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■ 異文化の翻訳--言語以前の問題 (その3)
                         三谷 康之

これまでは玄関ドアの周辺でも、どちらかといえば上の方に気を
とられていましたが、下の方にも目を向けてみましょう。

敷居のすぐ前で、その両脇に置かれてあるものです。一見すると本
立て(bookend)---机上に立てた本が倒れないように左右から挟んで
おくためのもの---を思わせるこしらえで、鉄製の黒塗りになって
います。

神社の狛犬(コマイヌ)よろしく下の石板に通例は一対で固定されて
います。高さは 20 センチ前後といったところですが、その全体の
サイズとデザインは多種多様です。

これは "door-scraper" とも "foot-scraper"とも呼ばれるもので、
訳せば「靴の泥落とし」とでもするしかないかも知れません。

何のこと、いや、何のためにといいますと、それがまさに異文化で
して、土足のままで屋内に入る習慣を持つ国であることを思い起こ
して下さい。

今日とはちがって、道路の舗装が行き届いていなかった時代には特
にそうなのですが、帰宅した家人であれ訪問客であれその家の敷居
をまたぐ前に、先ず靴底にまつわりついている泥を落とす必要があ
ったのです。

つまり、靴をはいたままこれを踏みつける格好で、靴底にこびりつ
いた泥---雨が多い風土も考慮に入れねばなりません---をこすり取り、
かき落としたのです。靴底がじかに触れる部分は、刃物の刃先では
ありませんが、ほんのわずかながら鋭く削ってあって、エッジがつ
いています。

これは文学作品にもしばしば登場します。

例えば、前回にも取り上げた『柳に吹く風』では、モグラとミズネ
ズミが森の雪の中をやっとの思いで進んでゆく時に、モグラの方が
雪に隠れたこれにつまずいて、向こうずねに怪我をしてしまいます
し、『不思議の国のアリス』の「ブタとコショウ」の話では、原文
にこそないものの、ジョン・テニエルのイラストを見ますと、公爵
夫人の館の玄関先にはこれがちゃんと描き込まれています。

もっとも、道路の舗装が改善され益々進展する今日では、この用具
は次第に姿を消しつつあるといわねばなりません。このページでも
スペースの都合上、余りご覧に入れられないのが残念です。デザイ
ンのちがうものをいろいろ撮影してきているのですが...

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
写真〈様々な"door-scraper"〉

以下のURLで三谷先生ご自身が撮影された、ユニークな"door-scraper"
の写真がご覧いただけます。

http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani6-1.html
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani6-2.html

================================================================
■ 異文化の翻訳--言語以前の問題〈前号までのおさらい〉

◆(その1)"horseshoe"(蹄鉄)
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html

◆(その2)"bell-pull" (ベル・プル)

http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html


【著者紹介】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋女子短期大学教授。
1975~76まで〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド・
ワークを行った。
現在、英国文化を解くための重要なファクターである、紅茶に関する
事典を執筆中。
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