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■ 日英語の性質の違いが翻訳に及ぼす影響(その2)
                            小川 明

◆やや不自然になる日本語

前回では、長い関係代名詞節を直訳するとやや不自然な日本語になるこ
とを述べた。もっと長い例をあげよう(安西徹雄『英文翻訳術』(ちく
ま学芸文庫)からの例である)。に長い関係代名詞節が掛かって
いる。

Let us not neglect as we grow older the pleasure of re-reading
[which we remember we liked when we were young, but which
we have mostly forgotten and which we should like to read again].

直訳すると、いわゆる翻訳調の訳になる。

[若い頃に好きだったことだけは覚えているが、内容はほとんど忘れて
しまっていて、もう一度読んでみたいと思っているような]<本>

このことについて、安西は、英語は名詞を中心として文章を構成し、日
本語は動詞を中心にして文章を構成するから、「ただ名詞の前に長い修
飾句としてくっつけただけでは、日本語の骨組みに過重な負担をかけて
しまう。」と言う。ここではもっと言語に密着して考えてみよう。

◆修飾句が長いと読みづらくなる日本語

なぜ長くなると、すっと読めなくなるのだろうか。その解答を探る出発
点として、長さの視点から、翻訳ではない日本語の連体修飾節の実例を
眺めてみよう。実はそんなに長くならないのである。

a. ある精神病院へ曲がる<横町>(芥川龍之介『歯車』)
b. さっき境内を掃除にきた<おばさん>(武田百合子『ことばの食卓』)
c. 書斎で頭をかかえ込み、もだえつつことばを紡ぎだす<哲学者>
(鷲田清一『「聴く」ことの力』)
d. わたしがこれまで見たうちでもっとも心動かされた<住宅>
(加藤典洋『語りの背景』)

次はやや長く感じられる例である。

a. 柳宗悦以後の民芸問題をテーマに鳥取県の民芸運動について調べる
学生の<卒業論文>(加藤典洋『語りの背景』)
b. 阪神・淡路大震災のあと、近くの小学校の体育館へかなり長く焚き
出しに通っていたひとりの<女性>
(『鷲田清一「「聴く」ことの力」』)

それと対照的にとても長い例をあげてみよう。次は大江健三郎の『壊れ
ものとしての人間』の一節である。[ ]の長い部分が<有機体>に掛か
っている。平子義雄『翻訳の原理』(大修館)にある引用を使用させて
いただいた。

しかしかれはついに、[谷間の道の白い土埃りにまみれた車座の中心で
語る幼いかれ自身が、昂揚しながらも深い不安にしばしば見まわれつつ、
実感しないではいられなかったところの、かれ自身をその微細なひとつ
の細胞とする、歴史の遠い暗闇に巨大な根をはった、あの]<有機体>
の実在を再び感じとることはないだろう。

文学的視点は抜きにすると、とても読みづらい。普通はこのように長く
はならない。

◆前置修飾しかできない日本語。後置修飾も可能な英語

なぜ長くなると日本語では、読みにくくなるのだろうか。その答を探る
ための出発点として英語を観察してみよう。日本語では名詞を修飾する
要素は常に前に生じる。ところが英語では、名詞を修飾する要素は前か
らも後からも掛ける事ができるのである。
まず前の部分から見てみよう。冠詞・数詞・形容詞など限られた要素が
生じ、かつ短いことに注目。((12)(13)の例は、Collins Cobuild
English GrammarとLongman Grammar of Spoken and Written Englishに
よる。)

a. a fairly common
b. the most dangerous
c. three beautiful young

それに対して後は様々な要素が生じ、長くなることができる。もちろん
関係代名詞節は後である。

a. capable of clearing rubble off the main roads
b. required to support a huge and growing population
c. the three lying on the table
d. of wrapping paper with bits of sticky tape still
adhering to them
e. the first to be elected to the council
f. the where my grandmother had lived

いかに長くなることができるか、次を見てみよう。の後に
ある要素は最終的には、にすべて掛かっていくのである。

This is sowing the corn, that kept the cock, that
crowed in the morn, that waked the priest all shaven and shorn,
that married the man all tattered and torn, that kissed the
maiden all forlorn, that milked the cow with the crumpled horn,
that tossed the dog, that worried the cat, that killed the rat,
that ate the malt, that lay in the house that Jack built.

このことから推理すると、どちらの言語においても前置修飾は短くなる
傾向がある。そして前置修飾しかできない日本語では名詞に対する修飾
は短くならざるをえない。ところが英語では後置修飾(その中に関係代
名詞節が入る)が可能なので、相当長い修飾要素を名詞につけることが
できる。ここでジレンマが生じる。英語の長い後置修飾要素をそのまま
日本語に移すと、短くなる傾向を持つ前置修飾しかない日本語では耐え
切れないのである。

実は、名詞を修飾するのは節だけではなくさまざまな要素があるが、そ
れらも同じように関与する。次の例では、その要素を取って短くした方
がすっと読める。例文(1a)は安西、例文(2a)は池上嘉彦『「する」と
「なる」 の言語学』の一部分を利用させていただいた。(1)(2)の(b)(c)
は、ここでそれに手を加えたものである。

例文(1)
a. この問題について出版されている少数の本当によい<本>
b. この問題について出版されている少数の<本>
c. この問題について出版されている<本>

例文(2)
a. 手に入る食物と言えば野菜ばかりのため、蛋白質不足で苦しんでい
るアジアの何千万人の<人たち>
b. 手に入る食物と言えば野菜ばかりのため、蛋白質不足で苦しんでい
るアジアの<人たち>
c. 手に入る食物と言えば野菜ばかりのため、蛋白質不足で苦しんでい
る<人たち>

次回では、さらにその先に行ってみたい。なぜ日本語と英語のどちらの
言語でも共通に前置修飾が短くなり、英語では後置修飾が相当長くなる
ことが可能であるか、その理由を言語処理の観点から考えてみたい。
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