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■〈著者自らが語る自著〉
 「事典・イギリスの橋―英文学の背景としての橋と文化」

◆異文化の橋とその翻訳
                            三谷康之

 一般に外国文学を研究したり翻訳したりする上では当然のことである
が、単に味読し鑑賞する場合ですら、その国の文化的背景に関する知識
を必要とすることは論を俟たない。本事典はイギリスの文学および文化
の理解に必要不可欠である広範な背景的知識の中から、「橋」を取り上
げたものである。橋にはさまざまな種類があり、それがいろいろな形で
文学に登場するが、英和辞典は元より英々辞典にさえ掲載されていない
ものが少なくないのが実情である。

 例えば、'chapel bridge' がそのひとつである。
あるいは 'packhorse bridge' などはイギリス人がこよなく愛着を抱い
ているものながら、OED でも見出し語として取り扱われていない。前者
は 'chapel' の「礼拝堂」から、後者は 'packhorse' つまり「荷馬」
の意味から、それぞれの橋の姿形を推量してみたところで、まさに「掻
靴掻痒」の感を覚えるだけであろう。仮にそれらの語義の解釈に出会っ
たところで、「異文化」というものは単なることばのみの説明では、な
かなか釈然としないところが残るものである。そもそも風土や習慣のち
がいから我が国に存在しないものは、たとえ幾千語の文字で解説を試み
たとしても、そのものの持つイメージを彷彿させ得るまでには至らない
場合が少なくないからである。

 また、そのような橋梁用語の意味の問題だけにとどまることでもない。
具体的に概略すると、R. D. ブラックモアの『ローナ・ドーン』には
'crossing made by Satan for a wager'(悪魔が賭けをしてこしらえた橋)
が描かれているが 、架橋と悪魔伝説との結びつきを歴史の中に理解する
必要がある。C. ディッケンズの『大いなる遺産』では、主人公が旧ロン
ドン橋の下をボートでくぐり抜けるのに'shoot the bridge'(橋の下を矢
のように通過する) という表現が 使われているが、そういう言い回しが
流行した当時の時代背景も心得なくてならない。あるいは、T.フッドの
詩のタイトルに 'The Bridge of Sighs'(嘆きの橋)という決まり文句が
付けられているが、それは映画『哀愁』の原題が Waterloo Bridge であ
ることとも関連して、「橋」と「死」とのつながりも知るべきことになる。

そこで、古代から現代までのイギリスの橋について、建築土木学的意義
に触れつつその文化史を詳説し、それに数多くの写真やイラストを添え
た上で、詩・童謡・童話・小説・戯曲・エッセイ・紀行文など実際の文
学作品からの引用を示した事典を執筆した。取り上げた橋の種類は約40
種、固有名詞としてのそれは約100基。掲載写真とイラストは計200点。
引用した著者は48人、作品数は延べ85。


※以下のサイトで、'chapel bridge(礼拝堂橋)','packhorse bridge
(荷馬橋)','Tarr Steps(タール・ステップス)'の写真がご覧頂け
ます。

 http://www.nichigai.co.jp/translator/bridge/index.html

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■ 「掲示」の語る英国文化
                         三谷 康之

第4回目「犬」に関する掲示--(その4)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
イギリスはお犬様にとっては天国に一番近い国かもしれませんが、人間
にしてみればたまったものではないともいえます。何がかといいますと、
うかつに舗道も歩けたものではないのです。うっかり公園の芝生に座
ろうものなら後悔の極みを味わう羽目に陥ることになりかねません。
そこかしこにお犬様の「落とし物」が鎮座ましますからなのです。

もっとも、そのための「クリーンアップ作戦」も展開されてはいます。
それは単なる警告を発する掲示だけではありません。道端で愛犬の後
始末をしたものを我が家まで持ち帰らずに、途中で捨てることができる
特別製の容器まで設置されるようになってもいます。先ずは以下の写真
をとくとご覧下さい。

 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign4.html


第1回目「犬」に関する掲示--(その1)
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign1.html

第2回目「犬」に関する掲示--(その2)
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign2.html

第3回目「犬」に関する掲示--(その3)
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign3.html
■ 「掲示」の語る英国文化
                         三谷 康之

第3回目「犬」に関する掲示--(その3)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 イギリスはお犬様にとっては天国に一番近い国かもしれませんが、
人間にしてみればたまったものではないともいえます。何がかといい
ますと、うかつに舗道も歩けたものではないのです。うっかり公園の
芝生に座ろうものなら後悔の極みを味わう羽目に陥ることになりかね
ません。そこかしこにお犬様の「落とし物」が鎮座ましますからなの
です。もっとも、そのための「クリーンアップ作戦」も展開されては
います。それは単なる警告を発する掲示だけではありません。道端で
愛犬の後始末をしたものを我が家まで持ち帰らずに、途中で捨てるこ
とができる特別製の容器まで設置されるようになってもいます。


以下のURLで、三谷先生ご自身が撮影された、愉快な「犬に関する
掲示」の写真がご覧いただけます。
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign3.html


第1回目「犬」に関する掲示--(その1)
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign1.html

第2回目「犬」に関する掲示--(その2)
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign2.html
■ 「掲示」の語る英国文化
                         三谷 康之

第2回目「犬」に関する掲示--(その2)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 「犬お断わり」のつづきです。公衆トイレ(人間様の)にもこの掲
示が出されていることがあるので呆れます。裏を返せば、それだけ
「犬連れ」が罷り通っていることになるわけで、最早何をかいわん
やです。
 もっとも、ただ「お断わり」と剣突を喰らわす言い方ではなく、
むしろ一歩譲った態度の表現も使われています。つまり、お犬様に
「引き綱」(lead;leash)をつけている分にはお構いなしというわけ
です。
 一方、世間が無情にも犬族を締め出すというのならば、飼主にも
、いえ犬自身の方にも考えがあるぞといわんばかりの掲示も見られ
ます。我が国では先ず以てお目にかかれそうにもない代物でしょう。


以下のURLで、三谷先生ご自身が撮影された、愉快な「犬に関する
掲示」の写真がご覧いただけます。
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign2.html

第1回目「犬」に関する掲示--(その1)
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign1.html

【著者略歴】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋学園大学・現代経営学部教授
1941年生まれ。埼玉大学教養学部イギリス文化課程卒業。成城学園高
等学校教諭、東洋女子短期大学教授を経て、現職。1975~76年まで
〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド・ワーク。
1994~95年までケンブリッジ大学客員研究員。

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《好評発売中》
『イギリス紅茶事典―文学にみる食文化』 三谷康之著
  日外アソシエーツ発行 2002年5月刊 定価\6,600(税別)

詳しくは↓をご覧ください。直接ご注文も承っております。
 http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/tea1.html
■ 「掲示」の語る英国文化
                         三谷 康之

掲示はその国の持つ文化の一面を映す鏡
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 掲示--sign--とは、'Beware of pickpockets'(スリにご用心) や
'Keep off the grass'(芝生に入るべからず) のたぐいをいいます 。
そうして、掲示はその国の持つ文化の一面をも映し出す鏡といって
もよいように思われます。何故ならば、「スリにご用心」の掲示が
わざわざ出されている以上は、やはりそこは物騒な環境でもあるこ
とを意味しているからです。その一方で、掲示の文言というのは、
その国の事情によほどの変化でも生じない限り、その表現自体も変
わりようのないものなのです。それは、「芝生に入るべからず」の
文句は少なくとも半世紀以上にわたって、同一表記で使用されつづ
けていることを見てもわかるというものです。

掲示を見れば異文化が読める
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 そこで、最近のイギリス国内で用いられている掲示の数々を、公的
私的を問わず、「眺め」てみようと思います。敢えて「眺める」とい
いましたのは、掲示の発揮する効果というものは、単なる「ことば」
による表現だけではなく、そのデザインの訴える力にもよるところが
大きいからです。そこで、筆者が滞英中に撮影してきた写真を中心に、
「読み」かつ「見て」みようではありませんか。「掲示を見れば異文
化が読める」と思われるからです。

 ただし、その際にアトランダムではなく、ある程度は分野別といい
ますか、同一テーマ別に取り上げて行くことにします。もっとも、こ
れは拙著『イギリス観察学入門』(丸善ライブラリー)の記述と重複す
るところもありますが、何といっても今回は全てカラー写真で示すこ
とができるということのほかに、上記の本には掲載仕切れなかった写
真も多く含まれていることを、お断りしておきます。


第1回目 「犬」に関する掲示--(その1)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
この国のお犬様はご主人に伴って、レストランでも喫茶店でも出入り
自由ですし、電車やバスの乗り降りさえ許されています。 人間と犬
との間の権利の差が歴然としている我が国からしますと、イギリス人
は犬を人間並みに扱っているのか、それとも人間を犬程度に引き下ろ
して考えているのか、いささか判断に窮し兼ねないくらいです。

 その一方で、さすがのお犬様も時として多少の束縛を強いられる場
面が見られます。以下に示す通りですが、同じ「犬お断わり」でも、
その表現に「強硬姿勢」から「及び腰」といいますか、「飼い主への
考慮を払った」もの言いまで、いろいろあります。


以下のURLで、三谷先生ご自身が撮影された、愉快な「犬に関する掲示」
の写真がご覧いただけます。
 →http://www.nichigai.co.jp/translator/mitani/sign1.html

【著者略歴】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋学園大学・現代経営学部教授
1941年生まれ。埼玉大学教養学部イギリス文化課程卒業。成城学園高
等学校教諭、東洋女子短期大学教授を経て、現職。1975~76年まで
〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド・ワーク。
1994~95年までケンブリッジ大学客員研究員。

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《好評発売中》
『イギリス紅茶事典―文学にみる食文化』 三谷康之著
  日外アソシエーツ発行 5月刊 定価\6,600

詳しくは↓をご覧ください。直接ご注文も承っております。
 http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/tea1.html
■ イギリス紅茶事典
 まえがきの「まえがき」にかえて--著者としてご挨拶
                         三谷 康之

「一期一会」を以て日本の茶道の極意とするならば、「神様と一緒
に飲む」という気持ちがどこかに潜むのがイギリス流紅茶道といっ
ても過言ではありません。その意識が紅茶を飲む時の作法のひとつ
として表に顕れてもいるからです。そのように、紅茶は紅茶独自の
文化を発展させてきているわけで、そのことについての知識も持た
ずに、童話をも含めてイギリスの文学作品を理解しようとするのは
無謀といってもよいのです。

もっとも、紅茶に関する本は国の内外を問わず既に数多く出ていま
す。しかし、何かの小説を読んでいて未知の紅茶用語に出会った時
に、それらの書物を参考にしようとしても、一体どの部分、どのペ
ージを読み直せばよいのか戸惑うばかりで、かといって、その度ご
とに最初のページから通読するというわけにもいきません。

従って、本書は「事典」の形式をとって、用語を「見出し語」とし
て示した上で、詳細な解説を施したものとした次第です。見出し語
の数は 200 項目以上(索引項目は約600 )にわたり、それぞれに示
した文学作品からの用例は、73 人の作家から 115 作品に及んでい
ます。それに「補遺」として、紅茶以外にもイギリスでよく知られ
ている「食べものと料理」について、同様の形式で記述してありま
す。さらに、百聞は一見に如かずということでもありますので、そ
ういった言葉による解説だけではなく、写真やイラストも豊富に添
えて、そのもののイメージがつかみやすいような配慮もしてあります。

また、本書が事典である以上、「引く」ことを目的として編集して
ありますが、実は、「読む」ための事典でもあって、ひとつの用語
に関連するほかの用語を「類語辞典」のように配列して説明を加え
てありますので、章ごとに通読することによって、まとまった情報
知識が得られる仕組みにもなっています。

ジョージ・オーウェルのいう「イギリス文明を支える柱のうちの一
本である紅茶」について知るために、ひいてはイギリス文化全体を
理解する上で、本書がその一助とでもなることができれば幸甚の至
りです。


『イギリス紅茶事典―文学にみる食文化』 三谷康之著
  日外アソシエーツ発行 5月刊 定価\6,600

詳しくは↓をご覧ください。直接ご注文も承っております。
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/tea1.html
■ 異文化の翻訳--言語以前の問題 (その4)
                         三谷 康之

3回にわたってイギリスの玄関ドアについて注意を払ってきたわけ
ですが、実はいずれもがその周辺のことに限られておりました。

このページが最終回ということですので、今度はドアそのものに目
を転じてみようと思います。

我が国の住宅建築にも洋風がかなり取り入れられるようになってき
た昨今ですが、それでもまだまだ彼の国ならではの異文化に目を引
かれるところがあるものです。

但し、余りにもよく知られた "knocker" を初め、ドアの開閉の際に、
特に押し開ける時に手の指の跡で汚れないようにするために張りつ
けた "finger [ push; hand ] plate" (指板、押板)、また中へ入る
際に靴の爪先が当たって傷つくのを防ぐためにドアの下端部に取り
つけた "kick plate" (蹴板)、あるいは我が国の「表札」に相当する
"name plate" などは別段珍しい部類にはもはや数えられないでしょ
うから、ここではひとつだけ、「郵便受け」を取り上げることにします。

「郵便受け」はアメリカ英語では "mailbox" といいますが、イギリ
スでは "letterbox" と呼ばれます。

ちがいは単語のスペルだけではありません。我が国では大体が門柱
のあたりに取りつけてあって、郵便配達人が自転車に乗ったままで
差し入れて行けるし、アメリカの場合でもやはり通例は通りに面し
たところに「箱」が出されています。

しかし、イギリスのそれは不便なことに---配達する側から見ればの
ことですが---玄関のドアにあるのです。しかも「箱」がドアの外に
ついているのではなく、ドア自体に細長い方形の穴がくり貫いてあ
るだけなのです。

その「郵便差し入れ口」は横長に設けてある場合もあれば、縦長に
なることもあります。しかも、その差し入れ口の向こう側、つまり、
ドアの内側にはそれでは「箱」があるかといいますと、むしろない
のが通例で、大抵の家ではその差し入れ口を通った手紙類は、その
まま下へ落ちて床の上に散乱することになるわけです。

映画『ジキル博士とハイド氏』のシーンでもそれは見ることができ
ます。    

結局、配達人は自転車を使うことはあっても、門前で一旦降りて、
ゲートを歩いて通って玄関に辿り着き、ようやくドアの穴から差し
入れることができるという次第なのです。

受け取り人にすれば、いちいち取りに外へ出て行かなくても済むの
で、好都合この上ないことではありますが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

以下のURLで三谷先生ご自身が撮影された、ドアにまつわるユニーク
な写真がご覧いただけます。
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani7.html

================================================================
■ 異文化の翻訳--言語以前の問題〈前号までのおさらい〉

◆(その1)"horseshoe"(蹄鉄)
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html

◆(その2)"bell-pull" (ベル・プル)
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html

◆(その3)"door-scraper" (ドア・スクレィパー)
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani6-1.html
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani6-2.html


【著者紹介】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋学園大学・現代経営学部教授
1941年生まれ。埼玉大学教養学部イギリス文化課程卒業。成城学園
高等学校教諭、東洋女子短期大学教授を経て、現職。1975~76年まで
〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド・ワーク。
1994~95年までケンブリッジ大学客員研究員

■ 異文化の翻訳--言語以前の問題 (その3)
                         三谷 康之

これまでは玄関ドアの周辺でも、どちらかといえば上の方に気を
とられていましたが、下の方にも目を向けてみましょう。

敷居のすぐ前で、その両脇に置かれてあるものです。一見すると本
立て(bookend)---机上に立てた本が倒れないように左右から挟んで
おくためのもの---を思わせるこしらえで、鉄製の黒塗りになって
います。

神社の狛犬(コマイヌ)よろしく下の石板に通例は一対で固定されて
います。高さは 20 センチ前後といったところですが、その全体の
サイズとデザインは多種多様です。

これは "door-scraper" とも "foot-scraper"とも呼ばれるもので、
訳せば「靴の泥落とし」とでもするしかないかも知れません。

何のこと、いや、何のためにといいますと、それがまさに異文化で
して、土足のままで屋内に入る習慣を持つ国であることを思い起こ
して下さい。

今日とはちがって、道路の舗装が行き届いていなかった時代には特
にそうなのですが、帰宅した家人であれ訪問客であれその家の敷居
をまたぐ前に、先ず靴底にまつわりついている泥を落とす必要があ
ったのです。

つまり、靴をはいたままこれを踏みつける格好で、靴底にこびりつ
いた泥---雨が多い風土も考慮に入れねばなりません---をこすり取り、
かき落としたのです。靴底がじかに触れる部分は、刃物の刃先では
ありませんが、ほんのわずかながら鋭く削ってあって、エッジがつ
いています。

これは文学作品にもしばしば登場します。

例えば、前回にも取り上げた『柳に吹く風』では、モグラとミズネ
ズミが森の雪の中をやっとの思いで進んでゆく時に、モグラの方が
雪に隠れたこれにつまずいて、向こうずねに怪我をしてしまいます
し、『不思議の国のアリス』の「ブタとコショウ」の話では、原文
にこそないものの、ジョン・テニエルのイラストを見ますと、公爵
夫人の館の玄関先にはこれがちゃんと描き込まれています。

もっとも、道路の舗装が改善され益々進展する今日では、この用具
は次第に姿を消しつつあるといわねばなりません。このページでも
スペースの都合上、余りご覧に入れられないのが残念です。デザイ
ンのちがうものをいろいろ撮影してきているのですが...

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
写真〈様々な"door-scraper"〉

以下のURLで三谷先生ご自身が撮影された、ユニークな"door-scraper"
の写真がご覧いただけます。

http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani6-1.html
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani6-2.html

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■ 異文化の翻訳--言語以前の問題〈前号までのおさらい〉

◆(その1)"horseshoe"(蹄鉄)
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html

◆(その2)"bell-pull" (ベル・プル)

http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html


【著者紹介】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋女子短期大学教授。
1975~76まで〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド・
ワークを行った。
現在、英国文化を解くための重要なファクターである、紅茶に関する
事典を執筆中。
■ 異文化の翻訳--言語以前の問題 (その2)
                         三谷 康之

都市住宅であれ田園の民家であれ、縁起をかつぐ人は我が家の玄関
ドアの脇に蹄鉄を取りつけるというのも、異文化のひとつです。

イギリス人の家の戸口周辺には、注意して見るとまだまだ我が国で
はお目にかかれないものが存在することに気がつきます。

例えば、"bell-pull" です。

【1】ウォルター・スコットの旧邸宅アボッツフォードのベル・プル
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html#1

散歩用ステッキと同じくらいの長さと太さの金属棒が1本、ドアの
右脇にぶらさがっていて、それを垂直にぐいと引っ張りますと、棒
につながっている針金や紐(ヒモ)が屋内へ伸びていて、その先に
結びつけられたベル、つまり鐘が鳴るという仕掛けなのです。

棒の代わりに太い紐状のものを吊り下げる場合もありますし、今日
ではそれを電気仕掛けにしたものすら見かけます。紐状の方は
"bell-rope" ともいいます。

【2】電気仕掛けで鳴るようにしたベル・プル
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html#1

これは童話にも登場します。

例えば、ケネス・グレイアムの『柳に吹く風』では、森に迷ったモ
グラとミズネズミが、必死になって雪の下から掘り出したアナグマ
氏の家に備えてあって、添えられたアーネスト・シェパードのイラ
ストにもはっきりと見て取れます。

【3】『柳に吹く風』のアナグマ氏の家のベル・プル
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html#2

紐のタイプは『クマのプーさん』に描かれています。クリの木に住む
フクロウの家でもこれが使われていましたが、彼はロバのイーヨー
がなくした尻尾をそれに充てていたのでした。

【4】『クマのプーさん』のフクロウ邸のベル・プル
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani5.html#2

このベル・プルは玄関だけではなく、部屋の中でも必要なものなの
です。特にカントリー・ハウスのような大邸宅では、使用人を呼び
出すのになくてはならないものでした。したがって、使用人の控え
の間には主要な部屋と連結するベルが幾つも取りつけてあるのです。

カズオ・イシグロ原作の映画『日の名残り』には、どのベルが鳴った
から呼び出しはどの部屋からだ、などと主人公の執事が対応を迫られ
るシーンがあります。

同じく映画『ミニヴァー夫人』の中でも、キャロルの館を訪れている
ヴィンが空襲警報を聞くや否や、執事を呼ぶために部屋の隅から下が
っているこれを引っ張るシーンがあります。

コナン・ドイルによる『シャーロック・ホームズ』の「まだらの紐」
では、まさにこれが事件の犯罪と切っても切れない関係をもつこと
になります。ホームズとワトソンが実地検分した依頼人の部屋には、
引っ張っても全然鳴らない見せ掛けのベル・ロープが吊してあった
という次第です。グラナダ・テレビ制作のドラマ「まだらのひも」
の映像でもそれは確認できます。

ちなみに、一般に「呼び鈴」は "door-bell" といいますが、今日風
な「押しボタン式の呼び鈴」は "bell-push" ですから、"pull"と
"push" の使い分けになるのです。


【著者紹介】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋女子短期大学教授。
1975~76年まで〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド
ワークを行った。
現在、英国文化を解くための重要なファクターである、紅茶に関する
事典を執筆中。
■ 異文化の翻訳--言語以前の問題 (その1)
                         三谷 康之
(はじめに)
             
外国語で書かれたもの、例えば、文学作品はいうに及ばず、映画の
スクリプトでも新聞でも雑誌でも、あるいは広告のパンフレットでも
何でもそうですが、それを読んでいてどうにも困惑極まるという場合
があるものです。

何かといえば、文化のちがいから、我が国には元来存在しないもの
を表現したことばに出会った時の当惑です。

もちろん内外のあらゆる分野の辞事典類に当たってはみるものの、
写真やイラストが掲載されている事物は別としても、ことばのみの
解説では遺憾ながら釈然としないのです。

そこに説明されている語義の文言を繰り返し読むわけですが、隔靴
掻痒という成句の意味を実感するにとどまるのが関の山で、その形
状すら脳裏には浮かばない、つまり、イメージがぼんやりとも思い
描けないありさまで終わるのです。

しかも、それが何らかの辞書類に出ていればまだしものこと、見出し
語として取り上げられていない場合が存外多いときているのです。

自分が読んで理解するだけならともかくも、それを自国語に直して
まで人様に伝達しなければならないとなると、今更ながらに、あだ
やおろそかでは到底できない翻訳の苦労が忍ばれるというものでは
ありませんか。

そこで、これまでにイギリスという異文化の中で私自身が生活して
みて、これはまだ辞事典類では詳細な解説はなされていないと思われ
る事物について、写真を主にした説明を試みてみようと考えた次第
です。

いってみれば、無知なる者が未知なる文化との遭遇を通して得たわず
かばかりの情報を提供するに過ぎませんが、それがどこかで異文化
理解の一助ともなれば、望外の幸せと致します。但し、筆者に与えら
れた機会は4回ということで、先ず体系的な記述は無理と最初から
分かっていますので、極普通の住宅を1軒、それもその戸口の周辺を
外から眺めた際に目に留まる特徴、つまりは異文化について述べて
みたいと思います。

   *****   *****   *****

新年早々ということもあって、年賀状の話から始めます。
どなたもご承知の通りで、"New Year" に関する表現は旧年中に届け
られるクリスマス・カードに印されている場合 が少なくないものです。
そうしてそのカードに描かれるイラストの図柄にも、我が国のそれと
同じで定番というものがあって、そのひとつが "horseshoe"(蹄鉄)に
なります。

【写真1】スコットランドからのクリスマス・カード
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html#1

何故かといいますと、古来からの迷信で、蹄鉄は「幸運」のシンボル
だからです。"I wish you a Happy New Year." つまり、「来るべき
新年こそは幸多き年になりますように」という「祈り」のデザインに
使えるわけです。結婚式を挙げて教会を出る新郎新婦へ、あるいは何
かのパレードへ向かって、細かく切った色紙(confetti)を祝福の気持
ちを込めて投げる風習がありますが、その中に銀紙から小さく切り抜
いた蹄鉄を混ぜることがあるのも、同じ理由からです。また、「幸運」
は裏返せば「魔除け」の意味にもなることから、船乗りは難破を避け
るまじないとして、本物の蹄鉄をマストにくぎで止めたものなのです。

さてそこで、1軒の家屋と一体これがどう結びつくのかということです
が、実は、民家の玄関ドアの脇にもこれが取りつけられていることが
あるのです。戸口の片側にひとつの場合もあれば、左右両側にひとつ
ずつになったり、あるいはずらりと7つ並べて掛けてあったりします。
クリスマスの花輪(Christmas wreath)はその時節だけドアに飾られます
が、こちらはいつということはありません、年中なのです。もっとも、
幸運がこぼれ落ちないように、丸い頂部を下にしてカップの形になる
ように固定されますし、クリスマス・カードでもそのように描かれて
あります。

【写真2】白い壁面を背に金色の蹄鉄がまぶしい
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html#1

【写真3】ドアの色に合わせて白く塗った蹄鉄
【写真4】サイズの異なる7つを並べたおもしろさ
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html#2

【写真5】結婚式のサービス業会社の看板
【写真6】ドアに止めた家番号(house number:番地に同じ)入りのデザイン
http://www2.neweb.ne.jp/wd/nichigai/tranradar/mitani/mitani4.html#3

【著者紹介】
三谷康之(みたに・やすゆき)
東洋女子短期大学教授。
1975~76まで〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド・
ワークを行った。
現在、英国文化を解くための重要なファクターである、紅茶に関する
事典を執筆中。
【著者略歴】
 三谷康之(みたに・やすゆき)
 東洋学園大学・現代経営学部教授
 1941年生まれ。埼玉大学教養学部イギリス文化課程卒業。
 成城学園高等学校教諭、東洋女子短期大学教授を経て、現職。
 1975~76年まで〈英文学の背景〉の研究調査のため英国にてフィールド
 ・ワーク。
 1994~95年までケンブリッジ大学客員研究員。

=====新刊案内=======================
★「事典・イギリスの橋―英文学の背景としての橋と文化」
三谷康之著 日外アソシエーツ発行 A5・約270頁
2004年11月刊行予定 定価 6,930円(本体6,600円)
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