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 ■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その42)翻訳ソフトで医学翻訳

拙ブログにも書きましたが、若い人たちとドッジボールをしていて右手
の中指と小指をけがしてしまいました。骨折の一種で、槌指(mallet
finger)だそうです。業務用翻訳ソフト LogoVista X PRO 2006 専門辞
書フルパックには南山堂などの医学辞書が入っているので、訳させてみ
ましょう。すると、mallet finger の訳語には「槌指」と「マレットフ
ィンガー」の2種類が表示されます。槌指になったのは、中指の指先から
最初の関節 distal interphalangeal joint ですが、「DIP関節」、「遠
位指節関節」などの訳語もちゃんと出ます。ついでにいくつか調べてみ
ました。Dupuytren'scontracture は「デュピュイトラン拘縮」、
nonsteroidal anti-inflammatory drug は「非ステロイド性抗炎症薬」、
erythrocyte sedimentation rate は「赤血球沈降速度」……こういった
訳語がいちいち辞書を引かなくてもきちんと表示され、しかも訳文に
使えるのは気持ちがよいことです。

アメリカの標準治療の指針とされているメルク マニュアルに、mallet
finger に関する記述がありました。
http://www.merck.com/mmhe/sec05/ch071/ch071c.html

もうちょっと LogoVista X PRO 2006 で遊んでみましょう。

"This deformity usually results from injury, which either
damages the tendonor tears the tendon from the bone."
という原文を翻訳させると次のような文になります。

「この奇形は一般的には傷害に起因します、そしてそれは腱に損傷を与
えるか、または骨から腱を引きちぎります。」

これを使える訳文にするにはどうしたらよいでしょうか。まず、「奇
形」を右クリックして「変形」という訳語に、「起因します」を右クリ
ックして「生じます」という訳語に、「引きちぎります」を右クリック
して「引き裂きます」に入れ替えます。次に which 以降の訳文を切り
取り、適切な位置に貼り付けます。そうすると次のようになります。

「この変形は一般的には腱に損傷を与えるか、または骨から腱を引き裂
き傷害を生じます、そしてそれはます。」

冗長な個所や不自然なところに手を入れて、読点を補ってやります。

「この変形は、一般的には、腱に損傷を与えるか、骨から腱を引き裂く
傷害により生じます。」

「傷害」を動作の主体にしたくない場合は、もう少し手を入れます。

「この変形は、一般的には、腱が損傷するか、骨から腱が引き裂かれる
傷害により生じます。」

メルク マニュアルでは「手術が必要なのはまれ」とありますが、アメ
リカと日本では事情が異なることもあります。手術をしたほうが確実に
治るというので、手術することにしました。手術は、金属のピンを骨に
突き通して固定するというものでした。
数カ月はペンがまともに握れないため、紙とペンしかない時代なら苦労
するところです。中指と小指が動かせないため、タッチ タイピングも
できません。しかし、私はふだんから音声認識で入力しているので、
文書作成という点ではほとんど影響がないのは幸いでした。こんなに
便利なものがなかなか普及しないのは不思議な限りです。
皆さんが不幸にも手にけがをされたときは、「音声認識が使えるはず
だ」ということをぜひ思いだしてください。慣れればキーボードより
も速く入力できるので、けがしてから練習するよりは、今すぐ取り組
んだほうがよいとは思います。きちんとした機会さえあれば、音声認
識がキーボード入力をしのぐことはいつでもお見せできます。

さて、翻訳ワークフローSATILA<http://cds.cosmoshouse.com/satila/
についてのセミナーが、2006年6月30日に行われました。ロゴヴィスタ、
ナビックス、秋桜舎が主催し、SDLトラドス ジャパンのご協力をいた
だいて、知財翻訳研究所を会場としてお借りしました。国内翻訳会社
の各位に多数ご来場いただき、おかげさまで満席となりました。

翻訳支援(特に自動化)がもっとも有効なのは、すでにノウハウと翻訳
データが蓄積されているIT分野ですが、医学、バイオ、工学などの技術
分野でも有効です。特に以下の条件を備えている場合には効果を発揮
します。

- 用語が比較的整理・統一されている
- 一文が短く、簡潔な文体が徹底されている
- 英日の割合が多い
- 専門用語が多い

また、原文の分量が多ければ多いほど効果を発揮できます。これは「単
語の組み合わせからなる文は無限にある。しかし文を構成する単語は有
限である」という翻訳工学の大原則に基づいています。

秋桜舎では、大学や研究機関の方を対象として、協力者を募集していま
す。「翻訳工学」、翻訳支援に関心がある方は私までお知らせください。
自然言語処理や翻訳支援技術の開発そのものに関心がある方も、「翻訳
支援を用いて大量の技術翻訳をしたい」という方も歓迎します。後者の
場合は、「翻訳利用者」としてSATILAをお使いいただく代わりに、当方
の開発にご協力いただくことになります。IT以外の分野ではまだ翻訳
データが十分に蓄積されていないので、根気よくご協力いただけること
が条件となります。詳細についてはご相談ください。

ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは、音声認識ソフトで入力し、音声読み上げにより校正して
います》


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 ■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その41)スタイル ガイドの自動化

最近、mixiやブログで「三百字小説」を書くことにはまっています。俳
句と同じように、コンパクトに、かつバランスよく300字に収めるには
かなりの推敲が必要です。
文芸翻訳に限らず、日本語力を磨くのに良い訓練となります。拙作は
「遊歩人」に2度ほど掲載され、めでたく図書カード2枚を獲得いたしま
した。だれでも気軽に応募できますので、みなさんも投稿されてはいか
がでしょうか。
http://www.bungenko.jp/

閑話休題。「AはBのように表記する」「中黒は使わず半角スペースにす
る」――単純でありながら、実際の翻訳作業でかなり時間が取られるの
は、このような、スタイル ガイドで指定されている表記の遵守です。

かなり以前の話ですが、ある翻訳の仕事で苦労させられたことがありま
す。作業がすでに進行しているのに、スタイル ガイドの指定がころこ
ろ変わるため、そのつど戻って修正しなくてはなりませんでした。この
ように、スタイル ガイドの指定は、矛盾があることや不合理であるこ
ともあります。

翻訳という作業を合理的に考えるうえで、私は「翻訳工学」という考え
方を提唱しています。この翻訳工学に基づけば、「ルールに基づいた翻
訳をすべし」という大原則があり、さらにそこから派生して「スタイル
ガイドは可能な限り自動化すべし」ということになります。つまり単純
な手作業をツールでの処理に置き換えて、労力を減らそう、ということ
です。翻訳者だけでも、できる範囲内で自動化すれば、労力を減らせま
す。ただ、「スタイル ガイドの自動化」は、翻訳者、翻訳会社、クラ
イアントの三者すべてに関係しており、体系的に行うのが理想的です。
個人で整形スクリプトを作成している方もいますが、「全員で徹底する・
全員で共有する」ことも重要です。

自動化するには、まずスタイル ガイド自体が合理的である必要があり
ます。具体的には、内部的な矛盾がないこと、判断基準が明確であるこ
となどがあります。これがきちんとできていないと、どういうことにな
るでしょうか。まず、クライアントは発注したとおりの仕様に沿ってい
ない納品物を受け取ることになります。翻訳者や翻訳会社がいくら努力
しても、スタイル ガイドそのものがきちんとしていないと、表記統一
のしようがありません。また、用語の表記がばらついていれば、最終的
な利用者が混乱することになります。マニュアルには「読み取り」と書
いてあるのに、実際のソフトウェアのメニューでは「読取」となってい
たりすることがあります。さらに、翻訳会社はチェックの過程で、同じ
個所を何度も見直すことになります。しかし、もっとも割を食うのはお
そらく翻訳者でしょう。語数で料金が計算されている場合は、自分のせ
いでもないやり直しをただ働きで何度もさせられるわけですから。

スタイル ガイドが合理的であるということは、「明確なルール」があ
るということです。明確なルールがあれば、ツールによる処理が可能に
なります。もちろん、人間による判断がまったく不要になるわけではあ
りません。しかし、きちんとしたルールに基づいていれば、関係者が余
分な時間と労力を使わずにすみ、翻訳者が推敲に十分を時間をかけられ
るようになり、全員がハッピーになれるのです。

スタイル ガイドを自動化するためには、注意点があります。それは、
ルールを可能な限りシンプルにすることです。自動化を前提にしてルー
ルを作る場合は、ルールの数は多くても問題ではありません。ルールが
多くてもツールであれば黙々とチェックできるからです。もちろん、物
事をむやみに複雑にすることはありません。ルールが増えると矛盾する
場合も出てきます。シンプルなルールで、なおかつ少なくできればベス
トです。

具体的には、スタイル ガイドをどのように自動化できるでしょうか。
まず、Wordの文章校正機能を活用することができます。校正語機能、オ
ートコレクトは正しく使用すれば労力を減らすことができます。作業上
の基本技能として翻訳者に徹底して伝わるようにし、データを配布すれ
ば、誤りを相当減らせます。残念ながらオートコレクトについては簡単
な配布方法はありませんが、校正辞書はインポートとエクスポートがで
きます。

また、置換ツールを使用して用語を統一することもできます。Wordの機
能はあくまでも「誤りを減らす」ことに重点があり、徹底的なチェック
はできません。そのため校正機能を使用しても、最終的には置換ツール
で最終確認をすることになります。しかし「置換ツールだけでよいか」
というとそうでもありません。校正機能で翻訳作業中に問題を見つけし
だい減らしたほうが、後で大量のチェックをするよりも楽ですし、確実
です。使い分けのタイミングがポイントです。

また、翻訳ソフトにより用語の自動適用をすれば、スタイル ガイドを
最初から遵守した翻訳ができます。これもまた単独では不十分なので、
前述の方法と組み合わせます。きちんとワークフローをいったん定めて
徹底すれば、決して複雑なことではありません。このように効率よく作
業できれば、確実なコスト削減につながります

  《お知らせ》
翻訳クライアント企業と翻訳会社を対象にした翻訳ワークフローSATILA
の説明会を6月以降、順次開催します。
http://cds.cosmoshouse.com/satila/
ご関心のある企業の担当者の方はお知らせください。
 ■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その40)

イギリスの中等教育、知識の宝庫

一週間ほどイギリスに行っていました。詳細は私のブログでも書きます
が、今回は、この訪問について少しご紹介します。この訪問では、国際
バカロレアを日本の教育に取り入れようとしている教育者の方々に同行
して、私の母校アトランティック・カレッジ、サイレンセスター・カレ
ッジ、イートン・カレッジの3つの高校を巡りました。国際バカロレア
とは、大学入学資格を含む世界共通の教育課程です。私は高校の2年間
をイギリスで過ごし、これが3度目のイギリス滞在でしたが、さまざま
な新しい発見があり、また忘れていたことを再発見しました。

今回の訪問では、同行者の方たちと日本語で話していたことが多かった
ので、イギリスにいながら、連続で数分以上英語を話すことはほとんど
ありませんでした。一週間程度の滞在では、英語をほとんど話さなくて
も普通に生活できます。英語圏に留学や長期滞在などをしても、日本人
とばかりいるとまったく英語力が伸びないであろうということが、改め
て実感されました。このことは、私はひとり旅をすることの方が多かっ
たので、これまではあまり意識したことがありませんでした。外国語の
会話能力を磨きたければ、やはりじっくりと腰をすえて一対一で会話を
する必要があるでしょう。

最初に訪れた高校は、アトランティック・カレッジです。この学校と国
際バカロレアについては、UWC日本ネットワーク<http://network.jp.uwc.org/>
に詳しい説明があります。国際バカロレア独特の教科である「知識の理
論」科目、外国語としての日本語、「世界の宗教」科目などの授業と、
さまざまな施設を見学しました。「知識の理論」科目では、「目に見え
るものがすべてではない」というテーマについて、錯視図形や、肖像画
でのステレオタイプを例に学ぶ授業でした。異文化理解を究極の目的と
する、この学校の存在意義に通じるものがあります。「世界の宗教」科
目は、シーク教についての授業でした。知識の習得を中心とするもので
したが、高校生の段階では、このような基本的知識が、宗教の多様性の
理解や、異なる宗教との共通点と類似点などの比較などの手がかりとな
ります。私自身はかつての生徒として授業や施設は知ってはいましたが、
訪問者としての視点で見られたことは新鮮でした。教育者の方々は、生
徒の熱意や施設の充実度に驚かれていたようです。

サイレンセスター・カレッジでは、課程のひとつに国際バカロレアのコ
ースを設けています。ここでは、国際バカロレアの「母国語としての英
語」(日本の国語の授業に相当)の授業を見学させてもらいました。
「世界の文学」の授業の一環として、ゴーゴリの『検察官』について、
生徒がPowerPointを活用して発表を行っていました。やはり生徒が非常
に熱心なのが印象的でした。

イートン・カレッジ<http://tinyurl.com/efdn3>では、自分の子ども2
人を入学させたというお母さんが案内してくれました。日本の教育ママ
とはさぞかし話がはずむはず。親身な案内ではありましたが、観光案内
の域を出るものではありませんでした。
日本でも、イートン・カレッジなどの全寮制学校をモデルにした海陽学
園が、2006年4月に開校するそうです。イートン・カレッジをモデルに
したことが正しい選択だったかどうかは、やがてはっきりするはずです。

ロンドンでは、大英博物館が、知識の最大の宝庫のひとつであることを、
自分の目で再確認しました。「啓蒙思想」の間や閲覧室では、人類の文
化の蓄積の質と量に圧倒されます。ガイドブックなどの日本語翻訳の品
質が見劣りするのは残念ですが。午前中に入館して、午後8時30分の閉
館まで歩き回り、そういえば前回来たときもこの時間までいたな、と思
い出しました。足の痛みに電気車椅子が欲しくなったほどです。
大英博物館ウェブサイトのCOMPASSというリンクから、収蔵品の写真と
説明が読めます。
http://www.thebritishmuseum.ac.uk/

ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは、音声読み上げにより校正しています》
■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その39)

カタカナ語症候群

読者の皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、「アクセシビリティ」という言葉があります。
http://tinyurl.com/e4kt8
アクセシビリティを必要とする人(特に高齢者)には、意味が理解でき
ないことがあるのではないでしょうか。

英日翻訳された技術文書が、非常に読みにくいことがありますが、その
原因の一つが、カタカナ語の羅列です。これは「カタカナ語症候群」と
呼ぶべきでしょう。実務経験の長い翻訳者ほど、そのことを自覚してい
ないこともあります。長年翻訳をしているうちに、通常の言語感覚から
どんどんずれていってしまうからです。

カタカナで表記した場合には、専門的な意味や特定のニュアンスがある
場合もあります。また、「ニュアンス」、「ローカライゼーション」の
ように、すでに定着している単語の場合は、カタカナ語の方が通りがよ
いこともあります。とはいえ、私は「カタカナ語表記の方が一般的であ
る場合のみ」に、カタカナ表記をするようにしています。こう書くと簡
単なようですが、カタカナ語すべてについて一つ一つ考えると、
「カタカナ語表記の方が一般的である」場合は、かなり限られてきます。

実務翻訳の場合は、使用すべき訳語が用語集で厳密に指定されている場
合があります。用語集がない場合や、用語集に載っていない言葉の場合
は、翻訳者自身が訳語を決めないといけない場合があります。そこで、
漢語、カタカナ語、あるいはその他の表記のどれにすべきかの判断が必
要になります。

カタカナだと、なぜ意味が分かりにくいのでしょうか。漢字は音と意味
の両方を持つ文字ですが、カタカナやアルファベットには音しかありま
せん。ご存じのように、アルファベットの場合は、原語の接頭辞、接中
辞、接尾辞、語根の知識があれば、単語を効率的に覚えたり、見たこと
がない言葉でも意味を類推したりすることができます。たとえば
plaintiff という単語なら、plain-がcomplain(訴える)の-plainと同
じことを知れば、「原告」という意味をすぐに覚えられます。しかし、
カタカナ表記の場合は、元の綴りから離れてしまうために、類推できな
いことがあります。最初から知っている言葉しか理解できないことがあ
るわけです。

なぜ翻訳者はカタカナを使うのでしょうか。カタカナを使うと、発音を
移すだけで「訳し分け」を考える必要がなく、楽に作業できます。本来
ならば、自然な日本語にするには、原文を完全に理解し、その文脈での
意味を考える必要があります。しかし適切な訳語を選ぶには、時間がか
かります。たとえばstorageにはさまざまな意味がありますが、記憶装
置、記憶域、保管などの訳語を使い分けずに一律に「ストレージ」とし
てしまえば、翻訳者は楽です。そして翻訳者が楽をした分、読者にツケ
が回り、どの意味かを考えさせることになります。他にもorientation
を「向き」や「方向」と訳し分けずに一律に「オリエンテーション」と
訳したり、arrangeを「整列(する)」とせずに「アレンジ(する)」
と訳したりしたために、意味が不明確な訳文になることもあります。後
者は、有名なDTP関連のソフトなどで使われています。

また、カタカナでないからといって、漢字ばかり羅列しても読みにくく
なります。本連載の第35回で触れた「喫緊」など、難しい漢語を並べれ
ばよいというものでもありません。つまるところ、もっとも重要なのは
「読み手が理解しやすいか」ということです。そのためには、自分の使
っている言葉について問題意識を持ち、健全な言語的バランス感覚を維
持する必要があります。言葉の使い方には、「唯一絶対」なものはなく、
さまざまな立場と見解があります。翻訳者が集まるメーリング リストや
掲示板などで意見交換をし、他人の意見を読むのも参考になるでしょう。
またGoogleで検索すれば、どの表現が実際に使われているかを、すぐに
調べることができます。ただし「なるべく避けた方がよいカタカナ語」
の場合でも数万語単位でヒットすることもあるため、翻訳者が自分の基
準をしっかり持って、判断する必要があります。

一部の知事などの政治家も、やたらにカタカナ語を連発して周囲を煙に
巻いています。自分が使っている言葉を真に理解していないか、自信が
ないことの裏返しでしょう。

翻訳者は、読者の立場で考え、「どうすれば読みやすくなるか」という
ことを常に念頭に置くことが大切だと思います。特に締め切りに追われ
ているときは、言葉に対する気配りを忘れがちです。それほど時間をか
けなくても、「使わないほうがよいと分かっているけれど、つい使って
しまう言葉」については、Wordの「校正語」機能で指摘させたり、オー
トコレクト機能で自動修正したりすることができます。校正語機能
(「校正機能」のことではなく、校正機能の一部です)については本
メルマガの No.42で簡単に紹介しています。

ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは、音声読み上げにより校正しています》
■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その38) 検索ツールについて

ここのところしばらく、集中的にプログラミングの勉強をしていました。
「プログラミング言語」というと、その専門でない方には取っつきにく
いものと思われるかもしれません。しかし、人工的なものとはいえ、要
するに一種の言葉です。聞き慣れない外国語は思わず吹き出してしまう
ほど変に聞こえることもありますが、「笑えるプログラミング言語」と
いうものもあります。

Hello world program in esoteric languages
http://en.wikipedia.org/wiki/Hello_world_program_in_esoteric_languages

このおかしさを感じるのに、プログラミングの専門知識はいりません。
ここにあるプログラムは、見た目はまったく違うプログラミング言語に
基づいていますが、(基本的には)すべて「Hello World!」という文を
出力する例を示しています。世の中には、ジョークのためだけに、(プ
ログラムではなく)プログラミング言語そのものを作る人がずいぶんい
るということですね。

閑話休題。前回は用語集について考えてみましたが、今回はその用語集
や資料を検索するための「検索ツール」について簡単にご紹介します。

皆さんは、「Googleデスクトップ」などのデスクトップ検索ツールをお
使いでしょうか。
http://desktop.google.com/ja/

デスクトップ検索は、パソコンの中のさまざまなファイル形式の情報を
楽に探す手段です。「以前作成したあの資料をすぐに見たい」といった
ときに、それがパソコンのどこに埋もれていても探すことができます。
ただ、デスクトップ検索は確かに便利なのですが、それだけでは翻訳者
の需要を満たすことはできません。翻訳者は、「パソコン内のすべての
情報」ではなく、特定の用語集や文書に対して、「網羅的に」探したい
ことが多いからです。

Windows XPの場合、Windows標準の検索で、テキストやOffice文書に含
まれる語句を検索することができます。エクスプローラで検索したいフ
ォルダを右クリックして[検索]を選択し、[ファイルに含まれる単語ま
たは句]に語句を入力します。この方法には時間がかかり、対応するフ
ァイル形式も限定されますが、検索する場所が決まっている場合には手
軽で便利です。

既訳や参考資料がPDFだけなら、無料のAdobe Reader 7.0で「特定フォ
ルダ内の複数ファイル」を検索することもできます。Adobe Reader
7.0で[検索]ボタンをクリックして、[検索する場所]から、[参照]を
選択し、対象のフォルダを選びます。その後、検索を実行すると、該当
する個所がすべて強調表示され、文脈も分かります。Googleデスクト
ップでも該当個所は色付けされますが、網羅的ではありません。ただし、
Adobe Readerでの検索も、やや時間がかかります。また資料が常にPDF
だけであるとは限りません。

私は用語検索では、主にKWIC Finderを使っています。
http://www31.ocn.ne.jp/~h_ishida/KWIC.html
無料版ではテキストしか検索できませんが、有料版ではPDFやOffice文
書など多くの形式に対応しており、高速に検索できます。前後の文脈が
分かるという点も、翻訳では重要です。

TRADOSで作業する場合、時間があればMultiTerm形式の用語集を作成する
ことで、あいまい検索ができるようになり、検索もれを防げます。この
場合は、未整理の資料から、用語集として整理する時間も必要になりま
す。MultiTerm用語集は、本来はクライアントや翻訳会社が管理・支給
すべきものです。

なお、Wordでも「検索個所の強調表示」はできます。Wordでは、Ctrl+F
で[検索と置換]ダイアログ ボックスを表示して、[見つかったすべての
項目を強調表示する]にチェックを入れます(Word 2002以降)。この場
合は、1つの文書に対する検索となります。また、テキスト エディタで
も検索結果が文書内で強調表示されるものがあります。

ちなみに、デスクトップ検索では、作成した文書だけではなく、プログ
ラムも検索することができます。ごくたまにしか使わないツールが、ど
こにあるか分からなくなったことはありませんか?また、たくさんの
プログラムがインストールされていると、スタート メニューが非常に
重くなることがあります。このような場合でも、デスクトップ検索では、
探しているプログラムの名前の一部を入力するだけで、探すことができ
ます。

ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは、音声読み上げにより校正しています》
■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その37)
               海と悪魔をめぐる冒険/用語集の形式

ネット上の翻訳関連のコミュニティで、"between the devil and the
deep (blue) sea"という表現についての質問がありました。この表現の
起源としては、devilとは船体の継ぎ目である"devil seam"であり、船
腹に吊り下げられた状態で、船の外側からタールを塗る危険な作業から
きた、とする説があります。海と船の間に人が挟まっている状態です。

図1

海 ~~~ 人 ~ 船

また、『オデュッセイア』などに登場する、海の怪物スキュラと、渦巻
を擬人化した怪物カリュブディスに挟まれた難所に基づくという説もあ
ります。

図2

六頭怪物スキュラ ~~~ 人(船) ~~~ 渦巻(怪物)カリュブディス

どちらの説をとるかによって、ニュアンスが変わります。私は、本来は
前者が起源であるが、後者の解釈の方が一般化したのではないかと推測
しています。なお、研究社の『リーダーズ英和辞典 第2版』では、「進
退窮まって, 前門の狼後門の虎.」とあります。後半のことわざは、趙雪
航が『評史』に書いた「諺に曰く、前門虎を拒げば、後門に狼を進む」
によるそうなので、前後が逆ですね。完ぺきな辞書というものはありま
せんが、だからこそ辞書をもっと活用すべきなのです。1つの辞書に頼ら
ず、複数の辞書を串刺し検索して確認すれば、確実な調べものができま
す。1つの情報源だけでは当てにならないのは、学校の教科書や新聞も
同じことです。読み比べたうえで判断しなければ、調べたことにはなり
ません。

それはさておき、今回は翻訳者が使う用語集について考えてみましょう。
用語集は、個人翻訳者が自分で使う場合、翻訳会社やクライアントが多
人数で共有する場合があります。用語集は、検索ができるのはもちろん
ですが、それは最低限の機能でしかありません。編集と管理がしやすい
ことも重要です。また、翻訳作業を効率化する場合には「用語の訳文へ
の適用」も考える必要があります。

以前は、ファイル形式が異なると、それに応じた検索ソフトが必要な場
合がありました。また、どこに保存してどのように整理するか、という
問題もありました。しかし、デスクトップ検索の登場により、以前ほど
ファイル形式や保存場所を気にする必要はなくなりました。

■テキスト形式

もっともシンプルな用語集の形式は、原語と訳語をタブで区切ってテキ
スト形式で保存することです。これはタブ区切り形式のテキストとも呼
ばれます。どのようなコンピュータでも開くことができますし、必要に
応じてその他の形式に変換することもできます。英語以外の言語と日本
語を混在させる場合、また欧米文字記号が含まれる場合は、Unicode形式
で保存します。エディタには、Unicodeが扱えないものもあるので注意し
ましょう。WordではUnicode形式のテキストで保存することもできます。

■Excel形式

必要に応じてタブ区切り形式やカンマ区切り形式(CSV)のファイルを
Excelで開く、という使い方もできます。たとえば、定義などを含む、
やや複雑な用語集の場合には、Excelで開くことにより、見出しの行や
列だけを固定することができます。固定したい行と列の線の交差点が左
上隅になるセルを選択した状態で、[ウィンドウ]、[ウィンドウ枠の固
定]の順にクリックします。また、Excelで開いてスペルチェックやマク
ロによる一括処理もできます。

テキスト形式ではなく、Excel形式のファイルでしかできないこともあり
ます。色分けによる区分、行と列の幅の維持などです。ただ、Excel形式
では、あいまい検索や複雑な検索はできません。

■Word形式

Excelと同じように、テキスト形式のファイルをWordで開く、という使い
方もできます。Wordには、自動スペルチェックが組み込まれている、あ
いまい検索が可能といった利点があります。またワイルドカードを使っ
た複雑な検索ができます。なにも、エディタでの正規表現(grep)にこ
だわる必要はありません。ただ、Excelと比較すると、並べ替えなど、
行、列、セルの操作は苦手です。

■MultiTerm

TRADOSには、ライセンスの種類によって、MultiTermという高度な用語
管理ツールが含まれています。TRADOSを所有している場合は、確認され
るとよいでしょう。高機能なツールですので、ある程度じっくり時間か
けて使い方を学ぶ必要があります。用語を半自動的に適用することがで
き、また、細かい設定なしに強力なあいまい検索をすることができます。

■翻訳ソフト

翻訳ソフトは、翻訳者が使う用語集としては、もっとも強力です。単に
検索と管理ができるだけでなく、用語をほぼ自動的に訳文に適用するこ
とができるからです。翻訳支援の際に、訳し分けの基準などのコメント
の追加・表示・編集ができるようになれば理想的ですが、まだ実現はし
ていません。

以下の拙記事では、翻訳ソフトを含む翻訳支援ツールの活用法を、分か
りやすい動画デモで紹介しています。

◆翻訳ソフト&翻訳メモリ特集
http://www.alc.co.jp/sp/eng/honyaku-s/index.html

ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは、音声読み上げにより校正しています》
■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その36)最速検索環境の構築

もうしばらくすると、蝉よりもうるさい洗脳カー、もとい選挙カーが走
り回るのでしょうか。公認されているという意味では、暴走族よりもた
ちが悪い。ひたすら候補の名前を連呼するのは、稚拙かつ迷惑で、有権
者を愚弄する行為です。静かな環境で仕事をするためにも、選挙カー撲
滅運動を提唱します。選挙の際には、一方的な主張や演説だけでなく、
各党首間で理性的なディベートを行うべきではないでしょうか。

それはさておき。今後、用語集の具体的な作成についてご紹介する予定
ですが、その前に理想的な検索環境について考えてみましょう。用語集
を作成するにしても、「どのように検索するか」ということが前提にな
るからです。

仕事で文書を作成する人、特に翻訳者は、迅速で効率的な検索をするた
めに、「最速検索環境」を構築する必要があります。最速検索環境とは、
「語句を一瞬で検索できる環境」、つまりマウスオーバーやホットキー
(後述)で単語の意味を確認できる環境です。簡単にいえば、「マウス
ポインタを乗せるだけ」と「キーを押すだけ」で検索できる環境です。
検索の対象には、市販の辞書、自作の辞書、インターネット、さまざま
なファイル形式の参考資料などがあります。今回は、特に辞書検索を中
心にして考えてみましょう。

最速検索環境がない場合には、調べものに時間がかかり、「知っている
つもり」の単語をチェックできないことがあります。きちんとした仕事
をするためには、わずかでも疑問を感じた単語は、すぐに検索できるよ
うにする必要があります。検索という作業は、1日だけでも数十回から、
場合によってはもっと多くすることになります。最速検索環境なしで、
紙の辞書にこだわったり、「コピーして貼り付けて検索」をしたりする
ようでは、二十二世紀が来てしまいます。少しでも作業を軽減する方法
を考えた方がよいでしょう。検索作業に負担を感じて、誤訳や勘違いを
そのままにする事故を防げます。

検索の場合、「マウスオーバー」とは、目的の単語にマウス ポインタを
合わせることです。単語にマウスオーバーするだけで、その単語の意味
が表示される検索ソフトがいくつかあります。ロボワードやBabylonなど
です。おそらく、これ以上検索という作業を楽にすることはできないで
しょう。対象言語にあまり親しみがなく、頻繁に辞書を引く必要がある
場合には特に便利です。たとえば、英文のニュース記事などを読む場合、
見慣れない単語や表現に出くわしても、スムーズに意味を確認すること
ができます。また、ロボワードの場合は、翻訳ソフトと連動して動作し
ます。ただ、これらの検索ソフトだけでは、網羅的で理想的な串刺し検
索環境が構築できません。また、動作の安定性、設定方法、多数の検索
結果の表示方法など、使い勝手にまだ課題もあります。さらに、マウス
オーバーでは、数語の連なりからなる表現は範囲が特定できないために、
そのままでは検索できない語句もあります。 「ホットキー検索」とは、
検索する語句を先に選択しておいて、特定のキーを押すことにより検索
する方法です。語句の範囲が指定されているので確実に検索できます。
また、マウスオーバー方式よりも検索ソフトの選択肢が多くなります。
ホットキー検索の環境を実現するにはさまざまな方法があります。たと
えば、語句をコピーしたタイミングで検索される、「クリップボード検
索」ができる検索ソフトがあります。クリップボードとは、文字やさま
ざまなデータをコピーしたり切り取ったりしたときに、一時的にそのデ
ータを格納する場所のことです。クリップボード検索は、文書を読むだ
けならホットキー検索と変わりません。しかし、検索しながら文書を作
成したり翻訳したりする場合には、検索したい語句でなくても、コピー
や切り取りをするたびに検索されてしまうので不便です。そのため、ク
リップボード検索ではない、独立したホットキーを設定する必要があり
ます。F1~F12 のファンクション キーを割り当てるのもよいでしょう。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは、音声読み上げにより校正しています》
「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その35)役所言葉の解剖

「金融庁が目安箱を作った」というニュースを見て、「またか」と思
われた方もいらっしゃるでしょう。
http://www.fsa.go.jp/receipt/meyasu.html

目安箱とは、みなさんもご存じのとおり、八代将軍・徳川吉宗が「庶
民の要求・不満・役人の不正の告発などの投書を受けるために、評定
所の門前に置かせた箱」のことです。当時、不当な訴えなどは処分の
対象となったそうで、民主主義や言論の自由とは程遠いものです。こ
の名称は、時代錯誤的で国民を侮辱するものです。二十一世紀の今、
国民の利益のために存在する公僕が使う名称ではありません。「ご意
見拝聴箱」ではなぜいけないのでしょうか。そもそも、こんなに不正
が横行している時代で、吉宗を気取ることが片腹痛いことですが。談
合が止められないなら、いっそ合法化して「田沼箱」や「談合箱」で
入札すればよいでしょう。

「天下り」という言葉にも(行為にも)腹が立ちます。自分たちは神
様のつもりなのでしょうか。知人に官庁に勤める人が何人かいますが、
年を取っても、甘い汁を吸うような人間にはなってほしくないもので
す。

それはともかく、役所言葉は昔から意味不明瞭の代表格ですが、今回
はその日本語を検討してみましょう。

「これからの時代に求められる国語力について」(文化審議会答申、
2004年2月3日)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/toushin/04020301/002.htm

国語の授業のお手本にしたくなるような、ため息が出るような文章、
ではありません。一般にありがちな日本語の文章の欠点が多く見受け
られます。論拠、具体例、統計をほとんど述べず、感情的な主張を並
べ立てているために説得力がありません。
「なぜか」を追求する論理能力、思考力が弱い教育の影響でしょう。
以下、引用個所の先頭には■記号を付けています。

■「また,言葉によって多様な人間関係を構築することのできる『人
間 関係形成能力』や目的と場に応じて『効果的に発表・提示する能力』
は,現在の社会生活の中で強く求められている能力の一つであるが,
これらの根幹にあるのもコミュニケーション能力であり,国語の力で
ある。」

「能力の一つ」と書いていますが、2つ挙げていますね。この直後に
「これらの根幹……」と書いているように、書き手はこの「能力」が
複数であることは意識していたようです。ここで「能力の一つである」
と書く必要はありません。これはもったいぶった書き方の典型例です。
「能力の例である」または「重要な能力である」などと書けば、よい
はずです。国語の話をしているときに「コミュニケーション」という
外来語を乱発するのも、違和感を覚えます。約3300字の中で9回も使っ
ています。しかも、「コミュニケーション」とは何か、ということに
ついては定義されていません。

■「いじめや不登校,家庭内暴力,少年非行などの子供をめぐる諸問
題についても,子供同士,子供と教員,子供と親,子供と大人などの
間で言葉を介しての意思疎通や,日常的なコミュニケーションが十分
にできなくなっていることが,一つの原因ではないかと指摘する声も
ある。」

「意思疎通」、「コミュニケーションが十分にできなくなっているこ
と」は2つです。ここでまた、「一つの原因」というもったいぶった書
き方をしています。さらに、ここでの「コミュニケーション」も何を
指しているのか不明確です。「意思疎通」とどう違うのでしょうか。

■「これらの諸問題への対応の面からも,言葉を用いて伝え合う能力
の育成は子供たちの教育における喫緊の課題であると考えられる。」

「喫緊の課題」。これをなぜ「優先課題」と書かないのでしょうか。
「喫緊」と書いたとき、書き手の頭の中では「オレハ エラインダ」マ
ーチが鳴り響いていたことでしょう。「優先」と書くと知的レベルが
低いと思われるのでしょうか。「分かりやすく書く」ことこそが「意
思疎通」には重要だと私は思います。また、この文の最後の「と考え
られる」は余分です。

■「これらの情報を適切に活用する能力,具体的には,膨大な情報を
速やかに処理・判断する能力,必要な情報と必要でない情報を選択す
る能力,多くの必要な情報の中から本質をつかみ取る能力,また,限
られた時間の中で的確に文章をまとめて自らの情報を発信する能力な
どがこれまで以上に求められる。」

悪文の典型、「長すぎる文」です。1つの文にこんなに情報を詰め込ん
ではいけません。「意思疎通」が妨げられます。「情報を速やかに処
理・判断」するために、この文を見やすく提示するにはどうしたらよ
いでしょうか。たとえば、箇条書きにするとよいでしょう。しかし、
箇条書きには必ず説明が必要です。この文は、これだけで完結してい
るので、単純に箇条書きに直しただけでは説明不足であることにかわ
りありません。

■「これらの力を伸ばす上で,国語の運用能力や読書などによって培
われた大局観が根幹となることは言うまでもない。」

「言うまでもない」という書き方ももったいぶっており、読者を軽ん
じています。「言うまでもない」なら最初から書いてはいけません。
これは、「これ以上説明しなくても分かるだろう」という逃げの一手
です。
しかも、この文が、この文章の最後の文です。書き手は、本当にこれ
以上何も説明する気がないようです。「読書」「大局観」という言葉
は、この文で初めて登場しますが、どのような読書かは一切説明して
いません。自分の思いこみを、相手に押しつけようとしていると思わ
れてもしかたがありません。

少なくとも、この文章は、日本語作文の課題を考えさせるきっかけと
しては、役立ったといえます。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
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 《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上
げにより校正しています》

■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その34)

パソコン技能の必要性4/Excelマクロの活用例1

 先日、アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)の会合に出席しました。翻
訳ソフトメーカーと翻訳者とのギャップはいまだ小さくはないものの、
少しずつ改善されているように感じています。
 さて、今回は、これまでの流れから少しわき道にそれますが、マクロ
の活用例について、具体的な問題解決のケースで考えてみましょう。
初心者の方には全体を把握するのがちょっと難しいかもしれませんが、
ひとまず、「マクロでどのようなことができるのか」「翻訳者が実際に
どのように問題解決をしているのか」ということを感じていただければ
と思います。
 英日の翻訳メモリ「EJ」と英仏の翻訳メモリ「EF」があり、この2つ
から仏日「FJ」の翻訳メモリを作りたいとしましょう。みなさんならど
うされますか? ちょっとした頭の体操ですね。英仏日の3言語で分節の
数と内容が完全に一致している場合には、Excel で並びかえるだけで簡
単に作成できます。しかし、現実はそう甘くありません。共通する英語
の分節がEJとEFで半分程度しかないとしたらどうでしょうか。結果的に
5000分節程度しか再利用できないとしても、あるとないとでは大違いな
ので、なんとかして作りたいところです。
 翻訳メモリが TRADOS の場合は、まず、Workbench から翻訳メモリを
テキスト形式で書き出します。次にタグをエディタなどで一括削除し、
タブ区切り形式にします。ここで Excel のマクロを使うとしても、数
万分節ある場合、「総当たり」で行を比較してチェックすると、時間が
かかりそうです。このような場合は、Excelでの下準備が必要です。英日
の翻訳メモリと英仏の翻訳メモリをExcelに貼り付けて、A列がフランス
語、B列が英語、C列が日本語になるように列を適宜入れ替えます。つま
り、英語のB列で並び替えができるようにするわけですね(MSゴシック
などの等幅フォントでご覧ください)。

F1    E1
F2    E2
       ~
F9999 E9999
       E1    J1
       E2    J2
       ~
       E8999 J8999

のようにします。ここで、B列を基準に並び替えると次のようになりま
す。並び替える際は、ダイアログが表示されるので、選択範囲を拡張
するようにします。すると、次のようになります。

F1    E1
       E1    J1
F2    E2
       E2    J2
F3    E3
       E4    J4
……

 最初の4行については英語の分節が共通しているため、めでたく F1J1、
F2J2 の翻訳単位ができることになります。F3E3、E4J4 については共通
する英語の分節がありません。つまり、E3はFEにしか、また E4はEJの
翻訳メモリにしか含まれませんので、無視する必要があります。マクロ
を作る場合は、B列の上下のセルを比較して、E1やE2のように同一であ
ればB列の重なる部分を削除し、E3やE4のように異なっていればその行
全体を削除するような処理にすればよいわけです。このような作業を手
作業でしていてはたいへんですが、マクロを上手に作成することで、効
率的に作業できます。仏日のペアが完成したら、今度はそれを TRADOS
に取り込める形に変換する必要があります。私は、この工程も実際にマ
クロによって行っています。
 ここでは具体的なマクロの作成方法までは触れません。また、実際に
マクロを作成する場合には、バグがなくなるまで、マクロを何度も調整
する必要があります。また、いきなりオリジナルのデータに対して作業
するのではなく、コピーを作成したうえで、まずは数行程度の処理でき
ちんと動作するか確認します。特に Word と違い、Excel の場合は、マ
クロで処理をした場合、[元に戻す]という操作ができないので、注意が
必要です。
 なお、Excel はその仕様上、65,536行までしか扱うことができません。
Excel 互換の表計算ソフト、OpenOffice Calc ではどうかと調べてみる
と、現時点での最新版では Excel と同じです。つまり、この方法では、
英日の翻訳メモリと英仏の翻訳メモリ内の分節の合計が、65,536以下で
ある必要があります。

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 《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上
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  【著者プロフィール】
   山本 ゆうじ(やまもと・ゆうじ)
   フリーランス実務翻訳者。国際学校 UWC イギリス校で二年間学び、
 筑波大学を経て、シカゴ大学人文学修士号を取得。
 日英仏語で、美学・比較文学・芸術学・文章技法などを学ぶ。
「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その33)

パソコン技能の必要性3/自動化のためのマクロ

 メイン機として使用している水冷式パソコンがしばらく前に故障した
ので、修理に出していました。サブ機としてノートパソコンがあるので
すが、以前から性能不足を感じていたので、新しいノートパソコンを買
いました。メイン機が戻ってきてからも、Windows のシステム自体にも
複雑な問題が発生していたため、その修復にはずいぶん時間がかかりま
した。ただ、何重にもバックアップをしていたので、データの損失はあ
りませんでした。みなさんにも、ふだんからバックアップの習慣をつけ
ることをお勧めします。めったにないでしょうが、システムに複雑な問
題が発生したとき、その修復に時間をかけたくなければ、システム全体
をバックアップするソフトが必要になります。

 さて、今回は作業の自動化について少し考えてみましょう。これまで
にも何回か触れてきましたが、みなさんはOfficeのマクロをお使いです
か?
 Office のマクロは、VBA (Visual Basic for Applications) というプ
ログラミング言語に基づいています。特定の操作を記録・再生するだけ
なら、VBA についてほとんど知らなくても、ある程度のことはできます。
マクロの作成環境は、Office に含まれているので、他に何かを購入した
りする必要はありません。TRADOS の Word 上のインターフェイスも、マ
クロで作成されています。

 一般に、プログラミングというものは、ある程度の水準までしっかり
知識と技能を身につけないと、なかなか役に立つものを作ることができ
ません。しかし、マクロ(VBA)では、少しの知識でも、場合によっては
作業を大幅に楽にできることがあります。もちろん、VBA のプログラミ
ングの基本を身につければ、さらに込みいった処理もできます。重要な
のは「特定のパターンさえ分かれば、パソコンにそのパターンを処理す
るための手順を教え、パソコンに作業させることにより、人間は楽をす
ることができる」ということです。マクロとは、その「パターンを処理
するための手順」です。たとえば、特定の文字列Aを別の文字列Bに置換
する場合、何度もその作業を行うなら、そのためのマクロを作成すれば、
ボタンひとつで作業ができるようになります。

 さまざまな翻訳支援ツールも、突き詰めれば特定のパターンを処理す
るものですが、マクロでは、その処理の手順を、状況に応じて簡単に書
き換えることができます。先ほどの例で言えば、検索する文字列や置換
する文字列を必要に応じて自由に変更することができます。何度も使う
パターンと分かっていれば、それぞれのパターンに応じてマクロを作成
すればよいわけです。複数のマクロを組み合わせることで、複雑な処理
をすることもできます。

 マクロの作成についての情報は、こちらが参考になります。

モーグ
http://www.moug.net/

 本格的なマクロを作成するときは、VBAのヘルプが不可欠です。これは
Office のセットアップ時に含まれていないことがあるので、もしなけれ
ば Office のセットアップを実行して追加します。ヘルプ内の検索機能
を利用して、必要な情報を徹底的に探し出す必要があるでしょう。また、
日本語・英語にかかわらず、インターネット上の情報も役立ちます。

 うまく動作するマクロを作るためには、それなりの勉強と、試行錯誤
の労力と時間が必要です。仕事に追われていると、なかなか研究の時間
が見つからないかもしれません。ただ、「同じような作業を毎日繰り返
している」と感じたら、マクロを活用することで、生産性を大きく上げ
ることができるはずです。少しずつでも技能を身につければ、そのぶん、
楽に仕事ができるようになります。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。初心者の方、上級者の方、いろいろ
いらっしゃると思いますが、「内容が難しすぎる」「こういうことにつ
いてもっと詳しく知りたい」といったご要望があれば、考慮させていた
だきます。

 先日、ブログ(Web上の日記)を始めました。よろしければご覧くだ
さい。
http://cosmoshouse.air-nifty.com/

 《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上げ
により校正しています》
■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その32)        山本ゆうじ

 毎日、英語ばかり、文字ばかり見て疲れた方は、息抜きに、京都やヨ
ーロッパの風景の写真でもいかがですか。
http://www.flickr.com/photos/yuji/
 このサイトには自分で撮った写真を見せびらかすための、さまざまな
機能があります。写真に見るグローバルな「いき」の研究を始めたとこ
ろなので、ひとつご協力をお願いします(「いき」は、シカゴ大学での
私の修士論文のテーマでした)。

 さて、前回の続きです。
 翻訳メモリと翻訳ソフトを組み合わせた、効率よい翻訳ワークフロー
SATILAのためには、どのようなパソコン技能が必要でしょうか。「翻訳
者のための翻訳ソフト」では、ユーザー辞書が重要であることは何度か
ご説明したと思います。翻訳ソフトは、一種の「用語適用ツール」です。
このことは「クライアントから支給された用語集がしっかりしていると、
翻訳ソフトが活用しやすい」ということでもあります。そして、その用
語集がきちんとユーザー辞書に取り込まれていれば、翻訳のかなりの部
分が自動化できます(もちろん、前回までのコラムで述べてきた要件を、
翻訳者が満たしていることが前提です)。クライアント支給の用語集が
あれば、翻訳ソフトの辞書にインポートできるように整形する作業をし
ます。そのためには、エディタやExcel、翻訳ソフトに含まれる辞書管
理ツールを使いこなすことが重要です。

 また、用語集にはスペルミスや表記のゆれがあることも少なくありま
せん。用語集とスタイル ガイド(表記の規則)が矛盾していることも
あります。TRADOSの用語管理ツールMultiTermの場合では、強力なあいま
い検索機能があるために、用語集に登録された形にかかわらず、複数形
や過去形、複合語の一部でも検索できます(そのため用語集の品質が悪
くても、なんとか使うことができます。逆に言えば、矛盾や問題の多い
用語集では、MultiTermの活用が重要になってきます)。しかし、翻訳ソ
フトのユーザー辞書に登録する場合は、必ず原形に直す必要があります。
また、Wordでのスペルチェックや文章校正が事前に必要な場合もありま
す。このような場合に、さまざまなソフトをしっかり使いこなすパソコ
ン技能がないと、用語集の作成に手間取ることになります。

 なお、専門性が高くなればなるほど、訳語の選択肢が狭まり、翻訳ソ
フトの自動処理でもほぼ適切な訳が出るようになります。専門性が高け
れば、たとえ訳し分けが必要な場合でも、合理的な理由があるはずです。
翻訳ソフトが苦手とするのは、「明確な規則性がない場合」なのです。
「どう訳すか」ということがルールとして定めることができれば、それ
はすなわち自動化できるということです。もちろん専門性が高い場合に
は、専門的な用語がすべて用語集で網羅されていることが前提となります。

 残念ながら、クライアント支給の用語集がない場合もあります。一般
に、翻訳ソフトの能力を十分に引き出すには、用語集があることが望ま
しいといえます。これはつまり、一定の規模以上の翻訳プロジェクト、
または特定のクライアントで、一貫して翻訳ソフトを用いると効果が大
きいということです。翻訳の規模が大きくなればなるほど、労力をかけ
て作成した用語集が何度も活用されるわけですから、結果的に効率が良
くなるわけです。用語集の重要性をクライアントにしっかり理解しても
らえれば、「用語集の作成」を仕事として認識してもらえるはずです。
用語が統一されていないと、クライアントでのチェックにも時間がかか
り、また時間の制約があると訳文の品質が落ちますから、結局一番困る
のはクライアントなのです。

 用語集は、タダでできるもの、単なるおまけと考えてはいけません。
時間と労力をかけて作る必要があります。十分通じる漢語の訳語がある
場合に、コンフィギュレーション、イニシャライズ、イネーブル、プリ
ファレンス、アドレッシング、フラグメンテーション、プロテクション
など、安易なカタカナ語を使っていないでしょうか。またカタカナの訳
語の方が浸透しているにもかかわらず、無理に分かりにくい漢語を使っ
ていないでしょうか。そしてこれらの点で、読み手の理解度を下げてい
ないでしょうか。また、さまざまな文脈でも問題がないか、翻訳者や翻
訳の読み手(ユーザー)などからのフィードバックを反映させる仕組み
はあるでしょうか。翻訳者、翻訳会社、クライアントのどの立場であっ
ても、用語集(すなわちユーザー辞書の元)を軽視していると、後々困
ったことになります。逆に矛盾やあいまいさのない用語集を最初にしっ
かり作っておけば、大幅な効率化と品質の向上が可能なのです。もちろ
ん、「最初にしっかりしたものを作る」ということは、翻訳メモリにも
当てはまります。

 以下では、今回ご説明したことを踏まえた、翻訳ワークフローSATILA
の実例をご紹介しています。
http://cds.cosmoshouse.com/satila/examples.htm

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■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その31)        山本ゆうじ
 
脳内翻訳再び/パソコン技能の必要性1

 理想的な翻訳ワークフロー SATILA に必要な要件については、「翻訳
道具箱」27回から前回までご説明してきました。簡単にまとめると、翻
訳ソフトの訳に引きずられない自然な日本語能力、英語を英語として理
解する TOEIC850 以上の英語能力、そして脳内翻訳技能です。さて、翻
訳ソフトを使用する翻訳ワークフローSATILAでは、日本語力、英語力、
翻訳力に加えて、高度なパソコン技能も要求されます。

 その前に、以前、通訳者への言及に関して、読者の方からご質問があ
りましたのでお答えしておきます。私は「通訳ができれば SATILA がで
きる」と言ったわけではありません。業務用翻訳ソフトを使用する翻訳
ワークフローにおいては、「英文を『一文丸ごと』英文として解釈し、
パソコンに訳文を入力する前に、頭の中で日本語に置き換える(脳内翻
訳)」という技能が必須である、ということが言いたかったわけです。
「入力しながら単語単位で順次翻訳していく」という古い作業スタイル
が身に付いている場合は、ワークフローの流れの速さについていけません。
このような作業スタイルはペンと紙を使っていた翻訳の名残です。パソ
コンを活用した翻訳ではもっとスピーディーに翻訳作業が進行するため、
作業する翻訳者の脳味噌も全力で機能する必要があるわけです。

 この脳内翻訳技能は通訳と共通する点があります。通訳も単語単位で
訳していくわけではなく、文全体とは限らないものの、まとまった範囲
を脳内で日本語にしているわけです。しかし、脳内翻訳は必要条件であ
って十分条件ではありません。高度な日本語力、英語力、翻訳力、パソ
コン技能が必要であり、通訳ができれば SATILA ができるわけではない
のです。ただ、逆にいえば SATILA には、通訳ができる程度の脳内翻訳
技能が必要ということであり、英語での会話技能かつ通訳の技能があれ
ば SATILA をスムーズに身につけることができるはずです。脳内翻訳と
いっても、完全な日本語文の一語一句を明確にイメージする必要はあり
ません。たとえば、名詞句とわかる連なりは、「名詞句だな」というこ
とさえ認識できればよいわけです。

 さて、SATILA では高度なパソコン技能も必要です。パソコンでの効率
的な作業方法が一定の水準に達している必要があり、VBA マクロ作成や
VBA プログラミングができれば理想的です。中途半端なパソコン技能で
は、逆に時間がかかるだけです。よくある誤解ですが、「プログラマー
だからパソコンを活用できている」というのは、必ずしも真実ではあり
ません(もちろんパソコンを使いこなしているプログラマーも多いと思
いますが)。「パソコンといえばプログラミング」という古い考え方は、
学校での情報教育の現場などで、今でも根強いものです。しかし、パソ
コン、特に Office やエディタ、各種ツールの使いこなしによる「情報
生産性向上のための技能」は、プログラムを開発する技能とは、まった
く異なる技能であり、個別に身につける必要があります。「パソコンと
いえばプログラミング」という言葉は、VBA などのスクリプト言語など
を対象とする、新しい意味においてのみ真実といえます。

 なぜ翻訳業務にマクロや VBA が重要なのでしょうか。簡単に言えば
「自動化」を実現してくれるからです。時間的にもコスト的にも制約の
ある実務翻訳においては、好きなだけ時間をかけて翻訳をするというわ
けにはいきません。これはもちろん手抜きをするということではなく、
効率よい翻訳の方法を徹底的に研究する必要があるということです。マ
クロや VBA を活用すると、翻訳で発生する多くの単純な反復作業を、
翻訳者がするのではなく、パソコンにさせることができます。「パソコ
ンでする翻訳」といっても、実際の作業過程を、翻訳者がするか、パソ
コンがするかでは効率が大きく異なります。もちろん、すべての作業を
パソコン任せにできるはずがありません。しかし、「だれがやっても同
じ結果にしかならない仕事」がかなり多いのも事実です。IT 翻訳では、
click はほとんどの場合「クリック」と訳しますし、button はだれが
訳しても「ボタン」です。そのような仕事は、人間様がわざわざ手を下
すことはなく、絶対にパソコンを活用すべきなのです。問題は、どうす
れば、パソコンがすべき仕事をパソコンにさせることができるか、とい
うことです。

 次回は、パソコン技能の必要性についてもう少し具体例をご紹介しま
しょう。

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《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上げ
により校正しています》
■「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その30)英語力と翻訳ソフト

(私の手違いにより記事の順番が入れ替わりました。この記事は本来な
らば「第28回・日本語力と翻訳ソフト」の前に位置するとお考えくださ
い。混乱を招いて申しわけありません。)

英語の能力が高いだけで翻訳ができるわけではありません。しかし英語
の能力が一定以上でないと、翻訳ができないということもまた事実です。

皆さんもよくご存じのように、英検とTOEICは英語の指標としてよく使用
されます。英検もようやくTOEICを意識して変わりつつあるようですが、
少なくとも私が昔受験した時期の英検と現在のTOEICを比べると、実用性
の測定という点ではTOEICの方がはるかに優れています。ただ、TOEICは、
ある程度英語ができる人間の間では、TOEFL、SAT、GRE などと比較して、
「もっとも簡単な英語の試験」とみなされています。翻訳者とチェッカー
は、最低でもTOEIC 850を持つべきはないでしょうか。TOEICだけで英語
の能力を総合的に計ることができるわけではありませんが、普及率の点
からも実際的な指標として役立ちます。

さて、翻訳者であればだれでも翻訳ワークフローSATILAが使用できるわ
けではありません。「英語力がある翻訳者のみが翻訳ソフトを使うこと
ができる」ということについては、以前にも少し触れました。翻訳ソフ
トを使う場合は、通常の翻訳者よりもさらに高度な英語力が必須となり
ます。本連載の第26回では、全自動翻訳システム(MOT)と翻訳支援シス
テム(SATILAとSATWLA)の違いについてご紹介しましたが、システムを
使用するユーザーの点でも違いがあります。全自動翻訳システムは英語
の素人から中級者クラスが使うものですが、翻訳支援システム、特に
SATILAでは英語の上級者でなければ使用できません。何をもって上級と
するかは、議論もあると思いますが、ここでの上級者とは便宜的にTOEIC
850としておきましょう。

つまり、2005年2月現在、TOEIC 850以下の翻訳者では、SATILAの使用は
困難と考えています。全自動翻訳システムは「原文理解の支援」が目的
ですが、SATILAでは、「原文理解の支援」は、目的ではなく、前提条件
だからです。言い換えれば「原文の理解が不十分な人が、プロのレベル
と同じ訳文を作成する」という機能は、現在の翻訳ソフトには期待でき
ません。翻訳ソフトがソリューションとして威力を発揮するのは、あく
までも翻訳者の英語力が翻訳ソフトを完全に上回っているときだけです。
翻訳ソフトによる原文理解の支援が必要な人には、SATILAで納品品質の
訳文を作ることは困難でしょう。この能力不足を翻訳ソフトで補うには、
今後の技術の発展により、現在よりもさらに構文解釈の精度を高める必
要がありますし、もっと洗練された翻訳支援の機能が必要です。翻訳ソ
フトは、翻訳者としての本質的な質を単純に向上できるわけではありま
せん。しかし、「すでにプロである翻訳者がさらに効率を上げる」とい
う用途には使えるわけです。

比較的語彙が限定されている英日のIT翻訳の場合、run-onセンテンスの
ような悪文や非常に例外的なものを除いて、現在の業務用翻訳ソフトの
「構文解釈の」正答率は、総合的に見て75~90%程度ではないかと思い
ます(不適切な訳語選択については考えていません)。これは設定が正
しくされており、ユーザー辞書が数千語以上構築されている場合であり、
何も設定がされていない初期の段階ではこれよりも大幅に低くなります。
これは翻訳ソフトについて誤解をしている人にとっては高い数字かもし
れません。しかし、構文解釈を完全に翻訳ソフト任せにすることはでき
ないということです。ただし、別解釈がきちんと機能する翻訳ソフトで
あれば、数回クリックするだけで正しい解釈をすぐに探すことができます。

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《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上げ
により校正しています》
■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その29)       山本ゆうじ

翻訳力と翻訳ソフト

 先日、京都に数日間立ち寄りました。観光シーズンの谷間で観光客も
少なく、東寺や三十三間堂も貸し切りの気分を味わえました。仏閣巡り
に飽きたら、いわゆる観光名所ではありませんが、今に生きる京都の文
化として、京都市勧業館「みやこめっせ」での工芸品の制作過程の紹介
などはお勧めです。

 京都での滞在中に、翻訳ソフトの基礎技術を開発する研究者の方たち
とお話しする機会がありました。色々と興味深い話を聞くことができま
したが、やはり翻訳者の現場のニーズとはかけ離れていると感じました。
「ソフトで何が可能か」という点のみに関心が集中し、「どのようなユ
ーザーが実際にどのように使うか」という需要やワークフローの議論で
はないわけです。最終的には一般ユーザー向けに使われる技術でも、翻
訳者のノウハウが無関係ではないはずです。翻訳者と自然言語処理の研
究者が、真剣に意見交換をする場があれば、双方にとって大変有益であ
ると思います。

 さて、前回までは、英日翻訳で業務用翻訳ソフトを活用する際の、原
文を正しく理解する英語力、自然な訳文にする日本語力についてご説明
しました。これらに加えて、翻訳者自身の「翻訳力」も重要です。「翻
訳ソフトが翻訳をするのに、翻訳者の翻訳力がどうして関係あるのか」
と思われるかもしれません(なんだか早口言葉みたいですね)。しかし、
翻訳者が使う場合は「翻訳ソフトが翻訳をする」のではありません。翻
訳するのはあくまでも翻訳者であり、翻訳者の意図がユーザー辞書を介
して、訳文に完全に反映される必要があります。

 翻訳ソフトで作業する場合は、「翻訳してから理解する」または「翻
訳しながら理解する」のではなく、「英文を英文として理解」した上で
翻訳する技能が特に重要と思われます。それは、翻訳ソフトが出した訳
が自分の思い通りの訳であるかということを、リアルタイムで比較して
確認する必要があるからです。

 学校教育ではしばしば「英語の理解」=「翻訳」という考え方から脱し
ていない場合が見られます。翻訳作業でパソコンを使用していてもワー
プロとしてしか使用していない場合、文の先頭から読みながら日本語に
置き換えていくという方法になりがちです。このような方法では、理解
を誤ることもありますし、訳すべき単語が抜けてしまう「訳抜け」が発
生します。

 そうではなく、「英文を英文として理解」した後で、頭の中に訳文
(和文)の語句を想起することが必要です。これを「脳内翻訳」と呼ん
でいます(翻訳道具箱の「その20」もご覧ください)。以下に、翻訳作
業の中で、翻訳ソフトにかかわる手順の一部をまとめてみました。

1. 翻訳者が原文(英文)を原文として理解
2. 頭の中に訳文(和文)の語句を想起 = 脳内翻訳
3. (翻訳ソフトが、事前に指定したユーザー辞書(用語集)に基づい
て翻訳を生成)
3'. (後処理ツールで生成された翻訳を補正)
4. 脳内翻訳と自動翻訳を比較
5. 自動翻訳処理の不備を手動で修正

 ここでは、3と3'は分けていますが、実際には1ステップで行われます。

 英語での十分な会話能力や、通訳者としての技能があれば、「翻訳は
頭の中でできる」ということが実感できるはずです。そして頭の中でで
きることを文字として入力する一手段としての、翻訳ソフトの重要性に
ついても、お分かりいただけるかと思います。

 また翻訳ソフトの大きな利点として、翻訳時に単語をもらすというこ
とはありません。文が長くて語句をすべて想起できない場合でも、生成
された訳と比較、確認することで、効果的に訳抜けを防止することがで
きます。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上げ
により校正しています》
■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その28)       山本ゆうじ

日本語力と翻訳ソフト

 今、"CSI: Crime Scene Investigation"の再放送にはまっています。
Grissomの徹底したプロ精神には惚れます。日本のコピー番組がままごと
のように見えます。翻訳をしていてわからない言葉が出てきても、簡単
にあきらめずに、彼のように真相を追求していきたいものです。

 さて、翻訳支援システムの一部として翻訳ソフトを活用する場合、日
本語力が非常に重要になってきます。昨今は巷に珍妙な日本語があふれ
ています。しかし、残念ながら「未設定の」翻訳ソフトが出す不思議な
日本語にはかないません。そうかといって、ここであきらめてしまって
は、翻訳ソフトの真の力を活用することはできません。翻訳ソフトが珍
妙な日本語を出すのは、ユーザー辞書が正しく構築されていないのが最
大の原因です。この点は、世界の中心で叫び出したくなるほど重要です。
とはいえ、ユーザー辞書がしっかり構築できていても、それだけではカ
バーできない「翻訳ソフトの癖」があります。しかし、翻訳ソフトの
「癖」・不自然さは、そのパターンさえ見つけることができれば、自動
置換処理を行うことによって自然な日本語に近づけることができます。

 ここに、実際的な問題点が2つあります。第一に、「自然で正しい日本
語とは何か」ということ。これは翻訳者の経験と質の問題です。第二は、
「自動置換処理をどのように実装するか」という点です。これは翻訳者
のパソコン技能に関係しています。前者の「自然な日本語」の基準につ
いては、翻訳の仕事を通して身につけていくことになるでしょう。ただ
し漫然と翻訳していては、何年、何十年翻訳していても自然な日本語に
なっていないこともあります。特定の訳し方に慣れてしまって、そこか
ら抜け出せなくなることもあるでしょう。また、時間をおいて読み直し
てみると、自分の訳の問題点に気がつくこともあります。日ごろから、
自然な日本語に対する問題意識を養うことが必要です。

 自動置換処理は、「後編集」に当たる過程を大幅に自動化するもので
す。この機能は、まだごく一部の業務用翻訳ソフトしか備えていないの
で、現時点では自分で作るしかありません。このため、マクロの作成な
ど、かなり高度なパソコン技能が要求されます。自動置換処理は、「完
全な自動化」を実現できるものではありません。つまり「正しく翻訳さ
れているか」ということについて、翻訳者が常に結果を確認する必要が
あります。ですが、これまで翻訳ソフト活用の大きな課題であった、後
編集を最小限にすることができます。

 日本語力という点については、日英翻訳においても大きな課題があり
ます。これは翻訳者の日本語力ではなく、原文作成者の日本語力につい
てです。以前にも触れたように、英日の自動翻訳処理では、構文解釈が
かなりの確率で正しく行われます(それでも間違えた場合に訂正する際
に、翻訳者の英語力が必要になります)。これと比べて、日英の文法解
析は非常に困難です。よく言われるように、日本語は語順が自由で非定
型的であり、また多様な表記が可能です。ただ、これは日本語の問題と
いうより、書き手の意識の問題といえます。つまり、語順が自由であっ
ても修飾関係をあいまいにさせない書き方は可能ですし、多様な表記が
可能であっても文章全体できちんと統一されていれば、自動処理が可能
になります。

 翻訳対象の日本語があいまいかつ読みにくいというのは、自動翻訳以
前の、日本からのすべての情報発信にかかわる根本的な問題です。一般
に、原文作成者の、文章に対する意識が低いことが問題であり、つまる
ところは国語教育の問題です。言語による批判的なコメントとフィード
バックを軽視して、偏差値のように数字化できる結果のみを重視するの
は、一見客観的に見えます。しかし、実は言語に基づく論理的な思考を
避けているだけにしかすぎません。国語教育は、明確性と論理性という
視点から、完全にオーバーホールする必要がありますし、論文問題は理
系科目でも重視されるべきです。日本人が多少なりとも論理的な文章を
書けるようになるまで、翻訳を介しての日本からの情報発信は進まない
でしょうし、日英ソフト翻訳も苦難の道を歩むことでしょう。

ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上げ
により校正しています》
■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その27)       山本ゆうじ

TRADOS の対抗馬?―TraTool

 大接戦だったアメリカ大統領選挙について結果を云々するのはここで
は控えますが、二大政党制が実際に機能しているという点には改めて感
心します。某国のように民主主義を唱えながら一党独裁がだらだら続く
のは、望ましい状態ではありません。疑惑がつきまとう政界に喩えるの
は翻訳業界に対して失礼ですが、対抗馬があって初めて切磋琢磨できる
のは、政治でも翻訳業界でも同じでしょう。

 今回はちょっと脱線して、2004年10月20日 に発表された TraTool と
いう翻訳メモリについて取り上げてみたいと思います。
 http://www.tratool.com/

 この製品は、翻訳者の間では有名なメーリング リスト tratool-jp と
同じ名前ですが、別に関係はないようです。

 まず製品Webサイト上の宣伝文句を見て、翻訳メモリ+翻訳ソフトの統
合ツールかと思いきや、従来型の翻訳メモリでした。翻訳ソフトが「全
自動翻訳」でしかないと、理解されている点は残念です。機械翻訳の挫
折から翻訳メモリが生まれたのはずいぶん前のことであり、最近では翻
訳ソフトが見直されていることには触れられていません。Webサイトには
「機械に出来るものは機械に任せ」とありますが、自動化の度合いが不
完全であると言わざるをえません。

 また製品Webサイト上の情報があまりにも少なすぎるようです。ユーザ
ーのフォーラムがありますが、製品を購入しない限り参加できないので、
ユーザーの生の声を聞くことはできません。またマニュアルだけを事前
にダウンロードして、機能を確認することもできません。

 FAQ やデモで基本的なことについてはわかります。
 http://www.tratool.net/comm/modules/xoopsfaq/

 ここを見ると TraTool で使用できるのはテキスト形式のみのようです。
大規模の翻訳では不可欠であるタグ形式に対応していない(タグ管理の
仕組みがない)のは非常に苦しいといえます。ただ、用語管理ツールが
統合されている点はよいかもしれません。また用語登録が簡単なのも評
価できます。ただし用語集は原語・訳語の2つの情報しかないため、コメ
ント フィールドなどを持つ MultiTerm からのインポートには問題が発
生します。

 翻訳作業で、基本的な用語統一ならば、拙作の「換の玉」マクロや
Word の校正機能だけでもできてしまいます。統一用語違反検索にしても、
インテリジェントな処理をするのではなく単純な置換であれば、従来の
方法と同じと言えます。また製品の優位性を示すならば、他の製品との
具体的な比較、たとえば TRADOS と比較して「どこがどのようによいの
か」ということを示すことが、どうしても必要になるでしょう。少なく
とも現時点では「TRADOS の対抗馬」というには疑問符をつけざるを得ま
せんが、今後の発展に期待したいところです。

 総合的に見て、TRADOS よりかなり機能が限定されているといえます。
その分、わかりやすいのは確かです。ただ、今後の実売価格は不明です
が、定価で判断する限りは TRADOS より圧倒的に有利というわけではあ
りません。

 すでに TraTool を使いこなしている方がいらっしゃいましたら、特に
TRADOS と比較した場合のこの製品の長所と短所について、ご意見やご感
想をお送りください。機会があればご紹介したいと思います。


「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その26)

機械翻訳からソフト翻訳へ

 機械翻訳は、なぜ「機械翻訳」なのでしょうか。人間以外の「仕組み」
を使用して翻訳に役立てるという広い意味では、一般的な意味での「辞
書」も機械翻訳の先祖といえるでしょう。逆に言えば、辞書が進化した
ものが機械翻訳ということです。

 機械翻訳は、一般に思われているよりは、歴史が古いものです。1933
年には、ロシア人技術者トロヤンスキーが機械翻訳の特許を取得したそ
うです。
http://ourworld.compuserve.com/homepages/WJHutchins/Nutshell.htm

 バベッジの階差機関はともかく、最初の電子計算機である ABC
(Atanasoff Berry Computer)ができたのが1941年です。つまり、機械
翻訳はコンピュータよりも起源が古いことになります。しかし、機械翻
訳という名称は、パソコンのソフトウェアを通じて利用されることが一
般化した現在では、誤解を招く一因ともなっています。

 機械翻訳に関して、翻訳ワークフロー SATILA の立場からみると、ソ
フトを活用した翻訳ワークフローの種類には、MOT、SATWLA、SATILA の3
種があります。

 MOT は Machine Only Translation です。わかりやすくいえば、「全
自動翻訳」といってもよいでしょう。これは翻訳ソフトが主導権を握り、
ユーザーの介入を必要としないワークフローです。言い換えれば「ユー
ザーが介入できない」ということでもあります。具体的な例としては、
Web サイト翻訳、対訳エディタを持たない一般向け翻訳ソフトがこれに
あたります。MOT の対象は「英語ができないユーザー」です。MOTという
語を知らなくても、実質的には、翻訳ソフト=全自動翻訳と思われている
ことが多いようです。しかし、これは正しくありません。それは、「ユー
ザーが介入できる翻訳ソフト」、つまり対訳エディタも存在するからです。
また「機械翻訳」という言い方では、「機械が翻訳をしてくれる」とい
う印象を与え、人間の出る幕がないようです。これでは、どうしても全
自動翻訳を想起させてしまいます。翻訳ソフトの利用が翻訳者に広がら
ないのも無理はありません。この誤解を防ぐために、「機械翻訳」は、
「ソフトウェア翻訳」、「ソフト翻訳」と言い換えた方がよいように思
われます。

 さて、MOT に対し、SATWLA は、Software Assisted Translation
workflow Without Linguistic Analysis、つまり「言語的分析を伴わな
いソフトウェア支援翻訳ワークフロー」を意味します。これは、具体的
には翻訳メモリのことを指しています。翻訳メモリは、ソフトウェアを
活用した比較的効率的なワークフローです。もちろん、翻訳のプロ用で
す。ソフトウェア支援がまったくない翻訳ワークフローよりは、はるか
に能率的です。しかし、言語的分析を伴わない翻訳メモリ単体では、最
大限の効率を上げることはできません。言語的分析がないと、用語を管
理する際にも品詞を認識できないため、限界が生じます。用語の半自動
的なチェックはできますが、どんなにわかりきった用語適用・修正をす
る場合でも、自動的に可能な場合は限られています。

 そこで SATILA の登場です。SATILA は Software Assisted Translation
workflow Involving Linguistic Analysis、つまり「言語的分析を伴う
ソフトウェア支援翻訳ワークフロー」です。「言語的分析を伴う」とい
うことは、翻訳ソフトによる言語処理を援用して翻訳作業を行うという
ことです。SATILA では、用語適用が自動的に行われるため、最大限の効
率化が可能です。しかし、翻訳ソフトではなく、ユーザーが主導権を握
るためには、ユーザー辞書の作成と適切な設定、フィルタやツールが不
可欠となります。また、英語力、翻訳力、日本語力、PC技能の4つの高度
な能力が必要になります。現在市販されている翻訳ソフトでは、プロ仕
様をうたっていても、現場の翻訳者が必要とする品質管理を単体で行う
ことができるパッケージはまだ存在しません。これは、翻訳ソフトメー
カーと翻訳者の間に、「何が必要か」という共通理解がないためです。
SATILA は、このギャップを埋めるものとなります。

 MOT、SATWLA、SATILA を正しく区別することが、機械翻訳、いや「ソ
フト翻訳」の活用について理解する第一歩となります。


■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その25)        山本ゆうじ

◆英語ができる人だから翻訳ソフトを使う

翻訳祭
──────────────
 先日、翻訳祭に行ってきました。いろいろ興味深い話を聞くことがで
きましたが、その一方で残念ながら、翻訳業界の技術革新は遅々として
進んでいない、何年経っても変わっていないという点も再認識させられ
ました。

 グレッグ・アーウィン氏の英語唱歌とお話しは、ある意味で非常に新
鮮でした。私はイギリスの国際学校(高校)で2年間学びましたが、「国
際民謡合唱隊」というものに所属して、世界各国の民謡を現地の言葉で
歌うという活動をしていました。私には音楽の素養はろくにありません
が、それ以前に応援団長などというものもしており、声の大きさには結
構自信があったのが、参加できた理由かもしれません。英語のマドリガ
ルや、ラテン語、フランス、ウェールズ、ノルウェー、スウェーデン、
旧ユーゴスラビアの歌なども歌いました。言葉によっては、意味は翻訳
でしかわかりませんが、国際学校ということで、その言葉を話す生徒か
ら、発音を教えてもらいました。当初は日本の歌はなかったので、私が
「赤とんぼ」と「五木の子守歌」を紹介して、レパートリーに加えまし
た。

 その際に調べてみて、日本で親しまれている歌の多くは、西洋起源の
もの、西洋の影響を強く受けたものであり、日本の伝統といえる歌、世
界に「これぞ日本の歌」と胸を張って言えるものは、非常に限られてい
ることを改めて実感しました。「蛍の光」や「庭の千草」はもちろんで
すが、イギリス人の音楽教師に言わせると、西洋的な音階を使っている
ものは、「日本的」に聞こえない、ということになるわけです。この辺
のエピソードについては、拙著『世界に通じる学校』で詳しく紹介して
います。日本文化を世界に発信するにしても、まず日本のことをよく知
る必要がありそうです。


英語ができる人だから翻訳ソフトを使う
────────────────────
 閑話休題。翻訳ソフトの話に戻って、今一度はっきり申し上げれば、
翻訳者の場合は「英語ができないから翻訳ソフトを使う」のではないと
いうことです。この点は声を大にして、というよりできれば「フォント
を大にして」強く主張したいところです。この点は、大企業の方でもよ
くご存じでないようです。これはまったく逆の話であり、翻訳者の場合
は「英語ができる人だから翻訳ソフトを使う」ということになります。
「翻訳者の場合」「翻訳者でない場合」の2つを明確に区別しないと、話
が見えてきません。英語ができない人向けの翻訳ソフトと、翻訳者のた
めの翻訳ソフトは、基本要素は共通していても、使い方、というより
「使いこなし方」がまったく異なるのです。

 英語ができる、できないは、どこで判断できるでしょうか。翻訳者の
条件として、TOEIC スコアが850~900以上というのはよく見かけます。
TOEIC スコアが高いからといって翻訳者として優れているわけではあり
ませんが、逆に TOEIC スコアが低い場合は、まず確実に翻訳者として問
題があると考えられます。TOEIC スコアが唯一の指標というわけでもあ
りませんが、ひとつの目安にはなるでしょう。この場合、TOEIC スコア
が850以上の人には翻訳ソフトは不要でしょうか。もちろん違います。
なぜかといえば、TOEIC スコアが低い人とは、使い方がまったく異なる
からです。何を、どのように翻訳するかということは、翻訳のノウハウ
です。翻訳ソフトを「正しく」使うことで、自分の翻訳のノウハウを
「翻訳資産」として蓄積し、再利用することができます。このような使
い方は、むしろ英語ができる翻訳者であるからこそ可能な使い方なので
す。

 翻訳ソフトは、「人力車夫にとってのタクシー」ではないかと思いま
す。新しい技能を身につければ、より効率よく仕事をすることができま
す。タクシーそのものを敵視していては、辛い仕事を続けるしかありま
せん。もちろん京都などの観光地ではリバイバルした人力車を見かけま
すが、いま日本で走っているタクシーがすべて人力車という状況を想像
してみてください。これはまさに、今の翻訳業界の様相に近いものと思
われます。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上げ
により校正しています》


■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その24)        山本ゆうじ

 今回は中黒(・)について、電子文書での日本語の表記という面から
少し考えてみたいと思います。これが翻訳ソフトとどう関係してくるか
は後ほど。ここでの中黒は、特にカタカナ語の表記に関するものです。

 さて、中黒をどう表記するかは、たいていはクライアントによって決
まっています。中黒は単なる見栄えの問題だけではありません。電子文
書における中黒は、文書の検索、編集、自動翻訳処理などの面からも重
要です。たとえば中黒の表記が統一されていないと、単純な検索しかで
きない場合は、複数の可能性について検索する必要があります。

 私の知る限り、中黒の表記方法には5種類あります。

1. 常に中黒を入れる。
   例: ポータブル・デジタル・オーディオ・プレーヤー
2. 常に中黒を入れない。
   例: ポータブルデジタルオーディオプレーヤー
3. 中黒の代わりに半角スペースを用いる。
  例: ポータブル デジタル オーディオ プレーヤー
4. 長い複合語には中黒を入れる。
   例: ポータブル・デジタルオーディオプレーヤー
5. その時の気分で決める。
   例: ポータブル・デジタルオーディオ・プレーヤー

 これらの方式にはそれぞれ特徴があります。

 1 は、それぞれの語の区切りが見やすくなりますが、中黒がいくつも
あり、めざわりに感じられることもあります。2 は、すっきりとはして
いますが、すべてつながっているために切れ目がわかりにくく、読みに
くいこともあります。3 は、マイクロソフトなどで採用されている方式
です。「マイ ドキュメント」「マイ コンピュータ」など、Windows や
Office ではそうなっていますね。4 は、新聞社などで採用されています。
この例では「ポータブル」「デジタルオーディオプレーヤー」で意味的
なまとまりがあるとして、区切りを入れています。しかしその判断基準
は固定的なものではありません。この例にしても 1 つの例でしかなく、
他の区切り方も考えられるため、表記にばらつきが出るという問題があ
ります。5 は、論外と言いたいところですが、実際にはかなりみられま
す。特定の方針に基づかず「ただなんとなく」つけているだけです。残
念ながら私自身の記事についても、これまで完全に一貫した表記規則を
用いてきたわけではありません。

 これらの中で、どれが望ましいでしょうか。クライアントによって指
定されている場合はともかくとして、総合的に考えると、3 の方式がよ
いように思われます。これはもちろん「マイクロソフトが採用してるか
ら」ではなく、電子文書としてはもっとも合理的と考えられるからです。
1 のように中黒がめざわりになることも、2 のように読みにくくなるこ
ともありません。また 2 の方式と比較した場合、和文に対して翻訳など
の自動処理を行うときに、単語としての切れ目が明確になります。切れ
目が明確ということは、編集時の単語選択が容易ということでもありま
す。課題としては、この方式はそれほど広く認知されているわけではな
いということ、特に外国人名では中黒で区切ることが一般化しており、
この方式と衝突するといった点が挙げられます。

 ただし、特定クライアントのものと決まっていない、汎用の用語集や
翻訳ソフトのユーザー辞書を準備する場合は、「常に中黒を入れる」方
式を採用する方がよいでしょう。これは自明のことではありますが、1
から 2 や 3 の方式にする場合は、中黒を削除したり半角スペースに自
動で置き換えたりするだけで済みます。しかし、中黒が入っていない状
態の用語に中黒を入れるのは手作業になり、たいへんな手間になるから
です。

 なおカタカナ語でなくてもよい箇所は、漢字表記などにすることで中
黒の問題を回避する方法もあります。先ほどの例では
「携帯型デジタル・オーディオ・プレーヤー」などと表記すれば、中黒
を1つ減らせますね。

 電子文書の活用を視野に入れた上で、総合的に中黒の表記方法を考え
直してみるのも良いかもしれません。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
tran@nichigai.co.jp までどうぞ。

 《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み
上げにより校正しています》

■ 「山本ゆうじの翻訳道具箱」(その23)        山本ゆうじ

◆翻訳ソフトでの翻訳作業の実際

 先日『クジラの島の少女』("Whale Rider")のDVDを見ました。お勧め
です。
 http://us.imdb.com/title/tt0298228/

 それはさておき。今回は、翻訳ソフトでの作業の実際について簡単に
ご紹介します。

 翻訳者が翻訳ソフトを使うときは、対訳エディタで作業するのが基本
です。対訳エディタとは、原文と訳文を左右に並べて表示しながら翻訳
作業を行うためのツールです。ソフトによっては別の名前で呼ばれてい
ることもありますが、基本的な機能は同じです。対訳エディタを使用し
ないワークフローも考えられますが、後述するように、総合的に見た場
合に非効率的であるため、お勧めしません。

 翻訳者が翻訳ソフトで作業する手順については、いくつかの考え方が
あります。ここでは翻訳ワークフロー SATILA の立場から、前処理、対
訳作業、後処理の3つの手順としてみた場合をご紹介します。

◆前処理

 省略が多い文や1文が長すぎる場合は、翻訳ソフトがうまく解釈できな
いことがあります。このような文章をうまく訳せるように、翻訳ソフト
による処理の「前に」修正する工程を、「前処理」と呼びます。以前は
前処理にある程度時間をかけないと、うまく翻訳できないことがありま
した。最近では翻訳エンジンがさまざまな文に対応できるようになって
きたため、前処理はほとんど必要ありません。ただし長い複雑な文章で
は、処理に時間がかかったり、修飾関係が正しく認識されなかったりす
ることがあります。翻訳ソフトによっても異なりますが、このような場
合は、文の一部をグループとして翻訳処理するよう指定したり、複数の
文に分割したりすることで、より早く、また正確に翻訳処理できます。

 文を構成する複合語が長いために、文が長くなることがあります。こ
の場合、長い単語であっても1つの用語として定義できるものであれば、
辞書登録をすることで正確に翻訳することができます。

◆対訳作業

 前処理の後に、対訳エディタでの作業を行います。翻訳者が翻訳ソフ
トでつまずく理由の多くは、マニュアルやヘルプをろくに読まず、対訳
エディタ作業での習熟を軽んじている点にあります。ボタンを1つ押せば
済む翻訳サイトと異なり、翻訳者の場合は対訳エディタでの作業が肝要
です。対訳エディタでは1文ずつ翻訳処理とその修正を行っていきます。

 対訳エディタで行う最も頻繁な作業は、おそらく訳語指定でしょう。
いくつかの候補から適切な訳語を選択します。また、訳語の品詞判定が
誤っている場合は、手動で品詞指定を行います。構文解釈が誤っている
場合は、文全体に対して別解釈をさせることもできます。翻訳ソフトを
使い始めた初期は、修正にかなり時間がかかるでしょう。しかし、ここ
での作業で行った優先順位などの指定は学習され、後の翻訳作業に反映
されます。このため、作業が進むにつれ、修正の労力は少しずつ減って
いきます。翻訳の分野や対象の文書によっても異なりますが、辞書自体
や学習データに十分に情報が蓄積されれば、自動化にかなり近づけるこ
ともあります。

 対訳エディタを使用しないワークフローでは、これらのフィードバッ
クがないため、どれだけ翻訳作業をしても効率や精度が向上することは
ありません。

◆後処理

 翻訳ソフトでは、文法的な解釈を間違えたり、表現が不自然になった
りすることがあります。そのため翻訳者が使用する場合は、翻訳ソフト
による処理の「後で」、文法を確認し表現を訂正する必要があります。
これを「後処理」と呼びます。特に IT 関連の翻訳では、構文が比較的
単純で語彙が限定されています。また表現も平明かつ簡潔です。このよ
うな原文に対しては、かなりの精度が得られ、場合によってはほとんど
訂正しなくても使える場合もあります。とはいえ、表現の不自然さはど
うしても残るものです。表現の不自然さについては、「翻訳ソフトのく
せ」が反映されていることがあり、規則的なものであれば置換フィルタ
によって自動的に修正することができます。

 これまで翻訳ソフトがうまく使いこなされることがなかったのは、
「どのように作業すれば効果的か」というワークフローが確立していな
かったからです。このような置換フィルタは、翻訳者が翻訳ソフトを使
うワークフローの中で欠かすことができない重要な要素です。前処理と
後処理は、本来は可能な限り自動化すべき手順であり、置換フィルタは
それを実現するものです。LogoVista のように翻訳ソフト自体に置換フ
ィルタ機能がある場合もあります。そうでなければ、自分で Word のマ
クロを作成するなどして、工夫する必要があります。

 ご質問、ご感想、ご要望、ご意見などがありましたら、
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 《このコラムは音声認識ソフトを使用して口述で執筆し、音声読み上
げにより校正しています》
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