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 ■ Pluto=冥王星の憂鬱                田村洋一

 米国の言語学会「American Dialect Society」(ADS) は2007年1月5日、
「2006 Word of the Year (以下、WY)は“Plutoed”に決定」と発表しま
した。Pluto(冥王星)を動詞として、「be Plutoed」あるいは「to Pluto」
のように「to demote or devalue someone or something」の意味で使
用する語法です。ちなみに、ADSは北米英語と他言語との相互作用を主
要な研究テーマとする1889年創立の学会で、季刊誌「American Speech」
を刊行しています。ADSのWY選定は1990年版に始まり、2006年版は17回
目にあたります。WYと同時に、毎回いくつかのカテゴリで新語が選ばれ
ますが、どれも単なる流行語ではなく、米国社会の現状を如実に反映す
る語や、インパクトの大きな、社会性のある語という視点がうかがえま
す。2006WYの最終候補は2つあり、もう1つは地球環境の激変に関わる
「climate canary」でした。この語は「Most Useful」に選ばれています。
今回のADSのプレスリリースには第1回からのカテゴリ別の選定語が意味
を添えて掲載されています。例えば、1990年に「Most Outrageous」に
選ばれた「politically correct /PC」などは、現在の英国で(多少ニュ
アンスを変えて)多用されています。なお、ADSのWebページにあるリン
ク集は、現代の北米英語、特に口語表現を知る上で有益です。

 さて、太陽系の第9惑星「冥王星」です。ご承知の通り、2006年8月に
プラハで開催された国際天文学連合(IAU)の第26回総会(3年ごとに開催)
において、「planet」という用語が正式に定義され、冥王星がその定義
に合致しないため、少なくとも学術的には「planet/惑星」とは呼べな
くなるという珍事が起こりました。太陽系の惑星の数はGustav Holstが
組曲「惑星」(The Planets:1917)を作曲した頃の8個に戻ってしまった
わけです。冥王星の新しい分類は「dwarf planet」(日本語表記は未定)
で、格下げのニュアンスが濃厚です。上述の「Plutoed」はそれを反映
した皮肉です。冥王星は1930年に米国の天文学者、Clyde W. Tombaugh
が発見した天体ですから、米国人にとっては愉快な決定ではありません。
しかも、2003年には同じく米国の天文学者チームが、冥王星よりわずか
に大きな天体「Eris」を発見し、第10惑星として承認されることが確実
視されていたのですが、これもplanet失格と判定されてしまったのです。

 私を含めて、今回のIAUの動きには疑問を感じている人が少なくない
と思います。IAUは「総会決議5A」で太陽系の天体(太陽を除く)を3種類
に分けました。1)planet、2)dwarf planet、3)Small Solar System
Bodies(前記の2種類に含まれない小惑星や彗星など)です。これらの総
称は未定義です。そして「総会決議6A」では「(決議5Aの)定義により、
冥王星はdwarf planetであり、新カテゴリであるtrans-Neptunian(外海
王星)天体の典型と認める」とされました(賛成237、反対157、棄権17で
可決。IAU会員は9600名以上なので、残りは白紙委任状?)。では、planet
とdwarf planetの差異は何かといえば、「軌道の近くに他の天体がなけ
ればplanet、あればdwarf planet」ということだけです。冥王星の場合、
「Kuiper belt」(カイパーベルト)と呼ばれる小惑星帯に似た場所を通過
すると推定されることが理由のようですが、現状ではKuiper belt自体
が観測不能で仮説の域を出ていません。実際に何があるのかは、いま木
星あたりを飛行中のNASAの冥王星探査機「New Horizons」が冥王星に接
近する2015年まで待たねばなりません。IAUには、冥王星をこのまま
planetにしておくと今後planetに該当する天体の発見が急増しそうだと
の懸念があるようです。「planetの数を増やしたくない」というのが本
音とすれば、これは天文学者の潔癖な分類癖の表れなのか、あるいはロ
ーマ神話の神様の名前にも限りがあるという事情なのでしょうか?

 さらに大きな問題は、今回のIAUの定義が「太陽系の惑星」に限られ
ることです。パリ天文台のJean Scheider氏によれば、2007年1月13日現
在、「太陽系外の惑星」(通称:exoplanet)と考えられる候補が209個発
見されています。IAUが惑星の定義に着手するという話を最初に聞いた
とき、私はexoplanetを念頭に置いた「惑星の一般定義」を期待しまし
たが、これは見事に裏切られました。担当のIAU第3部会が太陽系だけを
守備範囲にしていることが原因のようです。しかし、exoplanetを含め
た「惑星」の定義の必要性は高まるばかりです。2006年12月27日には欧
州のexoplanet観測衛星「COROT」が打ち上げられました。予定されてい
る3年間の観測で10~40個の地球型exoplanetが発見されると予測されて
います。今回の「太陽系の惑星の定義」が再検討を迫られるのも時間の
問題でしょう。(一般に、「惑星=恒星の衛星」、「衛星=他の天体の
周りを周期的に回転する天体」でよさそうですが…)

 「planet/惑星」ということばは天文学の専門用語とはいえないほど
一般化しています。映画データベース「IMDb」で検索したところ、タイ
トルに「planet」を含む作品は330件あまり。古典的名作「Forbidden
Planet」(禁断の惑星)、大ヒット作「Planet of the Apes」(猿の惑星)、
邦題では「惑星ソラリス」などもあり、そのほかパロディや怪しげなB
級映画まで多彩です。「惑星」を天文学者にハイジャックされたいま、
われわれは再び「遊星」を復活させるべきなのでしょうか?

●参考:
・American Dialect Society (プレスリリースはPDF):
 http://www.americandialect.org/
・IAU (International Astronomical Union:国際天文学連合):
 http://www.iau.org/
・「すばる望遠鏡」で見た冥王星 (遠目には1つに見えても…):
 http://subarutelescope.org/Gallery/pressrelease.html#1999
・PlutoとCharon(カロン;英語ではケアレン)の詳細解説:
 http://www.nineplanets.org/pluto.html
・NASAの冥王星探査機「New Horizons」:
 http://pluto.jhuapl.edu/
・CNESとESAの太陽系外惑星探査機「COROT」:
 http://www.esa.int/SPECIALS/COROT/
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