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 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◇ビジネスの流れ

 ●休みの取り方

 しばらくメールマガジンの執筆をお休みしてしまったからというわけで
 はありませんが……
 今回は「休みの取り方」です。

 翻訳は受注産業なので、基本的に、断った仕事は別の人のところへ行っ
 てしまいます。つまり、休めばそれだけ収入が減ります。また、断ると
 次の打診がなくなるのではないかと心配で、「休みをとることなど考え
 られない」という人もいるようです。

 一方、毎年、2週間、3週間という長期で旅に出てしまう人もいます。
 もちろん、 そういう長期だけが休みではなく、週末や平日など、ふだ
 んのお休みというのも大事です。

 ◎休みをとったら仕事が来なくなるのか

 休みをとっただけで仕事が来なくなるということはありません。1年
 365日、仕事をしているはずがないのは、皆、わかっているわけですか
 ら。

 ただし、休みをとる時の対応が悪くて大きな迷惑をかけてしまうと取引
 先の評価表に×印がつくおそれがあります。要するに、休みの取り方が
 問題ということです。

 ◎休みの形式

 まず、なにをもって「休み」というのでしょうか。「いや、休みは休み
 でしかないでしょう」と思うのは、ちょっと頭が固いと思います。

 1. 仕事はまったくしない
 2. ある程度は仕事もする
 3. 仕事があればあるだけする

「3は休みじゃないだろう」と思う方もおられるかもしれませんね。でも、
 そうとばかりは言えないと思います。自宅よりもずっと環境のいい場所
 に滞在し、仕事があればするしなければそのあたりでゆっくりするとい
 う「休み方」もあるのではないでしょうか。それでもなお、びっちり仕
 事をするのはイヤだと思うなら、あるいはそこまでするのは無理な状態
 なら、仕事量を減らして2にすればいいわけです。

 実例もいろいろとあります。私が知っている範囲でも、夏場に高原や北
 海道に滞在する人、毎年、仕事をしつつハワイに長期滞在する人がいた
 りします。このほか、温泉に滞在しつつ仕事ができたらいいなという話
 も聞いたことがあります。

「せっかくどこかにでかけるのに仕事をするのは……」と思うかもしれ
 ませんが、逆に、断らない方がいい取引先の仕事は少なくともできるか
 ら長期の(半)休みが気軽に取れるという考え方もあるわけです。この
 あたり、自分に合う考え方で休みをとればいいというのも、フリーラン
 スのメリットです。

 もちろん、滞在型ではなく、観光して回るような旅やなにがしかのアク
 ティビティが目的となっている旅など、その間、仕事をしている時間が
 ないケースもあります。とにかく仕事を忘れてリフレッシュしたいとい
 うこともあるでしょう。そういう場合は、1のパターンで休むことにな
 ります。

 平日に1日、休みをとって出かけるなどのケースも、基本的に1になりま
 すね。

 ◎休みをとる前の対応

 長期で休みをとる場合、仕事をしない、あるいは減らす形なら、主な取
 引先には休みの連絡を入れておいたほうがいいでしょう。連絡が取れる
 工夫をしておくにしても、基本的に断るのであれば、連絡の分、無駄な
 手間を取引先にかけさせることになります。

 連絡はメールがいいでしょう。休む期間など、取引先にメモを取らせる
 必要がないですから。文面はもちろん丁寧に。迷惑をかけることへのお
 詫びも書いておきましょう。もちろん、「いつからいつまで休みます」
 と休みの期間も。休みの間に何をしているのかまで書く必要はありませ
 ん。

 仕事量を減らすときには、休みの連絡メールで一部の取引先にのみ「こ
 の間、仕事はできません」と連絡する、あるいは、「~~の仕事はやれ
 ますが、~~の仕事はできません」のようにやれるものとやれないもの
 を連絡するなどが考えられます。

 平日に1日休んででかけるような場合、その間も連絡が取れるのならわ
 ざわざ事前に連絡する必要はないでしょう。けっこうしょっちゅうやり
 とりのある取引先で、ちょうど納品があったりした場合には、ついでに
「今日はこのあと外出となります」のように書いてもいいと思います。

 ◎休み中の対応

 仕事をするにせよ、しないにせよ、できるだけ、連絡は取れるようにし
 ておいたほうがいいでしょう。

 基本的に仕事はしないという場合も、なにがしかの理由でどうしても連
 絡を取りたいと取引先が思うことがあるかもしれません。前につきあい
 のあった取引先から久しぶりに連絡がはいるかもしれません。

 連絡を取れるようにしておくと言っても、特に難しいことはありません。
 メールと電話を携帯電話に転送しておけばいいわけです(最近は、もと
 もと携帯電話が連絡先になっている人も多いと思いますが)。スマート
 フォンなど、一部機種を使えば、メールに添付されたファイルの中身も
 確認することができます。

 仕事をする場合、ノートパソコンとインターネットへのアクセス手段を
 用意しておきます。インターネットへのアクセス手段としては、携帯電
 話経由でインターネットプロバイダーに接続する、モバイルWiFiルータ
 ーを使うという方法があります。

 田舎に出かける場合は、携帯電話のキャリアによってつながりにくいこ
 とがあるので気をつけましょう。田舎に遊びにゆくことが多い人は、人
 口カバー率の高いキャリアを選ぶべきです。

 ◎休み後の対応

 事前に連絡を入れておいた場合、休み終了後にも連絡を入れましょう。
 休みを終えて通常業務に復帰したことのほか、配慮してもらったことへ
 のお礼も書いておきましょう。もちろん、休みの間、ふだんなら自分に
 回る案件がなくて忘れられていた可能性ももちろんあるわけですが、
 その場合でも、「ご配慮、ありがとうござました」と一言、書き添えて
 プラスこそあれ、マイナスはありませんからね。

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■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◆ビジネスの流れ

 ●仕事の仕方の工夫

 仕事の仕方について、今回は「原稿の受領・送付の仕方」と「バックア
 ップ」です。

 ◎原稿の受領・送付の仕方

 最近はほとんどインターネットのメール添付ですね。セキュリティに気
 を使うところだと、ちょっと特殊なFTPサイトを使う場合もあります。

 ○添付メール

 今どき、メールソフトで添付メールが扱えない人はいないと思います
 が……もし、あまりやったことがないなら、自分宛にメールを送るなど
 して(↓)の練習しておきましょう。

 ・送るメールにファイルを添付する
 ・受けとったメールに添付されているファイルを別のフォルダに保存す
  る

 メール添付で問題になるのはメールボックスの容量です。ポイントは1
 通あたりの容量と総容量。仕事用だと巨大なファイルの送受信をするこ
 とがあります。1通あたりの容量が小さすぎるメールボックスでは受信
 ができず、困ることがあります。総容量が小さいと、大きなメールが立
 て続けにきたとき、やはり受信できないことがあります。メールアドレ
 スを取るときは、なるべく、1件あたりの容量と総容量、両方が大きい
 ものを選びましょう。

 納品時にも、ファイルが大きいと受信してもらえず、はじかれることが
 あります。大きなファイルを送るときは、受領確認が来るまででかける
 など対応がとれなくなることはなるべく避けるべきです。すぐにでかけ
 なければならないなどの場合は、納品メールで受領確認をお願いする、
 開封通知をつける、電話で確認するなどの対策を念のために取ることを
 お勧めします。

 ○ウェブサイト経由

 ウェブサイトを経由する方法は、大きくわけて3種類(↓)あります。

 ・自分のウェブサイト
 ・ファイル転送サービス、オンラインストレージサービスを使う
 ・発注側が用意したサイト

 自分のウェブサイトの場合、FTPソフトウェアで適当なディレクトリに
 アップロードし、そのファイルのURLをメールで納品先にしらせます。
 ウェブサイト自体の設定をディレクトリ内部が見られないようにしてお
 けば、これだけでもたいがいは大丈夫でしょう。心配なら、ディレクト
 リにパスワードロックをかけておきます。

 最近は、ファイル転送サービスやオンラインストレージサービスと呼ば
 れるものがあります。これも他の人に大きなファイルを送ることができ
 ます。自分が選んだサービスについて使い方や約款を読んでおきましょ
 う。使ったことがなければ、自分宛に送る形で練習しておきます。仕事
 で必要になって初めて使い、まごついて失敗するなんてことがないよう
 に。

 発注側が用意したサイトは、アクセスに必要な情報が渡されるはずなの
 でそれに基づいて利用します。ダウンロードだけならたいがいはブラウ
 ザでも行えますが、こちらからファイルを送るためにはFTPソフトが必
 要になるケースが多いはずです。フリーウェアやシェアウェアのFTPソ
 フトを入手し、やはり、どこかで使ってみることをお勧めします。メー
 ルアドレスなどに付随してホームページが持てるケースがよくあります
 が、そのあたりでテストしてみるわけです。

 ○その他の方法

 最近はFAXのやりとりがほとんどなくなりました。昔はFAXマシンが必須
 だったのですが、今はなければなくてもたいがいなんとかなりそうです。

 紙原稿が宅配便で送られてくるというのもめったになくなりました。出
 版翻訳だと完本(原稿となる書籍の販売バージョン)が宅配便で送られ
 てくるのが一般的ですが、産業翻訳で宅配便はまず聞きません。パンフ
 レットなど、紙版の原稿しかない場合も、スキャンしてPDFで送られて
 くることが普通になりましたから。

 ◎バックアップ

 パソコンは壊れるものです。自分の取扱いミスはもちろん、落雷の影響、
 経時変化による劣化など、理由はいろいろですが、ともかく、前触れな
 しにいきなり壊れてしまうことがあります。データはバックアップを取
 っておきましょう。

 バックアップのポイントは、そのパソコンが起動しなくなってもデータ
 だけを取り出せること。

 そういう意味で考えられる方法としては(↓)があります。

 ・外付けのHDDやメモリ
 ・別のパソコン
 ・オンラインストレージサービス
 ・メール

 ○外付けのHDDやメモリ

 USB接続のHDDやメモリにデータを転送しておくわけです。パソコンが
 壊れても、そのHDDやメモリを別のパソコンにつなげばデータだけは使
 えます。おそらく、翻訳者の多くはこの方法をとっているだろうと思い
 ます。

 外付けHDDなら過去の案件から何から丸ごとバックアップしておくこと
 ができます。これだけでもいいと思いますが、念には念を入れてたった
 今作業している案件だけはUSBメモリにも転送しておく人もいます。パ
 ソコンが壊れたとき、誰かのパソコンを借りるなどのとき、USBメモリ
 なら小さくて持ち運びに便利だからです。

 バックアップの作業自体は、フリーウェアやシェアウェアのソフトを使
 えば簡単に行えます。

 ○別のパソコン

 2台目のパソコンを買うとき、古いパソコンをサブとして残しておき、
 そちらにバックアップするという方法です。パソコン間はLANで結びま
 す。

 私はこのやり方を主としています。

 この方法のいいところは、パソコン自体が壊れてもサブマシンで作業が
 続けられる点です。MS Officeなども、新バージョンを新しいほうのパ
 ソコンにインストールして古いほうを古いパソコンに残しておけば、そ
 れなりになんとかなったりします。秀丸などシェアウェア系は、使う人
 がひとりなら1ライセンスで複数台にインストールできるものが多く、
 コスト負担は増えないはずです。

 こちらも作業にはフリーウェアやシェアウェアのソフトを使います。

 ○オンラインストレージサービス 
 ○メール

 家が火事になったら? 一帯が停電になったら? など、物理的にひと
 かたまりのものがいっせいにダメになるケースにも対応しようと、オン
 ラインストレージサービスやメールでバックアップをするという人もい
 ます。メールは、受信してもメールをボックスに残す設定としたアドレ
 スへ添付メールで送っておくわけです。

 ここまではしなくてもたいがいは大丈夫だと思いますけどね。

 なお、セキュリティ系では常識なのですが、どこまでやっても絶対安全
 はありえません。また、バックアップなしと外付けHDDや他のパソコン
 へのバックアップありではデータの安全性が大きく異なりますが、そこ
 からさき、自宅外にまでバックアップすることによる安全性向上は小さ
 なものとなります。バックアップなしは言語道断ですが、あまり神経質
 になる必要もないでしょう。

■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◆ビジネスの流れ
 
 ●仕事の仕方の工夫

 前回は、スピードアップの工夫を紹介しました。今回はもうひとつのポ
 イント、品質の安定を取りあげます。

 ◎品質の安定

 自分の実力以上の翻訳はできません。ですから、自分の実力どおりの訳
 文を作る、それが、仕事としての翻訳を進めるにあたって大事なポイン
 トとなります。

 もちろん、専門分野の一番中心に「はまった」仕事が一番よい品質とな
 り、そこからはずれるほど品質は落ちるものです。これは実力のうちで、
 仕方がありません。しかし、それ以外の理由による品質低下やぶれが発
 生しないように気をつける必要があります。

 品質がぶれるというのは大きなマイナスです。訳文が90点のときと40点
 のときがある人では、安心して仕事を任せられません。翻訳者が訳文を
 提出するのは、客先納期まで、もうあまり時間が残っていないときです。
 その時点で40点だとわかったら、あとは大変な作業になります。それな
 らむしろ、60点で安定している方がいいかもしれません。後処理の時間
 が読めるからです。

 品質を安定させるためにはどうすればいいのでしょうか。

 ・読み直し、手直しを行う

 そんなの当然だよ、と思う方も多いでしょう。でも、この処理を行わな
 い、または、きちんと行えない人が少なからずいるようです。

 私が翻訳発注側にいたとき、日本語の誤変換がボロボロある(A4 1ペー
 ジに数カ所以上)訳文が何度も納品されました。誤変換など、一回、読
 み直していれば、そのほとんどに気づいていいはずの間違いです。見落
 とすことがないとはいえませんが、それでも大半はつぶせるはずです。

 読み直しはモニター上で行う人もいますが、紙に印刷して読みなおすこ
 とをお勧めします。印刷のほうが解像度が高いため、間違いに気づきや
 すくなるからです。

 読み上げソフトを使う方法もあります。読み上げさせた訳文を聞きつつ、
 目で訳文を追ってゆくのです。自分で読むと思い込みで読みちがえたり
 しますが、ソフトウェアは間違ったとおりに読んでくれるのでおかしい
 と気づきやすくなります。

 日英翻訳の場合、スペルチェックを必ずかけます。これも、やらない人
 が意外なほど多いようです。

 ・専門用語は最初から最後まで統一した訳語を使用する

 ちょっと長くなると、統一すべき訳語が前の方と後の方でばらけてしま
 う人がいます。こうなると、読んでいる方は、前に出てきた他の単語と
 同じものを指しているのかいないのか、迷ってしまいます。

「読み手が迷う」というのは、1ヶ所ではたいしたことはなくても、それ
 が重なると、非常に読みにくく、「悪文だ」と思わせる原因になります。
 同じ単語を使うというような機械的にできることは必ず行うようにしま
 しょう。

 無精せずに、前半の訳文を検索し、その単語をコピーして使います。
「単語やフレーズのコピー」で紹介した小技を使うのもいいでしょう。


■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◆ビジネスの流れ

 ●仕事の仕方の工夫

 受注したら、あとは、翻訳して納品する「だけ」です。とはいえ、ここ
 の作業が「翻訳者」たる部分であり、とても重要です。

 原文を読んで理解し、訳文を考えて入力する。不明点や怪しい点は調査
 し、間違いは訂正して、納品する。基本的にはこういう流れになります。
 そのとき注意すべきは、大きくわけて以下の2点でしょう。

 ・スピード
 ・品質の安定

 具体的にブレークダウンすると、以下のような点が問題になります。

 ・納期を守る
 ・読み直し、手直しを行う
 ・専門用語は最初から最後まで統一した訳語を使用する
 ・不明点についてできる限りの調査を行う
 ・最終的に残った不明点については申し送りを書く
 ・文体など処理上の不明点は確認の上処理する
 ・納期遅れなど問題が発生しそうな場合は早めに連絡、相談する

 ◎スピード

 仕事としての翻訳では、「納期までに自分の実力にみあった訳文を提出
 する」ことが必要です。納期に間に合わなければ価値がなくなる場合も
 あるほどです。もちろん、納期に間に合ってもボロボロの訳文ではこれ
 またどうにもなりません。品質を落とすことなく、上げられる部分はス
 ピードを上げて品質を高める時間を確保することが肝要です。

 前に「ツール使いこなしのポイント」でも書きましたが、手よりも頭が
 意味を持つ部分、判断が必要な部分は人間が行い、頭よりも手が意味を
 持つ部分、つまり単純作業はコンピューターに任せます。具体的には、
 以下の部分をコンピューターに任せます。

 ・辞書引き
 ・文字入力
 ・単語やフレーズのコピー
 ・過去訳などの検索

 文字入力については「ツール使いこなしの実例」で紹介したので、ここ
 ではそれ以外について紹介します。

 なお、根本的なスピードアップは実力アップによってしか実現できませ
 ん。原文を読んで訳文を考え出すプロセスの速度は、実力があがらなけ
 れば速くなりませんから。細かな工夫で作業時間を短縮し、浮いた時間
 を使ってじっくり考えながら翻訳する。そうすれば、実力アップによる
 スピード向上も少しずつ実現してゆくでしょう。

 ・辞書引きのスピードアップ

 まず、辞書をパソコン上で引ける電子辞書にします。専門辞書など紙版
 しかないものは仕方がないので紙で引きますが、一般的な辞書は電子辞
 書にしてパソコンに搭載します。

 辞書引きのソフトも大事です。ポイントは、複数の辞書を一度に引いて
 一覧表示してくれること。電子辞書に添付されてくるソフトは複数辞書
 が引けない、異なる規格の辞書は引けないなど制約が多いので、別途用
 意することをお勧めします。フリーウェアやシェアウェアにいいものが
 あります。こういうソフトを用意すれば、作業している文書から引きた
 い単語を1回、コピー&ペーストしただけで複数の辞書を引くことがで
 きます。このコピー&ペースト作業をマクロなどで自動化すれば、もっ
 と簡単に辞書が引けるようになります(辞書引きマクロはいろいろと公
 開されています)。

 仕事としての翻訳の場合、スタンドアローンの携帯型電子辞書も不十分
 です。携帯型電子辞書の欠点は、単語を自分で入力しなければならない
 点と一覧性がない点です。自分で入力すると時間がかかりますし、うっ
 かり読み間違っていても自分の間違いに気づくことができません。そう
 いうとき自動で辞書引きをしていれば、思いもよらない内容が提示され、
 驚いて原文を読みなおして間違いに気づくというフィードバックが働き
 ます(何回か経験があります)。

 ・単語やフレーズのコピー

 コピー&ペーストなど、よく使う機能はショートカットキーから使いま
 す。いちいち、ドロップダウンメニューからコマンドを選択したりしな
 いこと。また、エディターやワープロソフトはキー割当ができることが
 多いので、よく使う機能には自分がわかりやすく使いやすいショートカ
 ットキーを割りあてて使いましょう。

 何度も出てくる単語を別ファイルにコピーしておくといった工夫が有効
 な場合もあります。また、クリップボードにコピーした内容を記録して
 おき、あとで使えるようにする小ツールを使う方法もあります。私自身
 は、秀丸エディタのマクロで処理しています(SimplyTermsに同梱して
 公開してあります)。

 コピー&ペーストを中心に、翻訳作業では範囲選択やカーソル移動をよ
 く行います。いちいちマウスに手を伸ばすと時間がかかりますし、カー
 ソルキーを何度も打つのは大変です。そういうときはCtrlキーを押した
 ままでカーソルキーを使います。これで横方向なら単語単位、上下方向
 なら数行単位でカーソルが移動するはずです(ソフトウェアによって若
 干の違いがあります)。また、Shiftキーを押したままでカーソルキー
 を使うと範囲選択をすることができます。CtrlキーとShiftキーを押し
 たままでカーソルキーを使うと単語単位で範囲選択ができます。

 マウスによる範囲選択も、単純に左クリックからのドラッグ以外の方法
 があります。まず、ダブルクリックからドラッグすると単語単位の選択
 になるのが一般的です。また、行の左端をシングルクリックすると1行
 選択、ダブルクリックすると段落選択になったりします。このあたりも
 ソフトウェアによって若干の違いがあるので、自分が使うソフトウェア
 について調べて習熟しましょう。

 ・過去訳などの検索

 翻訳をしていて「前に仕事で出てきたなぁ」と思うことがあります。で
 も、あの仕事だったかこの仕事だったかといちいちファイルを開いてい
 たのではたまりません。そういう場合はgrepという複数ファイルの内容
 を検索するツールを使用します。秀丸などのエディタにはgrep機能が搭
 載されているものが多くあります。grepはもともとテキストファイルを
 検索するものですが、WordやExcel、PDFなどもまとめて検索してくれる
 ソフトウェアがシェアウェアで公開されていたりします(私はKWIC
 Finderというものを使っています)。


 


■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◆ビジネスの流れ

 ●受注の仕方

 前回のメールマガジンでは、打診から受注で以下の項目がポイントにな
 ると紹介し、1と2について説明しました。

 1. 自分の翻訳速度を正確に把握しておく
 2. 量が多い場合は減らしてもらう、または断る、という勇気を持つ
 3. 原稿を見て、その難易度と翻訳量を見積もる目を養う
 4. 専門分野を持ち、なるべくその分野の仕事に集中する
 5. 翻訳スピードを高める工夫をする

 今回のメールマガジンはその続きです。

 3. 原稿を見て、その難易度と翻訳量を見積もる目を養う

 原稿は打診の段階で届く場合と受注を決めたあとに渡される場合があり
 ます。いずれにせよ、原稿が届いたらざっと目を通しましょう。分野、
 量、難易度を把握し、納期までに仕上げられるかどうかを判断するので
 す。

 原稿を見ないで受注したときは特に注意が必要です。翻訳会社のコーデ
 ィネーターなら分野や量を正しく把握しているはずだと考えるのは甘す
 ぎます。私の経験でも、「地熱がどうした」というから専門のエネルギ
 ー分野だと思っていたら「温泉地の観光ガイド」だったことや、「環境」
 と聞いていたら「ある化学物質が人体に及ぼす作用」で医学用語のオン
 パレードだったことなどがあります。分量も10%や20%ずれることは珍
 しくありませんし、原稿が紙の場合などを中心に聞いていた量の倍以上
 だったなんてこともあります。

 原稿に目を通してまずいと思ったら、すぐに対応を取る必要があります。
 分野違いは他の人に振ってもらうのが一番です(「環境」→「医薬」の
 ときは、そうしました)。納期も、多少、調整してもらえる場合があり
 ます。

 量については、原稿が電子ファイルならツールでカウントします。Word
 なら、ワードカウントの機能があるので、そこでだいたいのことがわか
 ります。ただし、カウントされるのは本文のみ。テキストボックスや脚
 注など、カウントされないところがある点に注意する必要があります。
 Excelなら対象部分を選択してCtrl+Cでクリップボードにコピーし、Word
 に貼りつけてカウントします。PowerPointは……とても面倒なので、公
 開されているツールを活用しましょう。私は自分で開発して公開してい
 るSimplyTermsのカウント機能を使いますが、CountAnythingというツー
 ルを使っている人も多いようです。

 自分のスピードを仕上がりベースで把握している場合は、原語のワード
 数から仕上がり量を見積もります。英日なら、原語110~150ワードくら
 いが日本語の400字になります。幅があるのは、カタカナ語の多少や文
 体(です・ます、である、など)、自分の文体が簡潔か冗長かなどによ
 って異なるからです。この数値も、自分の場合について把握しておくと、
 あとあと便利です。

 ただ、紙に印刷されている原稿の場合は、ワード数のカウントが大変で
 す。そんなもの、いちいち数えている暇があったら、どんどん翻訳を進
 めた方がいいですよね。

 こういう場合は、えいやぁ、で見当をつけます。

 A4用紙の左端から右端までが1行という形式で英語が書かれている印刷
 物なら、まあ、だいたい、A4 1枚が日本語400字3枚くらい(400ワード
 強)、2段組になっている(A4の左半分と右半分の2段に印刷されている)
 場合は、A4 1枚が日本語400字4枚くらい(600ワード弱)になります。
 また、字が細かいなと感じたら、原文1枚あたり、仕上がり1枚くらい多
 くなります。

 なお、これは図表がない場合です。図表がある場合は、テキスト部分が
 2/3枚……という具合に数えていきます。図表の内部も翻訳するなら、
 テキストの量としてこのくらいと思う量+αと数えていきます。

 こうして見積もった量が聞いていた量とあまりに違い、納期に間に合い
 そうになければ、そう思った時点で翻訳会社などに連絡をいれ、対応を
 相談します。対応方法としては、納期の延長を交渉してもらう、複数人
 にわけてもらう、別の人に振ってもらうなどの方法が考えられます。

 なお分野や分量が違うと翻訳会社に文句を言いたくなりますが、責任は
 ソースクライアントにある場合もあります。原稿がソースクライアント
 から届いておらず、こういう量のこういう案件という話だけで翻訳者の
 手配をしなければならないこともあるからです。ソースクライアントは
 翻訳の専門家ではないので、特に量については間違いがおきても不思議
 はありません。納期が厳しいと数量を少なめに見積もっておき、最後は
「なんとかしてくれ」と無理を通したくなることもあるでしょう。いず
 れにせよ、文句を言っても問題は解決しません。ビジネスライクな対応
 で問題解決をめざすべきです。

 4. 専門分野を持ち、なるべくその分野の仕事に集中する

 同じ分野の仕事をくり返せば知識も言葉も蓄積され、品質と処理スピー
 ドの両方があがってゆきます。逆に分野がばらばらの仕事をしていると
 品質も処理スピードもなかなかあがりません。専門分野を決め、なるべ
 くその分野の仕事に集中しましょう。違いすぎる分野の仕事は断る勇気
 を持ちましょう。

 もちろん、専門をせまく絞れば絞るほど仕事量の確保が難しくなります
 から、そのバランスをみながら調整してゆく必要があります。

 専門分野の重要性や選び方、作り方は過去のメールマガジンで詳しく書
 いていますから、そちらを参照してください。
 

■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◆ビジネスの流れ

 仕事の打診が来た!

 さあ、あとは訳して納品すればいい……とはなりません。その前に受注
 するのかしないのか、その判断をする必要があります。

 ●受注の仕方

 最初は、打診が来ただけでうれしいものですし、断ると声をかけてもら
 えなくなるのではないかという心配もあるため、何でも請けてしまう人
 がいるようです。でも、ちょっと待ってください。

 できもしない仕事を受注すれば、苦しみ抜いたあげく不十分な訳文しか
 提出できません。訳文が不十分だと気づけば、客先納期までの間になん
 とかリカバリーしようと翻訳会社はあたふたすることになります。不十
 分だと気づかず客先に納品すればクレームになるかもしれません。

 私がコーディネーターなら、その翻訳者に2度と声をかけません。分野
 によってはいい翻訳者なのかも知れませんけどね。でも、自分にできる
 かできないかの判断ができない人に仕事を発注するのは、くじを引くよ
 うなものであてにできません。次に新人向けの仕事が発生したら別の新
 人さんに振り、信頼できる人を探そうとするでしょう。

 翻訳などの請け負い仕事は、受注を決めたら仕事の半分は終了です。受
 注する前には、内容、量、納期など、さまざまな条件を勘案し、できる
 かできないか、やるかやらないか、いろいろと考える必要があります。
 不明な点があれば問い合わせや確認もしなければなりませんし、納期の
 ネゴを行うこともあります。最終的に受注を決断すれば、あとは、やる
 と約束したことをやるだけです。

 打診から受注では、以下の項目がポイントとなります。

 1. 自分の翻訳速度を正確に把握しておく
 2. 量が多い場合は減らしてもらう、または断る、という勇気を持つ
 3. 原稿を見て、その難易度と翻訳量を見積もる目を養う
 4. 専門分野を持ち、なるべくその分野の仕事に集中する
 5. 翻訳スピードを高める工夫をする

 これらを念頭に、以下の事項を確認して、受注するかしないかの判断を
 行い、回答します。

 1. 内容  -分野と内容
       (先方が間違っていることあり)
 2. 量   -数量だけ連絡されたときは要注意
 3. 納期  -自分のスピードで間に合うのか
 4. 納品形態-ベタ打ちでいいのかDTP的作業も行うのか
       (+αの時間を見込む必要があるのか)
 5. その他 -図表はタイトルのみか中身までか
       (量のわりに時間がかかることが多い)

 これらの項目について、順番に説明しましょう。

 1. 自分の翻訳速度を正確に把握しておく

 これがわからなければ、納期までに訳し終えられるかどうかわかるわけ
 がありません。できる・できないの判断にどうしても必要なことですか
 ら、時間を測りながら翻訳を行い、自分の速度を把握しておいてくださ
 い。翻訳速度は分野や難易度によって大きく変化します。いろいろな条
 件ではかって頭にたたき込んでおきましょう。

 スピードを測るとき大事なのは、読み直しやファイル修正にかかる時間
 も込みで考えること。600ワードのファイルを4時間で一通り訳したあと、
 読み直しと修正に2時間かかったら、総合スピードは600ワード/6時間=
 100ワード/時です。

  ついでに、原文と訳文の比率(ワード/文字、文字/ワード)も測っ
  ておくとあとあと便利です。

 なお、把握しておかなければならないのは「最低速度」です。「平均速
 度」ではありません。平均速度でぎりぎりという仕事を請けたら、2回
 に1回は納期に遅れる計算になりますからね。最低速度で見積もっても、
 そのとき請けた仕事が今まで以上に時間がかかるもので最低速度記録を
 更新することだってありますが、そのくらいなら睡眠を削るなどして対
 応が可能でしょう。

 スピードに1日あたりの仕事時間をかければ1日あたりの処理量が得られ
 ます。これで案件の全体量を割り、納期と比較すれば、できる・できな
 いの判断ができるわけです。

 仕事として産業翻訳をしたいなら、最低でも英日仕上がり400字で5枚/日、
 原語ベースで600ワード/日くらいのスピードがないと難しいでしょう。
 特に最近は短納期の案件が増えており、新人がじっくり訳して力をつけ
 るのが困難な状況になってしまいました。

 2. 量が多い場合は減らしてもらう、または断る、という勇気を持つ

 自分の処理速度では納期に間に合いそうにない、またはあまりにぎりぎ
 りであるという場合、一部だけを受注して残りを他の人に回してもらう
 か、または、思い切って断る必要があります。

 特に駆け出しのころは断ることが怖く、無理を承知でつい請けてしまう
 ことがあります。でも、納期に遅れれば断る以上に大きなマイナス評価
 となりますし、納期を気にして品質が低下すればこれまたマイナス評価
 となってしまいます。

 翻訳関連の雑誌に、翻訳コーディネーターへのアンケート調査が載るこ
 とがあります。そのとき、翻訳者の善し悪しを判断する主な項目のひと
 つとして必ず登場するのが納期遅れです。やると約束したことはやる必
 要があります。逆に、やれないことをやると約束してはいけないのです。

 断る勇気を持ちましょう。

 


 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◆ビジネスの流れ

登録がすめば、翻訳会社のコーディネーターから仕事の打診を受ける準
備が完了です。プロの入口に立ったといえます。

●仕事の打診

登録してから初めての打診が来るまで、どのくらいの時間がかかるもの
でしょうか。

登録してすぐに声がかかることもあれば、1年も音沙汰がなかったあと
に突然話が舞い込むこともあります。何年たってもお声がかからないこ
ともあります。登録してすぐ声がかかるというのは、よっぽど優秀だっ
たか、その会社が必要としている分野が専門だったか、はたまた、ホン
トにたまたまというラッキーな場合だったかです。今現在、売れっ子に
なっている翻訳者でも、たいていは「トライアルに合格して登録はされ
たけど、仕事の打診が来ないよぅ~!」という、もんもんとした経験を
しているものです。

なぜ、すぐに打診が来ないのか。仕事を発注する側の立場にたってみれ
ばわかります。

あなたが登録される前も、翻訳会社の仕事は回っていました。すでに登
録されている翻訳者だけですべての仕事が処理されていたわけです。そ
こに1人、登録者が増えた。どうしましょうか。トライアルをしている
とはいえ、実際の仕事でどのような訳文を上げてくれるのかは不明で不
安があります。トライアルはいいのに仕事はボロボロ……そんな翻訳者
もいますからね。あなたに頼みたいと思う理由がなければ、大事をとっ
て「いつもの人」に発注したくなるのが当たり前です。

リスクをとってでもあなたに頼みたいと思うのはどのようなケースでし
ょうか。

「この分野の人が不足して困っていた」というケースなら、その分野の
仕事がきたとき、新しい人に回してみるでしょう。優秀であるなど「こ
の人は絶対、ウチに欲しい」と思う翻訳者だったら、いつもほかの人に
頼んでいた仕事を回してでも新しい人をつかまえようとするでしょう。

もちろん、「将来、翻訳者が不足したらお願いしようかな」のレベルで
あっても、少しずつ仕事を頼んで様子をみておくべきです。発注量を少
なくする、後処理の時間を長めにとるなどの対応がとれればリスクは小
さくできます。逆に言えば、そういう案件がはいってこなければ、新し
い人に発注できません。登録の直後にたまたまそういう案件が飛び込み、
発注してもらえればラッキーということです。

仕事の打診がこないなぁと思うなら、「営業」をかける手もあります。
翻訳会社には、あなた以外にもつぎつぎと登録されていきます。時間が
たてば忘れられるのです。ただし、しつこい営業はかえって嫌われます。
兼ね合いが難しいところです。相手によっても違いますし。トライアル
アンドエラーでやってみるしかありません。

そういう意味では、季節のあいさつを兼ねての営業がいいかもしれませ
ん。特に暑中見舞いはお勧め。お盆時期で「いつもの」翻訳者がお休み
しており、コーディネーターが困っていることがありますからね。営業
を兼ねるのですから、登録されている分野など、発注する側が欲しいと
思う情報は「さりげなく」記載しておきましょう。

近況報告を兼ねるのもいいと思います。「資格試験の上級に通った」
「最近、他社で別分野の仕事をしている」など、登録時と異なる状況が
生まれたとき、ハガキやメールでお知らせするわけです。

媒体は、ハガキとメール、それぞれに一長一短です。

ハガキはちょっと面倒です。特に最近のようにメールが普及すると、紙
媒体に書いてポストに入れるというのはなかなか大変だったりします。
発注につながらなかったとき、反応も期待できません。でもハガキなら、
「こんなの来てるよ~」と翻訳会社の中で回してもらえたり、ハガキを
見ながらコーディネーター同士であなたのことを話してくれたりといっ
た可能性があります。

メールは手軽です。自分にとっても手軽ですし、相手も比較的気軽に返
事が書けます。「こういう分野で登録されていますが、この分野の仕事
は、今、どういう具合でしょうか」などと聞いてみれば返事が返ってく
る可能性もあります。デメリットは、まず、送った相手にしか読んでも
らえないことがあります。かといって同報メールで多くの人に送るのは
スパムに近く、嫌われることがあります。だいたい、その翻訳会社のコ
ーディネーター、全員のメールアドレスを知っているとは限りません。
あなたが知らないコーディネーターのところに、あなたにぴったりの案
件があるかもしれません。もう一つのデメリットは、たくさんのメール
に埋もれて読み飛ばされること。メールは手軽な分、読まなくてもいい
ものまでたくさん届くことがあり、読む必要のあるなしでぱぱっと分け
てしまう人がいます。相手がそのような人であった場合、ごあいさつの
メールは「読む必要なし」側で読み飛ばされることがあるのです。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◆仕事の始め方

●契約書

登録時に提出する書類の中に「契約書」がある場合もあります。

◎業務委託契約書

翻訳会社から翻訳者への発注は翻訳業務の委託ということになるので、
業務委託契約書を結んでおくのが本来あるべき姿です。現実にはその
ような書類が用意されていないことも珍しくないのですが。

「お願いします」「分かりました」という口頭の約束でも法的には契約が
成立しますし問題がないときはそれでいいのですが、万が一、何か問題
が起きたとき言った・言わないの話になってもめないように作っておく
のが契約書です。契約を締結というとすごいことのようですが、実は意
外なほど当然のことしか書いてありません。

契約書というのは契約当事者、両者が取引について合意した内容を書く
ものなので、本来は、両者が話し合って内容を詰めてゆくものです。た
だ、現実には、各翻訳会社が用意しているものに翻訳者がサインすると
いう形が一般的です。

形式は、普通、契約当事者、両者について、それぞれが履行すべき義務
と相手に要求できる権利を列挙する形になっています。長さは1ページ
の簡単なものから10ページ超の詳細なものまで、会社によって異なりま
す。

簡単なものがいいわけでも、詳細なものがいいわけでも特にありません。
ポイントは「両者について」という点です。発注時には翻訳会社がきち
んと指示を出す、翻訳者は納期までにきちんと仕上げて納品する、翻訳
会社は納品から一定期間内に検収し、さらに一定期間のうちに支払いを
するなど、両者の義務が明記されていることが大事です。義務を履行で
きない場合のペナルティも双方について規定してあるべきです。ただ、
契約当事者の片方が作る契約書というものは、作る側に有利な内容にな
りがちです。ひどい場合は、翻訳者の義務と翻訳会社の権利だけがずら
っと並んでいるものもあります。

不公平な契約だと思えば、内容の修正をお願いしましょう。念のため翻
訳者仲間に相談する、できれば市役所などで行われている無料の法律相
談でいろいろと確認するなどしてから翻訳会社との交渉にはいるほうが
いいでしょう。

交渉しても、どうにも納得できない内容にしかならない場合は契約を見
送ることをお勧めします。翻訳者をパートナーだと考えていれば公平な
内容になりますし、顧問弁護士に契約内容を確認してもらうだけでもそ
こそこ公平な内容になります。不公平な契約書を出してくるということ
はそのいずれでもないわけですし、交渉しても不公平が解消されないと
いうことは翻訳者をパートナーと認識していないことの証拠だと言って
もいいでしょう。世の中に翻訳会社は山のように存在しますし、公平な
内容の契約書を用意しているところもたくさんあります。さっさと次を
探しましょう。

◎守秘義務の契約書・宣誓書

業務委託契約書のほかに、守秘義務を規定した契約書や宣誓書も用意さ
れていることがよくあります。翻訳の仕事は一般公開前の情報が含まれ
ていることが多く、それが漏れるとソースクライアントに大きな損害が
発生することもあるからです。

題名が「契約書」でも「宣誓書」でも、法的には「契約書」です。守秘
義務の場合、ほとんどが受注側の義務となるため、宣誓書という形を取
ることがあるだけのことです。

こちらもポイントは「公平か」という点です。

業務委託契約書はそれなりにきちんと作っている会社でも、守秘義務の
契約書や宣誓書は片手間で作るのかひどい内容になっていることが珍し
くありません。たとえば、(↓)のようになっていたりします。

  ・当社から渡すものすべてが機密情報である
  ・案件終了後も守秘義務は継続する
  ・機密情報漏洩で損害が発生したら翻訳者が責任を負う

この内容には、(↓)の問題点があります。

  ・渡されたとき公知のもの、渡されたあと公知になったものにも守
      秘義務が発生する
  ・翻訳会社やソースクライアント、あるいは第三者から機密が漏洩
      しても翻訳者が責任を負うことになる

この点について問い合わせると、「公知のものに守秘義務はないし、翻
訳者以外が機密を漏洩した場合に翻訳者が責任を問われることはない。
常識で判断して欲しい。(だからこのままサインすればいい)」という
回答が返ってきたりします。

そういう回答で納得あるいは安心してサインなどしないように。最初に
書いたように、契約書というのは当然のことを書いておくものなのです。
逆に言えば、当然のことなら契約書にそう書けばいいだけのこと。それ
を書かないのは裏の意図があると疑われても仕方がないと言えます。だ
いたい、「常識で判断」すればいいのなら守秘義務の契約書や宣誓書な
ど不要です。翻訳の仕事をすれば守秘義務があるのは常識ですからね。
そういう話をしても修正に応じないようなところがあれば契約せず、
別の取引先を探すことをお勧めします。

◎契約書の活用方法

契約書についてのあれこれ、なんだか面倒だなと思われたかもしれませ
ん。面倒といえば面倒ですが、別の見方もあります。

どのような契約書を作っているかで、取引先が翻訳者をどう位置付けて
いるのかなどがわかるわけです。一方的な契約書を作るところは、だい
たい取引も一方的です。契約書なんて建前ですから、契約書が公平でも
取引関係のやりとりが一方的なところはありますが、建前を取りつくろ
うことさえしていなければ論外と思ってまず間違いないでしょう。契約
書の内容や契約締結時の交渉というのは、自分が取引すべき相手かどう
かを見極める一助となるわけです。

取引先を選べる、こことは取引したくないと思えば断れるというのがフ
リーランス翻訳者の特権です。その特権を活用し、仕事のパートナーと
して翻訳者を見てくれるところを探して取引することをお勧めします。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◆仕事の始め方

●登録

トライアルに合格すると「登録」です。登録翻訳者のデータベースにあ
なたのことを書いたページが追加されるわけです。コーディネーターさ
んが仕事を振る相手をさがしてパラパラめくっているとき、あなたのこ
とが目に留まれば、晴れて仕事の打診がくる、となります。

登録手続きは翻訳会社によって異なります。

一番多いパターンは、送られてきた登録用紙に必要事項を記入して返送
するというものでしょう。改めて書類を提出することのない翻訳会社も
あります。面接します、という翻訳会社もあります。私は、面接なしの
ところでも、「登録手続きを兼ねて訪問します」と訪ねていきます。ホ
ンネは、敵情視察を兼ねて、です。

面接では、登録用紙に記載する内容を話し合いで決めていきます。特に、
分野とレートは、お互いに話をしながら書き込んでおいた方がなにかと
いいはずです。そのときの応対から、その翻訳会社が強いのはどの分野
であるのか、ある程度はわかるからです。逆に翻訳会社は、面接中、翻
訳者の性格や人間性などを知ろうとすることでしょう。

登録用紙の内容は、名前や住所など、「履歴書に書いてあるからわかっ
てるだろうがぁ」と思ってしまう内容も多いのですが、これはまあしか
たがないでしょう。履歴書から登録用紙への転記もたくさんになると大
変ですからね。

◎得意分野や専門分野

得意分野や専門分野は必ず聞かれます。前にも書きましたが、あらかじ
め考えて決めておきましょう。

ポイントは、「今後、得意分野や専門分野としてやっていこうと心に決
めている分野は何ですか?」と聞かれたと思って明確に答えること。
「いや~、わたし、これから仕事を始めるわけでぇ……まだ、実際の仕
事としてやったこと、ありませんしぃ……一応、○○をやりたいとは思
ってるんですがぁ……でもぉ……」みたいなことは間違ってもやらない
ように。面接している方は、「アンタにどういう分野の仕事を振ったら
いいのかわかんないだろうがぁ。もう知らん!」と思ってしまいます。

得意分野や専門分野以外でも、これからのことを聞かれたときには、み
んな、「どうしたいと思っているのか」を聞かれたと思ってはっきり答
えるべきです。

記入して送り返す場合も、空欄にしないで必ず記入しましょう。

◎レート設定

レートの設定は、いろいろと微妙で難しい問題です。

まず、一般的なレートをムック本などで調べておきましょう。記事によ
っていろいろな値が出ています。業界として決まった値があるわけでは
なく、分野によって、実力によって、そして翻訳会社の台所具合によっ
て、それなりの幅で違いがあるからです。あくまで「目安」であること
に注意しつつ、だいたいの値を頭に入れておきましょう。

翻訳会社の台所具合というのは、安く売っているところだと翻訳者への
支払いレートも安くなるなどの話です。このような翻訳会社の場合、
レートを高めに設定すると仕事があまりきません。もちろん台所具合が
どうであれ、料金は安めの方が仕事はもらいやすくなります。しかし、
レートを途中から値上げするのはいろいろと難しく、最初に安すぎる設
定にすると収入が増えません。最終的には自分の収入を増やしたいわけ
ですから、レートをあまり安く設定してしまうと、自分のクビを絞める
ことになります。

初めてトライアルに合格したような場合には、先方の言い値でもしかた
がありません。ただ、調べておいた相場と比較してあまりに安い場合は、
その理由などを聞いてみることをお勧めします。「いや~、これが相場
ですよ」と言われるようなら、なるべく早く他の受注先に乗りかえる努
力をすべきでしょう。相場を知らずにビジネスをしている翻訳会社なん
て危なっかしくてしかたありませんし、相場を知った上で相場よりも安
いレートを相場だと言ってくるようなところでは翻訳者を大事にしてく
れるはずがありませんから。

経験者の場合、既存の取引条件と比較してどうかということも気になる
でしょう。今までの取引価格よりも安いレートを提示されたら、「他社
からはXX円をいただいているのですが……」と言ってみる手がありま
す。あっさり「じゃあ、同じレートで行きましょう」となる場合もあり
ますし、「当社ではこれがいっぱいです」と断られることもあるでしょ
う。

この交渉でベースとなるのがトライアルです。「あのトライアルであれ
だけの訳文を出せる翻訳者は少ないでしょ?」「あのトライアルであの
訳文じゃ、○○円以上では買えません」とやりあって落としどころを探
すわけです。もちろん、翻訳者も翻訳会社もはっきりそう口にするわけ
ではありませんが、要はそういうことなのです。経験者だからトライア
ルなしでとなれば、翻訳会社としては安めのレートに抑えておかないと
怖いことになります。安いレートならまだしも、高いレートで仕事をだ
してボロボロの訳文が返ってきたりしたら悲惨ですからね。

翻訳者としては自分の実力にみあう範囲でギリギリ高いレートを翻訳会
社から引き出したいわけですが、そのとき一番の交渉材料となるのがト
ライアルです。だから私は、トライアルをしてくれと頼むことにしてい
るわけです。

トライアルを出したら、「この程度ではこれが限界」と安いレートしか
提示されなかったら……その翻訳会社にとって自分の価値はそれだけだ
ということです。翻訳会社によって強い分野は異なりますし、今、どう
いう翻訳者が欲しいのかも異なります。評価基準だってまちまちです。
同じ翻訳に対し、A社、B社、C社がまったく違う値段をつける。そん
なものです。安いレートしか出てこない場合、それでもいいから登録す
るか、XXでなければやらないと突っぱねる(そして次をあたる)かは
あなたの選択になります。取引条件の交渉なのですから、ビジネスライ
クに行きましょう。なお、言葉遣いはあくまで丁寧に。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◆仕事の始め方

●トライアル

前回、「経験者のトライアル」で経験者にトライアルを課すのは失礼だ
という考え方があるが、そのように考えるのは決して得ではないという
話を紹介しました。今回は、誰かの紹介でつながりができたときのトラ
イアルについて紹介します。

紹介においてもトライアルが問題となることがあります。紹介によって
実力は保証されているのだからトライアルがあるのはおかしいと考える
人がいるのです。

◎紹介とトライアルの有無

紹介だと、結果的にトライアルなしになることが多いのは確かです。で
も、「紹介だからトライアルなしにすべき」とはなりません。そんなに
単純な話ではないのです。いろいろなケースがあり、また、それぞれの
人にはそれぞれの立場があるからです。

ケースはいろいろといっても、「実力を見る方法はトライアルしかない」
ということの派生形です。ただ、それをどういう立場からどう考えるか
次第で、いろいろなパターンになりえます。

私自身、紹介を頼まれることがけっこうあるので、今までそれなりに多
くの人をあちこち、紹介してきました。その際は、実力を保証するよう
な書き方をすることもあれば、実力はそちらの基準で再確認してくれと
紹介することもあります。後者であれば、先方は基本的にトライアルを
しているはずですし、前者であってもトライアルをしているケースがあ
ってもおかしくないと思います(理由は後述のようにいろいろとありま
す)。

また、一時期、けっこういろいろな人に仕事をお願いしていた時期があ
りますが、そのときの紹介のされ方も、上記のように、2種類ありまし
た。また、実力を保証されても、保証した人の実力に私が不安を持って
いるため保証された人の実力も信用できないとして、トライアルをお願
いした場合もありました。もちろん、確認してくれと言われたときを含
め、ちょうど小さな仕事があったので、それをお願いしてトライアルが
わりにしたこともあります。

私がどこかのクライアントに紹介されたケースでも、トライアルなしの
こともあれば、トライアルありのこともありました。トライアルありだ
ったときは、「トライアルで実力を確認してくれ」という紹介だったの
かもしれないし、紹介してくれた人の実力に向こうが不安を持っていた
のかもしれません。それだけでなく、特に企業との直接取引など、担当
者が誰かから私を紹介されたが私に発注するためには上司の許可が必要、
というようなケースでトライアルをする形になることもあります。会社
の方針として必ずトライアルとなっていれば、ケースバイケースで対処
するわけにいかないでしょう。そういう会社でも社長など上の人が信頼
する人から紹介を受けたなどの場合にはトライアルなしになったりはし
ますが、例外があるなら自分に例外を適用しろと言えるものではありま
せん。

このように、主だったものだけあげてもいろいろなケースがあるわけで、
紹介であればトライアルをなしにすべきというのは無理があります。

◎善意で紹介してくれた人の顔をつぶす

ここまでは、先方や周囲の状況にもいろいろあるという、いわば消極的
な意味で、トライアルをしろと言われても仕方がないという理由でした。
今度はもう少し積極的な意味で、そういう場合にフレームメールを返し
たりすることはまずく、落ち着いた対応でトライアルを受けるなりにし
たほうがいいという理由をあげましょう。

紹介なのにトライアルを受けろとは、と怒ってしまうと、最悪の場合、
善意で紹介してくれた人の顔をつぶしてしまうおそれがあります。

紹介で話が動き始めたとき、関係者は、自分、自分を紹介してくれた人
(Aさんとする)、Aさんが自分を紹介してくれた発注元(B社とする)
の3者です。基本的に、自分とAさんとの間、AさんとB社との間は関
係が良好、自分とB社との間には特につながりがない、という状態のは
ずです。

この関係の中で、「トライアルをお願いしたい」とB社からの問い合わ
せがあったとき、それはおかしいと怒ったメールを返したり無視するな
どおかしな対応をすると、Aさんに迷惑をかけてしまうおそれがかなり
あります。

仮にAさんが私を「実力はそちらで確認してくれ」と紹介していたら……
上記の対応がまずいのは明らかですよね。

その他のケースでは、翻訳者の立場にたってものを考えてくれるだけの
分別がB社にあれば、あまり大きな問題にならないかもしれません。

翻訳者側が発注側の立場を斟酌しないのに(今回のケースでは、「先方
にはトライアルをしなければならない理由があるかもしれない」という
ことを斟酌しないのに)、相手にはこちらの立場を斟酌してもらうこと
を要求するのは、身勝手なんじゃないかと私は思いますが、その後の展
開として、相手次第で特に問題にならないのは事実でしょう。

それほどの分別がない場合、B社は多少なりとも腹をたてるでしょう。
無視したり怒ったりしたメールを送り返した私に対してはもちろんです
し、それは別にいいと思いますが(いいと思わなければ、無視もフレー
ムメールもないわけですから)、ひどい人を紹介してくれたとAさんに
対しても腹を立てるおそれがあります。しかも、Aさんが丁寧に推薦し
てくれていればいるほど、私の対応が悪かった場合にAさんへと累が及
ぶおそれが強くなります。「この人はこれこれこのように実力があるだ
けでなく、とてもいい人で、信頼できる人です」なんて私を紹介してく
れていたりしたら、目もあてられません。失礼な対応をする私を信頼す
るということは、Aさんも実はそういう人なのね、とか、少なくとも人
を見る目がないねと言われかねません。

Aさんが今までB社と築いてきたいい関係に傷を付けるおそれがある、
つまり、善意で私を紹介してくれたAさんの恩を仇で返すおそれがある
のなら……それを避けるため、丁寧な対応をするべきだと私は考えます。

もちろん、B社の対応があまりにひどいという場合もあるでしょう。

そういう場合でも、いや、そうであるならなおさら、丁寧な対応をすべ
きだと思います。ひどい対応をするということはB社に上記のような分
別がない証拠だと言えるでしょうし、それはとりもなおさず、私の対応
いかんでB社がAさんに対しても腹を立てる可能性が高いということで
すから。そんなB社でも、Aさんにとっては、それなりに良好な関係を
持っている取引先のはずであり、その関係に横から傷を付けるようなま
ねはしたくないと私なら考えます。

いずれにせよ、B社に対しては丁寧な対応をする。その上で、B社の対
応に不備があると思えば、それをAさんに伝えておく。B社との関係を
考え直すかどうはAさんの判断ですからね。このくらいが妥当な線では
ないかと思います。

丁寧にお断りする、という対応はもちろんアリです。対応が丁寧か失礼
かという問題と、ビジネスとして条件が折りあい取引にいたるかどうか
とは、まったく別次元の問題ですから。

若干、脱線しますが……紹介の話が「B社を助けてあげて」というよう
なものであれば、通常なら断る条件の話でも受けることが多いでしょう。
もちろん、無理なものは無理なので必ずとは言えませんし、私とAさん
との関係次第でもありますが。仕事というのは人と人のつながりのなか
でしていくものだと思いますので。

フレームメールうんぬん以外にも、紹介者に迷惑をかけないがために、
トライアルがあったほうがいいという側面があります。

万が一、紹介された人のデキが悪かったとしても、トライアルありなら
善意で紹介してくれた人に累が及ぶ心配がありません。私の実力、保証
しますと紹介されたのに、もし、紹介先が満足するものを私が出せなか
ったら……紹介してくれた人に悪いと私は思います。せいいっぱいの訳
文をだして満足してもらえなかったのなら、悪いけど仕方がない、では
ありますが。とにかく、トライアルだったとしてもよくありませんが、
仕事として請け負ってそんな結果しか出せなかったらもっとまずいこと
になります。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◇ 仕事の始め方

●トライアル

前回は、誰もが一度は通るであろう一般的なトライアルについて書きま
した。今回は、翻訳者を続けていると遭遇することがあるパターンを紹
介します。

◎再受験はできるのか

トライアルに落ちたら、もう2度とその翻訳会社のトライアルは受けら
れないのでしょうか。そんなことはありません。トライアルの目的は
「翻訳の力が一定レベル以上あるかないか」を判定することにあります。
トライアルに落ちたというのは、その時点では一定レベル以下だと判断
された-それ以上でも以下でもありません。力がつけばまた受けてかま
わないし、合格すれば普通に仕事へとつながります。

ただし、実力がはっきりとあがるにはかなりの時間がかかる点は忘れな
いこと。落ちた翌月にもう一度申し込むなどは非常識です。くり返し受
けたら合格率が上がるわけではありません。通る人は通るし落ちる人は
落ちる。トライアルとはそういうものです。

じゃあ、どのくらいの期間をおけばいいのか……そう聞かれても答えよ
うがありません。半年で大きく伸びることもありますし、5年たって変
わらないこともあります。10年たって下手になることだってあります。
でもまあ、トライアルを課す側の手間などを考えれば、少なくとも1年、
できればもう少しあけるべきでしょうね。

少し視点を変えて考えれば、同じところを受けなければならない理由は
ないことが多いと思います。トライアルを受ける先はいくらでもあるの
ですから、「どうしてもここ」と思いこまず、あちこちに当たってみる
のがいいと思います。

◎経験者のトライアル

翻訳業界には、ある程度以上の経験を積んだプロにトライアルをさせる
のは失礼だという考え方があるようです。翻訳者のコミュニティなどで
「経験X年の自分にトライアルをやれとは失礼な会社だ」と憤慨してい
る人を見ることがあります。新しい翻訳会社の方から「申し訳ないので
すが、当社規定のトライアルを訳していただけませんか」と聞かれるこ
とがあるのも、経験が長いプロにトライアルを申し出ると怒られること
があるからでしょう。

この背景には、おそらく、実力は経験が証明しているから改めてトライ
アルで実力を確認する必要などない、であるのにトライアルを課すのは
バカにしているからだという流れがあるものと思います。

でも実はこの考え方、私にはまったく理解できません。新しいところと
取引を始めるときには「なるべくトライアルをお願いします」とこちら
から頼むくらいですから。

まず、怒ることにデメリットはあってもメリットはないと思います。自
分の中で憤慨しているだけでも翻訳の作業に悪影響が出るなどいいこと
はありません。相手に怒りをぶつければ印象を悪くするだけです。

トライアルを課す側の要求レベルがさまざまだという問題もあります。
まず、会社による違いがあります。違いは、A社よりもB社のほうが甘
いということもありますし、重視するポイントが違うということもあり
ます。また、同じ会社でも、「そのうちお願いすることがあるかもしれ
ないから」というケースと「これから始まるプロジェクトを頼める人を
集めたい」というケースでは要求水準が異なるのが当たり前です。他社
で仕事をしていても、その会社にとって仕事を頼める人かどうかはわか
りませんし、そのプロジェクトで使える人かどうかもわからないのが当
たり前なのです。

冒頭の話は、経験年数という実績から、そういう違いがあっても全部ク
リアできるレベルだと判断しろ、そうしないのはけしからんということ
だろうと思いますが、現実を見るとそうも言えないことが分かります。

翻訳の世界は実力勝負。訳文がすぐれていれば、あるいはボロボロなら、
学歴も経歴も関係ありません。プロとして何年も食べているというのは、
たしかに一定レベル以上の力を持つことの証明にはなります。でも、そ
れ以上は何もわからないのです。10年、翻訳で食べていても駆けだしと
同じようなレベルに留まっている人もいます。プロになってほんの数年
でどんどん上手になってゆく人もいます。もちろん、これらを両極端と
して、その中間にさまざまな人がいるわけです。「出版翻訳の実績があ
れば違う」という人もいますが、現実には出版翻訳もピンキリです。出
版された時点での品質もピンキリですし、そこまでに編集さんなどがか
けなければならなかった手間もさまざま。最初から出版向けの品質を作
り込める翻訳者だけが訳書を出すわけではありません。結局、なにがし
かの形でトライアルをするしか初見の相手の実力を確認する方法はない
わけです。

詳しくは後述しますが、トライアルがあったほうが翻訳者にとっていい
という側面もあります。

なお、トライアルの形式としては、翻訳会社などが用意した課題を訳す、
自分で選んだものの原文と訳文を提出するなどの方法があります。小さ
な案件を翻訳会社の言い値でやってからその後のレートを決めるという
方法も、トライアルの一種だと言えるでしょう。

余談ですが……トライアルを受けろというのは侮辱だと感じる翻訳者が
かなり多いという話、翻訳会社の人たちから聞くこともよくあります。
そういうとき、そのあとには「そういう人にかぎって質がよくない」
「できる人はトライアルくらい、ささっと軽くやって出してくれる」と
いう話が続きます。愚痴に近いことが多いので話半分に聞いたほうがい
いと思いますが、少なくとも、いろいろな人がいることだけはたしかで
しょう。
 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◇ 仕事の始め方

●トライアル

履歴書、職務経歴書などを提出し、書類審査に通ればトライアルとなり
ます。

短い文章が送られてくるのでそれを訳して提出し、実力を確認してもら
うわけです。試験のようなものだと考えればいいでしょう。

自分の実力を正確に測ってもらうため、また、アピールしてのちのちの
仕事につなげていくために注意すべき点がいくつかあります。
 ・指示に従う
 ・トライアル分野に注意する
 ・仕事をイメージした納品方法とする
 ・できる限りの努力をする
 ・仕事ベースになっても同レベルの仕上げをする

◎指示に従う

「XXについてはYYとしてください」など指示がある場合はそれに従
いましょう。

仕事でもいろいろな指示を受けることがあります。そのような指示にき
ちんと従って作業をしてくれる人かどうか、そういう能力の有無もチェ
ックポイントなのです。注意しましょう。

◎名前を記入する

トライアル訳文の最初に名前をかならず記入しましょう。

募集があった場合のトライアルはもちろん、それ以外でも、採用担当者
はたくさんの訳文を見ることになります。そのとき、履歴書などをはず
し、訳文だけをまとめて見ることもあります。「訳文はとってもいいん
だけど、これ、誰なんだろう」ということにならないように、名前を必
ず記入しておきましょう。

もちろん、別の形式が指示されていれば指示が優先です。

◎トライアル分野に注意する

多くの翻訳会社が複数分野のトライアルを用意しています。
分野は、アプローチした翻訳者が選ぶ場合と翻訳会社が選ん
で送ってくる場合があります。

後者の場合、自分の不得意分野が来てしまうことがあります。
履歴書に得意分野とやりたいない分野を明記していても全然
違う分野が送られてきたりするのです。

不得意な分野が送られてきてしまったら、変更をお願いして
みましょう。応じてくれることが多いはずです。「その分野
の翻訳者が欲しいので、ともかく、送ったトライアルはやっ
て欲しい」などと言われることもあります。そのような場合、
まずは訳してみるのでしょう。あまりにできが悪かったら訳
文の返送をやめればいいわけですから。

◎仕事をイメージした納品方法とする

トライアルと仕事は基本的に同じです。特に指定がなければ、送られて
きたファイルに上書きして送りかえしましょう。PDFなど上書きができ
ないフォーマットのときは、Wordやテキストファイルにすればいいでし
ょう。

◎できる限りの努力をする

当然ですね。トライアルのできが悪ければ先はありません。できる限り
よい状態に仕上げてください。

原文の内容を理解する、専門用語を調べて確認する、自然な訳文に仕上
げる……このあたりが一通りできていればトライアルに落ちることはあ
りません。内容の理解と自然な訳文は翻訳の実力そのものですからトラ
イアルになってあわててもどうしようもありません。ふだんの勉強が物
を言う世界です。これに対して専門用語の調査・確認は、やるかやらな
いか、の世界です。

自動車関係の英日トライアルで自動車関係の本やパンフレットによく出
てくるある単語(自動車ユーザー向けに一般に使われる用語)がでてき
たことがあります。この程度の単語がだめなら文句なしに落とすのだが、
これに引っかかる人がとても多いのだそうです。

◎仕事ベースになっても同レベルの仕上げをする

翻訳会社の採用担当者から「トライアルのできはいいのに実際の仕事で
ボロボロになる人がときどきいる」という嘆きを聞くことがあります。

実際の仕事のできが悪ければ、すぐに仕事はこなくなります。「トライ
アルは念入りに、ホンチャンの仕事はそれなりに」では継続受注など望
めません。仕事になったら毎回がトライアルです。

そうは言っても、仕事になると納期も厳しく、トライアルほど念入りに
作業をすることは困難になります。その点は翻訳会社側でもわかってお
り、若干の質の低下は織りこんでトライアルの合否や仕事の発注を決め
ているのですが、その予想を大きく超えて質が低下する人がときどきい
るわけです。

トライアルの訳文を作るとき、「これと同等の訳文を自分は仕事で出し
続けられるのか」と自問自答してみるといいでしょう。言い換えると、
仕事になったときできないことはトライアルでもしないのが基本となり
ます。「できる限りの努力をする」と矛盾するように感じるかもしれま
せんが、そうでもありません。毎回の仕事で「できる限りの努力をする」
のが翻訳という仕事ですからね。

なお、ごくまれにですが、(↓)のようなことをする人がいると聞いて
います。
 ・できる人に聞きまくる
 ・上手な人に訳してもらう
 ・数人で相談しながら訳す

トライアルに落ちつづけるとこのような誘惑にかられるのかなと思いま
すが、百害あって一利なしなのでやめておきましょう。我々の目的は、
トライアルに合格することできなく、継続受注すること。そう考えれば
このようなことに意味はないとわかるはずです。


 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◇仕事の始め方

 ●アプローチの仕方

 ◎履歴書・職務経歴書の書き方

 前号のメールマガジンでは、翻訳会社へアプローチする際の履歴書につ
 いて取りあげました。今号はその続きで職務経歴書と翻訳サンプルを取
 りあげます。

 ○職務経歴書

 職務経歴書には、過去にどのような仕事をしてきたのかをリストアップ
 します。履歴書側に職歴を書いたのであれば、こちらには翻訳者として
 の職歴だけを書けばいいでしょう。逆に職歴はすべてこちらにまとめ、
 履歴書は職歴を省くという手もあります。

 いずれにせよ簡潔に見やすく書いてください。

 翻訳者としての実績は、履歴書に書いた得意分野における実績、自分が
 これからやりたいと思っている分野の実績などをアピールできればいい
 でしょう。たくさんあることをアピールしようとずらずら書いても、読
 む方はいやになってしまいます。代表的な例をごく少数挙げるだけで十
 分です。心配なら、最初に「実績は例としてごく一部のみをリストアッ
 プしています」と書いておくなどすればいいでしょう。

 翻訳の実績では、小さな案件から大きな案件までやってきたならそうい
 う話、また、硬い文章が多いのかマーケティング系などの柔らかい文章
 が多いのかなど、発注側にとって有益だと思われる情報をさりげなくち
 りばめておきます。

 なお、翻訳の実績をリストアップする際、具体的に書きすぎないこと。
「電子部品メーカーの集積回路に関する販売資料」など、どういう分野
 のどういう仕事をしたのかは分かる必要がありますが、あまりに詳しく
 書きすぎると守秘義務に注意を払っていないと思われるおそれがありま
 す。

 具体的には、訳した時期(年月くらい)と案件の概要がわかるタイトル、
 翻訳言語(英日か日英か、それとも他の言語か)、分量くらいの情報を
 表にすればいいでしょう。昔、自分で書いたときには、分野ごとに分類
 するとともに自分の専門分野のリストを最初に持ってきました。自分の
 専門をアピールしたいと思ったからです。

 なお、駆け出しのころは翻訳歴として書くことが少ないものです。そう
 いう人は、下訳でも社内業務の翻訳でもいいから、とにかく、翻訳した
 ものをリストアップします。ボランティアでお金をもらわなかったもの
 でもいいのです。募集する側が職務経歴書を要求するのは、「この人は
 過去にどのような仕事をしてきたのか」を見ることが目的ですから。

 ○翻訳サンプル

 こちらは要求される場合とされない場合がありますが、私は添付したほ
 うがベターだと思います。翻訳というのはとにかく実力勝負であり、そ
 の実力は原文と訳文を見比べる以外に確認する方法がないわけですから。

 翻訳サンプルを添付する場合、ごく少量を原文・訳文のセットで提出し
 ます。「翻訳サンプル」だからと訳文だけを出さないこと。また、大量
 に出すのも御法度です。リストと同じで見るほうがいやになってしまい
 ますから。原文と訳文、合わせてA4 1枚に収まるくらいで十分でしょう。
 分野や文章の硬軟などで、これを数種類用意すれば完ぺきです。

 サンプルとしては、よく、「課題や過去の仕事」ということがいわれま
 す。しかし、過去の仕事は守秘義務上、問題となることがあるので注意
 が必要です。そういう意味では、インターネット上に公開され、公知と
 なっている文章を訳してサンプルとしたほうが安全でしょう。

 出来のよいサンプルを提出すればトライアルなしで登録になることもあ
 りますが、基本的には、サンプルの出来がどうであれトライアルがあり
 ます。同じ原文の訳文で比較しないと相対的な評価がしにくいですし、
 ある分野に特化している翻訳会社ならその分野の知識も見たいですから。

 ○書き方のポイント

 履歴書と職務経歴書によって門前払いとなるかトライアルを受けられる
 かが分かれます。つまり、履歴書を書く時点で翻訳会社の審査は始まっ
 ているのです。

 このような書類を書くときのポイントは、「相手が必要とする情報を見
 やすく、分かりやすく書く」-これに尽きます。翻訳というのは、自分
 と異なる常識や考えを持つ書き手の考えを、自分と異なる常識や考えを
 持つ読み手が分かりやすい形で伝える仕事です。これに比べれば、自分
 のことを翻訳会社に伝えるなどやさしいはずです。逆に言えば、自分の
 ことを翻訳会社へ上手に伝えられない人がまともな翻訳などできるはず
 がない、そう思われても仕方がありません。そこまで明確に意識してい
 なくても、「読みにくい、知りたい情報がない、不明確、分かりにくい」
 などと採用する側が感じれば、評価は一段、下がるのが当たり前です。

 ポイントをもう少し具体的に書くと、以下のようになります。

 ・見やすく、読みやすく書く
 ・採用する側は忙しいことを念頭に書く
 ・採用する側が知りたいことを分かりやすく書く
 ・採用する側にとってメリットとなることを強調する

「採用する側は忙しい」という点について、ちょっと補足します。

 必要な情報とどうしても読んで欲しい情報は、最初の1枚に入れておく
 べきです。忙しい採用担当者は1枚目を流し読みして、これは、と思っ
 た人だけ、2枚目、3枚目まで目を通すこともあるからです。

「採用担当者なら、キチンと読め!」と言いたい気持ちは分かりますが、
 現実はこんなものです。採用担当者は、他の業務(こっちがその担当者
 の中心職務)をこなしながら、採用「も」行うのが普通だからです。

 ただし、詰め込みすぎて読みにくくならないように気をつけましょう。
 情報を厳選することが重要なのです。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◇仕事の始め方

 ●アプローチの仕方

 ◎履歴書・職務経歴書の書き方

 翻訳会社へアプローチするため、まずは書類を用意します。通常、提出
 するのは以下の2種類です。翻訳のサンプルを添付することもあります。

 ・履歴書
 ・職務経歴書
 ・(翻訳サンプル)

 ○履歴書

 履歴書はフォーマットが市販されています。「履歴書 フォーマット 
 ダウンロード」くらいでインターネット検索をすれば、ファイル形式の
 フォーマットを入手することもできます。

 いずれにせよ、そのようなフォーマットを参考にWordなどで自作するの
 がいいでしょう。最近は履歴書や職務経歴書を郵送ではなく、メール添
 付で送ることが多いため、ファイルにしておかないと困ってしまいます。
 また、一般的なフォーマットでは、翻訳の仕事に必要な項目がない、そ
 ういう欄が小さすぎるなどの問題があったりします。必要なのにない項
 目は追加し、欄が小さいものは大きくするなど調整をしましょう。逆に、
 一般的なフォーマットに必ずある「免許」などは書かなくてもいいケー
 スが多いと思います。

 住所・氏名、連絡先のほか、学歴・職歴も簡単に書いておきます。

 もし、会社員を続けつつ翻訳の仕事をする二足のわらじをめざしている
 のなら、現在、勤めている会社の名前も書いておきます。業務としてど
 こで何をしているかは、自分のウリになる情報だからです。あなたにど
 の案件なら回してよくてどの案件を回したらまずいか、翻訳会社が考え
 るときの重要なポイントにもなります。たとえば、「製薬会社勤務」と
 だけ書いてあったのでは、ある製薬会社から新薬開発関係の文書が出て
 きたとき、あなたに回していいものかどうか翻訳会社で判断がつきませ
 ん。もし、あなたがライバル会社に勤めていたりしたら、守秘義務上、
 翻訳会社に重大な問題が発生します。翻訳会社は二足のわらじに仕事を
 回すことに慣れていますから、翻訳会社に提出する経歴書に勤務先名を
 明記したからといって、そこから二足がばれる心配はありません。

「免許・資格」は、自動車免許など一般的なものしかなければ項目自体
 をなくしてしまいましょう。無線技術者の免許、ファイナンシャルプラ
 ンナーの資格など、ある分野に詳しいことの証明になるものがあれば自
 己アピールとして書いておきます。

「趣味・特技」というのも一般的な履歴書によくある項目です。特にな
 ければこれも項目ごと削除しましょう。逆に、趣味として普通の人より
 よく知っている分野があれば書いておきましょう。料理、ワイン、釣り、
 鉄道、アニメ、ゲーム……翻訳の専門と関係ないことでいいのです。い
 つもと傾向が大きく違う案件が飛び込んできたとき、翻訳会社では、趣
 味欄に関係のありそうなことが書いてある履歴書がないか、必死に探し
 たりするのです。私の経験でも、昔、「井口さん、たしか昔、フィギュ
 アスケートの選手をされてたんですよね?」とフィギュアスケート関係
 の案件が回ってきたことがあります(履歴書に書いてはいなかったけれ
 ど、コーディネーターさんがたまたま知っていた)。

 一般的な履歴書にはないけど翻訳者の履歴書には不可欠なのが「翻訳対
 象の言語」です。英語から日本語、日本語から英語など、方向も含めて
 明記します。

 経験年数も必要です。「会社の業務としてXX年、専業翻訳者としてY
 Y年」などと書いておきます。

「得意分野」あるいは「専門分野」も不可欠な項目です。これは前にも
 書いたように、あくまで翻訳者として「得意」あるいは「専門」である
 分野です。これから仕事を始める場合には、「翻訳者として仕事をして
 ゆこう」と思っている分野を書いておきます。

 作業環境も必ず書きましょう。仕事分野によっては不可欠なTradosなど
 の翻訳支援ソフトを持っている場合は、必ず書いておきます。MS Office
 も、Wordだけなのか、Excel、PowerPointまで持っているのか、明記し
 ておきましょう。

 通信環境も忘れずに。なお、メールアドレスは必ず有料のプロバイダか
 ら割りあてられるものを取得しておきます。間違っても、いわゆるフリ
 ーメールアドレスを書かないこと。まじめに仕事をしたいと考えれば当
 然の行動だと思います。これを当然だと思わない人は仕事社会の常識を
 どこかで勉強して出直すべきでしょう。

 自己アピールも書いておきましょう。内容は、他人と違う自分の特色で、
 翻訳会社にとってメリットがあること。この基準から外れる内容なら書
 かないほうがマシです。意欲を示したいと「徹夜してでもがんばります」
 などと書かないこと。「徹夜なんてしたら品質は落ちる。徹夜せずにき
 ちんと仕事を仕上げるスケジューリングもできないのか」とあきれられ
 たりします(私ならそう思います)。「丁寧な仕事を心がけています」
「納期は必ず守ります」など、プロなら当然のことだけ書くのもやめま
 しょう。アピールするポイントは特にありませんと言うようなものです
 し、下手すれば、「そのくらいプロなら当たり前だということさえ分か
 っていないのか」と思われるかもしれません。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◇仕事の始め方

 ◎翻訳の仕事の探し方

 翻訳者として看板を上げるのは簡単です。難しいのは受注すること。

 まず、翻訳の仕事があるところを探さなければなりません。その上で、
 自分以外の人に回っている仕事をこちらに回してもらう必要があります。
 企業でビジネスの現場を見てきた人ならわかるはずですが、どちらもと
 ても難しいことです。営業に慣れた人がいる組織でも大変なのです。自
 分一人で何から何までやらなければならない自営業にとっては、さらに
 大変です。他業種でフリーランスをしている人たちに話を聞くと、一様
 に、「最初のころは取引先が見つからなくて大変だった」と言われます。

 その点、翻訳者はかなり恵まれています。

 翻訳案件を企業からとってきてフリーランスに振ることを仕事としてい
 るところ-翻訳会社があるからです。翻訳会社というのは、翻訳の案件
 を抱えていて、実力のある翻訳者を欲しいと思っているのが普通であり、
 一定以上の実力を持つ人が翻訳会社にアプローチすれば、かなり高い確
 率で仕事が獲得できます。逆に、翻訳会社からでさえも仕事がとれない
 ようなら、プロとして最低限の力がないことになります。

 もちろん、翻訳会社を経由すれば単価は安くなります。大元のソースク
 ライアントが支払う料金の半分からよくて6割というところでしょう。

 どうせなら単価は高いほうがいい。そう思うのが自然でしょう。

 しかし、ソースクライアントから直接受注しようと思えば、前述のよう
 に営業をしなければなりません。どの会社になら翻訳の案件があるのか、
 外から見たのではよくわかりませんよね。外資系なら翻訳の需要がある
 はずですが、需要が必ずあるだけに社内で翻訳する体制を整えていたり、
 あるいは個人で対応できないほど大量に翻訳があっていちいち個人を相
 手にしていられないなど、条件が合うケースは意外なほどありません。
 発注側からすると、新しい取引先にはリスクもあります。既存の取引先
 なら品質などの予想がつきますが、新しい取引先だと予想外に悪いもの
 が出てくる可能性があるわけす。ですから、まったく知らないところに
 営業をかけても、門前払いされるのが普通です。今ならメールでアプロ
 ーチするなどが考えられますが、返事が返ってくることはまずないでし
 ょう。

 自分のウェブサイトを作り、そこを見たソースクライアントからアプロ
 ーチがあるのを待つという方法もあります。ただ、このような形で仕事
 が来ることはめったにありません。仕事は積極的に営業をかけてもなか
 なかとれないのですから、待っているだけで来るはずがないのは当然で
 しょう。あてにはできるものではなく、一応、用意だけしておいて期待
 せずに待つというくらいに考えるべきです。

 翻訳者になる前の職場から仕事がもらえる場合や友人から紹介があった
 場合などは、ソースクライアントから直接受注できることもあります。
 そのような幸運に恵まれたときは、ソースクライアントとの直接取引を
 してみるのもいいでしょう。

 なお、ソースクライアントと直接に取り引きできる場合でも、自分が取
 引のある翻訳会社を紹介し、そこ経由で仕事をするという人もいます。
 翻訳会社のチェッカーを含めて複数の人が訳文を見たほうがいい、自分
 が請けられなくても問題にならないなどが理由のようです。

 ◎翻訳会社の探し方

 では、どの翻訳会社にアプローチすればいいのでしょう。一言でいえば、
「自分と相性がいいところ」です。翻訳会社は膨大な数、存在し、それ
 ぞれに得意な分野も異なれば支払い単価のレンジも異なります。仕事の
 進め方も翻訳者に対する姿勢も、会社によって大きく異なります。

 翻訳会社の違いについては、大手、中小、零細にわけて一般的な傾向を
 まとめた記事を2008年6月の「読んで得する翻訳情報マガジン」に書い
 ているので、そちらを参考にしてください。

 分野については、翻訳ムック本(アルクやイカロスなどから毎年出てい
 る)の巻末にある翻訳会社リストを参考にします。このリストに載って
 いない分野は取扱いがないわけです。ただし、リストに載っていたから
 といって、その分野の仕事がたくさんあるとはかぎりません。このあた
 りは、とにかくあたってみるしかありません。

 トライアルなどの手間をかけた上で、「その分野は取扱いがあまりない
 んですよね……」と言われたのでは無駄足になると思うかもしれません
 が、そのくらいは仕方ないでしょう。事前に電話などで確認すれば無駄
 が省けますが、それはあくまで翻訳者側の都合です。翻訳会社としては、
 電話の応対に時間を使ったあげく、実力がなくて登録できない人だった
 となるかもしれないわけです。ビジネス一般としては、営業には無駄が
 つきもの。いや、大半が無駄になるのが当然なのですから、このくらい
 の無駄は気にせず、相性が悪かったら次を探せばいいと考えるべきでし
 ょう。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◇ 仕事の始め方

◎これだけはそろえよう

翻訳者には特に資格などなくてもなれます。資格・学歴・経歴いっさい
関係なし、実力が勝負の世界ですから。とは言いながら、さすがに紙と
鉛筆しか持っていない状態では仕事になりません。翻訳者のカンバンを
あげる前に、最低限、そろえておく必要のあるものをリストアップして
みましょう。

必要なものをそろえようとするとお金がかかります。自分自身の収入を
増やすためには、売上をなるべく増やして出費はなるべく減らす必要が
あります。でも、必要な機材がなければ、能率が悪かったり、最悪、受
注自体ができない可能性もあります。

どれくらいの費用をかければいいのか。これはもう、ケースバイケース
です。一番のポイントは、どのくらい稼げるのか、でしょう。でも、ど
のくらい稼げるのかは機材をそろえて仕事を始めてみないとわかりませ
ん。結局、最低限でスタートして、稼ぎを見ながら次第にそろえてゆく、
いいものに買い換えてゆくのが現実的でしょう。その場合、買い換えで
無駄になりにくい形で買っておくのが得策です。

一応、仕事を始めるにあたり揃えるべき最低限の目安は(↓)というと
ころでしょうか。

 ・パソコン
 ・プリンタ
 ・ソフトウェア
 ・定番のCD-ROM辞書
 ・メールアドレス
 ・電話

○パソコン

これから買うなら、Windows がいいでしょう。世の中、Windows が主流
です。そのため、選択肢が多く、価格も比較的安価なものがあります。
トラブったとき人に聞きやすいのもメリットです。ソフトウェアによっ
ては Windows 用しかないものもあります。

仕事として考えるとき大きなポイントになるのは、クライアント側も
Windows を使っていることが多い点です。クライアントと同じシステム、
同じソフトウェアを使っていれば、受けとった原稿や納品した原稿がう
まく開けないなどのトラブルがおきたとき、それが Windows 用と Mac
用などソフトウェアの微妙な違いによるものなのかなど余計な心配をし
なくてすみます。

すでにMacを持っているなら、とりあえず、Windows マシンを用意する
必要はないでしょう。最近は主なソフトウェアは Windows 用と Mac 用
で互換性が高くなっており、トラブルがおきる危険がかなり下がってい
るようです。Windows 用しかないソフトウェアも、Mac 上で Windows
を走らせ、その上で使うなど、ある程度は対応できる可能性があります。
仕事上、どうしても Windows が必要となったら、そのときは Windows
マシンを購入するという覚悟さえあれば十分でしょう。

パソコンはノートパソコンでもなんとかなりますが、置き場所の問題が
なければ、デスクトップをお勧めします。仕事専用で考えるなら、CPU、
ハードディスクの容量、グラフィックスの能力はそこそこで十分です。
モニターだけは奮発して大きなもの、高解像度のものを買いましょう。
翻訳者にとってモニターは作業スペース。大きければ大きいほうがいい
ものです。最近なら、解像度が1920×1080、24型といった大型のもので
も、3万円以下で買えます。翻訳の仕事に使うだけなら、解像度とサイ
ズ以外の性能はあまり気にすることはなく、安いもので十分です。

○プリンタ

プリンタも用意することをお勧めします。原稿はモニターで読み、見直
しもモニター上で行い、プリンタを使わないプロもいます。しかし、紙
に印刷することにはかなりのメリットがあります。印刷したほうが間違
いに気づきやすくなるのです。印刷とモニターでは解像度が大きく異な
るからでしょう。

○ソフトウェア

最低限としては MS Word でしょう。原稿の多くがWordファイルで送ら
れてきますから、Wordなしでは仕事になりません。

PDF で送られてくる原稿も少なくありません。Acrobat Reader(無償)
くらいはインストールしておきましょう。

そのほかは、メーラーやウェブブラウザなど、OS 付属のものでとりあ
えずは大丈夫です。

○定番の CD-ROM 辞書

辞書がさっと引けると仕事の効率があがります。逆に、辞書引きに手間
がかかると「こうだろう」で訳して地雷を踏んでしまったりします。

そういう意味では、パソコン搭載型の CD-ROM 辞書が便利です。Jamming
などの辞書ブラウザを使えば、複数の辞書を一度に引けるからです。こ
の方式なら訳語はコピー&ペーストで訳文に貼りこめますし、他人が公
開しているマクロを使えば検索する単語を入力する手間も省けます。

とりあえずなら(↓)くらいでしょう。いずれも、どの分野の翻訳をす
るにしても、持っておいて損のない辞書です。
・ランダムハウス英語辞典
・リーダーズ+リーダーズプラス
・ビジネス技術実用英語大辞典(通称「海野さんの辞書」)

割安なのは携帯型の電子辞書ですが、ずっとパソコンに向かって仕事を
する翻訳者にとってはパソコン搭載型のCD-ROM辞書のほうが圧倒的に便
利です。すでに電子辞書を持っているなら、とりあえずは電子辞書でス
タートし、仕事が取れるようになったらなるべく早くパソコン搭載型の
CD-ROM辞書をそろえるという方針でもかまわないと思います。

○メールアドレス

翻訳会社とのやりとりは、メールが中心です。原稿もメールで送られて
きますし、納品もメールで行います。仕事の打診もメールが少なくあり
ません。

メールアドレスは、有料のものを用意しましょう。いわゆるフリーメー
ルアドレスは避けること。フリーメールアドレスだと、仕事に対する姿
勢を疑われます。就職の面接にはそれなりの格好が求められるのと同じ
です。

○電話

最近は打診もメールが増えましたが、急ぎの案件など、翻訳会社から電
話で打診が入ることも珍しくありません。それだけでなく、なにかあっ
たときの連絡先として電話が必要なのは当然でしょう。

なるべく自分専用の番号を用意しましょう。携帯電話があればそれでか
まいません。家族と共用の固定電話で子どもが出たりするのはもっての
ほかです。

○その他

FAX もあればあったほうがいいですが、最近はなしでもすむことが多い
と思います。私自身、2005年くらいからこちら、FAXで原稿を受けとっ
た記憶がありません。

SDL Trados といった翻訳メモリは、翻訳メモリ必須の分野(ローカリ
ゼーションなど)に参入するのなら用意する必要があります。それ以外
の分野では不要です。

新規参入にあたってどの機械翻訳ソフトを購入したらいいかという質問
をけっこうよく見かけます。過去のメルマガでも書きましたが、翻訳者
にとって機械翻訳ソフトは百害あって一利なしです。機械翻訳ソフトを
買うお金があったら辞書を買いましょう。

その他、あれば便利なソフトウェアは山のように存在しますが、翻訳者
として仕事を始めるという段階ではなくてもいいでしょう。
 

 

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◇ビジネス的側面

翻訳者として独立するとき、一番大事なのは、「自分は個人事業主だ」
という自覚です。
個人事業主というのは、会社の社長から平社員まで、すべての役割を自
分一人でやるということです。ビジネスという意味においては会社(法
人)と並ぶ存在、同等の存在になります。翻訳会社など、翻訳者に仕事
を発注してくるところはすべて「取引先」です。一方、発注側から見た
翻訳者は外注先。仕事をお願いし、納めてもらったものに対して対価を
支払う先なわけです。独立自営として自分がめざすのは「取引先に頼ら
れるパートナー」でしょう。
基本をこう考えると自ずと見えてくるものがありますし、取引先との対
応も適切なものとしやすくなります。

◎翻訳会社との距離感

たとえば、トライアルの合否通知や初仕事の打診がなかなか来ないとい
う不満の声をよく聞きます。しかし、これはそんなものなのです。
翻訳会社の立場で考えてみましょう。新しい翻訳者なしで仕事は回って
います。一方、新しい人にはリスクがあります。トライアルと同じレベ
ルのものが上がってくるのか、納期は守ってくれるのか……そう思うと、
そのうち頼んでもいいかな、くらいの人への対応は後回しにして目の前
の仕事を優先しがちです。
長期的に考えれば新しい翻訳者を確保しておく「べき」です。言い換え
れば、あくまで「べき」なので、「しなければならない」ことが優先に
なるわけです。「べき」の話までさっとできてしまうほど優秀な人は多
くありませんしね。また、「べき」までさっとできるほど人員に余裕が
あるのも考えものでしょう。その人たちの給与はどこから出ているのか、
そう考えればね。
逆に、「こんな人を待っていた!」と思えばすぐに連絡するし、いつも
ほかの翻訳者に頼んでいる仕事を回してでもすぐに初仕事を出すでしょ
う。トライアルの合否通知や初仕事の打診がなかなか来ないのなら、相
手にとって自分はその程度でしかないのです。具体的には、その翻訳会
社に登録している他の翻訳者と比べて自分が十把ひとからげの実力しか
ないのかもしれませんし、自分の強みと相手のニーズがずれている相性
の問題かもしれません。あるいはもしかすると、その翻訳会社には翻訳
者をきちんと評価する力がないのかもしれません。いずれにせよ、こち
らの対応は同じ。相手が「念のためキープしておこう」なのであれば、
こちらも「念のためキープ」と考えて次の手を打つ。それしかありませ
ん。中堅クラスの力があり相性がそこそこの翻訳者なら翻訳会社はぜひ
押さえておきたいと思うはずです。数社トライしても「どうも自分は大
事にされていない」と感じるなら、残念ながら実力がまだまだである可
能性が高いと思います。その場合は実力を高めることが先決です。
実力と言えば、翻訳会社は翻訳者を育てるべきだといった意見もよく聞
きます。これが基本的に難しいのも、翻訳者が外注だからです。外注と
いうのは究極の即戦力。翻訳会社が考えることは、目の前の案件に適し
た戦力は誰か、です。Aさんが適していなければBさんに頼むだけのこ
と。会社の新入社員教育のように、順番に経験させて育てて行こうなん
て考え方はしません。外注では、教育の手間暇分、自社に返してくれる
保証もありませんし。
余談ながら、私は、育てる努力をしたほうが翻訳会社にとっても得だと
思っています。仕事というのは人と人の関係で生まれ、処理していくも
のだと思うからです。育ててもらったところの頼みなら、多少の無理は
なんとかしようとするのが人情でしょう。恩を無視する人がいてもそれ
はそれ。すべてを得ようとすれば何も得られない-そういうものだと思
います。

◎仕事を下請けに出してもいいか

翻訳会社から打診があったら断らず、自分でできない分は他の人に頼む
翻訳者もいます。これも、パートナーとして失格です。
理由は、まず、翻訳会社が翻訳者に期待しているのが「翻訳する」こと
であって「翻訳のコーディネートをする」ことではないからです。この
部分翻訳者がやろうとするとどうなるでしょうか。たとえば1300円で請
けたものをもっと高い人に頼むというのはやりませんよね。最高でも自
分と同じ1300円、欲にかられれば1000円など安い人に頼んで差額を抜こ
うとするでしょう。
1000円の訳文を300円分の時間をかけて1300円の人が直しても、1300円
の訳文はできません。1100円もいかないでしょう。仮に1300円分の時間
をかけても1300円には達しません。翻訳とはそういうものです。
結局、翻訳会社に納品されるのはいつもよりも品質が悪いもの、発注側
の期待を下回るものになります。納品を受けた翻訳会社は後始末に苦労
するでしょうね。かえって迷惑をかけてしまうわけです。また翻訳会社
側は、「品質が不安定な人」として記録に×をつけることになります。
どうすればいいのか。断ればいいのです。「翻訳のコーディネートをす
る」のは翻訳会社の仕事。もちろん、断られたときどうするのかもいろ
いろとノウハウを積んでいます。たとえば、英日仕上がり400字1300円
の人に断られたとき、品質にうるさいお客さん向けなら1400円や1500円
の人にやってもらうこともあるでしょう。1000円の人に頼んで、その程
度のものがあがってくると覚悟して社内の準備を整えておくという方法
もあります。
自分の領分をわきまえ、自分の役割をしっかり果たす。それがパートナ
ーとしての基本です。
 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

◇情報収集

◎情報収集場所とその性格

情報を収集する場所や方法によっても得られる情報はいろいろに変化し
ます。

・書籍・雑誌
・ウェブサイト、ブログなど
・オンラインコミュニティ
・講演会・セミナー
・授業・勉強会
・仲間内の集まり
・1対1

大まかな傾向としては、不特定多数に開かれた媒体ほど建前中心となっ
て本音や微妙な話は入りにくい、少人数の仲間内になるほど個別の話や
本音が聞けるけどそのような関係を作る手間が必要というところでしょ
う。なお、建前中心というのは必ずしも悪い話ではありません。建前中
心でないところは、相手による違いが大きい、悪意の発露が強くなりが
ちなどのトレードオフがありますから。

また、不特定多数に開かれた媒体ほど情報が「出し手→受け手」という
流れになり、クローズドになるほど情報の流れが双方向になるという傾
向もあります。クローズドでなければ手に入らない情報が欲しいなら、
自分も情報を出して行く必要があるわけです。情報を出す人のところほ
ど情報が集まる、と言ってもいいでしょう。

○書籍・雑誌

どちらも比較的よくまとまって情報が提示されます。雑誌を中心に広告
のバイアスがかかりがちという側面はありますが、最低限、押さえてお
くべき情報が網羅されていることが多く、とりあえずの入口としてとて
も有用です。そのくらいの内容が実現できないと買ってもらえませんか
らね。

最大の欠点は情報が一方通行であること。ここがもうちょっと詳しく知
りたいと思ってもたずねる術がありません。

○ウェブサイト、ブログなど

最近はインターネットが発達し、さまざまな情報が簡単に手にはいるよ
うになりました。自分が知りたい内容に関するキーワードを二つ、三つ
組み合わせて検索すれば、翻訳者や翻訳会社などのウェブサイトやブロ
グがヒットします。これをいくつか読んでみればさまざまな人の意見を
知ることができます。時間もお金もかからず、知りたいことがわかるわ
けで、とても便利な時代になったものです。

ブログのようにコメント欄がある場合は、質問をすることもできます。

欠点は視点や意見が個人的となりやすく、自分とは状況が大きく異なる
可能性がある点です。また、不特定多数に開かれているため、比較的、
建前的になりがちです。

○オンラインコミュニティ

メーリングリストや掲示板システムを用いて、プロの翻訳者や翻訳志望
者が情報交換をする場があちこちに作られています。私が共同主宰をし
ている翻訳フォーラムもその一つです。形式としては完全に公開のもの
から小さな団体のメンバーのみという完全クローズドのものまでがあり、
公開度に応じて交換される情報の建前度も変化します。

誰かの質問に他の人たちが答えるという形が基本なので、一個所で複数
の人の意見が聞けることがメリットになります。答えてくれた人同士で
議論が進み、深く掘り下げた考えや賛否両方の意見が得られることもあ
ります。

質疑が基本というのはデメリットにもなります。いつ、どういう話が出
てくるのか、出てこないのか、まったくわからないのです。この問題は、
コミュニティに参加すれば解決します。聞きたいことがあるなら聞いて
しまえばいいのです。ただし、回答する側も人間。質問する人やその聞
き方によって、丁寧に回答したり無視したり、あるいは叱責したりとい
ろいろな対応になります。その基準はコミュニティによって異なります
から、それぞれの場所をしばらく読み、雰囲気を把握してから質問など
に踏みこむほうがいいでしょう。自分が答えられる質問が出たら答えて
おくというのもいい方法です。コミュニティにいつも貢献している人が
何かわからないと聞けば、なんかしてあげようと他の人たちも思います
からね。

○講演会・セミナー

誰が来ているかわからないと建前しか語ってくれない人もいますが、対
象がそこに来ている人だけとなるので、「この場限りの話ですけど……」
と本音をぽろりと語ってくれる人もいます。ほとんどの場合、質問を受
けてくれますし、特に小規模であればかなり突っ込んだ質問もできたり
します。

会場費などの問題もあり、そこそこの料金がかかる上、そのときその場
に行かなければならないなど大変といえば大変なのですが、「当たり」
を引けば十分におつりが来る経験ができます。ただし、外れることも少
なくないので、その覚悟は必要です。

○授業・勉強会

翻訳学校などのように授業という形が取られることもあります。連続し
て行われるので、一般に講演会やセミナーよりも情報量が増えます。ま
た、人数が少なくて参加者の顔が見える、つまりクローズドに近づくの
で本音の話が聞きやすくなります。ただ、授業形式で行われるものは基
本的に翻訳を学習している人向けであり、プロ向けはありません。

勉強会は翻訳学習者あるいはプロが集まって行います。基本的に同じレ
ベルの人が集まるため、どんどん進むのは難しいのが欠点です。しかし、
プロ翻訳者になるとプロ同士が集まって勉強会をする以外は自分一人で
勉強するくらいしか方法がないため、このような形で情報交換をしなが
ら切磋琢磨を試みることがあります。

○仲間内の集まり

数人で昼食会や飲み会をするようなケースです。たのしくおしゃべりを
してストレス発散だけで終わることもありますが、オープンな場では聞
けないことを聞く絶好の機会でもあります。「(オープンな場であった)
こないだの話、アレ、ホントのところはどうなの?」みたいな話もでき
るわけです。

欠点は、まずどこかで知り合いにならなければ参加自体ができないこと。
この問題の解決策はオンラインコミュニティが一番簡単でしょう。コミ
ュニティによってはいわゆるオフ会の呼びかけがときどきあったりしま
す。そういうところに参加してみるわけです。自分に合いそうなオフ会
がなければ……自分で呼びかけてしまいましょう。質問と同じで、オフ
会も「求めよ。さらば与えられん」です。「~分野に興味がある人で昼
食会をしませんか」「~の地域でオフ会、してみませんか」と呼びかけ
てみればいいのです。オフ会の呼びかけがあっているようなところなら、
たいがい、なにがしかのレスポンスがあるでしょう。仮に人数やスケジ
ュールの問題でオフ会が実現しなくても……失うものはないはずです。

○1対1

仲間内の集まりがさらに進めば、1対1あるいはそれに近いごく小さなグ
ループでの集まりをするようになったりします。一般にかなり親しくな
らないとこういう形になりませんが、ここまで行けば、一般に聞くのは
タブーと言われているような話までできるケースも出てきます。もちろ
ん、相手によるわけで必ずということにはなりませんが、私の場合で言
えば、単価や年間の売上高までお互いにだいたい知っているなんて仲間
もいたりします。

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ◇情報収集

 インターネットの普及により、さまざまな情報が比較的容易に手にはい
 るようになりました。翻訳に関係する情報も、ほとんどのものはウェブ
 で手に入ると言えます。ただし、種々雑多ですから、情報を適切に判断、
 取捨選択しなければなりません。

 ◎情報提供者による情報の違いを見抜く

 情報の内容を判断するにあたり、まず第一に気にすべきは情報提供者に
 よる情報の違いです。

 情報を提供している人にはそれぞれの思惑があります。翻訳者向けの情
 報だからといって必ずしも翻訳者にとってベストな情報を提供している
 とはかぎりません。何かを販売したいという思惑があれば、悪い点には
 触れず、いい点だけを強調するように書かれている可能性があります。
 いい点まですべて疑う必要はありませんが、少なくともなにがしかの欠
 点もあるだろうと想定し、その部分の情報も収集して総合的に判断する
 などの手順が必要になります。

 直接的に販売する立場になくとも、製品の使い方を教えているなど、そ
 の製品の普及が収入の前提となる場合も同様です。

 雑誌も、雑誌自体の販売だけでなく広告の収入がなければ立ちゆきませ
 ん。つまり、広告主を批判するような記事は基本的に掲載できないこと
 になります。特集記事などは、広告と連動している場合もあります。た
 とえば翻訳支援ソフトの特集記事を組んで、記事で取りあげる翻訳支援
 ソフトの企業から広告を出してもらうわけです。その号は特集記事に興
 味がある人が買う可能性が高いので経済原則からいって当然のやり方で
 しょう。同時に、広告が前提となる以上、記事に書けることと書けない
 ことが生じるのも自明です。

 ちなみに、この原稿は日外アソシエーツさんのメールマガジン向けに書
 いています。つまり、日外さんが販売されている辞書なんてダメだよ……
 とは書けないわけです。幸い辞書は「たかが辞書。信じるはバカ、引か
 ぬは大バカ」であり、ダメと書く必要がないのでいいのですが(余談な
 がら、だから私は日外さんのメルマガに原稿を書いているわけです。翻
 訳会社や翻訳学校のメルマガだと支障が出る部分があったりしそうです
 から)。

 翻訳学校も、よく、「いいことしか言わない」との批判を浴びます。学
 校に行ったからプロ翻訳者になれるわけではなく、実際になれるのは一
 部だけだと。これも、情報提供者による情報の違いであり、世の中で普
 遍的に行われていると言っていいことにすぎません。

 翻訳会社も、翻訳者と利害が一致しているケースと相反しているケース
 があり、それがさまざまに影響します。たとえば、「ウチが求める翻訳
 者像」。よく見かけるトピックですが、そうか、そういう翻訳者になる
 のがいいんだと考えるのは早計でしょう。翻訳会社側の状況が変化した
 ら「ウチが求める翻訳者像」も変化します。翻訳会社としては、その時
 々で「ウチが求める翻訳者」が集まればいいわけで、それがあなたでな
 ければならない理由はありません。

 同じ翻訳者が提供する情報ならすべて信じていいのでしょうか。そうで
 もありません。善意で書かれたもの、本人が自分の心覚えで書いたもの
 は、少なくとも書いた本人が正しいと信じていることが書かれています。
 でも、世の中、悪意をもっていろいろな情報を流す人もいます。善意で
 書かれたものも、書いた人と自分を取りまく状況が違えば必ずしも自分
 に合わないケースがあります。結局、最後は自分で判断するしかないの
 です。

 そう、「自分で判断」するのです。すべて受けいれる姿勢もダメならす
 べてを否定する姿勢もダメ。情報提供者の立場と思惑を推測し、自分の
 立場や進みたい道を勘案して、どの部分を利用し、どこを捨てるのか判
 断するわけです。

 ちなみにこの能力、翻訳を仕事とする上で必要なものだと思います。元
 文書の書き手の立場と思惑、翻訳を発注した人の立場と思惑、情報の受
 け手となる人々の立場と思惑、この三つの兼ね合いで選ぶ訳語や表現な
 ど、訳文の調子を調整すべきだからです。この三つの関係、一般翻訳で
 はとても大きく変動します。ローカライズなどは基本的に変化しません
 が、それでも細かい部分は案件によって揺らぐものです。
 

 ■ 仕事としての翻訳                  井口 耕二

 ●高付加価値化

 仕事としての翻訳をステップアップしようと考えたとき一番大事なのは 、
 実は、「高付加価値化」です。

 翻訳者の仕事における最大の付加価値は翻訳です。だから、目指すべき
 高付加価値化は、まず第一に翻訳品質の向上となります。ここまで、ス
 テップアップとして実力アップの方法をいろいろと見てきたのは、この
 ためです。

 今回は、翻訳の品質以外の付加価値について簡単に紹介します。

 翻訳に伴う作業で翻訳と一緒に頼まれることが多いのは以下のような項
 目です。
 ・DTP編集
 ・テクニカルライティング
 ・コピーライティング

 翻訳会社経由ではまずありませんが、ソースクライアントと直接取引す
 るような場合は、印刷用の版下作成から印刷、製本なども関係してくる
 可能性があります。

 ◎DTP編集

 クライアントが社外に提出する文書の場合、翻訳のあと、DTP処理、印
 刷用の版下作成、印刷、製本という処理が続きます。社内文書の場合で
 も、DTPだけは行うことがよくあります。このなかで簡単なDTP編集は、
 翻訳と一緒に翻訳者に発注されることが比較的よくあります。

 DTP編集といってもレベルはさまざまです。それこそ、翻訳原稿をWord
 または一太郎のファイルで納品して欲しいというだけのことで、テキス
 トファイルをWordや一太郎に読み込んで保存すればOKという場合もあり
 ます。技術系では、単位などの上付文字(平方メートルのm2の2の部分
 など)や化学式の下付文字(H2Oの2の部分)の書式設定くらいをすれば
 いいという場合もよくあります。書式設定だけといっても、数が多けれ
 ば大変です。後は表とかフローチャートとか……だんだん面倒になって
 きますね。よく使われる書式設定の方法は、実際に操作して覚えておく
 べきです。間違っても、改行とスペースで段落のインデントを整えるな
 どしないこと。基本さえもわかっていませんと宣言するに等しいですか
 ら。

 最近は原文自体がWordなどで渡され、それを上書きする形で納品するケ
 ースが多くなっています。そのような場合、表組みなどは元ファイルの
 ものが生かせます。とは言っても、原文と訳文の長さの違いから細かい
 調整が必要になったりしますから、DTP的な編集方法は一通り、勉強し
 ておく必要があります。原文を作った人が素人で、改行とスペースで段
 落のインデントを作ってあったとしても、訳文ではきちんとインデント
 設定をして返すべきですし。

 上書き翻訳が多く、かつ、けっこう面倒なのが、PowerPointです。プレ
 ゼンテーションなどでよく使われるため、翻訳の案件もそこそこ多くあ
 るのです
 が、少ない言葉で表現されていて翻訳しにくいことが多く、編集も面倒
 だからと避ける翻訳者も多いと聞いています。それだけに、たとえば私
 のように「だからこそおもしろい」とPowerPointを好む翻訳者は重宝さ
 れたりします。

 ◎テクニカルライティング

 翻訳というのは、よくもわるくも原文から離れられません。もちろん、
 言語による文章構造の違いなどは翻訳の段階で吸収し、ターゲット言語
 としてすなおに読める文章とするわけです。でも、原文に書いてあるこ
 とをばっさり切り落としたり、原文にない部分を大幅に補足したりした
 方がターゲット言語の文書としてよくなることもあります。

 こうなると、もう翻訳というレベルではありません。ターゲット言語
(英日翻訳なら日本語)で文書を書き起こすテクニカルライティングと
 いうべき作業になります。

 ここまで翻訳者が踏み込むことはあまりありません。その文書が説明し
 ている製品などを目の前にせず、想像だけでできる仕事では基本的にな
 いからです。

 ただ、本来的な翻訳から一歩踏みこむ程度、原文に書いてあることを切
 り落としたり原文にない言葉を補足したり、段落内の構造を変化させた
 りくらいまではやることがあります。テクニカルライティング的な翻訳
 というところでしょうか。もちろん、勝手にやるのではなく、発注元と
 意識あわせをした上で行います。

 翻訳作業においては、どこをどう変化させるのか、考えなければならな
 いことが格段に増えます。そのため、対応しない、あるいは対応できな
 い翻訳者が大半です。やりすぎると勝手訳になるなど簡単でもありませ
 ん。早い段階から手を出すと、「手が荒れてしまう」おそれもあります。
 いわゆる翻訳としては危険な領域だという意識を持ち、注意して進む必
 要があります。

 ◎コピーライティング

 テクニカルライティング的な翻訳からさらに踏みこむのが、コピーライ
 ティング的な翻訳です。

 パンフレットの翻訳などでは、キャッチコピーを訳す必要があります。
 産業翻訳では基本的に情報の伝達を主眼としますが、キャッチコピーの
 場合、情報を伝えてもあまり意味がありません。それよりも、原文のキ
 ャッチコピーの狙いを把握し、その狙いがターゲット言語でも実現でき
 るように改めてコピーライティングを行うつもりで訳す必要があります。

 テクニカルライティング的な翻訳も通常よりも手間がかかりますが、コ
 ピーライティング的な翻訳の手間はその比ではありません。1文に何時
 間もかかることさえあります。キャッチコピーの翻訳は単価をベースと
 した通常の料金とは別に設定するべきでしょう。かける時間に自分の時
 間単価をかけたものが翻訳者側の目安になると思います。

 コピーライティング的な翻訳は、テクニカルライティング的な翻訳より
 もさらに危険な領域に踏みこむものです。時間もかかりますし、最終的
 に時間あたりの収入も必ずしもいいものとならなかったりします。ただ
 し、翻訳を工夫した、という満足感は強く得られることが多いでしょう。
 また、コピーライティング的な翻訳ができるようになると、表題が上手
 に訳せるというメリットもあります。キャッチコピーほどではないにせ
 よ、表題というものも一言に内容や想いを凝縮させていることがよくあ
 るからです。

 ◎料金について

 通常の翻訳作業に加えてエキストラの作業を行う場合には、その分の料
 金ももらうようにしましょう。

 Wordの上書き翻訳を前提に翻訳単価が決まっているとすれば、PowerPoint
 の場合には追加で編集費をもらうのが基本です。発注側も、自分たちで
 やるくらいなら費用を払ってでもやってもらうほうがいいと考えること
 が多く、多くの場合、すんなりと払ってくれます。私の経験でも、初回
 は断られても、2度目には編集費を払うから仕上げまでやってくれとな
 ることがよくありました。経験してみると、意外に大変な作業であると
 わかるからでしょう。

 テクニカルライティング的な翻訳の場合は、通常単価よりも若干高めに
 してもらってもいいはずです。誰でもできる翻訳でもなければ、誰でも
 対応する翻訳でもないからです。希少価値があれば高くて当然です。

 コピーライティング的な翻訳は、前述のように別立ての一式価格が基本
 でしょう。値段に見合う結果さえきちんと出せば、10ワード程度の1文
 で万単位を請求してもリピートオーダーが来ます。

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