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   2007年の秋、東京の世田谷文学館で「植草甚一/マイ・フェイヴァリ
 ット・シングス」という企画展が開催されました。同館は世田谷区に縁
 のある作家・著述家の資料を収集し展示する施設です。映画、ミステリ、
 モダンジャズを中心に精力的にエッセイを書き続けた植草甚一さん(190
 8-1979)も世田谷区の住人で、2008年が生誕100年にあたることを意識し
 ての企画だったようです。

  私が植草さんのエッセイに出会ったのは早川書房のミステリマガジン
 (HMM)でした。1970年前後のことですから、植草さんが雑誌「ワンダー
 ランド」や「宝島」でカリスマ的な人気を得る少し前です。文章を読ん
 でいると何となく生活圏が重なっているような印象があり、そのうち当
 時の私の家と植草さんの家はすぐ近く、つまり小田急線の経堂駅近辺と
 わかりました。また、私のよく知っている神保町の古書店も登場し、何
 となく親近感を持ちました。植草さんの文体は、ある種の「とりとめの
 なさ」が特徴で、正直なところ私には抵抗なく読めるとは言いにくく、
 むしろ波長がピッタリ合ったのは同時期にHMMに評論「パパイラスの舟」
 を連載していた小鷹信光さんのキリリと引き締まった文章なのですが、
 植草さんの「本」に対する尋常ではない情熱(書物の隙間で暮らしてい
 る風情)と、時に鋭く閃く感覚が、私を惹きつけるものを持っていたの
 です。1960年代から70年代にかけては米国の激動の時代でした。キュー
 バ危機、JFK暗殺、ベトナム戦争、公民権運動とキング牧師暗殺、等々。
 植草さんは大衆文学や黒人ジャズメンを通して米国社会の矛盾を見つめ
 ていたように思います。「雑学の大家」や「サブカルチャーの教祖」と
 いう世評は、ご本人の演出があったとしても、目的と手段を取り違えた
 見方のように感じられます。

  今回の企画展には植草さんの膨大なコレクションの一部が(写真でな
 く実物で)展示されると聞けば、出無精の私でも見逃すことはできませ
 ん。実際、大変見応えのある展示内容でした。スイングジャーナル誌に
 掲載されたコラージュやイラストの原画(初公開?)は、植草さんのアー
 ティストとしての非凡さを納得させるものでした。几帳面な購入記録も
 珍しいものでした。しかし、私にとって何より興味深かったのは会場に
 入って最初のコーナーに展示してあった蔵書の書棚です。

  実用本意のスチール書棚1本に、ぎっしりと収まったペイパーバック
 は300冊ほど。書棚の前には蔵書カードの山が置いてあり、ざっと6000
 ~7000冊分に見えますが、それでも植草さんの膨大な蔵書の一部に過ぎ
 ません。書棚の中身はミステリ、SF、ノンフィクションなど雑多ですが、
 同じタイトルの本が2冊ある(しかも1件だけではない)のは不思議です。
 植草さんの場合、うっかりダブって買ってしまったとは考えにくく、判
 型が微妙に違うところを見ると、版次による内容の違いがあるのかもし
 れません。

  その書棚の本を目で追っていくと、ミステリ本に挟まるように、やや
 小型の白い背表紙が見え、そのタイトルは「Woman Times Seven」。こ
 れには目を疑いました。心の中では「そうか!! 本があったのか!!」と
 叫んでいたのです。「Woman Times Seven」は1967年制作の映画で、監
 督はビットリオ・デ・シーカ、主演はシャーリー・マクレーン。カリカ
 チュア的に女性の心の綾を描いた少しエロチックな7つの短編コメディ
 からなるオムニバス作品(それで「女×7」※注1)で、その7役をシャー
 リーが1人で演じ分けます。各編は15分ほどの、小説でいえばショート
 ショートなので、状況設定とその展開が見どころです。共演はピーター・
 セラーズ、マイケル・ケイン、アラン・アーキン、アニタ・エクバーグ
 など豪華な顔ぶれ。舞台はフランスのパリで、全て英語ながら、ユーモ
 アとペーソスにヨーロッパの香りがします。シャーリーの衣装デザイン
 はピエール・バルマン、カメラワークは優れ、さりげなく登場する美術
 品などディテールにも凝っています。最後のエピソード「Snow」の余韻
 もいいし、映画作りを学ぶ若い人には格好の教材だと思うのです。とこ
 ろが…

  この作品、日本ではいつ劇場公開されたのかさえ不明らしく、私の知
 る限り、テレビでも過去に1度だけ、荻昌弘さんのTBS「月曜ロードショ
 ー」で「女と女と女たち」という、あまり感心しない邦題で放映された
 ことがあるだけです。当時、原作本でもあればと期待して探してみまし
 たが見つかりません。その後、VHSビデオは米国版(絶版)だけで日本で
 は発売されず(一部、翻訳しにくいところがあるため?)、米国を含めて
 どこでもDVD化されず(権利の問題?)、ほとんど「幻の名作」になって
 います。(※注2)

  植草さんの蔵書の1冊が本当にこの映画と関係があるのかどうか確か
 めたいという衝動に駆られ、できればVHSビデオも入手したいと思い、
 再び探索することにしました。なにぶん40年前の作品なので、ほとんど
 コレクターズ・アイテムですが、幸い現在はインターネットがあります。
 iMDBで映画の脚本の情報を調べ、古書の書誌情報と付き合わせてみると、
 私の推測は正しかったようです。結局、一方はカナダ、他方は米国で見
 つけたので多少の時間とコストはかかりましたが、非常に状態の良いペ
 イパーバック(1967初版)とVHSビデオ(1993)を入手することができまし
 た。この本は米国コネチカット州の出版社Fawcett Publicationsの叢書
「Gold Medal Book」の1冊で、Cesare Zavattiniによるオリジナル脚本
 を、Charles Einsteinが忠実にノベライズしたものです。この出版社は
 企業買収されたため現存しませんが、ミステリにも力を入れていました。
 植草さんがどのような経緯でこの128ページの小さな本を入手したのか
 は、今では知る由もありません。

【注1】映画「Woman Times Seven」の7つのエピソードは、◇The Funeral
 Procession◇Amateur Night◇Two Against One◇The Super-Simone◇At
 the Opera◇The Suicides◇Snow
【注2】「幻の…」と嘆いていたところ、ユニバーサルから日本向けの
 DVD(日本語字幕)が3月発売と発表されました。このタイミングは全くの
 偶然ですが、予定通り発売されれば映画ファンには貴重なチャンスです。

 ●参考:
 ・世田谷文学館
  http://www.setabun.or.jp/
 ・Fawcett Publicationsの歴史(Wikipedia)
  http://en.wikipedia.org/wiki/Fawcett_Publications
 ・ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
  http://www.universalpictures.jp/

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