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 2007年6月29日、UNESCOの世界遺産委員会から2007年度の世界遺産リ
ストの更新内容が発表されました。この決定はいろいろな意味で興味深
いものです。ご存知の通り、世界遺産(World Heritage Site)は文化遺
産、自然遺産、複合遺産に大別されます。2007年度は文化16、自然5、
複合1の合計22件が追加登録されました。この結果、世界遺産の登録総
数は実に851件(文化660、自然166、複合25)となりました。地理的には
世界141カ国に分布しています。なお、1件が登録を抹消されました。登
録された世界遺産を維持管理する努力も求められているのです。

 日本の「石見銀山遺跡とその文化的景観」が文化遺産として登録され
た紆余曲折については省略しますが、初めにニュースを読んだときの率
直な感想は「石見銀山ってどこだっけ?」というお粗末なものでした。
山陰に廃坑があることは知っていますが、正確な地図が思い浮かびませ
ん。江戸時代に最盛期を迎えた国内有数の(実は東アジア最大級の)銀鉱
山ですが、それは遠い過去のこと…という印象でした。むしろ歌舞伎や
時代劇にも登場する「石見銀山ねずみとり」のほうに親しみを感じてし
まいます。この実在の殺鼠剤(砒素化合物)の産地は近くの銅鉱山だった
ようですが、物売りは有名な石見銀山をブランドとして拝借し、ねずみ
とりは大ヒットしました。

 私だけが不勉強とは思えないので(Iwami Ginzanと読めない人も少なく
ないはず)、UNESCOに申請する前に、日本有数の産業遺跡としてもっと
積極的に保護しPRするのが順序ではなかったかと思うのです。石見銀山
から産出した大量の銀は広くアジア各地に流通し、貨幣経済や多国間交
易の面で重要な足跡を残しているようです。今後は各国の研究者との交
流を促進して、世界文化遺産の趣旨を実現していくよう期待します。単
に新しい観光資源と考える人がいるとすれば、それは間違いです。

 隣国の韓国では「済州島の火山地形」(Jeju Volcanic Island and
Lava Tubes)が自然遺産に登録されました。富士山の風穴に似たハルラ
山の特殊な溶岩地形が評価されたものです。ところで富士山は日本の世
界遺産候補の一つですが、日本政府はまだ推薦していません。日本の世
界遺産の政府窓口が統一されていないことも一因と思われます。文化遺
産を担当する文化庁は富士信仰をアピールしようとしていますが、当然、
自然遺産の資格も十分あるわけで、こちらを担当する環境省と林野庁は
静観の構えのようです。現在、日本の世界遺産は14件(文化11、自然3)
で、複合遺産は1件もありません。現在のような官庁の縄張りがあって
は、富士山も当惑するしかないでしょう。

 2007年に登録された世界遺産で最も注目すべきなのは「Sydney Opera
House」です。登録の根拠となったのは同劇場の文化活動ではなく、20
世紀を代表する建築物としての評価です。1973年に落成したオペラハウ
スは大変ユニークな外観で、オーストラリアの顔ともいえる建築です。
しかし、舞台裏のスペースは十分とはいえず、舞台関係者の間では使い
勝手の悪い劇場という評価もあります。また頭上には、同じくシドニー
の景観に欠くことのできない「Sydney Harbour Bridge」(1932年開通)
が架かっていますが、こちらは世界遺産ではありません。この2つの建
造物を含むシドニー港の景観ということであれば異論はないのですが、
オペラハウス単独では「普遍的価値」を持つのかどうか疑問もあり、悪
い前例になりそうな予感がします。

 1987年にブラジルの首都Brasiliaが世界遺産に登録されましたが、こ
れは単独の建築ではなく都市計画と建築群をセットにした大規模なもの
でした。20世紀の建築が単独で世界遺産に登録可能ということになれば、
候補はどっと増えます。既にフランス政府は国内に散在するル・コルビ
ュジェ設計の建築をまとめて世界遺産に推薦する準備作業を進めており
(暫定リストに掲載済)、さらに日本の国立西洋美術館本館(1959年)など
国外にある建築も対象に含めたい意向と伝えられています。次はF.L.ラ
イトでしょうか、A.ガウディでしょうか?

 これらの動きを見て思うのは、世界遺産の選定基準も一様ではないと
いうことです。世界各地域の歴史と人々の価値観が反映されているから
に他なりません。世界遺産リストからは、石造りの大伽藍に対する欧州
人の限りない憧憬が感じられます。しかし、私には最大限の努力で保護
すべき文化遺産は他にあるように思えます。例えば、文字の変遷に関す
る資料です。京都大学の阿辻哲次教授が著書「漢字の文化史」で紹介さ
れている竹簡に書かれた中国秦代の法律書「雲夢秦簡」などは、存在自
体がほとんど奇跡的な文化財です。存亡の危機にある鉛活字のシステム
も立派な文化財です。また、自然環境と一体になった漆芸などの伝統工
芸や、アジアやアフリカの伝統芸能は優れた無形文化財です。2006年4月、
世界遺産の枠組みとは別にUNESCOの「無形遺産条約」が発効したことは、
大いに歓迎すべき前進であると思います。

●補足:
・世界遺産条約:Convention Concerning the Protection of the World
Cultural and Natural Heritage, Paris, 16 November 1972
・無形遺産条約:Convention for the Safeguarding of the Intangible
Cultural Heritage, Paris, 17 October 2003

●参考:
・UNESCO World Heritage Centre:
 http://whc.unesco.org/
・2007年度の世界遺産委員会の決定を伝えるUNESCOのニュース:
 http://whc.unesco.org/en/news/365
・文化遺産オンライン - 世界遺産と傑作宣言(文化庁):
 http://bunka.nii.ac.jp/jp/world/h_index.html
・日本の世界自然遺産(林野庁):
 http://www.rinya.maff.go.jp/sekaiisan/index_h.html
・無形遺産について(日本ユネスコ協会連盟):
 http://www.unesco.or.jp/contents/isan/intangible.html
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石見銀山
日本に世界遺産が14件もあることを知らず。
富士山がその中に含まれていないことを知らず。
ましてや世界遺産が総数で851件もあることを知りませんでした。
お恥ずかしい・・・
(青) 2007/09/05(Wed)11:13:42 編集
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