忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ 私にとっての「翻訳」の原点   田村洋一

 物思う秋…というわけで今回は初心に返り、私が「翻訳」に興味を持
つようになったきっかけを思い出してみることにしました。ただし、転
機というほど大げさなものではありません。

 幼少時からFENのDJ番組で英語やスペイン語の音楽を聞き初め、教会
の幼稚園で英語の手ほどきを受けましたが、その後は特別の外国語教育
を受けたことはありません。私にとって英語は仕事の道具であり、専門
は「日本語」だと思っています。言語というものに次第に興味を持ち始
めたのは高校生の頃で、「時事英語研究」(研究社)と「言語生活」(筑
摩書房)という専門雑誌を愛読していました。FENでは泥沼化するベトナ
ム戦争の戦況報告がトップニュースでした。FENには「A Little Language
Goes A Long Way」という日本語ミニ講座もあり、私は逆に英会話講座と
して聴いていました。当時は現在の数倍の読書量をこなせたので、自然
科学系のペーパーバックや海外雑誌も読み始めました。級友にはローマ
の歴史家タキトゥスの「ゲルマニア」を原語(ラテン語)で読んでいる強
者もいて刺激的な環境でしたが、私の中ではまだ日本語と英語は別々の
ものでした。

 しかし、私に「翻訳」を強く意識させたのは意外にも漢文のN先生で
す。後に大学教授に転身された学者で、生徒には日本人の教養としての
漢文とは何かを伝えようと努力されました。このN先生があるとき「君
たちは漢文を解釈しただけで翻訳したつもりになっているが、それは間
違いだ」と言われ、私は直ちに「なるほど」と納得したのです。繰り返
して読むに耐える日本語の文章になっていないという指摘でした。

 私たちは「翻訳」と聞くと、すぐに現代の外国語と日本語との間の変
換作業だけを思い浮かべる傾向があります。しかし、紀元前から伝わる
漢文も、「万葉集」のような上代日本語(万葉仮名で表記)も、「源氏物
語」や「とりかへばや物語」のような平安朝文学も、翻訳しなければ現
代人は容易に鑑賞することはできません。古典も外国語も翻訳に違いは
なく、日本には約1500年の翻訳の歴史があることになります。この歴史
の教訓は活かされているのでしょうか。昨今の大方の翻訳は欧米語に引
きずられすぎてカタカナ語を濫用し、訳語を創作する努力を怠っている
ように見えます。それはさておき、それぞれの「原語」に精通した専門
家自身は翻訳書を必要としません。そこで和訳を例にとれば、翻訳とは
原著の内容を読者のために現代日本語の優れた文章で表現することであ
る…と言えるでしょう。日本語の表現能力の比重は原文解釈と同等以上
に大きいと思います。一般に自分の母国語に訳すべきだと言われる理由
がここにあります。

 これは文芸作品の翻訳に限りません。かつて仕事で米国の某コンピュー
タメーカーのデータベース使用手引書の日本語版を読んでいて記述内容
が納得できず、原著を見せてもらったところ、その分かりやすさに驚い
たことがあります。易しいことを難しく書いてはいけません。これは翻
訳者(レビューワを含む)の理解力に加えて、多分にセンスの問題でもあ
ります。この出来事も私に「翻訳」の要件を認識させるきっかけになり
ました。

 もちろん、優れた訳文は正確な解釈があってのこと。知識不足や思い
込みで原文解釈を誤ると、とんでもなくおかしな訳文ができます。それ
を日本語レベルで取り繕うのは「表現力」とは別の話です。見る人が見
ればミスは歴然としています。科学技術系の啓蒙書やテレビ番組の字幕
は特に要注意で、監修者の眼力が試されます。

●参考:
・FENはFar East Networkの略称で、米軍の全世界放送ネットワーク
AFRTS(U.S.Armed Forces Radio and Television Service)の極東地域向
けラジオ放送のこと。現在、FENはAFN(American Forces Network)と改称。
誰でも聴けるAM放送は、関東地方ではAFN-Tokyo(810kHz)で、Eagle 810
という別称がある。
・最初に読んだ翻訳書は「ワンダーブック」:
 "A Wonder-Book for Girls and Boys" by Nathaniel Hawthorne, 1852
 ※ギリシア神話を子供向けに翻案した短編集。
PR
この記事にコメントする
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
最新CM
[12/09 山本ゆうじ]
[12/07 Lisa Hosoi]
[09/29 NONAME]
[09/29 NONAME]
[03/13 エラリー]
カレンダー
10 2019/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
カウンター
忍者ブログ [PR]
Copyright(C) TranRadar(トランレーダー)ブログ All Rights Reserved