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 ■ 仕切り直しのGoogle狂騒曲              田村 洋一

 世界が注目したGoogleブック検索をめぐる米国での訴訟で、「和解案」
 が再三の日程繰り延べの末に、裁判所の裁定を待たずに当事者が取り下
 げるという結果になりました。これには米司法省が陳述書で述べた鋭い
 反対意見が強く作用しました。日本の出版関係者もホッとひと息という
 ところでしょう。ただし、訴訟が終わったわけではなく、「和解案」は
 修正されて再度提出されることになります。問題の「和解案」は323ペ
 ージもあり(そのうち19ページが用語定義)、内容は法律家の作文で解読
 が大変ですが、ひと通り目を通してみました。この「和解案」には1冊
 の本がかけるほどの問題点があるので、そのごく一部を紹介します。

 その前に、誰が、何を求めて起こした訴訟なのかを確認しておきまし
 ょう。被告はもちろんGoogleです。当初の原告は米国最大の著述家団体
 「Arthors Guild」(以下、AG)と3人の著述家ですが、この3人はAG会員
 で、集団訴訟(Class Action)の体裁を整えるために加えられたと解釈す
 べきでしょう(その後5人に増加)。この「AG v. Google」訴訟で原告は
 次のように主張しました。「GoogleはGoogle Library事業においてスタ
 ンフォード大学など4つの大学図書館およびニューヨーク公立図書館と
 契約し、その蔵書の多くをデジタル化しつつある。対象となっている書
 籍はパブリックドメインに属すものだけでなく、まだ著作権保護されて
 いるものも含まれる。後者についてGoogleは著作権者の了解を得ていな
 いので著作権侵害に当たる」。そして、原告はGoogleに対して損害賠償
 を求めると同時に、裁判所がGoogleの著作権侵害行為を差し止めること
 を求めたのです。2005年9月20日のことでした。常識的に考えれば、こ
 の集団訴訟の原告団はAGの公称8500人の会員です。

 少し遅れて2005年10月20日、米国の主要出版社が加盟する「AAP」(米
 国出版社協会)もGoogleを提訴。こちらも原告側はAAPに大手出版5社を
 加えた集団訴訟で、Googleが権利者(著作権と出版権)の了承なしに著作
 物をデジタル化して配布しようとしていることに異議を唱えています。
 常識的には原告団に含まれるのはAAP会員の300社超の出版社です。「AG
  v. Google」訴訟と「AAP v. Google」訴訟は(表面上は)別々に進めら
 れましたが、2008年10月28日に合同で「和解案」を提出し、裁判所の許
 可を求めました。このとき、米国内で書籍を出版している世界中の出版
 関係者が自動的に「原告団」に含まれることが初めて明らかになり、パ
 ニックが起こりました。2つの集団訴訟は一つにまとめられた形になり、
 原告団はAG側の「Author Sub-Class」とAAP側の「Publisher Sub-Class」
 で構成されるという複雑な訴訟になっています。

 さて「和解案」ですが、極言すれば「儲かりまっせ!」ということで
 す。損害賠償は二の次で(1冊60ドルの一時金)、Googleは「違法行為は
 行っていない」という主張を黙認され、いままで通りデジタル化を進め
 ることができます。「和解案」の主眼は新しいビジネスモデルの構築で、
 ほとんど事業の「実施計画書」という印象です。著作権法はもちろん、
 将来にわたって取引条件を拘束する内容が含まれるなど、反トラスト法
 (Sherman Act)にも抵触する可能性が大きいことが米司法省に指摘され
 ました。訴訟当事者は、米国外の多数の出版関係者を集団訴訟の原告団
 の立場に巻き込んでおきながら、事前に必要な説明も連絡もせず(これ
 は集団訴訟の「Class Representative」としての義務の不履行)、離脱
 (Opt-out)の意思表示をしなければ「原告団」の一員として「和解案」
 を許諾したことになるというシナリオを書きました。この「和解案」に
 裁判所のお墨付きを求めたわけです。言語道断というべきでしょう。こ
 の訴訟では被告側のGoogleだけが非難されがちですが、暴走の責任は原
 告側のAGとAAPも同等です。

 Googleに協力して、著作権保護が有効な書籍のデジタル化を認めた米
 国の図書館にも責任の一端があります。そもそも書籍は「媒体」と「情
 報」とが一体化されたものとして価格設定された著作物であり、図書館
 もそれを承知で購入しています。その図書館が、書籍の「情報」だけを
 大量に分離して、事実上、用途の制限なしに第三者に提供(あるいは販
 売)することが書籍購入者の権利に含まれるのかどうか、必ずしも自明
 ではありません。本来、大学図書館に許される蔵書のデジタル化は、学
 内の学生や教職員に全文検索サービスを提供する範囲までに限られるべ
 きでしょう。それを越える場合は不正コピーになり、全く新しいデジタ
 ル著作権の枠組みで対処する必要があります。図書館が「デジタル海賊
 版」の出版に加担することは避けるべきです(特に「Orphan Works」の
 扱い)。

 先に「儲かる」と書きましたが、それは(Googleから3000万ドルの訴訟
 費用を受け取るAG側弁護士を別にして)Googleと、運営の中核になる
「Registry」を手中にするグループだけになる可能性が高いと思われま
 す。「Registry」は非営利法人として設立されることになっていますが、
 その権限は大きく、金銭面の透明性が十分に確保されているようには見
 えません。Googleが「Registry」の立ち上げ費用として支払う3450万ド
 ルの根拠も説明されていません。

 一方、「和解案」で当初想定される主な売上は、Google検索における
 デジタル書籍の検索連動広告から得られるもので、出版社などの権利者
 には売上の63%が支払われ、残りの37%がGoogleの取り分です。出版社
 がその検索ページのヒット数を上げるように仕向けることはかなり困難
 です。将来、著作権保護されたデジタル書籍がダウンロード販売された
 り、オンデマンド出版されることになった場合でも、購入される書籍は
 ロングテールの傾向を示すことが予想され、出版社1社あたりの売上に
 大きく寄与することは考えにくいでしょう。しかし、それらは全て
「Registry」で管理され、Googleから販売されることになります。この
 仕組みはApple iTunes Storeに似ていますが、音楽・映画業界のライセ
 ンス料が高額であることを考えれば、Googleの利益率ははるかに大きく
 なると思われます。
 Googleは儲かるようにできているのです。

 和解案には全てに共通する「Opt-out」ベースの仕組みや「絶版」の判
 断など多くの問題がありますが、最後にもう1点。前述のように、2つの
 集団訴訟が1つにまとめられて「和解案」が作成されました。ところが、
 ほとんどメディアでは言及されていませんが、この「和解案」には添付
 資料の形で、もう一つの和解文書が含まれています。それはAAPが単独
 でGoogleと交わした和解文書です(p.317)。集団訴訟の和解の形態とし
 ては変則的で、内容にも疑問があります。まず、GoogleはAAP側に1550
 万ドルを支払うことになっています。これは「AAP Payment」と呼ばれ、
 「和解案」本体に記載されたGoogleが支払う金額(総額1億2500万ドルと
 される)とは別口です。「AAP側の弁護士費用、および出版社と著述家の
 利益を図る基金を設立するためのもの」と書かれていますが、賠償金の
 一部に充当されるとは書かれていません。さらに、訴訟で双方が知ると
 ころとなった事項について、「和解案」本体に記載された事項以外は第
 三者には開示しないという守秘義務を課しています。企業秘密があると
 しても、不透明な和解という印象を免れません。どんな交渉をしたので
 しょうか?

 (注)この記事は筆者個人の見解を表明したものであり、日外アソシエー
 ツの見解とは必ずしも一致しません。

 ●参考リンク:
 ・和解案「Settlement Agreement」(2008年10月29日付):
 http://www.authorsguild.org/advocacy/articles
 /settlement-resources.html
 ・Authors Guild:
 http://www.authorsguild.org/
 ・AAP (Association of American Publishers):
 http://www.publishers.org/
 ・Open Book Alliance ※「和解案」反対派:
 http://www.openbookalliance.org/
 ・U.S. Department of Justiceの陳述書(2009年9月19日付):
 http://thepublicindex.org/docs/letters/usa.pdf
 ・U.S. Copyright Officeの米下院での陳述書(2008年3月13日付):
 The "Orphan Works" Problem and Proposed Legislation
 http://www.copyright.gov/docs/regstat031308.html
 ・(社)著作権情報センター:
 http://www.cric.or.jp/
 

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