一

 日本の技術系サイトでも米国の「Smart Grid」の話題を目にすること
が多くなってきました。複雑で老朽化し運用の柔軟性に欠ける米国の電
力網を、最新のデジタル情報通信技術で刷新するという構想です。これ
を支える技術として「Smart Meter」もあります。「smart」は「かしこ
い」と訳せるでしょう。「かしこい電力網」に「かしこい電力計」です
(注:ガスや水道の「Smart Meter」もあります)。これが具体的にどう
いうことなのかを簡単に紹介しましょう。なお、欧州では「SmartGrids」
(区切りのスペースなし)という同様の構想があり、こちらは米国に先行
して2005年にスタートしました。

 「Smart Grid」構想は米Obama政権の景気刺激策の一環として44億ド
ルの予算措置が講じられてから、急に国家目標として現実味を帯びてき
ましたが、正式に登場したのはG.W.Bush政権下の2007年12月19日に成立
した米連邦法「Energy Independence and Security Act of 2007」(EISA)
でのことです。この法律は米国のエネルギー政策全般にわたる長大なも
のですが、その第13章にあたる「Title XIII - Smart Grid」(略称:EISA
13)で「Smart Grid」とは何か、どう取り組むかが示されました。なお、
「Energy Independence」とはエネルギー源を輸入に依存しないこと、つ
まり石油依存体質からの脱却を意味します。EISAは温暖化抑止を前面に
押し出したものではありませんが、米国の環境政策の転換点の一つであ
ったことは確かです。

 「Smart Grid」の「smart」にはリアルタイム、自動化、双方向、障
害の自動修復、優れたセキュリティなどの意味があります。電力網は発
電所から変電所までの「送電」(transmission)と、変電所から需要家(家
庭や事業所)までの「配電」(distribution)に分けられます(合わせて
「T&D」と呼ぶ)。送電の最大の問題は送電線のトラブルによる停電事故
です。米国全土の年間停電時間は平均220分にもなり(日本は6分)、連鎖
反応で大規模停電になることも珍しくありません。「Smart Grid」では
瞬時の切り替えで停電を局所化して他の地域への波及を抑え、障害発生
地点の割り出しを容易にして復旧までの時間を短縮します。大規模停電
のたびに起こる「サイバー攻撃では?」という不安を払拭するため、電
力会社の制御システム(SCADAなど)のセキュリティを高めます。

 配電では、需要家側に設置される「Smart Meter」で電力消費量をリ
アルタイムに計測し、通信回線で電力会社に送ります。電力会社は検針
の人件費を節約できるだけでなく、きめ細かく配電を調整して運用効率
を上げることができます。この通信機能は双方向で、電力会社から
「Smart Meter」に制御信号を送って何らかの動作をさせることもできま
す。例えば、猛暑で消費電力が警戒水準を越えた場合、電力会社からの
遠隔操作で各家庭のエアコンの設定温度を一斉に高くして消費電力を下
げることも技術的には可能になります(ただし、エアコン機器の対応と
事前の取り決めが必要)。「双方向」は通信に限りません。需要家側に
太陽光発電や燃料電池などの分散型電源(distributed generation)を配
置して、そこから電力網に電気を送り込むことも容易になります。さら
に、大容量の蓄電装置(electric storage)を開発して、変動の大きな風
力発電を使いやすくしたり、電力の品質維持を図ります。

 しかし、問題点もあります。まず、「Smart Meter」によるプライバ
シー侵害の懸念で、これは実際に欧州で反対運動が起きています。
「Smart Meter」を使用すれば各戸の電気の使用状況を時々刻々計測し、
その利用パターン(需要曲線)を把握することは技術的に可能です。その
結果、例えば、その家が留守になる時間帯が第三者に把握できることに
なり、犯罪者に悪用されれば非常に危険です。従来の積算電力計のよう
に1カ月の電力使用量の合計だけを読み取るメーターでは起こらなかっ
た問題です。よく宣伝されている「Smart Meterで需要家の省エネ意識
を高められる」という主張にも疑問があります。また、リアルタイムに
データを収集して送信するとなると、各戸のデータは微量でも、まとま
れば相当のデータ量になります。「Smart Grid」の情報処理システムが
大規模になり電力消費が増えてしまえば本末転倒です。電力会社の配電
調整や需給予測に役立てるために、需要家ごとのデータが必要なのか、
あるいはどの程度のサンプリング間隔が適当なのかは検討の余地があり
ます。

 もっと大きな課題は電気自動車です。「Smart Grid」は電気自動車
(プラグイン・ハイブリッド車=PHEV)を接続するインフラとして構想さ
れています。夜間電力を利用して電力網からPHEVに充電するだけでなく、
逆にPHEVから電力網へ電力を送る分散型電源としての活用も想定されて
います。PHEVはガソリンエンジン併用なので完全に石油が電気に置き換
わるわけではありませんが、それでも石油のエネルギー密度が非常に高
いことを考慮すると、実際の運用環境で今後どの程度の電力が必要にな
るのか、新しい発電所がいくつ必要になるのかは不透明です(これは日
本でも同様)。「Smart Grid」への移行期間は、不安定要素の増大や需
要予測の誤差により、一時的に電力網が不安定になることも考えておく
べきでしょう。

 米エネルギー省(DOE)は、連邦政府の交付金(1件につき最大2億ドル)
を受けて「Smart Grid」構築に参加したい企業からの事業計画書を募集
しました。上からの事業の割り振りではなく、産業界に自主性を持たせ
た推進方法です。電力会社や電子機器メーカーなどから約400件の申請
があり、10月末に100件の交付先が決定されました。ここで注目すべき
は交付金が「マッチングファンド」(matching fund)であることです。
つまり、連邦政府は「必要な資金の半分はこちらで負担しましょう。残
りの半分はあなたが資金調達してください」というスタンスです。申請
者は資金の裏付けがあり、その回収が可能な、現実的な計画の作成を求
められます。連邦政府の資金の2倍の規模の経済効果が期待される巧妙
なやりかたで、これこそ「スマート!」。

●参考リンク:
・GridWise Alliance (Smart Grid推進団体;事実上のポータル):
  http://www.gridwise.org/
・米標準技術研究所(NIST)の「Smart Grid」サイト:
  http://www.nist.gov/smartgrid/
・European SmartGrids Technology Platform
 (EUの報告書;EUR 22040, 2006/03/24):
  http://ec.europa.eu/research/energy/pdf/smartgrids_en.pdf
・東京電力「大学生のためのインターネット電力講座」:
  http://www.tepco.co.jp/kouza/menu-j.html
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