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 ■ アストル・ピアソラの「自伝」             田村洋一

 ひさしぶりに書物に呼び寄せられるという経験をしました。先日、渋
谷を歩いていて、ふと国連大学の裏手にある青山ブックセンターに立ち
寄ることにしたのです。気の向くままに書棚からブラジル音楽の本など
を取り出して見ていると、何か視界に引っ掛かるものがあります。足元
の平台に積まれた黒っぽい本で、タイトルは「ピアソラ 自身を語る」
(河出書房新社、2006年7月20日刊)。確かにジャケットの写真はアスト
ル・ピアソラ(Astor Piazzolla:音楽家)のような…「ピアソラの自叙
伝なんてあったっけ?」と半信半疑で手にとると、かなり分厚い本です
(408pp)。翻訳者がピアソラ研究者の斎藤充正さんなら内容は信頼でき
そうです。ピアソラに関心を持つ者として見逃すことはできません。早
速購入し、近くの画廊兼喫茶店でページをめくり始めました。

 本書はアルゼンチンのジャーナリストで熱心なタンゴ愛好家、ナタリ
オ・ゴリン(Natalio Gorin)の著作「Astor Piazzolla - A Manera de
Memorias」(2003年の増補改訂版)の翻訳で、4部構成になっています。
第1部はゴリンのインタビューに答える形で構成されたアストル・ピア
ソラの「自伝的回想」。この1990年のインタビューが完結しないうちに
ピアソラはパリで倒れ、2年後にブエノスアイレスで死去しました(71歳)。
第2部はゴリンのピアソラ論考。第3部はピアソラ周辺の関係者10人の証
言。3人の妻の回想が含まれないのは残念。第4部は充実した資料編です。
この中では何といっても第1部が抜群に面白く、ピアソラの独特の人物
像が見えてきます。ピアソラ周辺の音楽家についての記述も豊富で、聴
き慣れたCDも別の聴き方をしてみようという気を起こさせます。第4部
の資料編、特に斎藤さんが大きく貢献したディスコグラフィはピアソラ・
ファンには大変有益です。ピアソラのレコード(大部分は海外盤)は非常
に数が多く、同時に廃盤も多く、何がオリジナルなのかよくわかりませ
ん。私もデータ不詳のイタリア盤を持っていますが、この資料のおかげ
で、それが2枚のアルバムから再編集されたものらしいことがわかりま
した。翻訳者の立場で本書を見ると、膨大な固有名詞の表記や事実関係
の確認にかなりの手間がかかると思われますが、細かな訳注に加え、誤
植がほぼ皆無なのはさすがです。なお、著者ナタリオ・ゴリンは日本語
版の刊行直前の2006年7月7日に胃ガンのため66歳で亡くなりました。各
国の研究者の協力で5カ国語に訳され、成長してきたこの本は、古くか
らのピアソラ・ファンが多い日本で最終版となったわけです。

 私がピアソラの音楽に出会ったのは1960年代の中頃のことです。NHK-
FMの音楽番組(永田文夫DJの「ラテンタイム」、あるいはホルヘ的場DJ
の別番組)でタンゴ界のアバンギャルドとしてピアソラが紹介されまし
た。正確な曲名を思い出せないのは残念ですが、鋭角的なバンドネオン
の響きが強烈な印象を残し、「アストル・ピアソラ」という名前は私の
記憶にしっかりと刻みつけられました。1968年にオペレッタ「ブエノス
アイレスのマリア」が発表されたときは、かなり熱心にレコードを探し
ましたが入手出来ません。この作品は本国アルゼンチンでも興行的に失
敗だったのですから仕方ありません。結局、国内盤LPは発売されず、オ
ーマガトキからCDが発売されたのはずっと後のことです。ピアソラは長
い間マイナーな存在だったのです。40年間にいろいろ思い出があります
が、ピアソラの音楽(特に「タンゴ」とは意識していません)は私の生活
の一部になっています。特にキンテート(五重奏団)のライブ演奏は何度
聴いてもスリリングで、飽きるどころか新たな発見があるほどです。よ
く最高傑作は「アディオス・ノニーノ」だといわれますが、フーガの手
法で書かれた「天使の死」のほうに私はピアソラらしさを感じます。

 アストル・ピアソラの一生は「居場所」を探す旅のようなものでした。
これには3つの意味があります。1番目は活動の拠点、2番目は音楽的な
スタンス、3番目は生活のパートナーとしての女性です。現状に安住す
ることに不安を感じる性分だったのか、否定と創造の繰り返しでした。
ピアソラが残した膨大な録音と楽譜は、その変貌の軌跡です。天才的な
バンドネオン奏者としてのピアソラは世を去りましたが、作曲家として
の評価はこれから始まると言ってもいいでしょう。例えば、ピアソラの
映画音楽を集大成して再評価することも重要な研究テーマです。

●参考:
・アストル・ピアソラ研究の情報サイト: http://www.piazzolla.org/
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