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 ■「サイバー大学」は成功するか?           田村洋一

 新年度、新入学、新学期…4月になると何か新しいことが始まりそう
な期待、そして少し不安も感じたものでした。特に高校から大学への進
学では環境が大きく変わり、クラスメイトになる人たちは全国から集ま
ります。決して広くはない日本でも地域により文化に違いがあることを
知る好機でもあります。ところが4月1日、クラスメイトの顔が見えない
大学が開校しました。福岡で設立された私立の「サイバー大学」(以下、
CyU)です。これはエイプリルフールではなく、真面目な正式名称です…
念のため。

 CyUは文部科学省の認可を受けた4年制の大学ですが、学校法人ではな
く株式会社です。つまり、理事長ではなく代表取締役が統括する、会社
概要のある大学ということになります。通常の意味での学園キャンパス
はなく、スクーリングもありません。学生は24時間いつでも、どこから
でも都合のよいときにログインして、インターネット経由で講義を受講
します。講義はすべて事前に制作されたビデオ教材(つまりWebコンテン
ツ)で、VOD(video on demand)システムからストリーム配信されます。
そのため受講者側には500kbps以上の通信速度を確保できるブロードバ
ンド回線が必要です。また、Windows Media Playerを使用する設計のた
め、MacやLinuxパソコンからはアクセスできません。これには抵抗を感
じる人もいることでしょう。

 この種の通信制大学の先行例としてまず思い浮かぶのは英国の「Open
University (OU)」と、それをモデルにしたと思われる日本の「放送大
学」です。OUは1971年開校の実績ある総合大学です。生まれたばかりの
CyUとは格が違いますが、3つのポイントを比較しながらCyUの将来性を
考えてみたいと思います。

 まず、卒業までにかかる学費。OUの場合、授業料は約10英ポンド/単位
(point)です。例えば優等学位「BSc (Honours) Computing and Design」
の課程は360単位なので約3600ポンド=約85万円。「BA (Honours)
English Language and Literature」でも同じで、この金額には教材費
など一切が含まれます。一方、CyUの授業料は2万1000円/単位で、卒業
に必要な124単位では260万4000円となります。これに入学金や教材費等
が加算され、総額271万円+αとなります。いまのところ奨学金制度は
ありません。新興のCyUはOUより3倍も高いことになり、OUにネット留学
して、ときどき英国にスクーリング(residential school)に出かけても
お釣りが残りそうです。この差を正当化するには極めて質の高い内容と
充実したサービスを提供する必要がありますが、まだ具体像は見えませ
ん。

 次に講義資料の一般公開について。2001年以降、MITをはじめ世界の
多くの大学で「OpenCourseWare (OCW)」の形式で講義資料をWebに無償
公開する試みが始まっています。日本でも16大学(国連大学を含む)がこ
れに参加しています。OUでも講義資料とほぼ同等の内容を無償でWeb公
開しています。Webサイトは「OpenLearn」で、その数は187講座と充実
しています。一方、CyUの場合、講義資料にアクセスできるのは学生だ
けで、一般公開の予定はないようです。社会人には、卒業資格は不要で
も、純粋に学術的関心や知的好奇心から、あるいは知識のリフレッシュ
の必要から最新の教材にアクセスしたいという需要があり、大学側も社
会的貢献の見地から無償公開を進めているわけですが、これは研究費の
確保にもプラスになると思われます。CyUでも講義のオープン化は今後
の検討課題の一つと考えるべきでしょう。

 最後に履修科目(コース)の構成です。OUには学部の概念はありません
が、例えば「Humanities: arts, languages, history」分野だけで136
コース、「Environment」分野では52コースあります。基礎コースに一
部重複がありますが、OU全体では数えきれず、広範な要求に応えていま
す。一方、CyUは2学部だけです。予告されていた開校時の科目数は、IT
総合学部18、世界遺産学部22、共通科目26で合計66科目です。世界遺産
学部というユニークな学部は、CyUの初代学長で学部長でもあるエジプ
ト学者・吉村作治氏あればこそですが、IT総合学部との取り合わせはチ
グハグ感を免れません。ITという実務重視と文化財というアカデミズム
では想定される受講者のターゲット層が全く異なるのです。前者には即
戦力となる若手の養成が期待され、しかも各種のeラーニング以上のレ
ベルが要求されます。後者には熟年層まで含めた幅広い受講者が想定さ
れ、カルチャースクール以上のもの(例えば学芸員資格の取得)が期待さ
れます。専門家として言わせてもらうなら、PCによる遠隔学習だけでサ
ーバの実践的運用のスキルやセンスが養成できるのかどうか疑問です。
大学の学部を簡単に変更したり廃止したりはできません。ビジネスとし
ての大学であるCyUのマーケティングが正解だったのかどうか、これか
ら検証されることになるでしょう。(蛇足ながら、CyUのWebページの使
い勝手はよくありません。内容の更新も遅れています。CyUの専門分野
でもあるわけですから、この状況は気になります)

 OUは伝統的にBBCのテレビ放送を活用し、ビデオやDVDを併用してきま
したが、2008年にはインターネットの本格的利用を開始します。時代の
趨勢といえそうです。誰でも、どこからでも、自由な時間帯で学習でき
ることは大いに歓迎されるべきことです。特に身体障害者の方々には朗
報といえるでしょう。しかし、オープン講座の拡充の流れの中では、授
業料を払う学生であることの大きなメリットがなければなりません。
BS/BAの授与と学割だけでなく、電子化された大学図書館への無制限ア
クセス(特に学会誌)や、学生と関係者で形成するバーチャルなコミュニ
ティの活性化が成功の鍵となるのではないでしょうか。

●注:本文中の数値は2007年4月4日現在。
   為替レートは、1ポンド=約235円。
●参考:
・サイバー大学:http://www.cyber-u.ac.jp/
・Open University:http://www.open.ac.uk/
・OpenLearn:http://www.open.ac.uk/openlearn/home.php
・OpenCourseWare Consortium:http://ocwconsortium.org./
・Japan OCW Consortium (JOCW):http://www.jocw.jp/
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